総説 生体内における分子認識

第8回{\} ヘムによる分子認識及びアミノ酸,尿素,糖の代謝と治療薬

三軒茶屋病院 放射線科 技師長 青木 好雄 東京理科大学 講師 竹村 哲雄

 

(1)ヘム鉄による分子認識

ヘム[heme,haem]とはポルフィリンの鉄錯体(狭義には鉄が2価のもの)をいう。側鎖の種類と結合位置の違いによって種類が異なる。ピロ−ル環にA〜Dまでの記号、またポルフィリン環のすべて炭素と窒素原子に1〜24の通し番号が与えられている。5,10,15,20位の炭素をそれぞれα、β、r、δと名づけることがある。プロトヘム、ヘムc、ヘムa、クロロクルオロヘムなどが天然に存在する代表的なヘムであるが、D環の17,18位が還元されてジヒドロポルフィリン(クロリン)となったヘムdや、さらにC環も還元されてテトラヒドロポルフィリンとなったシロヘム(Siroheme)もある。鉄が3価のヘムに1個のClが配位したものをヘミン、2個のOHがヘム面の上下から配位したものをヘマチンとよぶ。ピリジンやイミダゾ−ルなどの窒素塩基が上下から配位したものをヘモクロムといい、鉄の酸化還元状態によってフェリヘモクロム、フェロヘモクロムとよんで区別する。フェロヘモクロムのことをヘモクロモ−ゲンということがある。フェロヘモクロムは可視部に鋭い吸収帯をもち、その極大吸収波長からヘムを同定し、またその分子吸光係数から定量することができる。フェロヘモクロムの可視吸収帯の極大位置は、一般にポルフイリン側鎖の電子吸引性が増加すると長波長に変化する。

ヘムの分解で胆汁色素が生じる赤血球が役目を終えると循環系から取り除かれ成分は分解される。ヘムの分解では、まず、ポルフィリンの環Aと環Bの間を酸化的に開裂してビリベルジン(緑色の線型テトラピロ−ル)を生じ、つぎにビリベルジンの中心のメテニル基(環Cと環Dの間)が還元されて橙赤色のビリルビンになる。打撲傷の回復期に色が変わるのはヘム分解のためである。ビリベルジン生成の際、環Aと環Bを結ぶメテニル基はCOとして放出される。COはヘムに対しOの200倍の親和性をもつから、大気汚染がなくてもヘモグロビンのO結合部位の約1%はCOで占められる。ヘモグロビンの遠位His残基(結合Oと水素結合するE7のHis側鎖がなければCO結合率はもっと高くなる。このHis残基はヘムのFe(V)と斜めに結合するOには邪魔にならないが、垂直に結合するCOを妨害してヘムのCO親和性を100倍も減少させ、COを徐々に放出させる。事実。ヘモグロビン変異種のHb Zwich(His E7(63)β→Arg)ではヘムの約10%がCO結合型である。ビリルビンは親油性が強く水に溶けない。遊離脂肪酸などと同様血中では血清アルブミンと複合体を形成して運ばれる。肝臓では2個のプロピオン酸側鎖をグルクロン酸でエステル化して水溶性のビリルビンジグルクロニドとなり胆嚢に分泌される。大腸の細菌はグルクロン酸基を酵素的に分解し、数段の反応でウロビリノゲンほか多数の生成物に変える。ウロビリノゲンの一部は再吸収され、血液で腎臓に運ばれて黄色のウロビリンに変わり排泄される。これが尿の色である。しかしウロビリノゲンの大部分は微生物の作用で濃い赤褐色のステルコビリンに変わる。これが大便の色となる。不溶性のビリルビンが血液中に過剰に含まれると沈着して皮膚や白眼が黄色くなる。これが黄疽で、赤血球分解速度の異常上昇、肝機能障害、胆嚢管閉塞などの兆侯である。

ヘム鉄生合成は、クエン酸サイクルからスクシニン−CoA+グリシンに5−アミノレブリン酸シンタ−ゼ(synthase or synthetase)→COが排出され5−アミノレブリン酸(ALA)が合成され、ポリホビリノゲンシンタ−ゼによりポリホビリノゲン(PBG)→4NHが排出され、ウロポルフィリノゲンVシンタ−ゼによりウロポルフィリノゲンVが得られる。これにウロポルフィリノゲンデカルボキシラ−ゼ→4COになりコプポルフィリノゲンVになり、コプロポルフィリノゲンオキシダ−ゼ→2COが排出されプロトポルフィリノゲン\になりプロトポルフィリノゲンオキシダ−ゼによりプロトポルフィリン\になりフェロキラタ−ゼ+Fe2+によりヘムが生体の分子認識と自己集合により無理なく合理的に生合成される。ヘムは酸素運搬効率が良く、一個の酸素がこのサブユニット中のヘムに結合すると他のサブユニット間の構造が変化し、次のサブユニット中のヘムに酸素が結合しやすくなり、ヘモグロビンの酸素飽和曲線はシグモイド型(S型)になる。代謝が活発な各組識の毛細管ではCOとH濃度が高くなると、酸素を結合したヘモグロビンからOがはなれやすくなる。肺胞の毛細管では反対にCOを失いpHが増すとOと結合しやすくなる(図\−2)。ヘムは生体の中で分解され(図[−1)、成人の鉄代謝は1日当たり約1mgである。

図\−1 ヘムの分解

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図\−2 ヘム鉄による酸素のやり取り

(1)アミノ酸を認識する

植物と微生物にだけ存在するアミノ酸合成系も多い。哺乳類が体外から食事としてとらねばならないアミノ酸を必須アミノ酸、共通中間体から合成できるアミノ酸を非必須アミノ酸という。アルギニンは尿素サイクルで合成できるが、幼時の成長、発育には合成能以上のアルギニンが必要なので必須アミノ酸に分類した(表\−1)。必須アミノ酸は動植物タンパクに含まれるが。その割合はタンパクにより異なる。たとえばミルクのタンパクはヒトの栄養として全必須アミノ酸を適切な割合で含む。一方、マメ類のタンパクではリシンは豊富だがメチオニンが不足し、小麦ではリシン不足でメチオニンが多い。そこで、各種タンパク源を組み合わせれば互いに補い含って全必須アミノ酸が適切な割合になる。ここでは、非必須アミノ酸の生合成経路について述べる。最も一般的なアミノ酸合成の経路を示すが、種によっては相当違った経路もある。これに対し、すでに述べたように糖類と脂質の代謝はほとんどの生物に共通であるのはおもしろい。

 

 

 

表\−1.ヒトの必須アミノ酸と非必須アミノ酸

必須アミノ酸

非必須アミノ酸

アルギニン

イソロイシン

トリプトファン

トレオニン

バリン

ヒスチジン

フェニルアラニン

メチオニン

リシン

ロイシン

アスパラギン

アスパラギン酸

アラニン

グリシン

グルタミン

グルタミン酸

システイン

セリン

チロシン

 

 

 

チロシン以外の全非必須アミノ酸は四つの共通代謝中間体(ピルビン酸、オキサロ酢酸、2−オキソグルタル酸、3−ホスホグリセリン酸)のどれかから“単純な経路で合成される。チロシンは必須のフェニルアラニンをヒドロキシル化して合成する。フェニルアラニン必要量にはチロシン必要量も含まれるのでチロシンは非必須に分類される。アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸はピルビン酸、オキサロ酢酸、2−オキソグルタル酸から合成される。アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸は、それぞれ相当する2−オキソ酸、ピルビン酸、オキサロ酢酸、2−オキソグルタル酸からアミノ転移でつくられる。アスパラギンとグルタミンは、それぞれアスパラギン酸とグルタミン酸のアミド化で合成される。グルタミンシンテタ−ゼ(synthetase or synthase)はNHをアミノ供与体としてグルタミンを合成し、同時にATPは5−グルタミルリン酸を経てADP+P、に分解する。ところがアスパラギンシンテタ−ゼによるアスパラギン酸のアミド化ではアミノ供与体はグルタミンで、ATPはAMP+PPiに分解する。グルタミンシンテタ−ゼは窒素代謝を制御する酵素であり、グルタミンは多くの生合成反応でアミノ供体かつアンモ二アの貯蔵型でもある。哺乳類のグルタミンシンテタ−ゼは2−オキソグルタル酸で活性化される。2−オキソグルタル酸はグルタミン酸の酸化的脱アミノで生成するから、この調節で同時に生成するアンモニアの蓄積を防ぐ。Earl Stadtmanによれば細菌のグルタミンシンテタ−ゼはずっと精巧な制御系をもつ。この酵素は12個の同一サブユニット(51.6kD)が六角柱状に配置したもので、アロステリック制御と共有結合修飾を受ける。アロステリックなフィ−ドバック阻害がそれぞれの結合部位をもち酵素活性を累積制御する。ヒスチジン、トリプトファン、カルバモイルリン酸(カルバモイルリン酸シンテタ−ゼで合成)、グルコサミン6−リン酸、AMP,CTPはグルタミンから出発した経路の最終産物で、アラニン、セリン、グリシンは細胞の窒素濃度を反映する物質である。大腸菌のグルタミンシンテタ−ゼは、特定のTr側鎖のアデ二ル化による共有結合修飾を受ける。修飾の程度が進めば累積フィ−ドバック阻害に敏感になり、活性低下が顕著になる。共有結合修飾の程度はグリコ−ゲンフォスフォリラ−ゼの例に似た複雑なカスケ−ド系で制御されるが、リン酸ではなくアデニリル化する点が異なる。グルタミンシンテタ−ゼのアデニリル化/脱アデニリルは四量体型調節タンパクP11と複合体を形成したアデニリルトランスフェラ−ゼにより触媒される。この複合体はP11の特定Tyr側鎖がウリジリル化されたときはグルタミンシンテタ−ゼを脱アデニリルする酵素としてはたらき、P11のウリジリル基がとれたときはアデニリル化酵素として働く。P11のウリジリル化の程度はウリジリルトランスフェラ−ゼ/脱ウリジリル酵素というタンパクの二つの酵素の相対活性で決まる(ウリジリルトランスフェラ−ゼがP11をウリジリル化し、脱ウリジリル酵素がP11に結合したウリジル酸(UMP,uridine5'-monophosphate)を加水分解して除去する。ウリジリルトランスフェラ−ゼは2−オキソグルタル酸とATPで活性化され、グルタミンとPiで阻害されるが、脱ウリジリル酵素の活性は影響されない。この複雑なカスケ−ド制御系により大腸菌のグルタミンシンテタ−ゼ活性は細胞の窒素要求量にきわめて敏感に応答する。グルタミン酸はプロリン、オルニチン、アルギニンの前駆体である。γ−カルボキシル基をアルデヒドに還元してシッフ塩基を形成し、もう一度還元する。カルボキシル基をアルデヒドに還元するのは吸エルゴン反応なので、まずグルタミン酸5−キナ−ゼでリン酸化する。生成物、5−グルタミルリン酸は不安定で単離ないが、つぎの還元反応の基質になると思われる。還元生成物、グルタミン酸5−セミアルデヒドは非酵素的に環化して環状シッフ塩基、△1−ピロリン−5−カルボン酸を生じ、ピロリン−5−カルボン酸リダクタ−ゼの作用でプロリンに還元される。この酵素が還元剤としてNADHを用いるかNADPHを用いるか不明である。大腸菌でグルタミン酸からオルニチンを経てアルギニンをつくる経路もATPを使ってγ−カルボキシル基をアルデヒドに還元する。生成物が環化し易いよう、事前にグルタミン酸−アセチルトランスフェラ−ゼでアミノ基をアセチル化しておく。W−アセチルグルタミン酸5−セミアルデヒドをアミノ転移でアミンに変え、アセチル基を加水分解ではずせばオルニチンが生成する。これは尿素サイクルでアルギニンに変わる。しかし、ヒトのオルニチン合成経路は単純でグルタミン酸の還元的環化を防ぐアセチル化過程がない。△1−ピロリン−5−カルボン酸と平衡にあるグルタミン酸5−セミアルデヒドがオルニチン5−アミノトランスフェラ−ゼによる直接アミノ転移でオルニチンを生成する。セリン、システイン、グリシンは3−フォスフォグリセリン酸からつくられる。セリンは解糖中問体3−フォスフォグリセリン酸から3反応でつくられる。1,3−フォスフォグリセリン酸のC(2)0Hをケトンに酸化して0−フォスフォセリンのケトン誘導体、3−フォスフォヒドロキシピルビン酸とする。フォスフォヒドロキシピルビン酸のアミノ転移で0−フォスフォセリンをつくる。フォスフォセリンを加水分解してセリンを生じる。セリンは2通りの方法でグリシンに変わる。

  1. グリシンヒドロキシメチルトランスフェラ−ゼの反応で直接グリシンに変え5,1O−メチレン−THFを生じる。
  2. グリシンシンタ−ゼで5,10−メチレン−THFをCO+NHと縮合する。

以上の様に反応する。

 

(3)尿素サイクル

有機窒素化合物の合成に必要な量以上のNHは動物の種類によつ異なる方法で処理される。哺乳類はNHを尿素に変えて尿中に排泄する。この尿素合成反応系はアルギニン合成経路に1反応加えたものである。まずアルギニン合成系が出現し、つぎにNH処理経路としての尿素合成経路に修飾された。アルギニンを尿素とオルニチンに加水分解するアルギナ−ゼが知られていたので、触媒量のアルギニン、オルニチン、シトルリンを加えるとアンモニアからの尿素生成がおおいに促進される。1932年、Krebsは尿素を生成する反応サイクルを提案した。これで、アルギニン、オルニチン、シトルリンの触媒作用も説明できる。このサイクルを尿素サイクル、またはオルニチンサイクルという。尿素サイクルでは、まず、NHの窒素とCOの炭素をもつカルバモイルリン酸がオルニチンカルバモイルトランスフェラ−ゼの作用でシトルリンを生じる。この酵素は補因子を必要とせず、基質特異性が高い。平衡はシトルリン合成に向いている。哺乳類の肝ミトコンドリアではカルバモイルホスフェ−トシンタ−ゼIと強く結合し復合酵素系を形成している。そのため、不安定なカルバモイルリン酸はできるとすぐこの反応でシトルリンに取込まれる。つぎはシトルリンからアルギニンができる反応である。第一の酵素、アルギニノスクシネ−トシンテタ−ゼはシトルリンとアスパラギン酸からアルギニノコハク酸を合成する。ここでシトルリンはエノ−ル型として反応する。この反応にはATPとMg2十が必要である。

平衡定数Keq = 約9(pH7.5)、反応は可逆である。こうして尿素の窒素2原子のうちの1原子はNHでなくアスパラギン酸からくる。これはアスパラギン酸が窒素化合物生合成でN供与体となる。アルギニノコハク酸はアルギニノスクシネ−トリア−ゼで分解される。この酵素はウシ肝臓から精製された。植物組織や微生物にも存在する。

反応はアスパルテ−トアンモニア−リア−ゼと同型式で置換アミンが脱離してフマル酸を生じる。平衡定数Keq= 11.4×10-3 (pH7.5)と小さいが、反応系(左辺)には一つの化合物、生成系(右辺)には二つの化合物があるので、濃ければアルギニノコハク酸の割合が、薄ければアルギニンとフマル酸の割合が多くなる。アルギナーゼはL一アルギニンをオルニチンと尿素に不可逆的に加水分解する酵素である。したがって尿素サイクルは尿素生成の向きにだけ進行する。オルニチン、NH、COとアスパラギン酸からアルギニンが合成される。アルギニンは広く分布するアミノ酸で、これを合成する3酵素はおそらく動植物組織や微生物に広く分布するが、肝臓以外の哺乳類組織での合成速度は非常に遅く、アルギニンを非必須アミノ酸とは考えにくい。一方、肝臓では合成も速いが分解も速いので、やはりアルギニンをタンパク合成にまわしにくい。尿素生成を触煤するアルギナ−ゼは尿素を排出する動物のおもに肝臓に存在する。哺乳類の尿素は肝臓で合成されるが、脳や腎臓でもいくらかできるらしい。以上の反応経路と関与する酵素の所在を図\−3に示す。カルバモイルリン酸とシトルリンはミトコンドりアで合成されるが、他の反応は細胞質ソルで行われる。また、ミトコンドリアにはフマレ−トヒドラタ−ゼ、マレ−トデヒドロゲナ−ゼ、アスパルテ−トアミノトランスフェラ−ゼがあり、反応で生じたフマル酸にアミノ酸からアミノ基を与えてアスパラギン酸を再生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図\−3 尿素サイクル

 

 

 

 

 

 

(4)糖を認識する

解糖系によるグルコースの基本的分解機構で、ほとんどの生物に存在する。グルコース1分子から酸素を消費せずにNADによって酸化され2分子のピルピン酸と2分子のATPを生じる。嫌気的条件下では、最終的に乳酸(乳酸発酵)またばエタノ−ル(アルコ−ル発酵)を生成する。好気的生物では、解糖はクレブス回路の前段階であり、ピルビン酸はCOとHOにまで完全に酸化され、ATPをさらに生産する。

解糖系[glycolytic pathway]糖分解の基本的代謝経路。歴史的には酵母の無細胞抽出液がグルコ−スをエタノ−ルに変えることをE.Buchner(1897)が初めて明らかにしたことが、この代謝経路の発見の起源である。その後A.HardenとW.J.YoungついでG・EmbdenとO.Meyerhofによって代謝経路の概略が示され、さらにCarl夫妻や、J.Parnasらによって完成された。彼らの功績をたたえてエムデン−マイヤ−ホフ−パ−マス経路(Embden-Meyerhof-Pamas pathway)といわれ、また解糖経路ともいわれる、グルコ−スがピルビン酸を経て最終生成物である乳酸にまで分解される11段階嫌気的代謝経路、アルコ−ル発酵は最後の段階だけが異なる。グルコ−スがATPを消費し、ヘキソキナ−ゼ(1)によりグルコ−ス6−リン酸となる反応に始まり、フォスフォグルコ−スイソメラ−ゼ(2)によりフルクト−ス6−リン酸を生じ、さらに1分子のATPを消費しフォスフォフルクトキナ−ゼ(3)によってフルクト−ス1,6−ニリン酸となる。これはアルドラ−ゼ(4)によりトリオ−スリン酸に開裂し、生じたジヒドロキシアセトンリン酸はトリオ−スリン酸イソメラ−ゼ(5)によってグリセルアルデヒド3−リン酸に変わるので、あわせて2分子のグリセルアルデヒド3−リン酸となる、これはNADとリン酸の存在下、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナ−ゼ(6)によって、この代謝経路で初めての酸化反応を受け、1,3−ジフォスフォグリセリン酸を生成する。この高エネルギー化合物はフォスフォグリセリン酸キナ−ゼ(7)によりATPを生成し、3−フォスフォグリセリン酸となる。次にフォスフォグリセロムタ−ゼ(8)によってリン酸基の分子内転移が起こり、2−フォスフォグリセリン酸となり、さらにエノラ−ゼ(9)によりフォスフォエノ−ルビルビン酸を生じる。この高エネルギ−化合物はビルビン酸キナ−ゼ(10)によってATPとピルビン酸を生成する。ピルビン酸はNADH存在下乳酸デヒドロゲナ−ゼ(11)により最終生成物である乳酸に還元される。解糖系はほとんどの生物に存在するエネルギ−を得るための代謝経路である。反応の収支は次式で示される。

12十2ADP+2HPO→2CHCHOHCOOH+2ATP+2H

この代謝経路には三つの不可逆的反応(1)(3)および(10)が含まれているので、解糠方向にのみ進行するはずであるが、実際にはこれらの不可逆反応を逆行させる酵素反応が別に存在するので、ピルビン酸からグルコ−スが生成する。解糖速度の調節は不可逆反応過程により制御される。事実、フォスフォフルクトキナ−ゼ(3)はアロステリック酵素で、ATPとクエン酸により阻害されADPとAMPによって促進される。つまりエネルギ−が充足しているときには、この酵素活性は抑制され、解糖速度が低下する。

 

 

 

 

 

 

 

図\−4 解糖径路(解糖系)[glycolytic pathway]

 

(5)脳内アミン、1−メチルテトラヒドロイソキノリンのパーキンソン病の治療薬

パ−キンソン病の発症機構

パ−キンソン病は黒質のド−パミン神経細胞の約70%が死滅すると症状が現れるという。ド−パミン神経細胞の損傷の機構についての研究は、合成麻薬メペリジンに不純物として含まれていたテトラヒドロピリジン誘導体のMPTP(1-methy1-4-pheny-1,2,3,6-tetrahydropy-ridine)が麻薬中毒者に対してパ−キンソン病に罹ったような突然動けなくなる症状を起こしたことに始まる。そしてこの化合物は黒質のド−パミン神経を選択的に損傷することが明らかにされて以来、MPTPを使って多くの研究がなされ、酸化的ストレス、内因性化合物、ミクログリア異常、グルタミン酸神経異常などのパ−キンソン病の発症に関する機構が提出されている。パ−キンソン病を引き起こす内因性物質(図\−5)としてド−パミン由来のサルソリノ−ル(sa1solino1;Sal)、フェニルアラニノ由来のテトラヒドロイソキノリン(TIQ)や1−ベンジルテトラヒドロイソキノリン(1−BnTIQ)などが、またトリプトファン由来のトリプトリンが見いだされている。これら誘発物質とともに、それらによって誘発される症状を抑制する1−メチルテトラヒドロイソキノリン(1−MeT1Q)が脳内に存在することが廣部らによって発見された。

図\−5 パーキンソン病を引き起こす内因性物質

Salによるパ−キンソン病症状の発症機構(図\−6)は直井らの素晴らしい研究によって明らかにされている。Sa1はド−パミンとアセトアルデヒドとの縮合反応、すなわち、Pictet-Spengler反応によって生合成される。この反応は脳内で立体特異的に進行し(R)−Salを与える。Pictet-Speng1er反応はド−パミンの場合には酵素が存在しなくても、生理的な条件下で起こりうる。しかしその場合、ラセミ体のSa1が生成する。ついで(R)−Sa1はN−メチル化を受けN−メチルサラソリノ−ル(N一MeSa1)となる。これがさらに酸化的な代謝を受け、イソキノリニウムイオン(DHDMIQ)に変換される。

図\−6 Salによるパーキンソン病症状の発症機構

直井らはこれらの化合物を線条体に注入して、その作用を調べた緒果、(R)−Sa1はド−パミン神経細胞に対して毒性を示さないこと、しかしそのN一メチル体のNMe(R)−Salおよびそれが酸化されたDHDMIQ+がド−パミン神経細胞に対して選択的毒性を示すこと、またDHDMlQ+が黒質内に蓄積される他に、同時に線条体や黒質内におけるド−パミンを減少させることなどを明らかにした。このようにパ−キンソン病の病因の1つとして、SalからDDHMlQに至る酵素の過剰な活性化などが関与するのではないかと推定された。事実、パ−キノソン病患者の脳脊髄液中のNMe(R)−Sa1の濃度が有意に増加していることが見いだされている。興味あることに、レボドパの治療を受けている患者のうち、幻覚などが伴う重症患者の尿には、幻覚を伴わない患者と比べて約3倍量のSalが尿中に排泄されていることが明らかにされている。さらに、NMe(R)-Sa1がDNA損傷を起こすが、その一方では(R)−および(S)−Salはその損傷を起こさないことも同時に証明した。さらに、このDNA慣傷には立体特異性があること、すなわちN-MeSalは(S)−体よりも(R)−体の方がはるかに強くDNAに損傷を起こすことを明らかにした。このように、ド−パミン神経納胞の死がDNA損傷による可能性が示唆された。これらSa1の神経毒に関する研究結果は、レボドパ冶療を困難にする副作用の出現がド−パミン由来のTIQ類の創生が関与している可能性を示唆している、なお、最近脳内神経毒イソキノリンとパ−キンソン病に関系する。ド−パミノ由来の非イソキノリン型化合物(DHBT−1)が黒質ド−パミン神経に対する内困性毒素であることがDryhurstによって報告されている。DBBT−1はド−バミンの自動酸化で生成するド−パミンキノンがシステインと結合して生成する。この生成は、おそらくド−パミン神経細胞において酸化的なコントロ−ルが失われたことによると考えられる。ド−パミンとシステインが存在し、そして黒質のド−パミン神経の細胞質の酸化的環境があれば、この化合物は酵素がなくても生成しうる。興奮性神経のグルタミン酸神経からグルタミン酸が過剰に分泌されると、神経細胞内の過酸化物が蓄積する。そしてその過酸化物がド−パミン神経細胞を攻撃して破壊する、このようにグルタミン酸神経の異常がパ−キンソン病の発病原因の1つと考えられている。この過酸化物の蓄積はグルタミン酸受容体のサブタイプの1つであるNMDA(N−methyl−D-asparticacid)受容体のアンタゴニストによって減少し、そしてド−パミン神経細胞の損傷も軽減される。パ−キンソン病ではド−パミン神経細胞内の酸化的な環境が、その発症原因が何であれ、コントロ−ルを失った状態であることは明らかである。ド−パミン神経細胞におけるド−パミンの生合成や代謝過程のすべてに酸化反応が含まれていることを考えると、その酸化的環境を正常に維持する方法を見いだすことがパ−キンソン病の根本的な治療薬の開発につながる。パ−キンソン病が極めてゆっくりと進行する慢牲の疾患であることを考えると、臨床試験の判定に長い年月を要するであろう。上記のい(−)−deprenylは20年以上も前にすでにその作用が見いだされていたにもかかわらず、いまだに治験薬である(平成10年6月承認)。1−MeTlQやSalは食物に徴量含まれている。パ−キンソン病発症物質Salは高い親水性を有するため血液脳関門を通過せず、脳内に入らない。従って食事による発病化合物の摂取の心配はない。一方、1−MeTIQは脂溶性が高く、脳内に移行するので食物からの摂取が可能である。1−MeTIQはココアや白ワインに含まれている。もしかしたら、白ワインの愛好者はパ−キンソン病を発病しないかもしれない。ただ、ワインに含まれるエタノ−ルが心配である。エタノ−ルの過剰摂取はSa1合成の必須成分であるアセトアルデヒドをより多く供給することになり、これが脳内でド−パミンと反応すればSalが合成されるからである。しかし、アルコ−ル依存の慢性中毒者にパ−キンソン病が多く発症している証拠は、何も得られていないのでこの心配はないようである。朝食にはココアをのみ、そして白ワインを少量飲んでタ食を楽しむことで、パ−キンソン病に罹らないで健康な老後を過ごせるかもしれない。

 

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