総説 広がる超分子の世界

生体内における分子認識

第10回 ]T  診断システムにおける超伝導の重要性とその材料

三軒茶屋病院 放射線科 技師長 青木 好雄 東京理科大学 講師 竹村 哲雄

 この章では、超伝導マグネットを作るための無機及び有機超分子材料の化学を説明し、MRI、SR加速器、ジョセフソン素子(脳磁波、心磁波の測定)などの放射線系の医療分析技術への応用について述べる。

(1)超伝導マグネット

(A)無機超分子材料の化学

図]T−1  超伝導臨界温度(Tc)上昇の歴史

 超電導は応用上魅カのある現象であるが、1986年までは超伝導臨界温度(Tc)が極端に低かったため、応用範囲が限られていた。よって、Tcをできるだけ高くしたいというのが超電導研究者の悲願であった。高温化に関する研究は世界中で進められていたが、その期待の大きさから、誤報も多かった。このため、UFOになぞらえてUSO(Unidentified Superconducting Object)未確認超電導物というウソのような造語も誕生したほどである。超電導を高温化するには、いくつかの指針がある。その中で超電導は良導体(Au,Ag,Cuなど)では実現しないこと、また、超電導の発現には電子と物体を構成している原子(あるいは格子)との相互作用が重要であることから、高温超電導体は、むしろ絶縁体に近いところに存在するのではないかという考えがあった。電子と格子の相亙作用が強いと、電子は格子に捕えられて自由に動けなくなり、遂には絶縁体になるためである。例えば、TiO3は電子格子相互作用の強い絶縁体であるが、これにLi2Oをドープすることで、電気伝導性が生じたLi2TiO4は12Kで超電導体になる。ベドノルツとミュラ−も、ほぼ同様の指針に沿って絶縁体にキャリアを注入する手法で高温超電導を目指した。この過程で、絶縁体であるLi2TiO4の十3価のLaを十2価のBaで置換して、正孔(ホール)を注入することで高温超電導体(La,Ba)2CuO4の合成(Tc=30K)に成功した。当初、高温超電導を示唆した彼等の諭文は、またUSOの登場かという評価しか得られなかったが、東京大学の田中グループが、超電導を確認したことで世界中に広まった。この直後、Baを同族のSrで置換することでTcが8Kも上昇することが報告され、高温超電導競争はいっきに加熱した。図]T-1は高温化の歴史をまとめたものである。基本的にはLa-Ba-Cu-Oを基本として構成元素を同族の元素で置換することによりTcは上昇してきている(La-Ba-Cu-O:30K→La-Sr-Cu-O:38K→Y-Ba一Cu-O:90K→Bi-Sr-Ca-Cu-O:110K→T1-Ba-Ca-Cu-O:120K→Hg一Ba-Ca-Cu-O;133.5K)。また、発見された物質はすべて鋼を含む酸化物で、構造的には図2に示すように超電導現象が起こるCu-O平面と、この面に電荷を供給するブロック層との層状化合物からなっている。基本的には、このブロック層の組成を変えることで、Tcの異なる酸化物超電導体が合成されている。

YBa2Cu3O7-y(YBC0と略す、図]T-2)はY、BaとCuイオンをふくむ面がYCuBaCuBaCuYCuの順に層状に重なつている結晶構造もっている。この構造で層面に垂直な軸をc軸、層面内の二つの直交している軸をa軸、b軸とよんでいる。ペロプスカイト型(図]-3)とよばれている構造の酸化物では、各面内で酸素が正方形格子を組んでいて正方形の中心に陽イオン(Y,Ba,Cu)が位置しているが、YBCOで特徴的なのはYイオンをふくむ面の酸素が全く欠けておりまた二つのBa面に挟まれたCuをふくむ面内の酸素も一部欠けていることである。

  

 図]T-2 無機超分子(1)YBa2Cu3O7-yの結晶構造

  

 

 

 

 

 

 

        図]T-3 ペロプスカイト型構造図

現時点の世界最高記録は、Hg-Ba-Ca-Cu-Oの133.5K(高圧下では160K)であるが高温で超電導を示す物質の探索は現在でもさかんに行われている。ただし、銅酸化物を基本に、その延長で探索を行うグループと、銅酸化物では高温化の限界があるという考えから、全く異なる物質系で高温超電導を探索しようというグループに分かれている。

(B)有機超分子材料の化学

化学的アプローチでは、C60を除いた有機超電導体は、酸化物超電導体同様二次元層状構造をもつ。図]T−5で示すような有機分子で構成される電導層と(主に)無機物質から成る絶縁層が交互に積み重なった構造をし、擬1〜2次元の電子構造をもつ。その有機分子の種類、またその並び方で電子構造が決定されるが、この6年間で有機化学者はその有機分子の種類を5種類から10種類に増やした。この有機分子の基本となるのはTTFやTTPに代表される電子を与え易い性質をもつフルバレンやペンタレン骨格である。TTFの拡張系のTMTSFで1980年最初の有機超電導体が発見された。この系では20K付近にSDW転移があるが、それを圧力で押え込み1K近くで超電導となる。更に、硫黄原子を八つ含んだBEDT−TTFが合成され、この分子から成るκBEDT-TTF [N(CN)2CI](Tc=12.8K)が現在有機超電導体の最高Tcを与える(C60を除く)。これは常圧では半導体で25Kで反強磁性が観測される興昧ある物質である。その後、この第一世代のTMTSFと第二世代のBEDT−TTFのハイブリッドである対称性の低いDMETでも七つ超電導体が日本で開発された。この第一世代と第二世代をつなぐ物質は双方の性格を反映している。先に述べたように1991年から1996年の間に開発された超電導体を構成する有機分子は5種ある。(1)BEDT−TTFに二つのメチル基をつけたDMBEDT−TTFは光学活性な超電導体を与え興味深い。(2)周期表Yb属の硫黄の上の酸素を用いた分子は分子量が小さいため格子振動が高くなりTcが上昇するのではないかと期待された。そして、BEDT−TTFの外側の硫黄を酸素にかえたBEDO−TTFの合成に成功しTcが1K近くの超電導体が二つ得られた。Tcが予想より低いのは酸素を含んだ結果としての特異な分子配列と、超電導の格子振動に対して寄与の低い外側の硫黄を酸素に代えたためと考えられる。(3)BEDT−TTFは外側がかさ高いエチレン基であるため、大きさを揃えるため分子の内側に(Yb属の硫黄の下の)より大きなセレン原子を導入し分子間接触をより密にしたBEDT−TSeFが合成された。GaCI4塩で常圧8Kの超電導体が与えられ、磁性イオンを含んだ電導体と共に今後の展開が期待される。(4)このBEDT−TSeFと第一世代のTMTSFのハイブリッドであるDMET−TSeFでも超電導体が得られている。新しいテトラチアペンタレン骨格を合むDTEDT錯体で超電導が見出された。この様に構成分子から変化のつけられるバラエティーに富んだ有機超電導体である。

図]T-4  有機超伝導体の成分となる有機ドナ−(a)とアクセプタ−(b)の分子構造

 

 

 

  1. MRI装置
  2. (A)医療用MRI装置

     現在の医療分野では、MRIにニオブ・チタン超伝導マグネットが多く採用されている理由は加工性が良く銅との複合加工性が優れ安価な事である。内径約1m、長さ約1.8mの円筒空間中心部にある0.5m程の球状診断空間に10ppm以内の均一磁界を発生させる技術は、0.5〜1.5Tの磁界レベルで超伝導化されており、傾斜磁界コイル、高周波コイル、陽子磁気共鳴信号処理システムと共に各地の医療診断の現場に投入されている。マグネット(主に超電導)の必要条件は次の通りである。

    @人体全身用ではマグネットの常温空間として約1mの内径が必要である。

    A磁界強度は超電導マグネットではO.5〜1.5Tが必要である。

    B磁界均一度は約10ppm以下である事。

    C磁界の安定度は0.1ppm/h以下である事。

    D液体ヘリウムの消費量は0.05/h以下である事。もしくは、脱液体ヘリウム化しているか。

    Eその他、軽量、コンパクトで経済的であり、またメンテナンスが容易である必要がある。    マグネットには永久磁石、常電導、超電導の各方式があるが、現在多く使用されているのは超電導と永久磁石である。マグネットの所には、主磁界を発生する主コイルの他に磁界補正のためのシムコイル、傾斜磁界コイル、高周波コイルが図]T-5に示す様に取付けられている。マグネット中心部の診断空間(約50cmの径の球)では非常に高い磁界均一度が要求され、MRI設置後に磁界均一度の調整を行う。磁界均一度の調整には、マグネットの常温空間内壁に調整用の鉄片(鉄シム)を置く方法と、複数個のシムコイルの電流で調整する二通りがある。シムコイルには常電導と超電導、またはこれらを組合せた方式がある。

    図]T-5  MRI装置に用いる磁石の断面

    (B)最近の展望 (1GHz級NMRマグネット内層コイルの開発)

    科学技術庁の金属材料技術研究所強磁場ステーションは、現在1GHZ級NMRマグネットを開発中である。このマグネットは金属系超伝導材料による外層コイルで21.1Tを発生し、その内側に内層コイルを組み込み、54mmφの室温ポアにプロトンの共鳴周波数1GHzに対応する23.5Tを発生する。このマグネットは超伝導マグネットとして世界最高の磁場を発生させ、診断に利用するためには、NMR計測のために非常に高い磁場の均一度と安定度が要求される。内層コイルは従来の磁場発生限界を超えた環境で使用されることから特別な工夫が必要となる。科学技術庁超伝導材料研究マルチコアプロジェクトの一環として、開発が進んでいる。このマグネットおよび計測系が完成すると、タンパク質構造解析、DNA解析など高度なNMR測定が可能となる。マグネットの開発は1995年に開始し、これまでに基本設計および各種R&Dを実施した。NbTiおよびNbSn線材を使用し、900MHzに相当する21.1Tを発生する金属系外層コイルの製作は1997年に開始した。現在市販されているNMRスペクトロメーターの上限は800MHzであり、米国・国立強磁場研究所をはじめとして、世界各国で900MHzNMRスペクトロメーターの先陣争いが行われている。このことからわかるように、金属系外層コイルならびに加圧超流動ヘリウムを使用する冷却システムの実現には既存の技術の大幅な向上が必要であった。これらが実用化されれば、医療の世界ではタンパク質構造解析、DNA解析が容易に行えるようになる。

  3. 加速器の応用

(A)超電導大型SR装置

 

在来の電磁波としての放射線(X線、γ線)と比べた場合、重粒子線が身体に入ってからの振舞いとしては2つの極立った特徴がある。放射線が物質と相互作用する場合、その物質にエネルギーを与えて、放射線は減衰する(図]T-6)。このとき、物質が吸収するエネルギーを吸収線量または線量という。すなわち電磁波は、物質の表面から線量が指数的に減衰していくのに対し、荷電粒子線は最初は線量が少なくその飛程の終端近くで大きく線量が増え、いわゆるブラッグ・ピークを形成する。このため、腫瘍が身体の深部にあっても、そこに到達距離を合わせるようにエネルギーを加減することにより、ガン腫瘍部に対する放射線エネルギーを局所的に集中させるができるのである。これに対し従来の放射線は、腫瘍の手前の正常組織にむしろ線量が多量になり、ダメージが無視できないので、これを補うために多方向からの照射を行い、腫瘍部分へ線量を集中させるのが普通である。重粒子線でももちろん同様の多門照射を行うことにより、正常組織に対するより、すみやかに大きい線量を腫瘍に与えることができる。この点では陽子線も程度の差こそあれ、ブラッグ・ピークを形成するのであるが、もう1つの重イオン線の特徴は陽子線にはみられないものである。それは放射線の生物学的効果比(Relative Bio1ogica1 Effectiveness、略してRBE)と言われるものがその1つで、単純にはX線あるいはγ線に対して重イオン線は同じ吸収線量を生体に与えても、その効果が2〜4倍強カであるということである。それともう1つは放射線の酸素増感比(Oxygen Enhancement Ratio、略してOER)といわれる、ガン腫瘍の中心部にありがちな低酸素細胞に対する殺生力においても電磁波放射線や陽子線に比べて、より強力であるということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図]T-6 人体に入射時の放射線の減衰曲線

以上のように、重粒子線を用いた放射線治療が抜本的な手段となりうることから、1983年日本政府が「対ガン10ヵ年総合戦略」をうちあげ、ガン撲滅のために相当の資力、人カをつぎ込み「新しい治療法の確立」という課題で、現在の放射線医学総合研究所に重粒子線加速器によるガン治療装置が建設された。これが世界で初の医療専用の重イオン加速器施設となったわけである。この決断は、上記のような原理的側面の考察はもちろんであるが、それに先立つ1979年頃からアメリカのバークレイで、もともと原子核物理学研究のための加速器であったベバラックが試験的に重粒子線を患者治療していた実績を十分に検討した結果であった。ベバラックは、1954年に建設されたベバトロンというシンクロトロンを、後年、重イオンリニアックと連結したもので、1993年に閉鎖された。装置に対して、概念設計・基本設計から始まり、種々の要素テストなどを経て、放医研の重粒子線ガン治療装置、HIMAC(Heavy Ion Medical Acce1erator in Chiba)は1993年10月に建物、装置の竣工式が行われた。その後、約半年あまりのいろいろな装置テスト、ビームテスト、生物を用いた前臨床試験を経て、1994年6月に患者の治療を開始した。ここで装置のあらましを述べよう。医療装置のための加速器であるから加速器の性能は医学的要請から決められて、その特性としては、ビームの身体内への到達距離が30cm(これで加速器の800MeV/u:核子当たり800MeVpps;particle per second1秒当たりの粒子数Hz/ring:1リング当たりO.5回/秒の加速および入出射粒子エネルギーが規定される)、放射線量としては1回の治療照射が2〜3分で終了することを想定して加速器ビーム量(粒子数/分)を確保することがセットされた(実際の放射線治療は、この照射を毎日あるいは隔日に15〜25回ほど繰り返すのが普通で、これにより治療期間は数週間から最長で約1ヵ月半かかる)。これを出発点として種々の考察によって、加速器の持つ性能として決められた仕様が表]T-1である。これを満足する加速器となると、医療用で患者を対象とするということから、何と言っても装置の安定性、信頼性が重要視された結果、イオン源、RFQライナック、アルバレライナック、シンクロトロンを連結するという構成が最良であるということになった。さらにできるだけ多くの患者を同時に治療するために、治療室は3室を用意し、その有効性を最大限拡張するためにほぼ同一の2つのシンクロトロンを建設し、その両者を同時並列運転することでビーム・ソースを2つにした。したがって治療のときは患者群を3室に分配し、2つのビームをその照射に対する準備の状況に応じてふり分けて使うということで治療を行っている。主加速器シンクロトロンの平均直径は約40mである。1998年に国立癌センタ-に2台目の医療用シンクロトロンが稼動している。1999年9月までに8例が陽子治療を行なわれた。

表]T-1 HIMAC加速装置の仕様

加速イオン種    He→Ar

最大エネルギー   800MeV/u(ε=1/2のとき)

最小エネルギー   100MeV/u(ε=1/2のとき)

ビーム強度     2.0x109pps/ring(炭素に対して)

繰り返し率 O.5Hz/ring

電荷/質量=z/A

 

 

(B)超電導小型SR装置

 大型のシンクロトロンで陽子、重粒子治療が行うためには、小型SR(Synchrotron Radiation:シンクロトロン)を開発する必要がある。治療とは直接関係ないが、半導体の集積化の目的のために小型の超電導SR装置の開発競争が始まった。日本で4台、英国で1台が開発され、目標以上の性能で稼働している。なお、ドイツで試作された超電導小型SRリング(COSY一U)では、所定の性能が出なかった。これは、超電導コイルの電磁力支持構造材に設計とは異なる材料(強磁性の材料)が誤って使われたためである。その後、新しい開発計画は無いようである。また、米国の開発計画も途中で中止になった。ここでは、これまでに開発された5台の超電導小型SR装置、およびそこで使われている超電導マグネットの主要パラメータのまとめと比較を行なう(表]T-2)。レーストラック形SRリングとして、まず三菱電機が開発した超電導小型SR装置の概要を紹介する。SR光を発生するSRリングは半円形の超電導マグネットを2台用いたレーストラック形である。ライナックおよびシンクロトロン(電子ビーム入射器と呼ぶ)が高エネルギーの電子ビームを発生する。この電子ビームをSRリングに入射する。電子ビームはビームチェソバーと呼ばれる超高真空のパイプ中のレーストラック形の軌道上を周回する。超電導マグネットの磁界で電子ビームは曲げられ、SR光が発生する。SR光はSRビームラインと呼ばれるパイプを通して利用実験室に導かれる。コイル端都をはね上げたバナナ形の2極コイルが電子ビームを曲げるための2極磁界を発生する。2極コイルの端をSR用超電導マグネットのコイル形状部をはね上げているのは、電子ビーム軌道を乱す誤差磁界を小さくする(2極磁界の10-4程度、最終的には電子ビーム軌道の3次元シミュレーションで決める)ためである。さらに、4極コイルおよび6極コイルを使用して磁界成分を調整している。運転中のSRリングのパラメータのまとめ、国内外で運転されている5台の超電導小型SR装置の主要バラメータを表にまとめた。電子ビームエネルギーは約600MeV、偏向半径はO.5m程度、SR光の臨界波長は1nm程度といずれの装置も比較的よく似ている。各装置で異なるのは、SRリングの形状、電子ビーム軌道周長、電子ビーム入射器と入射エネルギーである。SRリングの形状レーストラック形のSRリングでは、電子ビームの入射やビーム軌道の制御が容易であり、SRリングの大きさも比較的小さくできる。円形のSRリングはレーストラック形のSRリングの直線部を取り除き、1台の円形超電導マグネットを用いる方式である。磁界中に電子ビームを入射しなければならないために、高度なビーム入射技術を要するが、超電導マグネットは製作しやすい。また、電子ビーム軌道周長も短くでき、SRリングのサイズも小さい。4角形のSRリングは、4台の超電導マグネットを4角形の頂点に設置して、それぞれで電子ビームを90度ずつ曲げる方式である。この方式の場合も、電子ビームの入射やビーム軌道の制御が容易であり、SRリングの大きさもあまり大きくはならない。入射ビームのエネルギーがSRリングの定格エネルギーよりも小さい場合は、低エネルギーの電子ビームを入射してそれをSRリングに蓄積した後、超電導マグネットの磁界を上げながら、高周波加速空洞を使って電子ビームのエネルギーを所定の値まで高めた後蓄積する方式である(加速蓄積方式と呼ぶ)、入射エネルギーをいくらまで下げられるかという点が話題になったが、NTTの15MeVでも十分な蓄積電流が得られている。加速蓄積方式では、ビーム入射器を小さくできるという利点がある。現在ナノスケ−ルからピコスケ−ル加工ができるように各企業間で競争されている。

以上のような装置が医療用に転用可能であれば、大型SR装置の半分以下のスペ−スですみ、800MeVと600MeVを比べると陽子線の減衰曲線のピ−ク値が15cmから13cmに変化するくらいである。更に小型集積化により、安価になり、一般病院への普及が期待される。

 

 

 

表]T-2 超電導小型SR装置の比較 

制作機関

三菱電機

NTT

住友重機

住友電工

Oxford

電子エネルギ−(MeV)

600

600

650

600

700

偏向磁界(T)

3.53

4.30

4.00

4.5

6.00

電子ビ−ム入射器

シンクロトトロン

リニアック

マイクロトロン

リニアック

リニアック

電子ビ−ム軌道(m)

16.8

3.1

15.0

9.6

20.0

入射ビ−ムエネルギ−(MeV)

20〜600

15

150

100

200

SR光臨界波長(nm)

1.65

1.73

1.02

1.3

0.84

(4)ジョセフソン・コンピュ−タ

 ジョセフソン効果の発見は、各方面に大きなインパクトを与えたが、さっそくこの効果を利用した素子が現れた。超電導量子干渉素子・SQUID(Superconducting Quantum Interference Device(超電導量子干渉素子))である。1964年、米国のジマーマンらは、ジョセフソン効果を利用した磁気検出素子を発明した。その後SQUIDと呼ばれるようになったこの素子は、従来の磁束計に比べて、1万分の1という小さなレベルまでの磁気を計れる極めて高い検出能力を持つ。このため、地磁気測定のほかにも微弱な生体磁気の検出も可能となり、これを医療などに応用しようという研究が進んでいる。SQUIDには、ジョセフソン接合を二個使った直流ジョセフソン効果を利用するものと一個使った交流ジョセフソン効果を利用するものの二つがある。直流ジョセフソン効果を利用するSQUIDは、薄い絶縁膜を挟んで作った二個のジョセフソン接合体の両端を結び合わせて、リング状にしたものである(図]T-7)。結び合わせた一方の端から直流電流を流し、もう一方の結合点を出口として取り出す。一方、リングを超電導状態にしてリングの面に垂直に磁場を加えると、リングには加えた磁場によって永久電流Icが流れる。二つの接合部を流れる直流電流は、出口からみると同じ方向となるが、永久電流のほうはリングの中をグルグルと回ることから、一方の接合部では直流電流に加わる方向、他方の接合部では直流電流と逆方向になる。ここで、磁場の強さが変化すると、永久電流の大きさも変わることから、外部から流した直流電流はその影響を受けて、磁場に比例した変化をする。つまり、このSQUIDの出力電流は磁場の変化を受けた形で出てくる。磁束の変化は磁束量子単位というミクロなレベルであり、その結果流れる永久電流はマクロなレベルであることから、SQUIDは極めて高感度な磁気検出素子となったのである。このようにSQUIDは、ほぼ10-15ガウスまでの微小な磁場を検出できることから、その応用はいろいろな方面で考えられた。磁束計のほか生体磁気の検出、計測用など広範囲に及んでいる。

 

図]T-7 直流ジョセフソン効果を利用するSQUIDは、薄い絶縁膜を挟んで作った二個のジョセフソン接合体の両端を結び合わせて、リング状にしたものである。SQUIDの出力電流は磁場の変化を受けた形になる。

 (A)原理

人間の脳、心臓、肺等からは極めて微弱な磁界が生じている。これら生体から発生する磁界には2種類ある。一つは、神経や筋肉などの興奮で起こる活動電流によって生じる磁界であり、脳・心臓・四肢などで計測される。もう一つは、空気や食物に混入して体内に入った磁性物質が地磁気や外部磁界によって磁化され、それが残留磁気として体外から検出される磁界であり、肺・肝臓・胃腸などで計測される。脳の磁気計測の研究が最も進んでいるが、最近は心臓についてもかなり有効性が期待されている。心臓や脳内で生じた電流は、体や頭部の各組織をその導電率によって密度を変えながら流れ、体表面や頭皮上の2点間に電位差を生じる。これを測定したものが心電図(electrocardiogram; ECG)およぴ脳波(e1ectroencephalogam; EEG)である。心臓や脳内で発生した電流は,導電率の違いから表面に伝わるまでに変化するため、心電図および脳波は実際の電気生理学的現象を歪んだ形で捕らえることになる。電流はまたその周囲にビオ・サパールの法則で記述される磁界を生じる。生体内で発生した電流を数理的に電流ダイポール(電流双極子)と呼ばれる無限小電流要素として表現し、周囲に発生した磁界を体表面や頭皮上で計測したものをそれぞれ心磁図(magnetocardiogram; MCG)・脳磁図(magnetoencephalogram: MEG)という。人体組織の透磁率は空気の場合とほぼ等しいため、電流源と磁気センサの間の空間は磁気的に均質である。このことから、心磁図と脳磁図は心臓や脳内の電気生理学的現象を磁界を媒体として歪の無い形で捉えているといえる。生体から発生する磁界は、生体に最も近接させた検出コイルによって捉えられる。この検出コイルは、外部の磁気ノイズを軽減させ、高増幅率の電流−電圧変換素子として働くSQUIDによって誘導され結合している。検出コイルとSQUIDは、超電導状態を保つために液体ヘリウムで満たされた真空断熱容器の中にいれられ、絶対零度付近(約-270℃)まで冷却される。微弱な磁界を測定するため、周囲の環境磁気ノイズは極力低減させることが必要である。そのため、センサユニット(SQUID磁束計)はバーマロイ材(高透磁率材)とアルミニウム材の多層構造でできた磁気シールドルーム内に設置される。センサユニットからの磁界信号は、信号変換プロセッサによりフィルタ処理およびA/D変換されたのち、データ収集プロセッサヘ送られる。データ収集プロセッサで逐次ストアされたデータは、外部または内部トリガによって適宜解析ブロセッサヘ送られる。解析ブロセッサではデ−タのデジタルフィルタ処理を行ったり、電流源の位置推定計算を行い、MRIやCT画像上に結果を重ね合わせた画像を作り出したりする。

磁気シールド: 徴弱磁界の信号検知器としてSQUIDは生体磁気の観測や地磁気、非破懐検査に大きな可能性が期待されている。このSQUIDの実用に大きな役割を演じている。磁気シールドについては、いくつかの代表的な理論に基づいて現場的な技術が共存している。SQUIDは極めて感度のいい磁気の検知器であり数fT(フェムトテスラ;1fTは10−15Tであり、地磁気の100億分の1のオーダーである)程度まで測定可能であるが、逆に雑音も拾ってしまうので、何等かの雑音抑制策が必要になる。抑制する量は、目標とする信号と雑音との兼ね合いで決まるが、生体磁気に関しては、例えば脳磁は数10fT(10−15T)のオーダーなのに対して、都市雑音が10−7〜8Tであるから、装置にはシールド能力が求められる。二つのビックアップコイルにより逆方向の信号電流を検知する差分コイルを使うグラジオメータでは、シールド能力はあまりいらない。それに対して差分コイルを使わないマグネトメータでは厳重なシールドが必要になる。検出する磁気信号と雑音レべルの関係を図]-8に示す。信号が小さいほどまた雑音が大きいほど厳重なシールドが必要になる。磁気シールドの技術を、その理論から分類して記述する。実際にはこれらをいくつか組合せて現実的な対応がなされている。

磁界の強さ(T)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――10−16

――――SO∪ID磁カ計の感度

――10−14

――10−13

――――悩からの磁界

――10−12

――――筋肉からの磁界

――10−11

――――心臓からの磁界

――10−10

――――フラックスゲート磁カ計の感度

――10−9

――10−8

――――都市における磁気雑音

――10−7

――10−6

――10−5

――――地磁気

――10−4 

     NMRの磁気信号

図]-8 磁界の強さと磁力計の感度比較; 縦軸に磁界の強さをとり、種々の磁気と磁力計の感度を並べて比較を示す。

(B)SQUIDの医療への応用

生体磁気は、肺に吸い込まれて蓄積した細かな鉄分、食物に含まれる鉄分が肝臓などに蓄積されたもの、さらに生体が機能しているとき神経や筋肉の細胞内外に流れる微弱な電流、これらのが磁気の発生源となっている。1963年、米国のバウルとマクフィ−によって、生体磁気が初めて観測された。特殊な誘導コイルで、人間の心臓から発する磁気を検出することに成功した。SQUIDが開発されてからは、脳の磁気検出も可能となり、1980年ごろには、てんかんなど自発性脳磁場、音や光による刺激によって発生する磁場も検出できるようになった。生体磁気を検出する方法は、不要な雑音を除去するため、二個の検出用コイルを組み合わせた差動方式で、二つのコイルを逆向きに、少し離して直列につないだものである。そうすると、地磁気のように遠くからの磁束は、二つのコイルに同じ大きさで入力するので、互いに打ち消し合うが、センサに近接した脳磁気は頭の表面からの僅かな距離の差でも大小がはっきりするので、近いほうは大きく、離れているほうは小さく入る。この差を検出すればよいということになる。SQUID検出器は、当初は頭の表面の一箇所だけしか測定できなかったが、これを多数並べて、脳磁気を広い範囲で測定する多チャンネル測定が実現してきた。現在は64チャンネル(カナダ製)、122チャンネル(フィンランド製)が実用化されている。さらに、検出の精度を上げるため、磁気シールドルームとの併用、検出用コイルを二つ重ねた二回差動方式なども考案されている。このようにSQUIDを使った医学への応用は、心磁計、肺磁計、脳磁計などにおよび、生理学、基礎医学、臨床医学の分野へ広がりつつある。ただ間題は、生体磁気の検出は、信号が極めて微弱であるため、雑音の影響を受けやすく、周囲の磁場環境が大きく影響する。日本でもすでに1960年代の始めごろ、心臓の磁界を測定する試みがなされ、その後、SQUIDの出現で、これを利用した世界初の心磁計をいち早く、当時福島県立医科大学の粟野玄佐武教授が電総研の協力を得て、実用化に成功している。1990年3月、医療への応用を目的として通産省の主導で「超電導センサー研究所」が、千葉県の千葉ニュ−タウンに設立された。国が40億円を出し、参加したメーカ10社が17億円を負担、合計57億円の予算で脳磁場測定用のシールドルームを作り、次世代生体磁気計測装置の開発に挑戦した。プロジェクトでは、液体窒素を使った16チャンネル、32チャンネルの心磁計を開発して実験、液体ヘリウムを使った256チャンネルの脳磁計は臨床用としてはまだ無理がある。液体窒素で働く高温超電導体を使った心磁計のほうは、直流磁場の影響が強く、この対策が必要との結論であった。プロジエクトは、1997年3月、当初の目標を達成して終了した。プロジエクトの提案者が、現在東京電機大学工学部長の小谷誠教授であったことから、研究所は規模を縮小して東京電機大学へ移管され、「超電導応用研究所」と改称し、引き続き同大学で生体磁気の研究に使用されている。小谷教授は20年ほど前、すでにSQUIDを使って脳磁気の研究を始めていた米国MITに留学後、肺磁気や脳磁気の研究を続け、この道では数少ない草分けの一人である。液体ヘリウムを使い、かつ雑音の影響を除外しなくてはならない脳磁気の測定用装置は、いま1台2〜6億円もする。現在、日本では62チャンネルの心磁計が日立製作所で、129チャンネルの脳磁計が島津製作所で製品化されている(表]T−3)。液体窒素で動く高温超電導体でつくったSQUIDが、直流磁場などの雑音の影響を排除できるようになれば、比較的安価で使いやすい生体磁気計測装置が実用化する。

 

 表]T−3  SQUIDシステムの基本性能

デュワー方式

ヘルメット型

デュアルヘッド型

デュアルヘヅド型

チャンネル数

SQUm

検出コイル

ぺ一ス長

コイル形状

コイル間隔

測定領域

システムノイズ

被検者姿勢

122 (ただし、測定

64点は61ヶ所)

DC−SQUID

XY平面1次敏分型

16.5mm

矩形264mm

44mm

頭部全体

5fT/個

(2〜200)

座位

129

DC−SQUID

軸1次敏分型

50mm

円形直径19mm

42mm

頭部全体

10fT/個

座位

74(37*2)

DC−SQUID

軸1次敏分型

50mm

円形直径20mm

42mm

頭部一部(両側頭

葉範囲)、也臓部

10fT/個

臥位、座位

 

参考文献

  1. 核磁気共鳴医学研究会編:NMR医学,丸善,1986

[2] 日本磁気共鳴医学会編:MR入門講座テキスト,第2版,1988

[3] 高倉公朋 :脳の新しい診断検査法,現代医療社,174,1989

[4] 糸崎秀夫他:高温超伝導SQUID超伝導センサ.シンポジウム,93,超伝導センサ研究所,1993.

[5] 笹田 一郎,大中 康公:電気学会マグネティックス研究会資料,MAG93,1993.

[6] 光延 信二:高エネルギ−OHO,92.1992

[7] 小型リング特集,日本放射光学会誌,6.25.67.1993

[8] S.Ymamoto et al:IEEE Trnsaction on Applied Superconductivity3,821,1993.

[9]M.N.Wilson : Superconduucting Compact Sources for Lithography,Reprint of Review Paper Presented at the Synchrotron Radiation Instrumentation Conference,1991.

 

 

 

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