ECLを用いたWestern blot (immunoblot)    平林、田淵、横溝

 ここでは、Western blotついて、特にニトロセルロース膜に転写した抗原をECL法で検出するケースを念頭に置いて、成功のポイントを検討します。Western blotの一般的手順については前章 (09) を参照して下さい。

条件検討が必要なところ

1. ゲル電気泳動

 通常、数ngから数十ngの抗原があれば十分検出できる。検出したい蛋白の抗原性が、SDSによる変性、2-メルカプトエタノールによる還元、加熱処理によって失なわれる可能性がある。そのようなときには、目的に応じてゲル電気泳動法を変更する。

2. 転写

A. 支持体の選択  

a) ニトロセルロース膜(Amersham Hybond ECLなど)通常pore sizeが0.45μmのものがよく用いられる。蛋白質との結合機序ははっきりしていない。 結合容量はそれほど多くない。backgroudが低く、きれいな検出結果が得られる。reprobeは2-3回程度可能。低分子量蛋白質では、pore sizeが0.2μmの方が転写効率がよく、洗浄による遊離も少ない。

b) PVDF (polyvinylidene difluoride) 膜 (Millipore Immobilon Pなど)

 特にSDS化した蛋白に対する結合容量が高く(ニトロセルロース膜の約2倍)、物理的強度、化学的耐性に優れている。backgroudが高くなる欠点がある。使用の際には、転写の前にmethanolで5秒程度処理する必要がある。その後、途中で乾かしてはならない。転写緩衝液中のmethanol濃度は、PVDFの時は15%にした方がよいらしい。

B. 転写装置の選択

a) セミドライ型

 簡便、短時間 (数時間) に転写が行える。転写緩衝液の使用量が少なくて済む。

b) 水槽型(ウェット型)

 セミドライ型より、多少転写効率がよい。100 kDa以上の大きな蛋白は転写されにくいので、ウェット型の方が向いている。多量の転写緩衝液を用いるので、長時間転写を行うことができる。低温室や氷水中で装置を冷却するのもよい。

C. 転写用緩衝液

a) 2生化転写バッファー (前章09を参照)

 10 x Tris-Glycine (30 g Tris, 144 g glycine/litter) を70 ml、methanolを20ml、MilliQ水を10 ml、10 % SDSを0.2 mlを混合し、3分ソニケート(長くしぎると塩が析出する)。メタノールはHPLC分析用のハイグレードのものを使用する。電導率が高く、転写を15-20 minで行うことができる。

b) Towbinの転写バッファー

 25 mM Tris, 192 mM glycine (pH 8.3-8.7になる)、使用直前に20%(v/v)になるようmethanolを加える。SDS(0.02%)を加えると、ニトロセルロース膜への吸着が悪くなるが、ゲルからの蛋白の溶出がよくなる。

D. 転写条件

 転写装置、蛋白質の分子量・pI、転写緩衝液の組成、ゲルの組成・厚さにより異なります。例えば、mini gel、2生化転写バッファー、BIO-RADのTrans-Blotの組み合わせで、30K-70K程度の蛋白を転写する場合、0.4 A, 15 minで十分です。詳しくは転写装置付属のマニュアルを参照して下さい。

E. 転写効率の確認

 転写されているかどうかは、電気泳動の際、prestained markerを一緒に泳動しておけば、その転写具合で予測がつく。転写ムラがないかを確かめるにはアミドブラック、ポンソーSなどで染色する。また、転写後のgelをCBB染色すれば、ゲルからの蛋白の溶出を確認できる。

3. ブロッキング

 膜上の蛋白吸着が起こっていない場所を、FCS (10-20%)、BSA (1-8%)、Skim Milk(5-10%)、ブロックエース(雪印製、大日本製薬)などで覆って、backgroundの低減、非特異的な反応の防止を行う。通常、室温で10-60 min、または4℃で一晩ブロッキング試薬に浸す。

4. 抗原抗体反応

 抗体濃度は、市販の抗体を用いるときは添付されてくるデータシートを参考にして決める。全く予想がつかないときは、希釈系列を作って最適濃度を決める以外にはない。抗体濃度が高すぎると、backgroudが高くなる。反応条件は、室温で1 hrまたは4℃でovernightが標準。膜の表面に少量の抗体溶液を滴下し、その上からパラフィルムで覆うと抗体の使用量を節約できる。その場合、気泡が入らないように。

5. 洗浄

 過剰の抗体、非特異的に吸着している抗体を除くためにおこなう。通常TBS (20 mMTris-HCl, pH 7.5, 0.15 M NaCl) またはPBSに界面活性剤を加えたものを使用する。界面活性剤としては、Tween 20 (0.05-0.1%) がよく用いられる。他にNP-40 (0.05%), Tween 80 (0.5%) などがある。回数と時間は1×15 min, 2×5 minを基準として、backgroundが高いときはもっと洗浄時間を長くするなど、各自アレンジして下さい。また、二次抗体にHRP標識抗体を使用する場合は、抗体保存溶液にsodium azide (NaN3) が含まれていないか気をつける。その場合は、sodium azideがHRP酵素活性を阻害するので、十分な洗浄が必要である。

6. 検出法

 抗原抗体反応の検出には、アイソトープ、酵素、蛍光色素で標識した二次抗体が用いられるが、ここでは、検出感度がよく簡便な酵素標識抗体の場合について述べる。

A. ECL system (Amersham)

 二次抗体としてHRP (horseradish peroxidase) 標識抗体を用い、化学発光をX線フィルムに感光させて、目的抗原の存在位置を検出するシステムである。従来の色素法と比べて10-100倍感度がよい。ECLでは、アルカリ条件下、HRPとperoxidaseによりルミノールが酸化される。酸化されたルミノールは直ちに励起状態となり、その後、光を放射して基底状態に遷移する(この時の光をluminescenceと呼ぶ)。さらに、フェノールをenhancerとして共存させることで、luminescenceを1,000倍程度増幅している。ECLによる光の放射は、428nmに極大波長をもち(青色)、5-20分後にピークを迎えて約60分の半減期で減衰してゆく。

 実際の操作は、2種類の検出試薬 (A液、B液、ともに4℃保存) を等量混ぜ合わせ、その混合液にmembraneを浸して室温で1分間incubationする。membraneをSaran Wrapで包み、暗室にてX線フィルムと一緒にカセットに入れて露光する。露光時間はまず1-5minのどこかでやってみて、その結果から最適な露光時間をだいたい予測し、10 sec-30 minの間で試みるとよい。backgroundが高い場合は、ECL試薬を10-100倍希釈して用いてみるのも一法である。二次抗体は、3000-1万倍の希釈で良いようである。

 

B. Phototope Chemiluminescent Western Detection System (New England BioLabs)

 場合によっては、ECLより高感度な方法であり、ECLでは検出できなかった場合に、reprobeしてこの方法を用いてみてうまくいったことがある。二次抗体にalkaline phosphatase標識抗体を使用し、色素発色の代わりに蛍光試薬によるluminescenceを利用して感度を増強している。

kitには、Diethanolamine (Assay bufferに必要)、CDP-Star (chemiluminescent agent) が含まれている(-20℃保存)。Assay bufferの作りは付属の説明書を参照。15 mlのAssay bufferで5分間 membraneを洗い、これをもう一度繰り返す。 次に6 mlのAssay bufferにCDP-Starを1/500希釈し、室温で5分間incubationする。後はECLと同じ。この反応のkineticsは、最初の1時間で劇的に増強し、以後ゆっくりと減衰する。したがって、最高の感度で検出するには、CDP-Starでincubationした後、30分後〜1時間後の間に露光することをお勧めする。

7. membraneの保存

 発色後水洗し、基質を十分洗い落として風乾し、日付を記して暗所に冷蔵保存する。半年くらいなら保存できる。

第二生化マニュアル目次