熊本大学大学院医学薬学研究部感染防御学分野
原田信志



 
 
   

  「普遍性を求めて」

 第19回日本エイズ学会学術集会・総会を平成17年12月1日から3日にかけて熊本市で開催いたします。
 思えば第1回の本学術集会は1987年12月21、22日に京都で開催されました。当時はまだ単なるエイズ研究会であり、集まった演題は103題でした。第18回総会における学会賞受賞講演で日沼頼夫先生が回顧された如く、先生ご自身や栗村敬先生らの御尽力による発足でした。しかし、この研究会をつくるにあたって最も心配されたのがエイズだけの単一疾患(しかも当時HIV感染者は極めて少なかった)で会が維持できるかということでした。それには幅広い分野から英知を集める必要があったのです。研究会の前日に京大会館で行われた公開シンポジウムのプログラムが手元にあります。演者には、臨床医学から根岸昌功、公衆衛生から大井玄、自然人類学から河合雅雄、哲学から浅田彰のメンバーが記載されています。つまり現在のエイズ学会のありかたを象徴するかのようなシンポジウムでした。
 あれから19年、エイズそのものの問題は未だ解決されてはいないものの、エイズ学会では臨床医学、基礎研究、社会教育系と様々な分野で大きな成果をあげてきたと思われます。HIV感染者の抗ウイルス剤療法、HIVのレトロウイルス学としての進歩、HIV感染者に対する社会的問題への解決策など、もう他の分野のトップレベルまで進んでしまった感があります。しかし、これらの蓄積された知識はSARSの感染勃発の時にどれだけ役にたったのでしょうか?新型のインフルエンザウイルスが流行する時どれだけ役に立つと思われるのでしょうか?
 研究の最大の目標はある真実を証明することでしょう。その真実が幅広い事象に応用できれば、それだけその事実の価値が高く評価されます。エイズの研究でも同じことが言えるのかもしれません。普遍性のある抗ウイルス療法、あらゆるウイルスが関連する細胞因子の発見、感染者だけでなく病む人が共通に抱える問題への対応策など、いろいろ進む方向はあると思われます。そのためには、エイズだけでなく類似の疾患、類似のウイルスからいろいろ学ぶ必要もあるでしょう。
 第19回日本エイズ学会学術集会・総会は熊本で開催いたします。熊本の特色とその普遍性を求めて、本学会は企画を進めていきたいと考えています。熊本では成人T細胞白血病を発見された高月清先生(第11回日本エイズ学会会長)がおられました。HTLV-Iへの研究には深い関心と研究の蓄積があり、また熊本に縁の深い多くのレトロウイルス研究者がおられます。また、熊本では水俣病が発生し、昔からハンセン病の療養施設があります。現在でもこれらの疾患はエイズと同じような多くの問題を抱えています。一度、違った観点からエイズを考え直す機会をもてたらと思っています。
                    平成16年12月15日