特別講演Ⅱ
「心臓核医学の現状と将来展望」
    防衛医科大学校 第一内科教授 大鈴文孝 先生



1)はじめに
 心臓核医学の発展のためには、RIトレーサーとしての利点を活用して他の手段では取得できない情報を得ることである。解剖学的情報の取得はRIの時間的および空間的分解能が低いので、エコーやX線?、MRI?CTと比較するとはるかに劣る。しかし、日常生活や労作時の心機能のような情報はエコーやX線?、MRI?CTでは取得困難であるが、心臓核医学では携帯型装置を用いることにより取得可能である。細胞の情報伝達に関する生化学的機能情報は、核医学では情報伝達物質にRIを標識することにより種々の機能情報伝達が可能であるがエコーやX線?、MRI?CTでは不可能もしくはごく一部の情報しか得ることができない。

2)携帯型装置の心疾患への応用(動態機能)
 旧来型のC-VEST systemに改良を加え、より軽量でかさばらなく、コンピューターの操作も通常使用される物と同様で使い易くしたのが、新しいC-VEST systemである。更に、ホルター心電図の機能も含んでいるので、日常生活中の心電図と心機能の両方の解析を可能としたシステムである。携帯型心RIモニタリングシステムの更なる普及には、保険適応の採用(現在は、同時に施行する心プールスキャンの料金のみ請求)、RI管理区域以外での携帯型心RIモニタリングの施行を法的に可能にすること(日常生活中の心電図と心機能の両方の解析が可能が特徴なので、RI管理区域のみでの使用は不十分)などが必要である。

3)血管壁プラーク組織性状診断への応用(生化学機能)
 99mTc-Annexin Vによるapoptosis、18F-FDGによるmacrophage代謝、125I-endothelinによる炎症時のendothelin受容体増加、125I-Monocyte Chemotactic Protein-1による活性化単球、αvβ3integrinに高い親和性を有する111Inで標識した低分子などによる血管障害の組織性状診断の試みが既に始まっている。MRIにより大動脈や頸動脈の血管壁プラークの診断が無侵襲に可能になってきたものの、冠動脈への応用にはまだ一工夫が必要である。

4)緊密な核医学従事者間の連係が将来の発展の為には必須
 核医学の発展の為には、核医学担当医師と検査を担当する放射線科あるいは核医学科技師との緊密な連係が必須である。更に心臓核医学の場合には核医学担当医師と循環器担当医師との間の緊密な連係も必須となる。Massachusetts General Hospitalに留学した際に私が最も感心した事は、核医学担当医師と技師との連係および核医学担当医師と循環器担当医師との連係である。