放射線造影剤学

1.   造影剤

X線撮影において、低密度の物質を臓器内に投与するとX線吸収が低下し、写真上陰性に写る造影剤を陰性造影剤と言い、CO、空気,、MRI造影剤フェリデックスなどが、これに相当する。一方、原子番号が大きくX線密度が高い原子を含んでおり、臓器内に投与するとX線吸収を増大させて、陽性に写る物を陽性造影剤と呼び、硫酸バリウム、ヨ−ド造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤などがある。

2.   陽性造影剤

(A)硫酸バリウム

硫酸バリウムは咽頭から直腸までの消化管のすべての造影に適応しており、非水溶性で比重4.5と重く、目的に応じた種々の大きさの硫酸バリウム粒子が用いられている。懸濁安定性、流動性、消化管への付着性、粘性などを向上させるために次のような物を各社工夫して含有させている。カラギ−ナン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、サッカリンナトリウム、トラガント、バニリン、アラビアゴム末、D−ソルビト−ル、シリコ−ン樹脂、無水珪酸、ポリオキシエチレン硬化ひまし油60、香料など。但し、@消化管穿孔のある患者、A食道、気管瘻、気管支瘻の疑いの患者、B硫酸バリウムを誤飲しうまく飲めない患者、C結腸閉鎖の疑いのある患者などは、硫酸バリウムを使用してはいけない。

(B)ヨ−ド造影剤(イオン性及び非イオン性造影剤)

  現在市販されている水溶性ヨ−ド造影剤(以下造影剤)は全て有機ヨ−ド化合物であり、その基本的な化学構造はベンゼン環を持ち、その六角のうち3か所にそれぞれヨ−ド原子を結合させ、残りの3か所に水溶性にするための基や側鎖を結合したものである(図]U−1)。

図]U−1 水溶性ヨード造影剤の基本構造: ベンゼン環の2,4,6の位置にヨ−ドが結合したトリヨ−ドベンゼン。 1,3,5位(X,Y,Z)には他の側鎖や基が結合する。

図]U−2 イオン性造影剤の化学構造: 酸性のカルボキシル基が結合した安息香酸の誘導体で、水酸化ナトリウムで処理すれば塩となりイオン化して水に良く溶ける。

図]U−3 非イオン性造影剤の化学構造: 図]U−2のX,Y,Zの位置に水酸基を含んだ側鎖(アミノアルコ−ル類)が結合し、イオン化しないで水に良く溶ける。側鎖部分が大きく、隣のヨ−ドを覆い隠すので、化学毒性も少ない。

イオン性造影剤: ヨ−ド原子以外の1部位に酸性のカルボキシル基(−C00H)を結合させたもので、図]U−2のごとくアルカリ性溶液中でイオン化して良く溶ける。これは食塩がイオン化(Na+CI-)して水に良く溶けるのと同じ原理である。この種の造影剤はカルボキシル基を有することから、アミドトリゾ酸やイオタラム酸など慣用名に通常「酸」がつく。

非イオン性造影剤: ヨード以外の位置に水酸基(−OH)を多く含んだ側鎖(アミノアルコ−ル類)を結合させ、水素結合により水溶性としたものである(図]U−3)。砂糖がイオン化しないで水に良く溶けるのと同じ原理である。この種類の造影剤はアルコ−ル類の側鎖を有することから、慣用名はイオパミド−ルやイオヘキソ−ルなどのようにエタノ−ルと同様に通常語尾にアルコ−ルを表わす「−o1」がつき、一般名からイオン性と非イオン性を区別する場合に参考となる。

(C)モノマ−(単量体)とダイマ−(2量体)

 1分子中のヨ−ド含有率を高めるなどの目的で,トリヨ−ドベンゼン環を2個連結させ、1分子中に6個のヨ−ド原子を含む造影剤がある。これはダイマ−(dimer、2量体)と呼ばれる(図]U−4)。これに対して前出のベンゼン環が1個からなるものをモノマ−(monomer、単量体)と呼んでいる。

図]U−4 基本単位(モノマ−)が二つ連結したダイマ−(2量体)の構造

(D)化学構造からみた造影剤の分類と適用

イオン性、非イオン性造影剤の中にそれぞれモノマ−とダイマ−がある。したがって、造影剤はその化学構造から、イオン性モノマ−(ionic monomer)、イオン性ダイマ−(ionic dimer),非イオン性モノマ−(nonionic monomer)、非イオン性ダイマ−(nonionic dimer)の4種類に分類される、さらに、イオン性ダイマ−型造影剤には、1個のベンゼン環のみにカルボキシル基をもつものと両方のベンゼン環にカルボキシル基をもつものがあり、前者を1酸2量体(monoacid dimer),後者を2酸2量体(diacid dimer)と呼ぶ、一方,非イオン性ダイマ−は非イオン性モノマ−型造影剤を2個連結した構造をもち、モノマ−と同様にイオン化しないで水に溶ける。次に化学構造からみた市販造影剤の分類とそれぞれの適用につき述べる。なお、混乱を招かないために、造影剤名は日頃使われている慣用名を用いる。

(a)イオン性モノマ−(ionic monomer)

 これらは1950年代から60年代にかけて開発されたもので非イオン性造影剤が出現するまでは尿路造影、血管造影、造影CTに広く用いられてきた。しかし、後述する非イオン性モノマ−型造影剤と比べ副作用の発症頻度が高いことから現在ではあまり使われない(推定10%未満)。市販製剤には,アンギオグラフィン、ウログラフィン、コンレイ、アンギオコンレイ、イソペ−クがある。これらの造影剤は、ナトリウム塩やメグルミン塩の単独、または混合塩の製剤である。メグルミン塩とする利点は、造影剤の溶解度を高めることや、血管刺激性、心・血管障害、血液脳関門への影響を減少させることにある。このため、以前、脳血管造影にはメグルミン塩のみで、ヨ−ド含有量300mg/ml前後の製剤が用いられていた(アンギオグラフィン、コンレイ、イソペ−ク280、ウログラフィン60%)、が用いられていたが、粘調度が高まること、利尿効果を亢進させること・ヒスタミン遊離をきたし易いことなどの欠点も分ってきた。これらの造影剤の浸透圧はどれも血液の約6倍から11倍と高く,ヨード含有率が高くなるにつれ、浸透圧も高くなっている。したがって脳室・脳槽・脊髄腔造影には禁忌である。

 

表]U−1 水溶性ヨード造影剤の化学構造による分類と主な適用

モノマー(単量体monomer)

イオン性(ionic)

非イオン性(nonionic)

造影CT、尿路・血管造影:

アンギオグラフイン

ウログラフイン60%

コンレイ、コンレイ400

尿路・血管造影:

ウログラフイン76%

イソペ−ク280

血管造影:

アンギオコンレイ

イソペ−ク370、440

消化管造影:

ガストログラフィン

気管支造影:

ディオノジ−ル水性

ハイトラスト

リンパ管造影:

リピオド−ル(ヨ−ドけし油)

(ウルトラ、フィルド)

造影CT、尿路・血管造影:

イオパミロン

オムニパ−ク

オプチレイ

イオメロン

オイパロミン

プロスコ−プ

脳室・脳漕・脊髄腔造影:

オムニパ−ク180、240

 

 

 

ダイマー(2量体dimer)

イオン性(ionic)

非イオン性(nonionic)

造影CT、尿路・血管造影:

ヘキサブリックス320

静脈性胆道造影:

ビリスコピン

コレグラフイン

脳室・脳槽・脊髄腔・関節造影:

イソビスト240

子宮卵管造影:

イソビスト300

 

(b)非イオン性モノマ−(nonionic monomer)

 現在,尿路・血管造影や造影CTに最も広く用いられている市販製剤としては、イオパミロン(イオパミド−ル,1977年開発)、オムニパ−ク(イオヘキソ−ル,1978),オプチレイ(イオベルソ−ル,1979)、イオメロン(イオメプロ−ル)、プロスコ−プ(イオプロミド)、イマギニ−ル(イオキシラン)などがある。これらの造影剤は副作用の要因であるイオン負荷がないうえに,ベンゼン環に結合した親水性側鎖が大きく、隣接するヨ−ド原子を覆い隠す形となるため、疎水基であるヨ−ドの化学毒性も減じる利点がある。オプチレイはその構造内に疎水基であるメチル基を全く含まず,理論的には最も親水性が高い。イオメロンは溶解性と安定性に優れるとされたが、ショックは多発している。非イオン性モノマ−では唯一ヨ−ド含有率400mg/mlの製剤がある。各製剤のヨ−ド含有率はイオパミロン300(ヨ−ド300mg/ml含有)やオムニパ−ク140(ヨ−ド140mg/ml含有)などと製剤名中に表示されている。これらの浸透圧は前述のイオン性造影剤が血液の6倍以上であるのと比べて低く、ヨ−ド含有率が300、370mg/mlの製剤でも血液の約3倍程度である。特にヨ−ド含有率が140、180mg/mlと低い製剤では、血液の浸透圧に近く、脳室・脳槽・脊髄腔造影にも用いられる(オムニパ−ク180)。

(c)イオン性ダイマ−(ionic dimer)

 

 

1酸2量体と2酸2量体の2種類が市販されている。1酸2量体(図]U−5)としては、ヘキサブリックス320があり、尿路・血管造影及び造影CTに用いられる。この造影剤の特徴は1分子中にヨ−ド原子6個を持ち、モノマ−と比べて半分の成分濃度で同等の造影能が得られるので、浸透圧を低く押さえられる利点がある(血液の約2倍)。しかし、イオン負荷があることに変わりはない。2酸2量体(図]U−6)としては、静脈性胆道造影剤であるビリスコピンとコレグラフィンが市販されている。これらは二つのベンゼン環の1部が側鎖で連結し、静注後速やかに血清蛋白と結合するよう配慮されたものである。蛋白質と結合した造影剤はもはや腎からは排泄されず、肝細胞内に取り込まれた後胆道に排泄され、この経路に造影がみられる。蛋白尿がある患者では腎からも排泄されるため、胆道の造影は不良となる。また、この造影剤とビリルビンは血清蛋白の同じ部位に結合することから、血清ビリルビン値が5mg/d1を超える黄疸の患者では、造影剤が肝細胞に到達し難く、造影は極端に不良となる。

図]U−5 1酸2量体造影剤の化学構造: 1つのベンゼン環にのみカルボキシル基を有し、この部分がイオン化して水に溶ける。低浸透圧性造影剤である。

図]U−6 2酸2量体造影剤の化学構造: 2つのベンゼン環にカルボキシル基を有し、それぞれのベンゼン環は側鎖で連結する。血液中の蛋白と結合し、腎から排泄されず胆道から排泄され、経静脈性胆道造影剤として用いられている。

(d)非イオン性ダイマ−(nonionic dimer)

 市販されているこの種の造影剤は現在イソビストのみであり、低浸透圧性で、ヨ−ド含有率が300mg/mlの濃度でも血液のそれとほぼ同じである。現在、脳室・脳槽・脊髄腔造影、関節造影、子宮卵管造影である。

(E)造影剤の選択に必要な物理化学的性状

 造影剤は生体にとっては異物であるから、造影検査の際には、必要最少量に押さえるとともに、以下の(a)〜(d)を考慮して、造影剤を選び使用しなければならない。これらについて以下に簡単に述べる。

(a) イオン性か非イオン性か

(b)造影能(ヨード含有率と投与量)

(c)浸透圧

(d)粘調度

(a)イオン性か非イオン性か: 以前は、非イオン性造影剤が高価(約7倍)であるとの理由から、「リスクのない患者にはイオン性を使い、リスクのある患者のみ非イオン性を用いては?」などの意見もあったが、現在は副作用調査の結果から、非イオン性モノマ−の副作用発症頻度は、イオン性モノマ−と比べ約1/4と低く、非イオン性モノマ−がより安全で、体に優しい造影剤で造影能も優れている事が明らかになっている。非イオン性モノマ−の中での選択に関しては、いずれもトリヨ−ドベンゼンを基本環として、側鎖のアルコ−ル部分にそれぞれ工夫がなされたもので、物理・化学的に溶解度、安定性、親水性など多少の相違は見られるものの、大きな差が生じるとは考えにくい。今後、臨床的に大規模な副作用に関する比較調査が行われれば、何らかの指針が得られると思われる。

(b)造影能(ヨ−ド含有率と投与量): 造影検査で、血管や組織の良好な造影が得られ、診断目的が達成されるためには、充分な造影能が必要である。造影能は造影剤の単位容積当たりのヨ−ド含有量(mg/ml)で決まる。しかし、不必要にヨ−ド含有量の高いものは副作用発症の面で好ましくない。造影剤の注入部位、注入方法、および撮影装置などに応じた造影能の造影剤を選ぶ必要がある。静脈内投与による造影CTでは、一般にヨ−ド含有率300mg/mlの非イオン性モノマ−が用いられている。過去の多くの経験からも充分な造影能が得られており、ヨ−ド含有率や他の事項に関しても適切と考えられる。しかし、投与量に関しては、100mlを投与すれば30gものヨ−ドが体内に注入されたことになる。単純に計算して、体重60sの患者では500mg/kgとなり、45kgでは667mg/kgとなる。CTでの造影能は、血液中あるいは組織1g当たりのヨ−ド含有量が1.0〜1.2mgあれば、CT値は25〜30H.U上昇するとされている。このことからル−チンの造影CTで、体重を考慮しないで全員に100ml投与することは妥当でない。このことに関して現在患者の体重と適切な投与量につき検討が行われている所である。ヨ−ド含有量300mg/mlの造影剤の場合、体重40kg以下では80ml、50〜60sの場合には100mlが必要で、さらに70sの場合には120mlのヨ−ド含有量が、必要とされる。ヘリカルCTなど、装置の高速化につれ、急速注入の機会が多くなってきている現状では、患者の体重に応じた投与量の選択が必要で、これは副作用面のみならず、時間−濃度曲線を比較分析する際にも重要なことである。

(c)造影剤の浸透圧: 非イオン性ヨ−ド造影剤の登場により副作用の発生率が低下した1つの理由は、その低浸透圧性にあるとされる。しかしながらあくまでもイオン性ヨ−ド造影剤に比べて浸透圧が低いということであって、血液の浸透圧よりも高いということに変わりはない。実際の造影検査においては相当量の造影剤が一度に生体内(血液内)に投与されるわけであり、血管をはじめとする各種臓器・器官に何らかの影響を与えることになる。この浸透圧はVan't Hoffの式で表わされるように、分子数が多いほど浸透圧が高くなるので、血液中で陽イオンと陰イオンの2分子に解離するイオン性造影剤に比して、解離せず1分子のままである非イオン性造影剤の方が理論上1/2低浸透圧になる。

Van't Hoffの式

P=C×R×T

P:浸透圧(mOsm/kgH2O、ミリオンスモルまたはMPa、メガパスカル)、

C:モル濃度(溶液中の分子数、mol/l)、R:気体定数(O.0821dm3atm/Kmol)、

T:絶対温度(K)

(d)粘稠度: 粘稠度(ミリパスカルmPas=センチポワズcP)は造影剤濃度が高ければ高い程大きくなる。また、ヨ−ド含有率が高ければ大きく、分子量の大きいダイマ−はモノマ−より大きいという傾向がある。粘稠度は、水を1とした時の相対値(比率)で表示されている。更に粘度は温度によっても変化するので測定時に液温が併記されている。

(F)造影剤の水溶性(親水性・疎水性)

  造影剤は疎水性のトリヨ−ドベンゼンを基本構造とし、カルボキシル基や水酸基などの親水性の置換基を側鎖にもつことにより全体としての水溶性を高めている。疎水性は、造影剤の水溶性を弱めるだけでなく、造影剤の血液中の蛋白結合性や細胞表面の刺激性を高める作用があるとされ、逆に親水性は蛋白結合性や細胞表面の刺激性を弱め、細胞内への侵人を阻止する方向に働くとされる。したがって、水溶性(親水性)の高低は造影剤の化学毒性と密接にかかわる重要な物理的特性といえる。親水性は造影剤水溶液と水に難溶の溶媒(オクタノ−ル・ブタノ−ルなど)を混和した場合に有機溶媒側にどれくらい造影剤が移行したかを造影剤濃度の比である分配係数で表わす。これが小さいほど親水性が高いといえる(表]U−2)。

 

 

表]U−2 各種造影剤の分配係数(オクタ−ル中の濃度/水中の濃度)

造影剤

分配係数

親水性

イオベルソール

イオヘキソール

イオパミドール

イオメプロ-ル

メトリザマイド

0.0004  小

0.0008  ↑

0.0019

0.0030  ↓

0.0190  大

高い(水に溶け易い)      オプチレイ

↑               オムニパ−ク

                イオパミロン

↓               イオメロン

低い(有機溶媒に溶け易い)  へキセブリックス

(G)造影剤の副作用発生のメカニズム

1.    造影剤の副作用発生のメカニズムは、以下の(a)〜(d)に大別される。

2.    表]U−3に示すごとく、発生する副作用との相関が提唱されている。

(a)造影剤の物理的特性

(b)造影剤の化学毒性

(c)アナフィラキシ−様反応

(d)心理的因子

a)、(b)は造影剤の高浸透圧性と非親水性ならびにイオン負荷が関係する用量依存性の反応であり、(c)は化学伝達物質の遊離、抗原抗体反応、補体系、などの活性化作用といった非用量依存性のアレルギ−反応(T型、W型)である。しかしながら、実際に生じる副作用の各症状は、必ずしも単独の発生機序で起こるものではなく、むしろ心理的因子も含めた様々な要因が複合して生じるものである。たとえば、日常の検査でしばしば遭遇する悪心・嘔吐は、アレルギ−反応の一症状であるだけでなく、後に述べるように中枢神経系に対する物理化学特性も重要な原因と考えられている。また、血管痛については、静脈内投与では点滴注入より急速注入の方が、動脈内投与では大血管より末梢血管の方がより強いというように、造影剤の投与方法・注入速度さらには総注入量によっても発生する副作用の種類・重症度が異なることがある。したがって副作用としてあげられる各症状ごとにその発生機序を論ずる事は困難である。

表]U−3 造影剤の特性と副作用の分類(Fe1derによる)

(a)物理的特性

(b)化学毒性

(c)アナフィラキシ−様反応

(d)心理的因子による反応

熱感

血管痛

血圧低下

血漿量増加

血管内皮損傷

赤血球変形

脱水症

腎機能障害

神経症状

不整脈

血液凝固障害

麻血球損傷

 

くしゃみ

かゆみ

蕁麻疹

浮腫

気管支痙攣

昏睡

くしゃみ

かゆみ

蕁麻疹

浮腫

気管支痙攣

昏睡

 

 

(c)アナフィラキシ−様反応

アナフィラキシ−様反応を説明するのには、少し免疫応答がどうなっているのかを説明する。

(ア)細胞免疫系:自己と非自己の認識に関係する生体内の闘い

免疫応答は外から侵入する異物や体内で生じる新生物、老廃物を排除し、生体のホメオスタシス(恒常性)を保つ機能を持ち応答する。抗原の侵入で始まり、このとき抗原と特異的に結合するいろいろな型のT細胞、B細胞が複雑に相互作用する。細胞免疫の最初は侵入細胞の破壌であり、白血球の一つの型、マクロファ−ジ(大食細胞)が異物抗原をくわえ込みリソソ−ムで部分消化し、得られた抗原断片{主要組織適合性遺伝子複合体タンパク(MHCタンバク、一連の遺伝子MHCから転写される)}を細胞表面に出す。MHCは驚くほど多型で一人一人違っている。MHCタンパクは個性を現すといえる。クラスIMHCタンパクは脊推動物の有核細胞ほとんどすべての表面にあり、これをもつマクロファ−ジは未成熟細胞障害性T細胞表面のT細胞受容体というタンパクで認識される。しかし受容体が結合するためには抗原とクラスIMHCタンパクの両方と同時に複合体をつくらねばならず、どちらか単独では働かない。同様にクラスUMHCタンパクと抗原断片の複合体を表面にもつマクロファ−ジの方はこれにぴったりの受容体をもつ未成熟ヘルパ−T細胞(TH)と結合する。この複雑な認識系のおかげで、T細胞は細胞表面にあるものにだけはたらき、非細胞性の相手にむだに使われない。マクロファ−ジの表面に現れた抗原とMHCタンパクの複合体に結合したT細飽はクロ−ン選択とよばれる過程に至る。と1950年代のNiels Kaj Jeme, Macrarlane Bumct, Joshua Lederberg, David Ta1madgeの考えである。T細胞に結合したマクロファ−ジがインタ−ロイキン1というポリペプチド増殖因子を遊離し、これがT細胞を特異的に刺激して増殖分化させると侵入した抗原を特異的に認識するT細胞だけがこうして大量生産される。T細胞も自分自身を刺激するインタ−ロイキン2を分泌してこれを促進する。T細胞はマクロファ−ジと結合している間だけインタ−ロイキン2受容体をつくるので無制限には増殖しない。いずれにしても、異物抗原とクラスIMHCタンパクをもつ宿主細胞に特異的な受容体をもつ成熟細胞障害性T細胞が、抗原が侵入した数日後には大量につくられ始める。この細胞障害性T細胞はキラ−T細胞ともよばれ、その名の通りはたらく。すなわちこの細胞は感染して抗原をもつ宿主細胞と結合し70kD(Dolton. MW)のタンパクパ−フリンを放出それで宿主細胞の形質膜を凝集、孔をつくらせて溶かす。細胞免疫系のおもな役割はウイルス感染した宿主細胞をすことによりウイルスの拡散を防ぐことである(ウイルス感染の後期にはウイルスのコ−トタンパクは感染した動物細胞の表面に出されるのがふつうである。この系は糸状菌、寄生虫、ある種のがんの感染にもはたらく、特に最近エイズ(AID&後天性免疫不全症侯群)の原因であるヒト免疫不全ウイルス(HlV)がヘルパ−T細胞を特異的に襲撃することがわかり、細胞免疫系の重要性が鮮やかに示された。他人から移植された臓器は、MHCタンパクが同一なことはまずなく、異物として認識されるので、免疫応答を押さえる免疫抑制剤によって、初めて臓器移植が可能になった。体液性免疫B細胞は表面に免疫グロブリンとクラスUMHCタンパクの両方をもつB細胞が自分の免疫グロブリンに結合する抗原に出会うと結合し、その複合体をくわえ込んで抗原を部分消化し、その断片をクラスWMHCタンパクとの複合体として細胞表面に出す。この複合体に特異的な受容体をもつ成熟ヘルパ−T細胞がこのB細胞に結合、これに応答してインタ−ロイキンを放出し、それがB細胞を増殖分化させる。ヘルパ−T細胞による刺激がある限りB細胞は分裂するが、その刺激は抗原がある限り続く。B細胞の分裂で生じるのはほとんど形質細胞でその抗原に特異的な抗体の分泌が専門である。生じる抗体は残る抗原に結合すると目印になり、食細胞という白血球が呑み込む。また補体系と呼ばれる細胞を溶かし局所の炎症を起こす一連の相互作用するタンパク系を活性化する。T細胞、B細胞の大部分は対応する抗原による刺激がないと数日で死んでしまう。その上B細胞の増殖はサプレッサ−T細胞(T)の作用で制限される。T8とはTリンパ球から生じる別の型の細胞で、ヘルパ−T細胞の逆にはたらく。免疫系の著しい特徴はある病原体による感染を克服するとその病原体に対して免疫になることであり、動物が二度と完全に同じ型の病原体には感染しないことである。二度目の侵入に対する対応を二次免疫応答といい、長い間生きている記憶T細胞および記憶B細胞は何十年たっても昔の抗原を憶えており、普通のTやB細胞より、はるかに速く多数増殖する。ギリシアの歴史家ツキジデス(Thucydides)は2400年も前に、人は同じ病気に二度かかることはないから、病人の看護はその病気から治った人が当たるとよいと書き残している。免疫系の自己寛容生体高分子はほとんど何でも抗原性をもつ。したがって動物の免疫系は自己と非自己の抗原を完全に区別しないと自己破壊を起こす。たとえば脊椎動物には何万種という高分子があり、一つ一つにいくつも抗原構造があるが、それを完全に区別する。免疫の自已寛容の仕掛けにより、哺乳動物の免疫系は生まれるとほぼ同時に働き始める。胎児の間は抗原を移植してもその抗原に対し免疫による攻撃はしない。免疫系が抗原を認識するB、T細胞のクロ−ンを除去してしまうらしい。しかしそれぞれ独特な抗原決定基をもつ新しいリンパ球の系統は動物の一生を通じて生じてくるから、自己寛容はその間起こり続けるのであろう。この過程は胸腺で起こり、新しいT細胞でMHCタンパクの受容体をもつが自己抗原に対しては親和性がないものだけが増殖するのだと考えられる。実際胸腺で加工されるリンパ球のうち、そこから出てくるのはほんの一部である。ときどき免疫系が自己抗原に対する寛容性を失うことがある。これが自己免疫疾患である。たとえば重症筋無力症は自分の骨格筋アセチルコリン受容体に対する抗体をつくってしまう自己免疫疾患で、筋肉がしだいに弱まり死に至ることが多い。全身性エリテマト−デスはいろいろな自分の細胞成分、たとえばリボ核タンパクに対する抗体をつくってしまう炎症性の病気である。その他自己免疫疾患としてはリウマチ様関節炎、インスリン依存型糖尿病、多発性硬化症がある。

 

 

 

(イ)抗体の構造

免疫グロブリン〔immumg1obulin]抗体活性を担う血清グロブリンで、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの五つのクラスに分類される糖タンバク質・クラスはいくつかのサブクラスに分類され、数字と文宇の記号をつけて表される(人の抗体の種類,表Y−1)

。免疫グロブリンには共通の4本鎖より成る構造があり、2本の重鎖H鎖(hcavy chain)と2本の軽鎖L鎖(Iight chain)より成る。H−L鎖の間、H−H鎖の間はS−S結合により結ばれている。IgG,IgD,IgEはこのような構造の単量体として、IgMは五量体として、IgAは種々の大きさの重合体として存在する。抗原認識部位は両鎖のN端に近い可変部領域内(V、V)ドメイン(domein)の超可変部領域である。

 

表Y−1 抗体の種類

 

 

IgG

IgG1,IgG2,IgG3,IgG4

IgM

 

IgA

IgA1,IgA2,SigA

IgD

 

IgE

分子量

*10

146,146,165,146

 

 

950

 

 

160,160,385

 

 

172〜200

 

 

185〜

195

 

 

H鎖

分子量

*10

沈降係数(S)

半径(Å)

糖質含有

量(%)

L鎖

CHドメ

イン数

1,r2,r3,

4

51, 51, 60, 51

6.5

51.9

3

χ,λ

3

μ

72

18〜19

63.3

4

χ,λ

4

α1,α2,α1orα2

52〜58

6.5 , 9, 15, 10.6〜11.7

 

3

χ,λ

3

δ

60〜69

6.2〜6.7

66.4

3

χ,λ

3

μ

72〜76

7.8〜8.2

60.1

4

χ,λ

4

 

四つのサブユニットはジスルフィド結合(S−S)と非共有結合で集まり、電子顕微鏡で見るとY字型の対称的な二量体(L−H)をつくる(図Y−1,免疫グロブリンの基本構造)。免疫グロブリンは糟タンパクで、2本の重鎖には一結合型オリゴ糖がつく。ヒトは5種の免疫グロブリンIgA(免疫グロブリンA)IgD,IgE,IgG,IgMを分泌する。これらは重鎖が異なりそれぞれα、δ、ε、rと区別する。軽鎖にもχ、λの2種があり免疫グロブリンの5種全部にあるIgD、IgE、IgGは(L−H)×2二量体としてしか存在しないが、IgMは(L−H)単位が五つ集まった五量体、IgAは(L−H)単位の単量体、二量体、三量体として存在する。これら多量体中の二量体単位はジスルフィド結合で互いにつながり(多量体は単量体がJ鎖(joining chain)を介してS−S結合する)、またJ鎖というタンバクとジスルフィドで結合する。Cのヒンジ領域(hinge region)を除いた部分はC1,C2,C3の部分に分けられ、約110個のアミノ酸残基からなり、その中央にS−S結合による約60個のアミノ酸残基からなる。H鎖r鎖はV、C1、C2、C3の4個のドメイン(domein)とヒンジ領域がある。

IgMは他のクラスの抗体に比べ、分子量が大きい抗体である。IgMは哺乳類では免疫初期に微量に生産され、ヤツメウナギなど下等脊椎動物では主要な抗体であるので進化の過程で最初に出現した抗体と考えられている。IgMは抗原と結合すると補体成分Clqと強く結合する。この結合により補体系が連動的に動き出し、抗体の標準細胞を溶解に導く。

IgGは血液中に最も多量に含まれており、免疫中期と後期に多く生産される。また、胎盤を通過できる唯一の抗体である。IgGは抗原と結合するとIgMと同様にClqに結合して補体系を活性化する。その度合いは、IgGのクラスにより異なる。IgG1とIgG3はIgMとほぼ同程度に補体系を活性化し、IgG2は弱く、IgG4は活性化しない。IgGはマクロファ−ジや好中球などの貧食作用による抗原の分解を促進する。IgGはF(ab’)で抗原に結合し、Fcで貧食細胞のFcレセプタ−に結合し、貧食細胞による標準細胞の貧食を助ける。各IgGサブクラスのFcレセプタ−との結合はIgG1とIgG3が最も強くIgG4は中間で、IgG2は弱い。Fcレセプタ−はIgGのC2のドメインに結合すると考えられている。また、IgGのC2とC3間で黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性細菌の細胞壁の成分であるプロテインAと結合する。ヒトのサブクラスでは特定のアロタイプのIgG3を除いたIgGはプロテインAと結合する。

IgAは血清中だけでなく、多くの体液中、腸管、肺胞、泌尿器、生殖器粘膜などの分秘液中や乳汁、唾液などに多量に含まれる。IgAには二つの型、血清型(単量体)と分秘型(多量体)があり、ヒトでは血清中のIgの15〜20%がIgAでその80%以上が単量体である。多量体は単量体がJ鎖(joining chain)を介してS−S結合する。ほとんどの分秘型IgAは二つの単量体、一つのJ鎖と一つの分秘成分(secretory component;sc)からなる。分秘液中IgAは抗原に結合して抗原の生体内への進入を妨げる。

IgEはヒトの血清中のIgの中で最も微量である。IgEはトマス細胞や好塩基球が持つFcレセプタ−に強く結合する。このIgEに抗原が結合すると細胞内の顆粒中のヒスタミンやセロトニンが細胞外へ放出される。トマス細胞は血管の周辺や結合組織に存在し、好塩基球は血液中に存在する顆粒球の一種である。放出されたヒスタミンなどにより、平滑筋の収縮や毛細血管の透過性の増大が起こり、例えば寄生虫への生体防御として働く。しかし、個人が生活環境にある物質との接触してIgEが大量に生産される場合があり、花粉アレルギ−、蕁麻疹、薬剤アレルギ−などの原因となる。また、IgEは第二経路(alternative pathway)を介して補体を活性化する。IgDは血清中に微量にふくまれ、B細胞のある分化階段で発現されることが知られるが、機能は不明である。

 

 

 

  


VI-1免疫グロブリンの基本構造IgG二量体単位はジスルフィド結合で結ばれ全体としてY字型をしている。

 

 

 

 



(ウ)アナフィラキシ−性反応

免疫性アレルギ−は、その発症機序の違いにより、I〜W型に分類される。I,U,V,W型は反応の担い手が抗体(免疫グロブリン)であり、抗原刺激を受けて数分から数時間にアレルギ−反応が起きるため、即時型反応とも呼ぱれる。IV型反応の担い手は感作T細胞であり、抗原刺激後数日から数週間して反応が起きるので遅延型反応とも呼ばれる。

アナフィラキシ−性反応は、即時型アレルギ−、あるいはI型アレルギ−ともいわれるアレルギ−反応の代表的なものであり、この反応を起す主役を演ずるのはIgE抗体である。ヒトの即時型アレルギ−反応は、組織の肥満細胞および血中の好塩基球と結合したIgE抗体が、特異抗原と反応することにより、これらの細胞の穎粒中にもともとふくまれていたヒスタミン 、ヘパリン、プロテオグライケン、好酸球走化因子などの化学伝達物質、さらに抗原刺激によって新たに細胞中に合成されたプロスタグランジンやロイコトリエン(従来は、s1ow reacing substance of amphy1ax1s,SRS−Aと呼称されていた)などの強力な生物学的活性をもつ物質が、細胞外に遊離し、種々の臓器に作用した結果起る症状である。ひどい時は、ペニシリンアレルギ−のように激しいショック症状を起して死に至ることもある。ヒトの場合、他の免疫グロブリンクラスであるIgA,IgG,IgM,IgDは、肥満細胞あるいは好塩基球と結合しえないか、または極めて弱い親和性でしか結合できないから、非常に高い親和性をもってこれらの細胞と結合するIgE抗体と同じ機構でアナフィラキシー性反応を起すことはできない。ヒトのアレルギー反応は、ほとんどIgE抗体によって起こるが、それ以外の抗体の関与によって起るアレルギー反応や抗体の関与なしに非特異的刺激によってアナフィラキン−症状の起る可能性も有り得る。最近ヒトのIgGのサブクラスであるIgG4抗体によって起ったと思われるアレルギ−反応の報告もあるが、その実際のアレルギ−反応症状発現の意味は、今後の研究にまたなげればならない。アナフィラキシ−原因物質を表Y−2のようになる。

表Y−2、アナフィラキシーの原因物質

1、IgE抗体を介するもの

抗生物質:ペニシリン、セフェム系、アミノグルコシド系、テトラサイクリン系、など

異種蛋白 :異種血清、ワクチン、塩化リゾチーム、ウシトロンビン末、抗リンパ球グロブ リン、アスパラギナーゼ、HC060(脂溶性薬剤の溶解剤)、蜂毒、蟻毒、など

治療薬:筋弛緩剤、チオペンタール。減感作用アレルゲン、エストラジオール、エチレンオキサイドガス、など

食物:牛乳、卵白、大豆、貝類、柑橘類、チョコレート、マンゴー、そば、など

2、免疫複合体または補体を介するもの

輸血用製剤、免疫ブロブリン、X線造影剤、メトトレキセート、など

3、アラキドン酸代謝を修飾するもの,

アスピリン、非ステロイド性抗炎症剤、安息香酸、タートラジン、など

4、直接ヒスタミン遊離を誘導する物,

モルヒネ、クラーレ、X線造影剤、デキストラン、マンニトール、ペンタミジン、サルフォブロムフタレイン(BSP)、など

 

私たちが日常使用しているX線造影剤により、どのようにしてヒスタミン遊離を起こさせるかは、次に様に考えられる。

(Y、a−1)I型アレルギ−の発症機序

I型アレルギ−の発症機序は、図に示すように四つのステップからなる。要約すると、

1.    まず、アレルゲンとなるX線造影剤が生体に侵入すると、生体はこれを異物とみなし免疫応答が起こり、抗原特異的IgEが産生される。A次に、そのIgEが、組織の肥満細胞や血中の好塩基球に抗体のFc部で結合する。BX線造影剤がアレルゲンとなり、肥満細胞や好塩基球の細胞表面に結合している抗原特異的IgEに結合、これらの細胞の脱顆粒が起こり、種々の化学伝達因子が細胞外に放出される。C化学伝達因子が標的臓器にはたらきI型アレルギ−の諸症状が誘発される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図Y−2I型アレルギーの発症機序(直接化学伝達因子を遊離させる機序)

 

 

 

I型アレルギーの発症機序(直接化学伝達因子を遊離させる機序)は、下記のように成る。

図(1)IgEの産生機序

アレルゲン(X線造影剤(例イオへキソ−ル25))が生体に侵入すると、一連の巧妙な免疫系細胞の連携プレーによりIgEが産生される。このIgE産生には、抗原提示細胞、T細胞、B細胞という免疫担当細胞が関与する。アレルゲンは、まず侵入部位で抗原提示細胞に捕獲され、抗原処理(Processing)を受けた後、その一部がMHCクラスU抗原に提示され、これを抗原特異的T細胞が認識する。このことにより、抗原特異的T細胞が活性化され、リンフォカイン(IL−2やIL−4など)や接着分子(gp39CD40リガンド)を介して、抗原特異的B細胞を活性化する。活性化B細胞は増殖しながら最終的にIgE抗体産生細胞(プラズマ細胞、)に分化し、特異的IgEを生成、分泌する。このIgE産生能は、HLAクラスU抗原に関連することがいくつかの精製抗原(アレルゲン)を用いた最近の研究により明らかにされている。例えぱ、X線造影剤は(免疫複合体または補体を介するもの、直接ヒスタミン遊離を誘導する物)の場合は、特に強い関連があるとされている。

図(2)IgEの細胞への鉤着

IgE抗体のFc部で肥満細胞や好塩基球の細胞表面上にある受容体(FcεRI)に結合する。この受容体は、肥満細胞と好塩基球の細胞表面にのみ存在し、IgEと高親和性で結合する。FcεRIは、三つのポリペプチド鎖(α、β、γ)の4量体(α、β、2γ)で構成される。α鎖は細胞外ドメインが非常に長く、IgEはこのα鎖に結合する。γ鎖は、ホモダイマーで存在し、細胞内シグナル伝達に重要である。もう一つのIgF受容体としてFcεRUが知られているが、低親和性であり、機能は明らかでない。FcεRHは主にリンパ球や単球の膜表面に存在する。

図(3)脱顆粒(化学伝達因子の放出)X線造影剤(アレルゲン)が、肥満細胞や好塩基球の細胞膜に鉤着しているIgEに結合すると、これらの細胞からすみやかに脱顆粒(degranulation)により化学伝達因子(chemica1mediators)の放出が起きる。

脱顆粒の生化学的機序としては、@抗原によるIgE受容体の架橋(bridging)が起きることにより、Aphosphatidyl serine(PS)と細胞内Ca2+濃度が上昇し、Bその結果、Ca2+依存性代謝が起こり、C最終的にマイクロフィラメントやマイクロチュプルによる顆粒の放出が誘導されると考えられている。細胞内Ca2+依存性代謝調節にはcAMPやcGMPなどの環状ヌクレオチドが関与することが知られている。もう一つには、X線造影剤が直接化学伝達因子を遊離させる機序は、T細胞や白血球から直接遊離させると考えられる。

図(4)化学伝達因子による症状の発現化学伝達因子としては、ヒスタミン、セロトニン、ECF−A,SRS−A,PAFなどが知られている。これらの因子の薬理学的作用によりI型アレルギーの諸症状が発現する{表Y−3、アナフィラ表1型アレルギーにおける化学伝達因子}。ヒスタミンやSRS−Aは平滑筋を収緒させる作用や血管透過性を亢進させる作用がある。気道においてこれらの因子が働くと、気管支の攣縮や浮腫が起こり気道狭窄が生じる。その結果、気管支喘息が誘発される。また、ECF−Aには好酸球を引き寄せる作用がある。そのため、I型アレルギー反応局所の組織には好酸球浸潤が見られる。PAFには血小板を活性化し、血管活性アミンを放出させる作用がある。そのため血管透過性が高まり浮腫が生じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

表(Y−3)T型アレルギーにおける化学伝達因子

 

化学伝達因子

化学的性質

薬理学的作用

ヒスタミン

 

β−imidazoy1-ethylamine

 

平滑筋収縮、血管透過性亢進

外分泌腺刺激、血管拡張

セロトニン

 

5-hydroxytryptamine(5-HT)

 

平滑筋収緒、血管透過性尤進

血管収縮

SRS−A

 

Leucotriens

C。、D。、E。、F。

ヒスタミンと同様だが、よリ強力で持続性あり

ECF−A

 

Acidic tetrapeptide

 

好酸球遊走

 

PAF

1ipid類似

 

血小板活性化、アミン遊離

 

SRS−A:s1owr eacting substance of anaphylaxis

FCF−A:eosinophi1chemotactic factor fo ranaphylaxis

PAF:plate1et activating factor

      

 

 

 

 

(a−3)U型(細胞融解型、細胞障害型)

内因性あるいは外因性の細胞表面抗原が抗体(IgG,IgM)と反応した結果、主として2つの機序が働くとされる。@標的細胞上の抗原に結合した抗体のFc部分がマクロファージ上のFcレセプター(FcR)に結合し、貧食される。A標的細胞上で抗原一抗体複合物により補体系が活性化されて細胞が融解する。FcRのシグナル伝達分子別であるFcRγ鎖を欠失させたマウスでは、FcRを介する細胞の活性化が起こらない。このマウスに抗赤血球抗体を投与しても、補体系は全く正常であるにもかかわらず、溶血性貧血は惹起されず、脾腫も観察されない。すなわちマクロファージなどのFcR陽性細胞がFcRを介して活性化されないとπ型アレルギーは誘導されないという結果で、@の機構が主体であり、補体系の関与は少ないことが明らかになった。

(a−4)V型(アルサス型、免疫複合体型)

内因性あるいは外因性の抗原と抗体の免疫複合体によって補体系、凝固系が活性化されることで組織障害が起こるとされている。しかし、FcRγ鎖欠失マウスでは補体系が正常であるにもかかわらず、V型の代表的反応であるアルサス反応が惹起されない。このことは、V型アレルギー反応が末梢組織に存在するマスト細胞、ランゲルハンス細胞(皮膚)やマクロファージなどのFcR陽性細胞によって惹起されることを示唆している。また免疫複合体の組織への沈着を考えるときも、腎系球体などではメサンジウム細胞などのFcR陽性細胞によって免疫複合体が捕捉され、これらの細胞が活性化され、炎症性サイトカインなどを放出するというシナリオも描かれつつある。

(a−5)W型アレルギー

W型アレルギーは、細菌、真菌、寄生虫や薬剤(X線造影剤)に対するアレルギーで、抗原刺激後の反応発現が遅く、遅延型アレルギー(delayed type hypersensitivity;DTH)反応と呼ばれる。反応の担い手は、細胞成分特にT綱胞(この丁細胞はTDTH細胞と呼ぱれる)とマクロファージであり、抗体は関与しない。W型アレルギーでは、細胞成分(TDTH細胞)により感作状態を未処理動物に移入できるが、即時型(I,U,V型)反応のように血清抗体による感作状態の移入はできない。組織傷害は、T細胞によって誘導された活性化マクロファージやキラーT細胞の細胞傷害により生じる。W型アレルギーの代表例は、結核の既往のある人にツベルクリン(PPD)を注射したときに見られる遅延型反応で、注射後、24−48時間をピークに、注射部位に発赤、腫脹、硬結が現れる。これを利用して、BCGワクチンの判定や結核感染の判定が行われる。

(a−6)W型アレルギーの機序

W型反応はT細胞とマクロファージ、キラーT細胞などの細胞成分により引き起こされる。その機序は以下のように考えられている(図(Y3a−7))。

1.    外来抗原は抗原提示細胞(皮膚の場合はランゲルハンス細胞が重要である)によりプロセシングを受けた後、MHC産物と共に細胞膜上に提示される。

2.    次に抗原特異的Tリンパ球がこの複合体を認識すると、このTリンパ球は活性化され細胞増殖が起きる。

3.    その中で、TDTH細胞(CD4+T細胞の亜集団で遅延型丁細胞と呼ばれる)が、MIF(macrophagemigrationinhibitory factor)、MAF(macrophage activating factor)、SRF(skin reactive factor)などの種々のリンフォカインを産生する。これらのリンフォカインによりマクロファージの集合、活性化が起こり、活性化マクロファージによる細胞傷害が生じる。

Cまた、一方で、抗原による刺激で抗原特異的(キラーT細胞)が誘導され、感染や侵入部位での標的細胞の破壌が起きる。これらの結果として、炎症反応や肉芽腫形成が起きる。W型反応の組織学的特徴は、単核球(単球とリンパ球)の浸潤であり、好中球の浸潤は見られない。これは、V型アルサス反応との大きな違いである。また、W型反応によって誘導される血管透過型の亢進はI型反応に比べると弱いが、長時間持続する。したがって、血管透過性の亢進はI型反応のようなヒスタミンの作用ではなく、むしろSRFなどのリンフォカインによるものと思われている。

 

 

 

 

 

 

図Y−3 W型アレルギーの機序

以上のようにX線造影剤のアレルギー反応はI型アレルギー(アナフィラキシー反応)、W型アレルギー(遅延型アレルギー)であり、どの会社のX線造影剤においてもI型アレルギーの原因であるヒスタミン遊離は3%〜11%までおこる。同様に、キラ−T細胞においてもどのX線造影剤も出来る。W型アレルギー(遅延型アレルギー)は生体内の残存率に関わっていると考えられる。X線造影剤の24時間における排出が100%でないX線造影剤はW型アレルギーを起しやすい。それは、W型アレルギーの機序で説明したようにX線造影剤が複合体(リンフォカインによりマクロファージの集合)を造りやすくするため起こると考えられる。これらの、複合体は分子量が15000〜20000位の物でき、これが排出するために、肺や腎臓の細胞膜が破られて、空胞化の原因になる事が考えられている。空胞化の原因はまだ解明されていないので、今後の研究を待ちたい。アレルギー反応の過敏症の人は、そうでない人に比べて非常高い確率(約三割強)で反応が起こりやすいのは言うまでもない。このような人に対して、X線造影剤を使用する時は充分注意しなければならない。今後、このようなアレルギー反応をおこさない安全なX線造影剤の開発が望まれる。

 

(H)造影剤の血管・血液へ影響

(a)血管拡張作用

造影剤を血管内投与した場合、静脈か動脈か、どの部位の血管か、注入速度が速いか遅いかなどによって程度の違いがあるが、血管痛、熱感が生じる。これは造影剤の高浸透圧性が原因である。すなわち血液より浸透圧の高い造影剤が血管内に一度に大量に注入されると、血管外から血管内に水分の移動が起こり血漿量が増加するために血管が拡張する。血管拡張の結果、一過性の血圧下降や体液のバランスが変動しやすくなるなどの影響が生じる(図]U−7)。

図]U−7造影剤の血管に対する影響

 

 


(b)血管内皮細胞の障害

血管内に注入された造影剤が直接血管内皮と接することにより、その高浸透性および化学毒性のため、血管内皮細胞の障害が起きる。この結果、血栓形成や静脈炎が生じる。

c)赤血球の変形

これも造影剤の高浸透性のために生じるもので、赤血球内部の水分が血漿中に移行する結果、赤血球膜が変形してしまい、いわゆる鋸歯状赤血球を呈するようになる。変形が著しいと微細な血管を通過しにくくなり、塞栓して肺動脈圧上昇の一因となる。

I)心・循環器系への影響

造影剤の心臓に対する直接的な影響は、主に高浸透圧性が原因とされる心筋の収縮力の低下があげられる。また化学毒性によって心電図異常、不整脈の発生など刺激伝導系が影響される。さらに末梢血管における血管拡張、循環血液量の増加、赤血球膜変形に起因するとされる肺動脈圧の上昇などが加わり、心・循環器系全体に対する影響が生じる。心室造影や冠動脈造影、中心静脈に造影剤を注入するIV一DSAでは高濃度の(血液で希釈されない)造影剤が大量かつ急速に注入されるため、副作用が発生しやすいといえる。

非イオン性造影剤の使用により心筋収縮力低下をはじめとする心・循環器系への影響が軽減した。

(a)肺への影響: まずあげるべき重篤な副作用は肺水腫である。アナフィラキシ−様反応が原因であるとする考えがある一方、高浸透圧性や化学毒性に起因するとの報告もある。また前述のごとく、自律神経系を介して肺内の毛細管括約筋の収縮が生じた結果であるとする考えもある。肺への影響としては、他に前述の肺動脈圧上昇や気管支痙撃などがあげられる。

(b)腎臓への影響: 血管内投与された水溶性ヨ−ド造影剤は約99%が尿中へ排泄されるため、投与方法や投与量にかかわらず腎臓に何らかの負荷がかかる。腎障害は通常、可逆性、非乏尿性の変化で短期間で回復する。腎機能が正常の被検者ではほとんど影響されないが、腎機能の低下した被検者に造影剤を使用すると悪化しやすいので慎重に投与すべきである。腎不全をきたしやすい危険因子としては1)糖尿病、2)腎不全の既往、3)造影剤の過剰投与、4)脱水状態、5)過尿酸血症、6)高齢などがあげられる。造影剤による腎障害の発生原因は現在のところ詳細不明であるが、以下の機序が考えられている:

@尿細管細胞の障害 A尿細管細胞内への尿酸塩結晶や各種蛋白の沈澱による尿細管の閉塞 B腎虚血

3)MRI造影剤

MRI造影剤の使用にあたり以下のことに留意すべきである。MRIでは画像に表れる信号強度を決定する要因は複雑である。スピンエコ−法の場合、プロトン密度、流れの影響、組織のT1・T2値、設定するTR・TEにより決定され、高速撮像法においてはさらにフリッブ角などが加わる。したがってCTのように単純にCT値と組織内部構造が対比するわけではない。細胞外分布型の経静脈性MRI造影剤およびGdイオンを有する肝特異性造影剤は組織のT1・T2値を短縮する。血中および組織の造影剤濃度が、T1短縮の影響が強く表われ、T2短縮の影響が少ない範囲内でのGdイオンの濃度がおよそ1mM以下)では、造影剤濃度と信号値がほぼ比例関係に近くなるため、造影効果を評価することができる。MRI造影剤としてガドリニウム錯体の安全性は下記の3つの要因に依存する。(a)熱力学安定性、(b)溶解性、(c) 生体内錯塩の安定性

(a)熱力学的安定度定数(Ktherm

 各配位子は固有の塩基性を示しGd3+とプロトン(H+)とは競合反応を示す。特に、金属と配位子からキレ−ト化合物が生成する際の安定度定数(Ktherm)は以下のように求める事ができる。Kthermが大きい程金属が配位子と結合し、キレ−ト化合物として溶解している事になる。

表]U-5 現在MRI造影剤に使われているガドリニウムキレ−ト化合物の純水中での安定度定数と溶解度定数。

 製品名

 オムニスキャン

 マグネビスト

 プロハンス

配位子(リ

ガンド)     

DTPA-BNA

+Na[CaDTPA-BMA]

DTPA

HP-DO3A

安定度

定数    

 

  K=1016.9

  

  K=1022.5

  

 K=1022.8 

logKsol溶解度指数

6.7

10.2

6.5

急性毒性

[LD50]

38mmol/kg

6mmol/kg

14mmol/kg

LogK

Gd:16.9, Cu:3.9,

Zn:12.0, Ca:7.2

Gd:22.5, Cu:21.4

Zn:18.7, Ca10.8

 

 

 

 

(b)溶解性

 Gd3+と沈殿を生成し易いイオンであるP043一、OH-、C032-は上記キレ−ト化合物安定性に重要な影響を及ぼす。単純なガドリニウム塩では、沈殿を生じてしまう。沈殿を阻止できないほどGd3+と配位子との親和性が弱い場合、毒性があらわれる(表]U-5参照)。Marte11はキレ−ト試薬について溶解定数を定義した。これによりキレ−ト試薬と沈殿イオンが共存する場合の金属イオンの溶解性が予測できる。この溶解定数は、最初金属が不溶の形で存在するときに、過剰の金属イオンを減少させる能カを予測するために考えられた。溶解定数(Ksol)は錯形成していない配位子の総濃度(L)の比で定義される:

sol=[ML]/LT       − − − − − @

あるいはKは以下のように表される。[ML]=Ktherm([M][L])であるから@式は

sol=Ktherm([M][L]/L) − − − − − A

solの代わりに対数をとり溶解度指数logKsolで表わすと表]U-5のようになる。

(c)生体内錯塩の安定性

 Gd錯塩はリガンドが、生体内に存在するZn2+、Cu2+、Ca2+と反応しGd3+を遊離させる事によって不安定になる。このなかで一番問題なのはZn2+である(表]U-5参照)。これを防ぐために、生体内で安定性な錯塩でGdを更に二重に取り囲む必要がある(オムニスキャン、プロハンス)。その結果、表]U-5の表より急性毒性[LD50]の値が大きくなって安定している。錯体が平衡状態においてCd3十を遊離すると毒性を示す。

MRI造影剤の副作用は、X線造影剤とほぼ同じであり、発疹、蕁麻疹、発赤、発汗、嘔吐、下痢、気分不快感、温熱感などが発症する。MRI造影剤に関しては未知の部分もあるので慎重に使用すべきである。現在使用されている造影剤は、フェリデックス、マグネビスト、オムニスキャン、プロハンスの4つであり、下記に4つの特性を示す。

表]U−5  MRI造影剤の表

商品名

フェリデックス

マグネビスト

オムニスキャン

プロハンス

 一般名

 分子式

 効果

 用法

 性状

 pH

浸透圧比

磁性特性

副作用

フェルモキシデス

(Fe2O3)m(FeO)n

(0<n/m<1)

肝臓造影

0.05ml/kg

暗褐色コロイド液

7.0〜8.5

1.0

超常磁性、陰性造影剤

肝臓特異性

5.0%

ガドペンテト酸メグルミン

C14H20GdN3O10-C7H17NO5

脳、脊椎造影、躯幹部、四肢造影

0.2ml/kg(腎0.1ml/kg)

無色微黄色澄明の液で粘性

6.8〜7.8

7.0

常磁性、陽性造影剤

非特異性(全身性)

0.7%

ガドジアミド水和物

C16H28GdN5O9-3H2O

脳、脊椎造影、躯幹部、四肢造影

0.2ml/kg(腎0.1ml/kg)

無色微黄色澄明の液

6.0〜7.0

2.6〜3.2

常磁性、陽性造影剤

非特異性(全身性)

0.8%

ガドテリド−ル

(C3H6N)4Gd(OCO)4

脳、脊椎造影、躯幹部、四肢造影

0.2ml/kg(腎0.1ml/kg)

無色微黄色澄明の液

6.0〜7.0

2.0

常磁性、陽性造影剤

非特異性(全身性) 0.8%

 

 

 

 

 

 

4)超音波造影剤

 現在市販されている超音波造影剤は、レボビスト 1種類である。レボビストは、超音波診断用遺影剤としてシェ−リングAG(ドイツ連邦共和国)で開発された、ガラクト-ス・パルミチン酸混合物(999:1)を注射用水にて用時調製する懸濁性注射液である。

ガラクト−スの水への溶解に伴い発生する微小気泡の、エコ−シグナル反射作用により、超音波検査におけるシグナル増強効果を発現する。さらに界面性活性作用を持つパルミチン酸の添加により微小気泡が安定化され、微小気泡が全身を循環することから、静脈内投与による右心腔・左心腔、および体内の種々の臓器・血管に串ける造影超音波検査に使用できる。

図]U-10  ガラクト−スとパルミチン酸

5)副作用発生時の対処法

(a)副作用の兆候: まず、カテーテルから少量の造影剤を注入しテスト造影を行い、患者の反応と同時にカテーテル位置確認をする。その際、重篤な副作用の前兆は、70%の症例では、造影剤注入後5分以内に出現しており、少なくとも10分間は特に注意深く患者を観察する必要がある。副作用の程度は初期には軽度または中等度の症候として発現することが多い。副作用が重篤「血圧低下、気管支攣縮」になるのを未然に防止するためには、投与中の患者の状態(表情、態度)を絶えず観察し、初期兆候[くしゃみ、咳、生あくび、冷汗、顔面蒼白]を早期に的確に察知し直ちに検査を中止し、迅速で適切な処置をする必要がある。

b)生あくび、冷汗: 生あくび冷汗は急激に血圧が低下した兆候であり、ショック、心停止などの危険な副作用の初期兆候の場合がある。その際、処置が遅れると、完全なショックに陥り蘇生が困難になることがあり、速やかに処置を行う必要がある。また処置が早いほど効果的である。徐脈を伴った血圧低下が起きたとき、多くは、迷走神経反応(Vaga1reaction)である。情緒不安感。極度の緊張、穿刺時の疼痛などが誘因になるので術中不安感や疼痛を極力患者に与えないように努めるべきである。この場合はまず、硫酸アトロピンO.5mgを投与し静脈内補液(急速に大量の0.9%生理食塩水注入)下肢挙上を速やかに行う。血圧低下に頻脈を伴った場合、酸素吸入、カテコラミン(はじめはドパミン2〜5μg/kg/分から開始増量し、無効な時はノルアドレナリン0.05μg/s/分を開始)投与し、収縮期血圧100mmHgを維持するようにする。アナフィラキシー様反応の場合、副腎皮質ホルモン(ソルコーテフ1000mg)、エピネフリン1A+生理食塩水10mlを2mlずつ収縮期血圧が100mmHgを越えるまで静注する。喘鳴に対してアミノブィリン250mgをゆっくりと静注する。

(c)悪心、嘔吐: 多施設全国調査報告では、悪心の発現率はイオン性造影剤4.58%、非イオン性造影剤1.04%、嘔吐の発現率はイオン性造影剤1.84%、非イオン性造影剤0.36%であり、いずれにしても、非イオン性造影剤での悪心、嘔吐の副作用発現率は低くなっている。軽度の悪心、嘔吐がみられたら、注入を一時中止し、毒麻疹などのアレルギー症状が併発していないか様子を観察する。通常は、自然に症状が落ち着くこと多いが、軽度の悪心嘔吐も重篤な反応の前駆症状であることもあり、その症状が消失するまで厳重に監視する。落ち着くようなら、ゆっくり再開する。再開して再び症状が現われるようなら中止した方が無難である。

(d)尋麻疹、掻痒感: 多施設全国調査報告では、薄麻疹の発現率はイオン性造影剤3.16%、非イオン性造影剤O.47%、掻痒感発現率はイオン性造影剤2.97%、非イオン性造影剤0.45%であり、いずれにしても、非イオン性造影剤の副作用発現率は低くなっている。患者の背景因子として、食物、薬剤、花粉、喘息などがあげられる。これらの患者では、アレルギー歴のない患者と比べ、2〜5倍の頻度で重篤な含併症が生じるとされている。特に造影剤に対するアレルギー歴は10倍も危険率が高いとされている。したがって造影剤による重篤な既往歴のある場合は、造影検査は行わない方が無難である。しかし、治療のため、造影検査がどうしても必要な場合は、Lasserらが検査の12時間前と2時間前にステロイド剤メチルプレドニゾロン32mgの予防的経口投与の有用性を捉唱している。予防的ステロイド剤の投与を考慮し造影検査を検討すべきである。既往歴にイオン性造影剤を使用して副作用が出現した場合は、非イオン性造影剤に変更してみるのも1つの策と思われる。アナフィラキシー様反応の臨床症状には、顔面および眼窩周囲の浮腫、鼻閉、くしゃみ、咳、咽頭絞扼感のアレルギー症状、喉頭浮腫または気管支痙撃による喘息様喘鳴を伴う呼吸困難、および急激な血圧低下と頻脈の発生を伴う。特にくしゃみ、咳などの初発徴候として、注意する。

(e)ショック症状: ショックの臨床所見は、蒼白(pallor)、虚脱(prostration)、冷汗(perspiration)、脈拍触知不能(pulse1essness)、呼吸不全(pu1monary deficiency)の5P’sとして知られている。一般に血圧低下、意識障害、チアノーゼ、悪寒、乏尿、無尿などの症状を呈することが多い(表]U-5)。

表]U-5 ショック症状

収縮期圧

時間尿量

皮膚

意識障害

80mmHg以下

20ml〜以下

蒼白、冷汗

早く弱い

不穏、興奮

以下のようなショックの種類があるが、造影検査中の病態は1)〜5)が考えられる。

1)低容量ショック: 脱水症、大量出血時などにみられる血管内体液量の減少に起因する。

2)アレルギー1生ショック: 造影剤、血漿製剤、抗生物質などにより起きるもの。

3)薬物性ショック: 造影剤、降圧剤、麻酔剤などの過量による場合と薬物の作用そのものによる場合がある。

4)心原性ショック: 心筋梗塞など心臓からの拍出量の低下に起因する。

5)神経性ショック: 極度の不安、恐怖など精神的衝撃や神経的な反射に起因するもの。

6)細菌性ショック: 重篤な感染症患者にみられる細菌毒索(エンドトキシン)によって起こるもの。

7)内分泌性ショック: 甲状腺疾患副腎疾患などの内分泌疾患に起因する。

術前・術中の副作用軽減のための対策

1)問診: ハイリスク患者をみつける(造影剤の副作用歴、アレルギー歴など)造影検査の適応を決定する。

2)救急用設備が常に使える状態にしておくアンブーバッグの用意、酸素供給、救急薬品を揃えておく。

3)入室時のバイタルサイン(血圧、呼吸、脈拍、一般状態)をチェック、患者の状態が悪いときは無理に検査をしない。

4)十分な説明: 心因性要因によって症状が増悪するので患者に不安感を与えないように心がける。

5)ハイリスクの患者あるいは原則禁忌および慎重投与の患者に対しては、その内容に応じた適切な前処置をする。

6)脱水状態の改善:術前に水分をある程度自由に摂取させておく。静脈ルートを確保し十分な補液をし、血行動態を安定化させる。特に腎機能低下例、高齢者には必要。

7)ヘパリン化: 動脈造影の場合に行なう。

8)テスト造影: 少量の造影剤を注入し、反応を観察する。

9)初期に発現兆候を見つける: 特に、くしゃみ、咳、生あくびなどに注意する。

10)副作用の発現時: 直ちに検査を中止し、様子を観察し無理な続行はしない。

1)造影剤量は適正かつ最少限の量を用いる。特に胃機能低下、心機能低下、高齢者での場合は注意をようする。

12)緊急時の診療体制: 重症の場合すぐに応援を呼ぶこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.   新たな造影剤の提案

 

前回は放射線診断に用いられている造影剤について述べたが、最終回は新たな造影剤の提案との今後の展望について述べる。

1.    (A)新たなX線造影剤の提案

筆者は優れた造影剤であるためには以下の条件が必要である事を強調したい。

1.    X線量は造影剤の分子量の2剰に比例する。

2.    化学毒性やアナフィラキシ−様反応がない。

3.    体から速やかに排出されるためには、水溶性であり、腎臓を透過するのに分子量7000以下でなければならない。

4.    生体内で安定である。

5.    浸透圧が小さい。

6.    血液の粘稠度は造影剤の分子量の増加と共に大きくなるが、これを低く押さえる必要がある。

そこで、図]V-1に示すような三量体からさらにそのオリゴマ−である六量体までの分子設計が考えられる。これらは、すべて、環状であり、内側は疎水性で外側は親水性なので、浸透圧、粘稠度にすぐれ、生体内で安定でかつ排出され易いなど上の条件を満たす事が期待できる。

図]V-1 新規な環状三量体造影剤の設計例

 

(B)MR造影剤

 MR造影剤の場合はX線造影剤の条件に加えてT1・T2値を短かくする必要がある。

そのためには前回超伝導性物質が好ましい。書を書く時に用いる墨の中にも含まれるフラーレンC60は超伝導性物質があるので、Feと同様に画像化に使えそうである。フラーレンについては第1回目のホスト-ゲストの化学の項で、カッリクスアレ―ンを利用する分離法などについて述べた。細胞外分布型の経静脈性MRI造影剤(フラ−レン)を有する組織のT1・T2値を短縮するが、血中および組織の造影剤濃度が、T1短縮の影響が強く表われT2短縮の影響が少ない範囲内でのフラ−レンの濃度で使用することにより造影剤濃度と信号値がほぼ比例関係に近くなると考えられる事から、造影効果が期待される。ただし、フラ−レンは化学的に非常に安定である点は好ましいが、容易に水溶性にならないのが欠点なので以下に水溶性フラ−レンを設計した。中村栄一らは、フラ−レン官能基化による機能分子設計の優れた研究を行なっている。これは、フラ−レンと有機銅試薬(Ph2Cu-)の反応により、5つのPh基がフラ−レンの5員環の廻りを取り囲むように位置選択的に連続付加しシクロペンタジエン構造を含むフラ−レン誘導体C60Ph5Hが定量的な収率でえられた。この反応を利用すれば親和性の官能基を持つフラ−レンを合成することが可能である。例えば、図]V-2の化合物1を官能基化したR=OMeという類以体とポリエチレングリコ−ル(PEG)から3段階程で非イオン水溶性フラ−レンが設計できる。これは、上記の望ましい条件を備えた非イオン性MR造影剤になり得ると考えられる。

 さらに、PEG修飾フラ−レンは機能材料として24時間後に癌の細胞に機能的に集積すると考えられる事からGaシンチのように転移の有無や、癌細胞内での活動を観察するのに、適している。として、癌組織にフラ−レンが入った後、光照射によって細胞障害性を示し、癌の光線力学治療効果が示されている事から癌組織へのタ−ゲティング効果が期待される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図]V-2 フラ−レンに用いる新規非イオン性造影剤の設計例

 

  造影剤腎症とその保護薬

ヨード造影剤は,血管造影やCT 造影などの画像診断において必要不可欠な体内診断薬で,その年間国内売上げ1,000億円以上から推定される使用回数は極めて膨大である.その一方で,造影剤腎症と呼ばれる急性の腎障害を引き起こすことが広く知られており,臨床現場における大きな問題の一つとなっている.

造影剤腎症の定義は一般的に「造影剤投与後48時間以内に生じた血清クレアチニンレベルの25% 以上の上昇」と言われており,通常は1週間程度で回復する可逆的な障害である.造影剤腎症の発現率は報告により大きく異なるが通常は30% 以下である.しかし,糖尿病,心不全,高齢者,すでに腎障害を有している患者や,抗癌薬,抗菌薬,解熱鎮痛薬などを使用している患者においては,その発症頻度が50% にまで上昇し,ときに不可逆的な腎不全に陥るケースもある.

造影剤腎症は,患者QOL の低下のみならず入院延長に伴う医療費増大の面でも解決されるべき問題である.造影剤腎症の発現機序としては腎血流量の低下や腎尿細管細胞への直接的な障害が考えられているが完全には解明されていない.

これまで,造影剤腎症の保護薬としては腎血流量改善薬に目が向けられ,ドパミン,カルシウムチャネルブロッカー,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP),エンドセリンアンタゴニスト,テオフィリン等による保護作用の報告が数多くなされてきたが(J Am Soc Nephrol. 2000;11:177-182),いずれも有用な保護薬として使用されるまでには至っていない.臨床においては,現在でも排泄促進を目的とした輸液療法が唯一の有効な予防法として一般的に行なわれている.造影剤による腎障害にラジカルが関与するとの報告が以前よりなされている(Am J Kidney Dis.1998;32:64-71).Tepel ら(N Engl J Med. 2000;343:180-184)は,抗酸化作用を有するアセチルシステインが造影剤腎症を保護するとの臨床結果を初めて報告した.

その後,主として慢性腎不全患者や危険因子を有する患者を用いたアセチルシステインの臨床成績が10報以上も次々に報告されてきた(Kidney Int.2002;62:2002-2007; JAMA.2003;289:553-558).最近Brick ら(Lancet.2003;362:598-603)は,それまでに報告された7つの信頼できるランダム化比較試験のデータをメタ解析し,慢性腎不全患者における造影剤腎症の相対リスクが,(輸液療法+アセチルシステイン)群では(輸液療法+プラセボ)群より56% 低いことを報告した.

アセチルシステインは喀痰溶解薬やアセトアミノフェン中毒の解毒薬としてすでに承認されている薬で,安全性も高くしかも安価である.造影剤腎症の有効な保護薬として今後承認されていく可能性が高い.最近我々は,培養腎尿細管細胞において造影剤がBcl-2の減少とBax の増加により,カスパーゼの活性化に基づくアポトーシスを引き起こすことを明らかにした(KidneyInt.2003;64:2052-2063).さらに,この細胞障害に対して,cAMP のアナログであるdibutyryl cAMP やプロスタサイクリン(PGI2)のアナログであるベラプロストナトリウムが,PKA やAkt の活性化に基づくCREB リン酸化を介してBcl-2の減少を抑制し,保護作用を示すことを見出した(Kidney Int. 2004; in press).

ベラプロストナトリウムは血管拡張作用も併せ持つことから腎血流量の改善による保護効果も考えられ,かつ安全で安価であることから造影剤腎症に対する有用な薬剤になり得るのではないかと期待される.腎毒性の低い新しい造影剤を用いた臨床比較試験も最近報告されている.Aspelin ら(N Engl J Med.2003;348:491-499)は,クレアチニンレベルの高い糖尿病患者において,等張性でダイマーの非イオン性ヨード造影剤イオジキサノールでは造影剤腎症の発現率がイオヘキソールよりも低いことを報告している.造影剤は腎障害の他にもアナフィラキシーショックなどの重篤な副作用を引き起こすことがある.しかし,造影剤腎症のリスクがある患者においても必要な場合には造影検査を行わざるを得ない.検査に際しては十分なインフォームドコンセントが行われるが,それでも,検査による重篤な副作用の発生は患者および医療従事者の気持ちを大変複雑なものにする.早期の造影剤腎症の有効な予防法の確立が期待される

卵管造影剤について

リピオド−ル(ヨ−ドけし油)(ウルトラ、フィルド)について、卵管造影剤として使用すれば、副作用も少なく良い物ですが無いわけではありません。

重篤の副作用はきいたことがありません。非イオン性造影剤を消化器用に使用した時と同じくらいの副作用であると言われています。

 婦人科学会でも、言われていることが、リピオド−ルを使用した後に妊娠率がアップする理由は、造影剤が弱アリカリ性と濃度が高く粘土が高いせいであると考えられています。

Gd造影剤の危険性

Gd造影剤の危険性

2007年J Am Acad Dematol. Alan et al; 1996年 Investigative Radiology. Puttagunta et al. よりZn排出量がGd-DTPA-BMA が多かった。キレート安定性は熱力学的安定性で決まる。Gd-DTPA-BMAが一番低かった。2007年 Magn Reson Mater Phy . Geory らが報告している。

Ga造影剤とGaシンチは期間を一ヶ月空ける用にしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

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