3 0 0回東京核医学技術研究会

文化講演 「ブドウの品種によるワインの味わい」 佐々木 達郎 先生

 今日は「ブドウの品種によるワインの味わい」という、いかにも学術的な題になっておりますが、ワインはもちろん嗜好品ですし、楽しいものですからあまり難しいことは抜きにして、「ブドウが違うと、こんなにワインの味わいが違うのか」ということを、これからワインを選んだり楽しんだりする時のヒントにしていただければと思います。
 ワインを楽しむためのコツといいますか知識はないよりもあった方が良いですし、ただ生半可な知識を知って恥をかくこともありますが、ちょっとしたことをお話しします。
 Wineというのはもちろん英語で、仏語ではVinといいます。伊語ではVino、独語ではWein、ポルトガル語ではVinhoといいますが、これらは全てvinum(ヴィヌム)という言葉が語源になっています。ヴィヌムはブドウの木から造ったお酒を意味する言葉です。さらにヴィヌムの語源になっているのがVitis(ヴィティス)という言葉で、ブドウの木を意味します。ですからワインという言葉はそもそもブドウの木から造ったお酒を意味するのであって、日本国内にいろいろある様なみかんワインとか、いちごワインというと、いちごで造ったブドウのお酒のような意味になりますので、ちょっとおかしなことになってしまいます。一般的にはそういった他の果実から造ったものはフルーツワインとして分類されています。ですからワインといったら、もちろんブドウから造ったお酒として考えてください。
 ワインの特徴の一つはブドウが原料であること、すなわち生鮮果実です。ビールや日本酒は穀物、麦や米が原料になります。つまり乾燥した穀物ですから、極端に言いますと去年収穫したお米から今年お酒を造ることもできます。ところが、ワインの場合は生鮮果実が原料なので、今年収穫したブドウを今年のうちにワインにしてしまわないといけないのです。去年収穫したブドウをずっと保存しておいて、今年になってからワインを造ることはできません。ですからブドウの出来、不出来がワインの品質を非常に左右するということがあります。
 それから、お酒類の中で一切水を使っていません。日本酒、ビールなどの醸造酒では醸造するのに当然水を使います。ところがワインの場合はブドウの持っている果汁がそのまま発酵しただけですから、水を加えて薄めたりすることがないのです。だからなおさらそのブドウの品質やブドウの特徴がよくでるということで、お酒の中で原料の個性が非常に出やすいということになります。
 最近ワインブームや健康嗜好ということがありまして赤ワインがはやっております。もちろんワインの中にもピンからキリまでありますから何が何でも良いとはいいませんが、少しブドウの個性を知ることで自分の好みもより鮮明になっていくのではないかと思います。
 そこでワインの原料になるブドウについてですが、資料にはブドウの品種の系列が書いてあります。これはワインバーやどこかに行った時にちょっと通ぶって語る位の知識で良いと思います。ヨーロッパ系がヴィティス・ヴィニフェラという系列に分かれます。アメリカ系がヴィティス・ラブルス力、その下のヴィティス・リパリアとヴィティス・ルペストリスは接ぎ木をするための品種ですので覚えなくても良いでしょう。いわゆる世界でワイン用のブドウとして非常に重宝、重要と言われているのはこの一番上のヴィティス・ヴィニフェラという品種の中にあります。この中にどういう種類があるかというとその後にいろいろ書いてあります。赤ワイン用品種、もちろんワインを好きでご存じの方にはすらすらお読みいただけると思いますが、力ベルネ・ソーヴィニヨンひとつを取ってみても非常に発音しにくいです。しかし、このブドウ品種がワインの特徴をまず表しますからいくつか今日はぜひ覚えていただきたいと思います。今日はこの中で赤ワインは1番上にある力ベルネ・ソーヴィニョン、それから4番目にあるピノ・ノワールこの2種類を味わっていただきます。それから白ワインは1番上にあるシャルドネと5番目にあるリースリングの2種類を味わっていただきます。資料には簡単に味わっていただくブドウの個性を書いてありますが実質的には飲みながらやっていきたいと思います。順番はまず最初にドイツワインのリースリング種、リースリングというブドウを使ったワインを召し上がっていただきます。次に白ワインのシャルドネ種です。それからフランスのブルゴーニュ地方のピノ・ノワール種、赤ワインです。最後に同じフランスでも今度はボルドー地方の力ベルネ・ソーヴィニョンを使ったワインを飲んでいただきます。
 最初は白ワインでリースリング種です。リースリングというのはドイツのラインガウ、モーゼルそれからフランスのアルザスという地方で栽培されます。リースリングは基本的にドイツワインと考えていただいて良いでしょう。アルザスはドイツに国境を接しているフランスの地方です。フランスは大まかに六角形をしていて、六角形の上の少し右位にパリがあります。アルザスの、今日はドイツワインですが、この細いボトルがドイツワインの特徴です。この様な茶色かもしくは緑色のもの、アルザスのワインも細長いタイプが多いです。今お飲みいただいているワインのラベルには「リースリング」さらに「カビネット」と書いてあります。ラベルに表示することはドイツのワイン法という法律によって定められていて、分類がいろいろあります。今日はまず「リースリング」というブドウ品種を覚えていただきます。それからワインリストに「カビネット」と書いてありますが「カビネット」というのはドイツワインの場合ブドウの熟成によってそれを表現しています。「カビネット」は通常、普通に熟成した状態、普通の収穫期に採ったブドウから造ったワインのことをいいます。これから先は書いてありませんが、例えばトロッケンベーレンアウスレーゼという一番上のランクがあります。これはわざわざブドウの収穫期を遅らせて非常に熟成したブドウの粒だけを手摘みして造ります。極端に言うと、カビネットの場合は普通にブドウがなっていたらブドウの房ごと全部とって、ワインにします。トロツケンべーレンアウスレーゼの場合「トロッケン」というのは「乾いた」という意味ですから干しぶどう状になって水分が飛ぶ、水分が飛ぶということはブドウのエキスだけがギューっと凝縮されますから濃いワインができます。ワインはブドウの糖分がアルコール発酵によってアルコールに変わります。糖分がアルコールに変わるときに、酵母なども働きますが、その酵母は自らの作り出したアルコールによって死んでしまいます。しかし、糖分が多量にある原料からお酒を造る場合、ずーっと永遠にアルコールが増えるわけではなくて、ある程度の度数、15度〜16度位になると酵母は全部死んでしまいます。その時点で、まだ、原料に糖分が残っていたら非常に甘口のワインができることになります。それがドイツワインのトロツケンべーレンアウスレーゼやアイスヴァインという非常に甘口のとろっとしたワインになります。お値段の方も気持ちがとろっとするくらい高いので、そういうワインはどちらかというとデザートにちょっと召し上がっていただくくらいでよろしいと思います。ですから、通常はこの「カビネット」というランクを覚えてください。一番リーズナブルでだいたい間違いなく買えると思います。では、早速ご自由に召し上がってみてください。ご覧いただいてわかるように非常にきれいな色をしています。極端にいいますと先ほどいったアイスヴァインなどの甘口のワインは色がもっと濃くなります。褐色に近い色になってきますけれども、これくらいが一般的な白ワインの色だと考えてください。今日はこういう形のプラスチックコップですので難しいのですが、まず、色をみて基本的には透明度が高いか、透明度が高いというのは曇っていないということです。向こう側が透けて見えるから良いというよりは、きらきらと輝いている。それがワインのひとつの健康状態を表します。何か靄がかったようになっているのは何か、例えば保存が悪いとか何かの原因があると思っていただいてけっこうです。それから、香りをゆっくりかいでください。非常に上品な花の香り、少し揮発性があって上に香りが抜けてくる、白い花の様な香りがします。この後ワイングラスをくるくる回して空気に触れさせてあげることでまた、香りがたちます。最近はやりのワインバーに行くとワイングラスをテーブルでくるくるくるくる回していたり、手に持ってくるくるくるくる回していたり、テレビドラマでもそういうシーンが出てきます。あれは、格好を付けてやっているのではなくて、空気と混ぜることによって、ワインの中に隠れていた香りがまた表に出てくるのです。ですからレストランに行ったときに延々と回しているとなんか変な目で見られますし、ちょっと通が集まるワインバーに行くと20人くらいの人全員でグラスを回していたりしますから、違う宗教が興ったように見えると思いますが、そこはさりげなく回して、また香りをかいでいただくと、何もしない状態でかいだ香りとはまた違う香りが出てきます。それを自分の記憶の中にある何かの香りと似てるな、というふうに結びつけると、ワインを覚えて自分の好みを表現することがより的確こできます。次に飲みます。普段飲むときにはそんなに意識しなくても良いのですがそのままグビツと飲む前に、口の中でちょっとワインを転がす、遊ばせてあげてください。これはつまり、舌の中でも甘さや酸っぱさや塩味を感じる部分が違います。それから歯茎などでも味を感じます。ですからそのワインを意識して味わう場合には口の中でワインを揺するようにして回してあげて、どういう感じなのだろうか、この部分にこういう味わいがくるのかということを意識するとより覚えられます。プロは、例えばワインの醸造などを仕事にしている人は、テイスティングの時に全部飲んでしまうと酔っぱらってしまいますからこの時点で吐き出します。でも、普通の時はそんなもったいないことはできません。全部飲まないといけません。ただ、プロの場合は飲みこまないので、いわゆるのどごし、後口に返ってくる香りが感じられない。ワインの場合、飲み込んだ後に例えばずーっと香りが残ったり、また戻ってくる香りがあります。そこで、プロのテイスター達はどうするのかというと、ワインを口の中に入れたまま空気を吸います。ワインを口の中に入れた状態で空気を吸って鼻から抜くと、飲みこんだと同じ様な後口が返ってきます。ただこれは気をつけてやらないと1番はまずむせる、2番は口から垂れる。ですからやりたいと思う人はそういうアクシデントがあってもいい様な場所でやってください。レストランで格好をつけてやって、ぽこっと吹いたりしますとあ〜ぁと思われます。話が余談になってしまいましたが、今飲んでいただいているのはリースリングです。特にドイツ、つまり北の方ですからブドウの酸味が勝ります。飲んだ後に舌に酸味がすっと残って、きれるようなタイプです。あまり、こくとかべたべたした甘さを感じないで酸味がぴっと通る。ドイツワインの場合はこういう酸味が特徴になります。このリースリングという品種はドイツが基本です。フランスのアルザス地方や力リフォルニアでも栽培したりしますが、一番はもちろんドイツワインと考えていただいて良いと思います。こういう上品な香りがして、比較的酸味が勝るタイプという様に考えていただいて良いと思います。今日は4種類でますのでぜひ比較もしてみてください。
 2番目はフランスのシャルドネです。今度はフランスの地図上でずっと南下します。そのまま南下すると地中海ですが、それよりもう少し上にあるアルディッシュという県で作られた、カテゴリーとしては地酒という分類になります。これはシヤルドネを使っています。先ほどの様に色を見て、香りをかいで召し上がってください。比べてわかるようにまずボトルの形が違います。これは、ボルドーとかブルゴーニュという地域名が付くワインではありません。ヴァン・ド・ペイという、ヴァンが先ほどいったフランス語のワインで、ペイが地方という意味になります。いわゆる地酒というカテゴリーになります。そして、アルディッシュという県名が書いてあります。今日は細かいことは省略します。ルイ・ラトゥールというのがワインリストに書いてありますが、そのルイ・ラトゥールがこのワインを造った造り手です。この造り手は非常に良い造り手ですので、まずこのワインの造り手の名前を覚えてください。ルイ・ラトゥールです。ルイ・ラトゥールはブルゴーニュの非常に良い造り手です。ですから、迷ったらルイ・ラトゥールということを覚えていていただいて良いと思うくらい良い造り手です。もちろん他にもルイ・ジャドーとかフェヴレイという良い造り手がありますが、ルイ・ラトゥールの特徴はこのマークです。必ずルイ・ラトゥールのワインにはこのマークがついていますから、これを目安にしていただいて、ルイ・ラトゥールという造り手とシャルドネというブドウ品種から造ったワインの味わいを記憶していただきたいと思います。明らかに先ほどのワインと違いますね。こちらの方が酸味は抑えられていますが、こくは深いと思います。このシヤルドネというブドウ品種は今や世界中で造られています。もちろん力リフォルニアでも有名ですし、最近よく日本に入ってきているチリやアルゼンチンのワインにもあります。特にこのシャルドネの場合は木樽で熟成することによって、さらに厚みを増した深い味わいになります。ブルゴーニュ地方では例えば、モンラッシェという白ワインがあります。これは高価なワインなのですが、その様な白ワインにもシャルドネが使われています。というよりも、ブルゴーニュの白ワインはシャルドネです。そうするともっとこくのある、重たい、バターの様な香りがする非常に強いワインになります。これはシャルドネの中でも比較的あっさりしたタイプです。ただ、特徴的には非常に良いこくと香りの深さがあります。先ほどのりースリングは、香りがどんどん上がっていく様な揮発性のものとすると、これはまだちょっと中にあってよく探してあげないと香りが出てきません。しかし、その香りが何かというよりも、ここで2つを比べていただいて、なるほどこんなに違うのかということがご自分の中でわかっていただければ、非常にこれはよいと思います。シャルドネはいま世界中で栽培されていますから、チリワインでシャルドネを使って700円位で安く売っているものがあります。それの良いものは、もちろん数万円するモンラッシェとは比較になりませんが、かなり質が高いです。チリの場合、気候や土壌が非常にブドウづくりに適していることと、フランスの技術者がチリに行って指導をしているので、チリワインは非常に質が高いです。しかし、いろんな要素、人件費その他含めてコストが安いので、ワインの単価はフランスに比べて非常に安いのです。ここが、チリワインがはやるひとつの理由です。ですから、同じ白ワインでもあまりお酒に強くないとか、あまり濃いものがいらないという方には、リースリングを選んでいただいて良いと思います。ドイツワインは特に飲みやすいですから。でも、少しこくのあるしっかりした白ワインがほしいという時には、シャルドネというブドウ品種を頭の中にしっかりインプットしていただきたいと思います。特にシャルドネと銘打っても、もちろん先ほどいったように生鮮果実であるブドウが原料ですから、国、場所、造り手などそういったものによって全然味わいが違ってきます。昨日飲んだシャルドネはおいしかったけれど、今日飲んだシャルドネはおいしくないということがあります。しかし、おいしいかおいしくないかは個人の味覚ですのでそれは構いません。つまり、違うものがあるという認識の上にたたないとワインの世界は広がらないということです。全て同じではないのです。これからブルゴーニュの赤ワインをお出しますけれども、特にブルゴーニュの場合は同じワイン名の付いた違う造り手のものがたくさんあります。これは、簡単にいいますとある畑があります。例えばこのシャルドネを使ったフランス、ブルゴーニュ地方のシャブリという有名なワインがあります。辛口白ワインの代表です。シャブリはいま飲んでいただいた香りよりも酸味がたってシャープにきれていきます。ですから、このシャルドネとシャブリを飲み比べた場合、同じブドウか?ということも起こります。そうすると、それがちがうワインではなくて、同じブドウで造っても土地だったり気侯だったり、造り手による違いということがあります。例えば、フランスのシャブリ地方があってシャブリというワイン名を付けられる法律があります。この区画の中で収穫したブドウで造ったワインはシャブリという名前を付けてよろしいのです。そして、畑は非常に細分化されていますから、ある畑を所有しているAさんの作ったシャブリ、Bさんの作ったシャブリ、Cさんの作ったシャブリがあります。レストランに行ってあるシャブリを飲んで非常においしかったので、シャブリはおいしいと思って他のところに行ってシャブリを飲んだらあまりおいしくなかったということも起こります。ですから、特にブルゴーニュの場合は誰の造った何というワインか、ということをおさえておいてください。そこで先ほど言ったこの場合はルイ・ラトゥールという名前を覚えておくことが重要になります。この間飲んだ何々がおいしいではなくて、この間飲んだ誰さんの何々がおいしい、こうなってくるとだんだん複雑になってわからなくなってしまう。だいたい飲んでいる途中でそういうことをみんな忘れてしまいますから。最初もそうですが3杯目ぐらいまではこれは勉強しておかなくてはと思って覚えるのですが、ボトル半分すぎたらまあ、どうでもいいやというふうになってきます。まあ、おいしいものを飲んで楽しい時間を過ごすのが一番大事ですが、少し覚えておくと次にまた役に立つと思ってください。ですから、このシャルドネという品種の中でも、もちろん地域によって全然違うということをひとつご理解いただきたいと思います。
 次に赤ワインです。今度はいまお話ししましたフランスのブルゴーニュ地方のピノ・ノワールというブドウ品種を使った赤ワインです。ピノ・ノワールも有名ですね。これも力リフォルニアをはじめチリ、イタリアでも栽培しています。フランスのブルゴーニュ地方は赤ワインは基本的にピノ・ノワール一種類で作ります。つい、先週またバブル時代に戻ったかのような狂想曲が奏でられた、ボジョレー・ヌーヴォー解禁日がありました。ボジョレーはガメイというぶどう品種を使っています。赤ワインの代表的品種の中で上から5番目、ピノ・ノワールの下に書いてありますが、このガメイはボジョレーの原料になる品種です。ブルゴーニュの赤ワインは基本的にピノ・ノワール100%で造ります。ここで、本当はブルゴーニュならブルゴーニュのワインを何種類か並べたら同じピノ・ノワールを使っても全然違うということもありますけれども、それはまた機会があればということにしておきます。ピノ・ノワールはブルゴーニュ地方の最高品種です。ブルゴーニュで育ててワインにしてこそ、その本領を発揮するといわれています。チリのピノ・ノワールも力リフォルニアのピノ・ノワールもおいしいのですが、とどめはブルゴーニュといわれております。ピノ・ノワールの場合はわりと透明度の高い赤ワインです。きれいなルビー色です。この後に飲んでいただくボルドーもそう濃くはないのですが、極端にいうと、ワイングラスに注いで上から見たときに、グラスの脚の付け根がきれいに見えるくらい透明度が高いです。ボルドー非常に濃いもの、つまり力ベルネ・ソーヴィニヨンを使った濃いものではもう真っ黒といってもいいようなワインになります。インキのような香りもそうですし、色もそのような暗い色になりますが、ブルゴーニュワインは非常に鮮やかな色をしています。香りの方もブルゴーニュのワインは表にどんどん出てくる香りです。ワインの種類によって違うのですが、端的にいわれるのが、すみれの様な香りだといわれています。ピノ・ノワール種はすみれのような香りだと言われます。それから、味わいの中にもあまり渋みがありません。どちらかというと酸味を主体にしたタイプですので赤ワインを初めて飲むという人にはブルゴーニュのピノ・ノワールの方が飲みやすいということがいえます。力ベルネ・ソーヴィニヨンの方は、どうしても力ベルネという品種はタンニンが豊富ですから渋みに勝るところがあります。しかし、ピノ・ノワールはこういう渋みはあまりなく抑えられていて酸味が主体になっていますので、今まで赤ワインをあまり飲まなかった日本人の舌にもわりと合いやすいのです。ましてや最近赤ワイン健康ブームということがあって、非常に赤ワインが売れています。何でもかんでも赤ワインというふうになっていますが、赤ワインが良いからといって、一日に2本も3本も飲んでいたら違う病気で死んでしまうと思います。健康とその裏にあるものをきちんと把握して楽しんでいただきたいと思います。ピノ・ノワールの場合、ワインバーやレストランで使える話題のひとつとして、本来ブルゴーニュのピノ・ノワールは非常に弱いということがあります。弱いというのはワインになってから弱いということです。ですから、輸送して日本で飲むのは、本来の姿が現れていないという人がいます。本当においしいピノ・ノワールを飲みたかったら現地に行く、フランスのブルゴーニュです。良いところがあります。リヨンとかディジョンとかディジョンマスタードという良いマスタードがありますが、リヨンは食の都ですから、食べに行ってもうそこで死んでしまっても良いのではないかというくらい、おいしいものがいっぱいあります。現地へ行けといいます。もちろん日本酒でも地酒は、その場所へ行ってその土地の料理と一緒に飲み食いするのが一番おいしいですけれども、ぜひ、機会があればワインはその国のその土地に行って飲んでいただきたいと思います。このピノ・ノワールは非常に飲みやすくておいしいですね。ピノ・ノワール種は、ブルゴーニュ地方のボトルの特徴として、肩のないなで肩のボトルです。ブルゴーニュ地方のボトルの形はこの様な形です。ここは面白いところで、例えばカリフォルニアで造ったピノ.ノワールやチリで造ったピノ・ノワールも、このブルゴーニュのボトルの形に似せています。ピノ・ノワールで造ったワインはこういうブルゴーニュ型のなで肩のボトルに入っていることが多いので見ただけであ、なるほどきっとそうだな、という予測がたつのです。予測がたつと、今度は味わいがこんなタイプだろうという予測がまたたつのです。ですから、最近ワインショップも増えていますし、レストランにもいろいろおいてあります。昔みたいにリストを見てもわからないから、一番手っ取り早く選ぶこつを教えてくれといって、誰かさんが値段を見て下から2番目か3番目のものを頼んでおけば間違いがないと、言ったとか言わないかという話がありますが、そういう選び方ではなくて自分の好みを明確にして飲みたいワインをきちんと飲むというのが一段と楽しみを広げることですから、例えば、こういうブルゴーニュ型のボトルであれば、おそらくピノ・ノワールを使っているだろう。ピノ・ノワールを使っているのであればこういう味わいだろうというところにポン・ポンとスイッチが入ってくと、ああ、私の好きなタイプだな。私はもっと濃いのが好きだからそれはやめてじゃあボルドーにしようかな。というふうに分かれていきます。最近はみんな一億総ワイン評論家みたいなところがありますが、ワインのみならずお酒を買い行ったときに、ワインショップの人が「どんなワインがお好みですか?」というと「辛口が欲しい、甘口が欲しい」選択肢がその2つしかないのです。辛口といってもスパイスのように辛いわけではありません。辛口というのはつまり甘口じゃないということです。スイートではなくてドライです。先ほどいった果実、原料の持っている糖分はみんなアルコールに変わっているから糖分が残っていないという意味ですから、ただ、辛口といわれてもお店の人はお勧めするのに非常に困ってしまいます。同じ赤ワインでもどちらが辛いかと言われて、辛いというイメージを伝えるために飲む側がそれしか情報がなければ、選ぶ側もそれしか情報がないのですから、「辛いと言われてもねえ、」ということになってしまいます。それよりも、例えば、この間こういうブルゴーニュのピノ・ノワールを飲んだけれども非常においしかったので似たようなタイプが欲しいとか、あれは私にとっては物足りないので濃いものが欲しいということが言えるのです。今日は赤ワイン用の品種のなかで、ピノ・ノワールとボジョレーのガメイという品種をお話しました。その下にグルナッシュとシラーがあります。これはフランスの中でコート・デュ・ローヌという地区があります。今度は逆にフランスの一番下まで行ったプロバンス、ニースあたりから北上していきますと、ローヌ川があって渓谷があります。その辺はだいたいこのブドウを使っていますが、これはまた比較的華やかな香りで飲みやすいワインです。それからネッビオーロ、サンジョヴェーゼはイタリアで使われている品種です。ネッビオーロはどちらかというと濃い赤ワインのタイプです。サンジョヴェーゼは非常に有名なイタリアのワイン、キャンティに使われていて、どちらかというと酸味が主体のタイプです。それから一番下のジンファンデルは力リフォルニア特有のブドウ品種です。今日は後で復習しますが、ピノ・ノワールとその上ぐらいをとりあえず覚えていただければ良いと思います。
 次のワインはボルドーです。フランスの2大赤ワイン産地といいますか、2大ワイン産地として有名な、ボルドーとブルゴーニュです。フランスの地図上で、右手側がブルゴーニュ、左手側がボルドーです。話がそれますが、地図のシャンパーニュ地方を見てください。この、フランスのシャンパーニュ地方で造ったものしか、シャンパンと呼べないのです。ですから、イタリアやドイツ、スペイン、力リフォルニアでも発泡酒を造っていますけれども、「昨日イタリアのシャンパンを飲んでおいしかった」というのは表現としてはあっていないのです。イタリアの場合はシャンパンといってはいけません。スプマンテといいます。それは、また機会があればぜひやりたいのですが、シャンパンはフランスの固有なものですから、「ドイツのシャンパンがおいしいね」と言ってしまうと、「こいつ〜、どこかで覚えてきたな」と思われますからやめましょう。このシャンパーニュにも先ほど言いました白ワインのシヤルドネが使われます。それから、ピノ・ノワールも使われます。赤ワイン用のブドウ品種は皮が赤い、黒いわけです。それをつぶしたまま醸造しますから皮から色素が出て色がつくのです。白ワインは基本的には皮が薄い緑色のもので、つぶしてジュースを取ります。そのジュースだけを発酵させますので色が付きません。しかし、周りの黒いブドウを使っても、先に絞ってジュースだけを取ってしまえばジュースは透明ですから色素は出ません。それを発酵させれば白いワインができます。それでこのシャンパーニュではピノ・ノワールをシャンパンに使います。ボルドーは力ベルネ・ソーヴィニヨンを使っていますが、ここでボルドーの要諦というか、ひとつぜひ覚えておいていただきたいのは力ベルネ・ソーヴィニヨンを100%使っているわけではないということです。ボルドーは上の3つ力ベルネ・ソーヴィニヨン、力ベルネ・フラン、メルローのブレンドです。どういう割合かは造り手、つまりシャトー○○という、ボルドーの場合はシャトーというのがつきますが、そこの極秘の事項です。だいたいは、わかっていますけれども、必ずこの3つをブレンドします。力ベルネ・ソーヴィニヨンというブドウはピノ・ノワールに比べて色が濃くて暗い感じがします。これがまずひとつの特徴です。香りも少し中に閉じこもっている感じがします。ピノ・ノワールの方が華やかに香りが出てきます。力ベルネ・ソーヴィニヨンの方が中に閉じこもっていますから、香りをだすまでにすこし時間がかかります。飲み口も、口の中で遊んでいただくとわかりますが、口のまわりにべタッとくっつくような渋みが残ります。これは力ベルネ・ソーヴィニヨンを飲んでから、ピノ・ノワールを飲むとよくわかりますけれども、ちょっと酸っぱく感じます。つまり、ビノ・ノワールの方は酸味が主体で、カベルネ・ソーヴィニヨンの方は渋みが主体です。ワインは飲む順番で味わいが全然変わってしまいますから、何種類か飲む時には飲む順番によって味わいが変わることを認識しておかないと、順番が変わったが故に「あ、このワインおいしくない」と思われてしまうことがあります。それは、ワインにとってはかわいそうですから、順番を入れ替えてください。ボルドーの場合はこの3つを例えば50、20、30とか、30、30、40とかいう割合でブレンドして造りますが、主体はこの渋みの一番強い力ベルネ・ソーヴィニヨンです。それに、カベルネ・フランとか、メルローという比較的早熟タイプで柔らかさをつける様なブドウを足すことによって、滑らかさが出たりします。この割合が逆転すると同じボルドーでも全然違うタイプになります。そうすると、このボルドーだけで42時間ぐらい話さないといけないので次の機会にしたいと思います。簡単にいうとブルゴーニュはピノ・ノワールという品種1種類しか使わない。ボルドーは力ベルネ・ソーヴィニヨンが主体だけれども、力ベルネ・フランやメルローという品種のブレンドである。ブレンドの妙がボルドーであって、いわば木1本というか純粋性の強いものがブルゴーニュというふうに考えていただいても良いと思います。これだけ飲んでいただいても白ワインは白ワイン同士、つまりリースリングとシャルドネ、赤ワインはピノ・ノワールと力ベルネ・ソーヴィニヨンの違いが非常によくわかっていただけたのではないかと思います。この中でどれがどうということはもちろんありません。ご自分の好みというのは、もし飲む順番が変われば、味わいが全く変わってしまいます。ただ、先ほどいった様に、選ぶときに辛いとか甘いとかということだけでなく、こういうこくのあるものが好きだとか、もっといえば、ある銘柄を指定できてそれに似たようなものといえば、今はいわゆるワインアドバイザーというのも随分増えておりますし、ソムリエももちろん増えております。TVドラマにもなったりしまして、底辺が広がることによって、ワインも安くなっていますし、チリ、アルゼンチン、ブルガリアのような、昔であれば知る人ぞしる掘り出し物というのも手に入りやすくなったりしています。そういうワインは本当に世界中にたくさんありますのでどれを飲んで良いかというよりもどういうワインが好きかということを決めつけないでもっと受容していただく。そのヒントとして今日はたった4種類のブドウ品種でが、自分の中のヒントにしていただけたら良いかなあと思います。ですからここに載っているだけのブドウ品種を全部飲み比べてその違いがわかれば知識はともかくとしてテイスティングとしては、ソムリエ試験は受かると思います。これだけ覚えておけば大丈夫でしょう。知識の方は膨大な数があって、その中から100間くらいしかテストにでませんからとりあえず、丸暗記しないといけないという試験がありますけれども、テイスティングの方はこうやって比べることで歴然とわかります。色の違い、香りの違い、それがもちろん仕事でない人は自分の好みとして、こういうワインがおいしいなとかこういうワインが好きだなという様に考えていただければ良いのではないかと思います。今日はこれだけワインが並んでおりますが、フランスワインの場合もドイツワインの場合もラベルにかかれることが法律で決まっております。ですから、ラベルを読めばどういうタイプのワインかがわかります。例えばこれはドイツワイン、リースリングというブドウ品種が書いてあります。それからこの地酒もシャルドネと書いてあります。ところが、ブルゴーニュとボルドーは、これはブルゴーニュの赤でもピノ・ノワールと書いてありますけれども、ブドウ品種名は書かれません。なぜ書かれないかというと、ブルゴーニュで力ベルネ・ソーヴィニヨンを使うことはない、つまり、ピノ・ノワールを使いなさいという法律があるからです。ボルドーではピノ・ノワールを使うことはない、力ベルネ・ソーヴィニヨンや、メルローの混醸ですから、ボルドーの赤ワインといったときに、これはもしかしてピノ・ノワールかな?という様な無駄な疑問を挟む余地がないのです。もう、決まっているのです。それだけフランスのみならずヨーロッパのワイン法ははっきりしています。これはワインの名前を聞けば、こういうブドウを使っている。この赤ワインの中で先ほどキャンティに使っている、サンジョヴェーゼという話をしましたが、キャンティといえば、サンジョヴェーゼというふうにわかります。イタリアでもバローロという強い濃いお酒がありますけれども、ネッビオーロというふうに結びついていくわけです。それをひとつひとつ積み重ねていくとラベルを見ただけでぴんとくる、名前を聞いただけでぴんとくるということになります。そこまでいけば、もう店のソムリエに対して偉いことが言えるようになると思いますけれども、せっかく楽しみに行くんですから、ソムリエと喧嘩してもしょうがありません。レストランへ行くと必ずホストテストをやらされますね。少しだけ注がれて、「いかがですか?」。よく聞かれるのですが、あのワインはいやだったら交換できるのか?これには答えが2つあります。ひとつは交換できます。ただ、それが自分の好みと違う、「私はボルドーが好きなんだけど今日は試しにブルゴーニュを頼んでみたらやっぱり合わないから換えて!」といった場合には、換えられますがそのワイン代も払わなくてはいけません。好みで換える場合です。もうひとつ、お店の方がこれは大変失礼いたしましたといって換えてくれる場合があります。それは、例えばこのブルゴーニュのピノ・ノワールであってこれは、フィリップ・ダルジャンバルという作り手の1995年もののビノ・ノワールですけれども、これを飲んだときに君君と呼びつけて、「フィリップダルジャンバルの1995年もののピノ・ノワールだったら、かれこれこういう香りがしたてこういう味わいがしてこういう色のはずだけども君のところのワインはこうこうこうでこういう風にくすんでいてこんな香りがして、こうじゃないかと、これは、君のところの保存が悪かったに違いない」とそこまでいってソムリエが「へへー恐れ入りました」といったらそれはただで交換してくれます。ということは、そこまで思い切って知識があって叱らないとえらいことになりますから、ワインリストを見て頼む段階で精密に選んでおきましょう。そのためにブドウの品種からくる味わいの違いというのが少しでもあるとヒントになります。そうするととんでもない失敗をしなくてすみます。リストを見て値段の下から3番目が良いなんていう馬鹿みたいな選び方ではなくて、自分のおいしいものを誰かと一緒に飲む時に、良い時間を過ごすためのヒントとして、ぜひそういう楽しみ方をしていただきたいと思います。もう一つ、楽しむヒントとして例えば今日のボルドーは1994年というまだ若いワインです。非常に渋い場合があります。渋い場合に先ほどグラスを回して香りをたてるといいましたが、ワインは空気に触れるとまるやかになります。ですから非常に渋くて硬い、口の中でイガイガする様なタイプのワインを、わざとデカンタという器に移し換えます。本来はこういうワインの古いものであると、先ほどいったタンニンや色素が澱という成分になって沈むので、この澱を取り除くために移し換えます。そうすると非常に熟成が進んでまろやかなタイプのワインになりますけれども、若いワインでイガイガしたものをわざと乱暴に移し換えてしまう。グラスの中で回すことをもっと乱暴にやってしまうわけです。そうすると、少し柔らかくなります。ものすごく硬い場合は2回くらいやったりします。一度試してみるとどれくらい変わるかということがわかると思います。そういうことで、ワインの楽しみ方というのはちょっとしたこつだったり、ちょっとした知識だったり、どんどん広がります。もう何千とあるワインの中で同じワインでも先ほどいったように場所が違えば名前が違えば作り手が違えばということがあります。全く同じワインでもブドウのできた年によっても違います。ですからそういうことを知識や教養として覚えるのではなくて自分がワインを楽しんで、さらに誰かと一緒に楽しむためのヒントとして使っていただけたら、ワインというお酒もこれから先もっと広がっていくと思いますし、つまらないブームやオタクの世界でなくて、自分の持っているセンスとしてお酒を楽しむという幅が広がると思いますので、ぜひ、そういうところをヒントにしていただきたいと思います。

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