13. 脂質抽出法 文責 粂 和彦 



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Bligh & Dyer の方法は、生体材料から総脂質を抽出する方法で、特に、水溶性のものと脂溶性のものの分離にも頻用される。たとえば、RIラベルされた水溶性の基質が何らかの酵素反応で、脂溶性になる場合、反応後にB & D 抽出して、有機層のカウントをすれば、酵素活性が測れる。RIラベルされた脂質性基質を使えば、逆も可能である。ともに原理としては、クロロフォルムとメタノール、水を使い、脂質はクロロフォルムに、その他は水により溶けやすい性質を利用する。メタノールは、この両者の橋渡し的役割をしていて、この3つを混ぜると、その混合比によるがたいていは2層に分離し、水とメタノールの混液に微量のクロロフォルムがとけ込んだ層が上層に、クロロフォルムにとメタノールの混液に微量の水がとけ込んだ層が下層にくる。また、通常、中間層には、変性したタンパク質や、多糖類などがくる。

[やり方の一例]

1. 水溶液(酢酸またはリン酸、終濃度0.1Mになるようにしておく) 1容に対して、メタノール2.5容、クロロフォルム1.25容を加え、よく撹拌する。固形資料の場合は、2分間くらいミキサーで撹拌する。その後、10分間程度、室温に放置する。この段階では、溶液は1層となる。塩基性の脂質の抽出では、溶液をアルカリ性にした方がよいが、殆どの脂質は中性か弱酸性で、酢酸で酸性にした方が抽出効率が高い。
=>ここで、最初から、2層に分離する割合でクロロフォルム−メタノールを入れてしまっても問題のないこともある。しかし、最初に1層になるように加える意味は、確実に抽出・分離を行うためで、基本的は手抜きしてはいけない。
2. クロロフォルムを1.25容を加えて、よく撹拌する。
3. さらに水溶液(酢酸、または此の段階では水でもよい)を1.25容を加えて、よく撹拌する。この段階で2層となる。最終的に、水:メタノール:クロロフォルムの割合は、0.9:1:1となる。
4. 最初の容量によるが、遠心で2層を分離する。遠心力は、実験の目的によるが、確実に2層が分離し、通常白っぽい上層の沈殿物が中間層に沈むまで行う。低速で(3000rpm≒1500xg, 10 min etc.)充分なことが多い。
5. 上層を吸い取って、捨てる。または、パスツールピペットなどで、下層のみを回収してもよい。
ここからの操作は、目的によるが、下記の両者を行えば完璧。
A)収量を増やしたい場合(PAFなどの脂質の定量など)
上層にさらに、1容のクロロフォルムを加え、よく撹拌後遠心分離。
下層を、先程の下層に加える。(reextract)
B)水溶性の混雑物を減らしたい場合(RIを使ったアッセイなど)
wash 用液を下層にほぼ等量(約2容)加え、よく撹拌後遠心分離。 上層を捨てる。
wash 溶液は、水:メタノール:クロロフォルム(47:48:3)を
用いるが、水:メタノール(1:1)にクロロフォルムを少量加えて
おいたもので、通常問題ない。
7. クロロフォルム層を、窒素ガスエバポレーターなどで、乾燥させる。

おしまい。


注意点として、

1. 基本的にはガラス試験管を用いる。ポリプロピレン製はクロロフォルムに耐えるが、可塑剤として使われているフタル酸などが溶けだし、邪魔をすることがある。
2. 浸透圧が問題になることがあり、酢酸などを入れないときは、0.1MのKCl溶液などを使用する。
3. 抽出のスケールは、50mg に対して最初の1容を1ml程度とするが、もう少し少なくても大抵は問題ない。


その他に、生体材料から総脂質を抽出する方法として、Folch の方法もよく使われる。これは、途中までで省略すると大変に簡単で、クロロフォルムとメタノールの2:1混液中に、試料を投入し、必要に応じて粉砕後、一晩程度放置するだけで、その後、不溶物を遠心、または濾過で取り除き、ナス型コルベンなどで、溶媒をドライアップするだけである。古典的な脂質の生化学をしていた研究室では、何十リットルというクロメタの中に、ウシの臓器などをちゃぽんとつけておいて、そこから脂質を分析していたものである。ただし、Folch の原法では、この抽出液を0.5%食塩液中に沈め、拡散で、水溶性の成分を除くという面倒くさいステップが入る。


(ここまでの文責 粂 96/03/14)

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