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先端臨床医学開発講座

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東京大学医学部附属病院22世紀医療センター

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Department of Advanced Clinical Science and Therapeutics
Department of Advanced Clinical Science and Therapeutics

(<コラム>  シンガポールのバイオ事情)

みなさん、こんにちは。ここのところFDAのはなしや認可行政関連の話題を提供してきましたが、このままだと純粋なバイオ研究者に飽きられてしまっては困りますので、そろそろ研究の話題や研究者のキャリアパスについても触れていこうと考えておりました。そんな矢先、とある案件でシンガポールの経済開発庁(EDB)からお招きを受けて1泊3日でシンガポール出張に行ってきました。その背景はややこしいので割愛しますが、シンガポールのバイオ事情には本当に強い印象をうけましたので、ぜひとも読者のみなさんに簡単にレポートさせていただけたらと思います。

1.    シンガポールのバイオメディカル産業

シンガポールはコアの国策産業としてのバイオテクノロジー研究、バイオ産業に大きく注力しています。2000年以降、EDBは創薬の基盤研究、製造、臨床開発までの幅広い産業基盤の強化を見据えており、わずか3年で年間生産高が97S$1シンガポール$=6570円)となり、2005年には生産高120S$を目標とされています。臨床研究ではシンガポール国立大学病院(NUH)がアジア・太平洋地域の主要な大学や医療機関の中心として癌を中心としたスタディー(CTRG; Cancer Therapeutic Research Group)を開始しています。ちなみに、認可行政はHSA(Human Science Authority)というところが一括全例管理して行っています。

2.  バイオポリス

経済開発庁(EDB)はバイオ産業関連でA*STARBMSG(Biomedical Sciences Group)、そしてBio*Oneという3つの組織を有し、それぞれが連携してバイオ事業に投資しています。これらの拠点ともなるのがバイオテクノロジーコンプレックスの「バイオポリス(Biopolis)」です。病院機能こそありませんが、EDBのバイオ中枢部機能があり(EDRco-DirectorA*STAR長官のPhilip Yeo氏もいます)、まるでユニバーサルスタジオのようなアトラクションふうの町がシンガポール市街地にあります。2004年に一通り完成し、現在第1期の入居・稼動中ですが、近代的なビルがたちならび、それぞれのビルがスカイウォークで結びつき、フードコートには各国の料理が供されるというところです。キャンパス内とランチ・ディナータイムにレストラン街を結ぶバスもあります。私は600億円の国策投資機能を有するBio*OneCEOMs. Chuから概要を説明され、その後マネージャーのDr.Poonにバイオポリス中を案内されました。現状ではビルは7つほどあるのですが、地下はすべて共有で広大な動物実験施設と細胞培養の培地やスタンダードな試薬、FACSNMR、マイクロアレイなどが供される共用ファシリティーがあります。シンガポールは年間を通して28−33度という安定した気温で湿度も高いのですが、地下の動物施設は元Charles River社のDr. Sear(とても厳格なかたです)がきめ細かなコントロールをしています。
現状ではビル群のうち5つは国立研究所が入り、2つは半官半民プロジェクトや企業ベースのラボが入っています。第2期、第3期の工事でさらにいくつかビルがつくられ、バイオポリス内ホテルやコンベンションセンターもできるとのことでした。さらに印象的だったのは、BD社のもっているベンチャー支援会社(BioVenture Centre Pte)のスペースです。マネージャーのDr. Htin(仲良しになりました)に案内してもらったところ、ここではベンチャー支援会社の中にラボスペースやオフィススペースが大小いくつかあり、起業したベンチャーは独立した場所を借りる前にまずはここで小さなスペースをレンタルできるというのです。なかなか面白いモデルだと思いました。
Dr. Poonとバイオポリス内で昼食をとっているときに「ねえDr. コウジ、隣に座っている人知っている?」と聞かれ、「知らないよ、見たことある気もするけれど」とこたえると「クローン羊のドリーを作成した人だよ」といわれました!そうです、シンガポールは世界中から多くの超一流の学者とそのチームを非常によい研究条件で招聘しているのです(30チームほど呼ばれているそうです)。シンガポールバイオがいかに気合はいっているかわかるというものです。

3.   シンガポールにおける日本発のバイオベンチャー

現在2つのバイオベンチャーが動いています。一つはシンガポール国立がんセンター(NCC; National Cancer Centre)と三井物産、島津製作所のジョイントベンチャーであるアジェニカです。高野守社長によれば、アジア人における乳癌をはじめとしたホルモン関連癌の遺伝子解析をしているそうで、様々な興味深いデータがでてきているそうです。もう一つは、三井物産、中外製薬、実験動物中央研究所(実中研)のジョイントであるファーマロジカルズ・リサーチです。実中研の野村龍太副所長によれば、同社の開発した超免疫不全マウス(NOG)を用いてゲノム創薬を行うというユニークなアプローチをとっているそうです。これらの起業に尽力した野元克彦さん(現三井物産アドバイザー、アイザック社長)は非常に精力的な方で、世代を超えたパワーに強い印象を受けたのでした。また、NCCの副所長(アジェニカ社のCSOもされていました)のDr. Hui Kam Manともお話しましたが、アジアのバイオの中心、拠点としてシンガポールを考えておられ、様々な構想をもっておられるこれまた熱血漢なのでした。
ちなみに、バイオポリスの近隣にはサイエンスパークという地域もあり、主としてバイオ以外の企業が入居しているビルが立ち並んでいます。こちらは1980年代からあるそうです。日本企業では島津製作所、デンソーなどがはいっています。

4.  シンガポール発のバイオベンチャー

Merlion Pharma(マーライオン製薬)というバイオベンチャーをBusiness Development ManagerMr. Chris Molloyに案内してもらいました。シンガポールの分子細胞生物学研究所(IMCB)とグラクソ・スミスクライン(GSK)の折半出資でできた会社ですが、なんと10万余の世界中の微生物資源などの自然物コレクションをもち、ここから広大なラボでハイスルーで画分抽出、スクリーニング、合成までを行っています。正直なところ非常にユニークな狙いと方法論をもった会社だと思います。日本、世界のいくつかの製薬企業と提携をして創薬をすすめています。

5.        まとめ

シンガポールのバイオ事情は1990年代にも相当盛り上がっており、国策として税制優遇などをおこなって世界中から製薬企業を誘致していました。ところが、優遇期間が終わると多くの企業は成果を持って撤退してしまい、結果としてシンガポールはそのインフラや場所を企業たちに利用されてしまったという形になったそうです。その教訓を生かし、2001年以降は現在のようにEDBが相当のテコ入れをしてシンガポールをアジア、世界のバイオ産業のハブ地にしようと息巻いています。
日本ではここまで国家としてのバイオの応援はないように思います。バイオ行政の方々、百聞は一見に如かずですので一度シンガポールを見に行かれてはいかがでしょうか。彼らのやりかたは日本には適用しないですが、予算・人的リソース、エネルギーやスマートな方法論には学ぶところが多いように思います。バイオポリスはコンパクトながら新時代の(あるいはアジアの)NIHなのかな、などと思っています。
6.研究室セットアップの現況
東大医学部の先端臨床医学開発講座(抗癌・脳研究グループ)での研究プロジェクトはついにスタートを切りました。セットアップもまだ進行中ではありますが、先端ニッチを目指して頑張っております。
(日経バイオ Biotechnology Japan、2005年5月号から抜粋)