光画像理論

三軒茶屋病院 放射線科 技師長 青木 好雄

1)これからのDNA解析における光の重要性

 今後、DNA解析(ヒト・ゲノム解析)には「光」が関わってくると考えられる。医療画像技術びおいて、光解析OCT(Optical Coherence Tomography)、光治療、マイクロチップ・ナノチップテクノロジ−、化学発光イムノアッセイ、ルミネッセンスなど益々多用な画像光解析機器が出て来ているので、現状の光測定機の現状を順次示して行く。

  1. 光解析OCT(Optical Coherence Tomography

1 酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの可視吸収スペクトル

2 酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの近赤外光吸収スペクトル

可視光線は下限(360400nm)から上限(760830nm)までの波長の光を言う。

 

現在光解析OCT(Optical Coherence Tomography)として利用されいる方式、が二通りあり、430nmから550nmのを可視光利用して行なう方法(]V-3)と700nmから800nmの近赤外光を利用する方法(2)が画像に用いられている。生体組織を透過した光を感知してCT、MRと同様に画像化できる。前者は2cmから3cmまで透過可能であり、後者は5cmから8cmの深さまで透過できるので後者の近赤外光を利用するのが主流になっている。

3 光解析OCT(Optical Coherence Tomography)の装置構造

生体組織の中で活動する細胞の内、画像化できるのは、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビン、ミオグロビン、チトクロ−ムなどである。特に酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンは図2にも示すように800nmにて等吸収点波長を示すため800nmレ−ザ−光で定量できる。ミオグロビン、ヘモグロビンの生理活動はこのシリ―ズの第57回を参照していただきたい。この波長では還元ヘモグロビンの吸収が酸化ヘモグロビンのそれより高い。したがって、酸素消費によりヘモグロビンが還元されると光の吸収が増大する事を利用している。

光解析OCT(Optical Coherence Tomography)理論

散乱のない物体に対する入射光強度と出射光強度の関係は、一般にLambert-Beer則に従い、次のように与えられる。

I/I。=exp(―εCD)     …………(1)

ここで、I。、Iは入射光量と出射光量、ε、C,Dはそれぞれ対象物体の吸収係数、濃度、光路長である。さらに光の減衰の割合(減光度)をoptica1 density

OD ≡ log(I。/I)       …………(2)

と定義すると、散乱のない物体では、

OD = εCD           ……   (3)

となる。対象物体が散乱と吸収特性を合わせ持つ場合、とくに生体のような多重散乱系については、透過光強度を表す一般的解析解は得られていない。しかし、対象物体の散乱特性はほとんど変化せず吸収特性が変化する場合については、

△OD = B△(εCD)       ………  (4)

の関係が成り立つことが示されている。ここでBは、散乱による光路長増加に対応する比光路長係数(differentia1 path 1ength factor)である。

生体組織内のヘモグロビン吸光度変化と局所的血液量変化との検出を目的とする。対象とする生体試料中のヘモグロビンと、ヘモグロビン以外の組織を、添え字bとtで区別すると(4)式は、

△OD = BD△(εbb + εtt)  ……  (5)

となる。いま、対象とする生体内の血液量は変わらず(Cb 一定)、酸素化状態が変化(ヘモグロビンの吸光度εb変化)した場合を考える。ヘモグロビン以外の組織の変化はほとんど無視できることから、

OD2―OD = log(I/I2)・BD(εb2―εb)Cb     ……(6)

となり、変化の前後の減光度差は吸光度変化に比例した値を与える。ここで添え宇1,2は、それぞれ変化の前と後を示す。したがってこれを透視像のピクセルごとに演算することにより、散乱体内の吸光度変化の空間分布をイメ−ジングすることができる。

次に、酸素化状態は変わらず(εb一定)、血液量が変化(Cb 変化)した場合を考える。厳密には、血液量が変化すると散乱特性も変化する。しかし通常の生理的な血液量の増減に伴う敵乱特性の変化は、血液以外の組織における強い敵乱の中では、ほとんど無視できると考えられる。よって、血液の酸素化状態(ε)一定または等吸収点波長使用の条件下では、

0D2―0D1 = log(I/I2) = BD(Cb2―Cb)εb    …(7)

となり、体内の血液量変化の空間分布をイメ−ジングすることができると考えられる。なお、等吸収点の波長を用いた場合には、酸素化状態が変化してもこの条件が成立する。

(B) 癌の光線力学的療法

             図4  癌の光線力学的療法

  これはフラーレンが、可視光照射により一重項酸素などの活性酸素を効率よく発生し、細胞を強く殺傷したためである。このような療法は、癌の光線力学的療法(Photodynamic Therapy:PDT)と呼ばれている(図4)。癌組織に集積性のある光増感剤をあらかじめ患者の体内に投与した後、その癌組織への化合物の集積量が最大となる時間後に、癌部位のみに光照射を行えば、そこに生成した一重項酸素は、非常に反応性に富んでいるため、その周囲の癌組織を破壊する。癌のPDT光増感剤に必要な性質は、

  1. それ自体が癌組織に集積すること。
  2. 光照射によって十分に一重項酵素を産生することである。

Aに関しては、フラーレンは最適な物質である。@に関しては、少し詳しく以下に説明する。癌組織と正常組織との間には解剖学的な相違のあることが報告されている(図]V-3)。癌組織内に新生した毛細血管は、正常血管に比較して物質透過性が亢進する。また、癌組織ではリンパ系が未発達であることも手伝って、サイズの大きな物質は排泄されにくく、組織内に蓄積する。そこで癌の解剖学的特徴を利用することによって、フラーレンに@の性質を付与することを考えた。PEG修飾フラーレンは、正常組織に比較して、癌組織内により長く留まるため、投与後のある適当な時期には、正常組織に対する癌組織のフラーレン濃度比は大きくなり、フラーレンの癌組織へのターゲティングが達成できる。このとき、癌部位を光照射すれば、癌組織のみを選択的に破壊できる(図4)。この光照射(430540nm)の遠赤外線を使用する事により、6cm位の深さまでの治療が可能になった。

5 癌組織と正常組織との間には解剖学的な相違

6 フラーレンによるターゲティングを用いた癌組織の破壊

 

7 フラ−レンに用いる新規非イオン性造影剤の設計例

C)MR造影剤&フラーレンによるターゲティング

 MR造影剤の場合はX線造影剤の条件に加えてT1・T2値を短かくする必要がある。

そのためには前回超伝導性物質が好ましい。書を書く時に用いる墨の中にも含まれるフラーレンC60は超伝導性物質があるので、Feと同様に画像化に使えそうである。フラーレンについては第1回目のホスト-ゲストの化学の項で、カッリクスアレ―ンを利用する分離法などについて述べた。細胞外分布型の経静脈性MRI造影剤(フラ−レン)を有する組織のT1・T2値を短縮するが、血中および組織の造影剤濃度が、T1短縮の影響が強く表われT2短縮の影響が少ない範囲内でのフラ−レンの濃度で使用することにより造影剤濃度と信号値がほぼ比例関係に近くなると考えられる事から、造影効果が期待される。ただし、フラ−レンは化学的に非常に安定である点は好ましいが、容易に水溶性にならないのが欠点なので以下に水溶性フラ−レンを設計した。中村栄一らは、フラ−レン官能基化による機能分子設計の優れた研究を行なっている。これは、フラ−レンと有機銅試薬(Ph2Cu-)の反応により、5つのPh基がフラ−レンの5員環の廻りを取り囲むように位置選択的に連続付加しシクロペンタジエン構造を含むフラ−レン誘導体C60Ph5Hが定量的な収率でえられた。この反応を利用すれば親和性の官能基を持つフラ−レンを合成することが可能である。例えば、図]V-2の化合物1を官能基化したR=OMeという類以体とポリエチレングリコ−ル(PEG)から3段階程で非イオン水溶性フラ−レンが設計できる。これは、上記の望ましい条件を備えた非イオン性MR造影剤になり得ると考えられる。

 さらに、PEG修飾フラ−レンは機能材料として24時間後に癌の細胞に機能的に集積すると考えられる事からGaシンチのように転移の有無や、癌細胞内での活動を観察するのに、適している。として、癌組織にフラ−レンが入った後、光照射によって細胞障害性を示し、癌の光線力学治療効果が示されている事から癌組織へのタ−ゲティング効果が期待される。

 

2)マイクロチップ・ナノチップテクノロジ−(バイオチップ)

 

8 DNA解析用ナノチップと超微細加工によるナノストラクチャ-の設計

手のひらサイズのチップ上に、DNA解析に必要な反応・分離・検出などがすべて集積化されている。将来的には、超微細加工技術でナノストラクチャ−を作製できる。

現在ナノストラクチャ−を持つデバイスを開発し、極微量あるいは1分子のゲノムDNAの抽出、PCR、シ−クエンシング、SNP解析などの集積化を実現するナノチップテクノロジ−、ナノスケ−ルラボの創製を目指す研究が活発である。これは、ゲノム解析に必要な、血液などの細胞からのDNAの抽出、ゲノムDNAからの遺伝子の増幅反応、遺伝子の分離、検出などの基本プロセスを、わずか数cm角程度のマイクロチップ上で実現する技術である。これを実現するためには、半導体の集積化で培われた微細加工技術によるマイクロチャネル、マイクロ容器などの作成が不可欠である。さらに、ナノストラクチャ−の形成により、DNA分離用ゲルでさえも超微細加工により作製することができる。一般的に、ゲノム解析、疾患のDNA診断、疾患関連遺伝子のスクリ−ニング、食中毒などに関連した微生物遺伝子の検出、DNA鑑定などにおいては、数kbp(キロベ−スペア)以下のサイズのDNAが解析対象になる。これらを解析する場合は、一般的にゲルやポリマ−を使用するが、そのメッシュサイズは、10〜80nmである。したがって、この程度のサイズのナノストラクチャ−を作成することは現在可能である。一度に約6000種の物が検査できるバイオチップが販売されている。そして、この加工に必要なのが小型SR機器のSR光である(第11回目参考)。

 

3)化学発光イムノアッセイ(CLlA)

BersamYa1owにより開発されたラジオイムノアッセイ(RIA)は高感度で特異性が高く、また分析操作が簡単であることから急速に発展し、臨床診断の分野をはじめ、多くの領域で利用されてきた。しかし、放射性物質を標識に用いるために測定装置や設備をはじめ、使用後の放射性物質の廃棄などに制約があり、最近では放射性物質の代わりに非放射性物質を標識に用いる非放射性イムノアッセイが開発されてきている。特に、検出系に吸光度法や蛍光法より高感度な化学発光法を用いた化学発光イムノアッセイが注目され、第2世代の測定法として期待されている。化学発光イムノアッセイは化学発光性化合物を標識する化学発光イムノアッセイ(chemiluminescent immunoassay: CLIA)と酵素を標識し、その酵素活性を化学発光法で測定する化学発光酵素イムノアッセイ(chemi1umi-nescent enzyme immunoassay CLEIA)に大別される。

図9化学発光反応過程

化学発光反応過程は図9に示したように2つの経路が知られている。すなわち、化学発光性の化合物が酸化剤などの触媒の存在で中間体を経て励起状態の化合物となり、この状態から、基底状態になるとき、エネルギ−を発光として放出する経路と、中間体または励起された化合物が共存するエネルギ−受容体にエネルギ−を渡し、このエネルギ−受容体が励起された後、基底状態に戻るとき、発光してエネルギ−を放出する経路である。後者の場合のエネルギ−受容体としては蛍光色素が一般的に知られている。いずれの場合も理論的には1個の分子から1個のフォトンが放出される。実際には化学発光では数%程度が光となるにすぎない。

  

化学発光性の化合物として図]V−8に示すようなアクリジニウムエステル誘導体、アクリジニウムアシルスルホンアミド誘導体、イソルミノ−ル誘導体などを用いて抗体または抗原を直接標識してイムノアッセイのトレ−サ−とする方法である。化学発光イムノアツセイのシステムはラジオイムノアツセイ(RIA)と同じように不均一性(heterogeneous)で行なわれる。B/F(抗原抗体結合/遊離型)分離法は鉄微粒子または試験管壁、デキストラン疾末などの固相を用いる。競合法またはサンドイッチ法による抗原抗体反応後にB/F分離し、固相に付着した化学発光性の化合物をそれぞれの化学発光反応で検出する。すなわち、アクリジニウム誘導体はアルカリ性で過酸化水素を、またイソルミノ−ル誘導体は過酸化水素およびマイクロペルオキシダ−ゼ(m−POD)を添加して発光させ、検出する。この原理に基づいたキットが市販されており、従来のRIA法より高感度、短時間で測定が可能となり、様々な生体関連化合物の測定に応用されている。N-メチルアクリジニウム誘導体の化学発光反応とそれを用いたimmunochemi1umino metricassay(ICMA)システムの操作を図]V-8に示す。

図10 N−メチルアクリジニウム誘導体の化学発光反応

4)化学発光イムノアッセイと酸素との組み合わせによる化学発光酵素イムノアッセイ(CLElA)

酵素を標識してイムノアッセイした後、酵素の活性を化学発光法で検出する方法である。酵素イムノアッセイが高感度であるのは酵素による増幅効果があリ、さらに検出に化学発光法を用いることにより、高感度に測定される。酵素により異なるが、10-8〜10−21mo1/アッセイまで検出可能となってきている。タ−ンオ−バ−速度の高い酵素ほど有利である。酵素を標識に用いているのでB/F分離には酵素活性を失活しない方法が必要であり、多くの場合、抗体や抗原を固相化したB/F分離法が用いられている。サンドイッチ法および競合法のシステムの一例を図11に示す。

 

 

 

図11 サンドイッチ法および競合法のシステム

イムノアッセイの高感度化標識物質も非アイソト−プ化がますます進み、その中でも化学発光物質の改良によって高感度化が一層進むと考えられる。また、専用の測定装置の性能が改善され、さらに自動化が進むことにより高精度かつ高効率の検査が期待される。他方、イムノアッセイが高感度化されつつある過程で、免疫センサ−とそのマイクロ化が可能になれば、ベッドサイドでのモニタ−にその有用性が増すであろう。現在、すでにナノグラム(ng)からピコグラム(pg)への微量まで検出可能になっているが、さらに高感度化が進むことによって、DNAやまったく未知の成分についても測定が可能となり、新たな臨床検査に新たな道が開かれるであろう。

 

 

1 化学発光イムノアッセイや化学発光酵素イムノアッセイにおいて測定可能

な物質

下垂体ホルモン: TSH.PRL.GH.LH.FSH.ACTH.ADH.Oxytocin

甲状腺、副甲状腺ホルモン: FreeT4(T4).FreeT3(T3).Calcitonin.PTH

副腎ホルモン: Cortisol.Free cortisol.Aldosteron.DHEA.DHEA-S.

Adrenalin.Noradrenalin

性腺系: Estriol.Estradiol.Progesteron.Testosteron.

Free testosteron

胎児性蛋白: AFP.BFP.CEA.POA

癌性糖鎖抗原: CA19-9.CA50.KMO-1.CA153.SLX(シリアルSSEA-1).CSLEX-1

CA125.DU-PAN-2.NCC-ST-439.CA72-4.STN(シリアルTn抗原)

腫瘍関連抗原: TPA.SCC.SPI.PIVKA-U.PA(PSA).γ-Sm.PVP.

酵素 Elastase T.P AP.NSE.Trypsin.PSTI

非特異的マ−カ−: Polyamine.Ferritin.Ferritin.

β2microglobulin.IAP.Sialic acid

その他のホルモン: Renin.ANF.ET.IGF-USomatostatin.α-MSH.Encephain.

Endorphin.Osteocalcin.AngiotensinT.AngiotensinU.

Bradykinin.Kallikrein

サイトカイン: Interleukin(IL).

IL-1.IL-2.IL-3.IL-4.IL-5.IL-6.IL-7.IL-8.IL-9

Interferon(INF)

INF-α.INF-β.INF-γ.G-CSF.M-CSF.GM-CSF

Tumor Necrosis Factor(CSF)

TNF-α.TNF-β.

Erythropoietin EPO

 

 

(5)ルミネセンス[luminescence]

 白熱電球のように物質を高温にすると光が放出される。ところが、物質が高温にならなくても何らかの刺激によって光を放出する場合がある。これをルミネセノスという。発光ともよぱれるが、熱を伴わない発光なので冷光ともいう。物質が吸収したエネルギ一を光として放出する現象のうち、熱放射、チェレンコフ効果、ラマン効果、レイリー散乱は含めない。刺激エネルギーの与え方によって、ホトルミネセンス、陰極ルミネセンス、X線ルミネセンス・放射線ルミネセンス、熱ルミネセンス、音ルミネセンス、摩擦ルミネセンス、化学ルミネセンス、生物発光などに分類される。ルミネセンスを蛍光とりん光に分類することがある。この分,は無機物と有機化合物では異なる。無機発光体について&定義はまちまちで、特に蛍光はルミネセンスと同義に用られることがある。有機化合物では、電子遷移に関与する二つの電子状態のスピン多重度によって区別し、同じ多重度をもつ電子状態間の遷移による発光を蛍光といい、そうでない場合をりん光という。原子が励起準位に励起されるとそれより低いエネルギー準位に落ちあるいはさらに低い準位に落ち、最後に基底状態に戻る。このとき励起されるときに吸収した光のエネルギーと後の過程で放射される光のエネルギーとは一致しない。分子の場合には吸収したエネルギーの一部を分子振動の形で消費することが多い。このようにして、一般に吸収光の振動数に比ぺて発覚の振動数は小さい。この振動数の関係(あるいは波長の関係)を経験的に見いだしたG.G.Stokes(1819〜1903)の名をとってストークスの法則(Stokes’law)という。ルミネセンスは無機物でも有機物でも電子が励起されることによって起こる現象である。スペクトル、偏光特性、残光特性、減衰特性、電場や磁場の効果、温度依存性、励起波長依存性、励起時間依存性などは発光機構や発光種について重要な知見を与える。

ルミネセンスの消光〔luminescence queneching]

ルミネセンスの収率(蛍光収率)が低下する現象内部消光と外部消光に分ける、内都消光は、無放射遷移前期解離、化学反応などの分子内過程であり、発光過程と競合し、分子内過程とはいっても厳密には分子間相互作用が寄与することも多い。外部からの作用に基づく外部消光が狭義の消光である。温度上昇による湿度消光または熱消光、赤外線照射による赤外消光、発光分子または発光中心の濃度増加による濃度消光または自已消光、消光剤(蛍光消光剤)による消光がある。消光剤による消光は静的消光と動的消光に分けられる。静的消光は消光剤と発光物質の間に発光能力のない一種の分子化合物が形成される場合を、動的消光は消光剤との衝突で励起エネルギーを失う場合をいう。動的消光のうち、化学消光は消光剤に化学変化あるいは蛍光発光すなわち増感蛍光(Sensitized flores-Cence)を起こさせる場合を、物理消光は化学反応を伴わずに熱エネルギーに変換される場合をいう・単に蛍光を発して失活することを消光あるいは、物理消光ということもある。

液体シンチレータの主成分は有機溶媒および溶質(蛍光体、有機ルミネセンス)であるが、このほか界面活性剤あるいはなんらかの添加剤が加わっていることがある。選択する溶媒、溶質、界面活性剤などの種類と使用量によって液体シンチレータとしての特性が定まる。これまで多数の溶媒および溶質、さらには液体シンチレータが有効なものとして紹介されてきた。溶媒は液体シンチレータの最も多量を占める成分であって、次の諸条件を満たすものが溶媒として望ましい。

@ エネルギー伝達効率が良い一般に、不飽和結合の芳香族化合物はπ電子をもって いるので、シンチレーションの発光過程におけるエネルギー伝達効率がすぐれている。π電子は移動性に富み、容易に励起されるので、この電子がエネルギー伝達のさいの大きな役割を担っている。

  1. 溶質の発光スペクトル領域に溶媒の吸収スペクトルが存在しない溶媒の吸収スぺクトルが溶質の発光スペクトルと多少なりとも重なると、溶質から発生した蛍光エネルギーの一部が溶媒に吸収されて計数効率が低下するため、このような溶媒は不適当である。トルエンおよびキシレンの吸収スペクトルはPPOの発光スペクトルと十分に離れた位置に存在していることが明らかである。

B 溶質や放射性試料を溶解する溶解によって均質な調製試料が得られるので計数効率が 増加する。放射性試料が溶媒に難溶な場合には、後述の試料調製技術により処理される。

C 高純度の溶媒である溶媒中の不純物はクエンチングや疑似計数の原因となるので、純度の良くないものは避けるべきである。プラスチック製品の製造のさい高純度の有機溶媒が必要とされることもあって、現在ではかなりよく精製された溶媒が容易に入手できるようになった。通常の使用では特級試薬で十分である。

表2 液体シンチレーション用有機溶媒

一般名

化学名

凝固点

吸収スペクトル

発光スペクトル

相対的パルス波高

トルエン

メチルベンゼン

-95

262

287

284

1.00

キシレン

ジメチルベンゼン

-20

266

289

288

1.09

プソイドクメン

1,2,4-トリメチ ルベンゼン

-60.5

269

293

290

1.12

ジオキ

サン

1,4-ジオキサン

+12

188

247

-

0.65

*最大値を与える波長

**平均値を与える波長

代表的な溶媒の特性と分子構造をそれぞれ表2および図12にあげてある。液体シンチレーション用の溶媒は放射線エネルギーを吸収して溶媒自体でも発光するが、溶媒の発光量は溶質の発光量よりもかなり少ない。溶媒として現在よく用いられているのは混合キシレンまたはトルエンである。混合キシレンは異性体であるo一、m一、p一キシレンが混在したものであるが、m一キシレンが最も多量に存在している。p一キシレンは液体シンチレーション用として良い特性を有している。ジオキサンは水溶性試料と混合するので以前はよく用いられていたが、乳化シンチレータの普及にしたがって使用頻度は減少している。プソイドクメンもすぐれた有機溶媒であるが高価なことが難点である。液体シンチレーションの場合の溶質の発光強度は使用する溶媒によって異なる。すなわち、β線の計数効率は溶媒の種類によってかなり左右される。トノレエン、混合キシレン、プソイドクメン、ジオキサンのほかに、ベンゼン、フェニルシクロヘキサン、エチノレベンゼン、アニソール、メシチレン、クメン、クーシメンなども液体シンチレータ用溶媒として用いられることもあるが、一般的なものではない。

溶質液体シンチレーション用の蛍光体は一般に溶質とよばれている。溶質はその作用からして第1溶質primarysoluteと第2溶質secondaryso1uteに分けられる。第1溶質は主成分としての蛍光体を意昧し、第2溶質は波長変換体wave1engthshifterとして使用される。第2溶質を加えると第1溶質よりも長波長の発光スペクトルが得られる。

次に溶質には次の特性が要求される。

(1)蛍光量子収率が大きい溶質は蛍光体である以上当然蛍光量子収率fluorescence quantum yie1dが十分大きくなければならない。これは次式で定義されている。蛍光量子収率=(蛍光放出の分子数)/励起状態の分子数

(2)溶質の最大発光波長が光電子増倍管の最高感度の波長と一致する

装置に内蔵されている液体シンチレーション用のバイアルカリ光電子増倍管は360〜400nm付近の光に対して最高感度を示す。

(3)蛍光の減衰時間が短いこの時間が短いほどクエンチングの影響が少ない。この理由は、減衰時問が短いと、この時間中に溶液中を運動しているクエンチャ分子(クエンチングを起こす分子)と励起状態の蛍光体分子が会合して消光する確率が小さくなるためである。

(4)ストークス・シフトが大きい溶質の吸収スペクトルと発光スペクトルの平均波長の差はストークス・シフトStokes’shiftとよばれる。両スペクトルはいくぶん重なっている部分があり、この重なりの程度はストークス・シフトで表わされる。ストークス・シフトが大きいと両スペクトルの重なりが小さくなり、液体シンチレータの光学的透明度が保たれる。

溶解度が高い溶媒に対する溶解性が悪く、最適濃度の溶質量にすることのできない溶質は液体シンチレータ用として適切でない。以前使用されていたp一ターフェニルやPOPOPなどは溶解度が低いので現在ではほとんど使用されていない。

(a)PPO

 はやくから現在に至るまで最もよく使用されてきた第1溶質はPPOである。PP0はキシレンやトノレエンなどによく溶解し、液体シンチレータ中の物質と反応することもなく、化学的に安定である。さらに、便用量も少量ですみ、水溶性試料の測定にも効果的である。このように、PPOは特性上の欠点が少ないので安心して使用できる第1溶質である。

buty1−PBD以前使用されていたPBDは大きな発光効率を示し、蛍光体としてはすぐれたものであるが、溶解度が低いことが欠点である。このため、PBDにブチル基を導入して溶解性を向上させたものがbutyl−PBDである。発光効率はPBDよりもいくぶん低いが、現在ではPBDに代わって用いられている。buty1−PBDはPPOよりも発光効率が良く、高い計数効率を与えるので微弱放射能測定に使用される。しかし、butyl−PBDはPPOよりも使用量が多く、なお、生物試料調製用の組織可溶化剤が存在すると黄色を呈し、このため色クエンチングにより計数効率が減少する。PP0はこのような場合でもあまり影響を受けない。

(b)DMPOPOP

 POPOPは初期の頃から使用されていたが、溶解度が低いので現在ではあまり用いられていない。POPOPのオキサゾール環にメチル基を付加したDMPOPOPにすると溶解性が向上する。しかし、POPOPと同等の効率を得るにはPOPOPよりも多量に使用しなければならない。DMPOPOPの発光スペクトルはPOPOPのそれよりもいくぶん長波長側に存在しているが、蛍光特性はそれほど変わらない。DMPOPOPはPOPOPよりも溶解度が高いので現在では広く使用されている第2溶質である。

(c)bis・MSB

 bis−MSBはDMPOPOPよりも蛍光減衰時間が短いためクエンチングの影響が比較的少ない良質な第2溶質である。なお、bis−MSBは溶解度が高く、化学的に安定である。シンチカクテル剤としての市販の乳化シンチレータにはよくこのものが使われている。

(d)アントラセン

 放射性試料を液状で流しながら測定する場合のフロー・セル型蛍光体として使用されている。液体シンチレータ中の蛍光体としては有効でない。

以前は、TP(ダターフェニル)、POPOP,PBD,BBOT、α一NPOをはじめ多くの溶質が用いられていたが、現在では一般的なものとはいえない。TPは初期の頃には非常によく使用されていたが、溶解度が悪く、最適濃度にすることができない。BBOTは第1溶質としても第2溶質としても使用される溶解度の高い蛍光体であり、発光スペクトルは長波長側に存在している。

(f)液体シンチレーション用の蛍光体の今後

現在は有機ルミネセンスが中心にして、使用されてきている。これからもますます、よりよい材料蛍光体の開発と利用技術の開発の協調によって、有機ルミネセンスの用途を拡大することである。次に、それぞれの用途に対して、運転費を含めて液体シンチレーション用装置の最適化を図ることである。そして、装置の取り扱いを一層容易にすることである。液体シンチレーション装置が広く実用化されることを願っている。

図12 溶媒、溶質の構造

 

参考文献

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