教育講演

腫瘍シンチグラフィについて

東京慈恵会医科大学放射線医学教室 内山眞幸先生

 腫瘍を取り巻く核医学検査についてまとめる。

1.腫瘍そのものの描出

 腫瘍そのものの描出についてはGa-67シンチグラフィを取り上げる。最も古い検査の一つであるこの検査を今一度見直してみたい。

・腫瘍シンチに日常的に用いることができる放射性医薬品の集積機序を示す。

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Ga-67:トランスフェリンに結合トランスフェリンレセプターを介して細胞と結合

Tl-201:イオン半径K Na-K ATPase system

Tc-99mMIBI:細胞膜の電位差により受動的に細胞内拡散

Tc-99m tetrofosmin:細胞膜の電位差により受動的に細胞内拡散Na-K ATPase system関与

I-xxx MIBG:ノルエピネフリン類似物質

Tc-99m DTPA:詳細不明

Tc-99m (V)DMSA:詳細不明

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・Gaによる画像は、腫瘍のviabilityやgrowthを反映し、基本的にはCD-71 transferrin recepterとの結合により得られている。

本来は、前処置は不要であるが検査密度等の要素によって行わざるを得ないのが実情である。ただし、前処置を行わない場合には繰り返し追跡を行っていく必要がある。48または72時間像を基本として、7から14日後に追跡撮像を行う場合もある。Gaでは、投与後14日までは検査可能であるが、投与量とのバランスで最適化を図らなければならない。

・Ga-67によるリンフォーマの症例を提示する。false negative を避けるためには、投与量を増やすことが有効であるが、本邦では制約があり必ずしも思い通りにはいかない。しかし、撮像時の収集カウントを増やすように心がける必要はある。

Gaは、生きている腫瘍細胞に取り込まれ、組織学的なファンクションを示す有用な検査方法であり、gradingにも留意すべきである。

検査手技として、取込があった場合には積極的にSPECTを行うことが望ましいが、不可能な場合には多方向像を得たほうが良い。

・化学療法との関係

Gaの投与と化学療法の実施時期との関係には留意する必要がある。Gaを投与する時期は、化学療法開始前では24時間以上、化学療法後では最低でも10日は経過した後にするべきである。化学療法後の画像では、肝集積が低下し、尿中排泄が増加する。その他に、肺門でも集積が増加する。これが、残存腫瘍内に生存している活動性腫瘍細胞の診断に対する鍵となる。リンフォーマに対する治療後に肺門部の集積増強が認められる例は、明らかな再発が認められなくても、ホジキンで15.6%非ホジキンで23.7%にあった。明らかに化学療法の影響によって肺門部集積が増強した例はホジキンで7.5%非ホジキンで14.3%を占めた。化学療法で使用する薬剤にm-BACOD/CHOP(1)などが含まれると、治療としてはより強力なものになり、影響も強くなると考えられる。

後頸LNに著明な集積stage非hodgikin chemo後に改善するも、肺門部集積増強

・セミノーマを対象とした検討では、腫瘍が持つ貪欲な性質により、治療後に残存腫瘍が認められていても、Ga集積が無くなった時点で化学療法を終了しても予後は良好であった。全体としては、Ga集積の有無が化学療法継続の判定に利用されるためには相当に丁寧な検査が必要になる。残存腫瘍の中のviable cellの有無を判定できるかどうかが問題となる。

NHL例で化学療法を実施し、Ga集積が陰性化するクール数によって予後を比較すると、早期に陰性化した例の方が圧倒的に予後が良好であるという報告もある。

・腫瘍の活動性と画像上の集積程度との相関性は、必ずしも一致するとは限らない。

・Ga以外の腫瘍シンチ

Tl-201

適応: 脳腫瘍

頭頚部腫瘍(甲状腺腫瘍、副甲状腺過形成、腫瘍)

低分化度非ホジキンリンパ腫

胸郭腫瘍(肺癌、胸腺腫、乳癌)

可能なら早期像(15分後)と後期像(2時間後)の撮像を行う。

肺癌症例、Tlでは良好なSPECT画像を得易いので肺癌に対しては有効であるが、活動性の高い炎症についても強い集積を認める場合もあるので、注意を要する。

甲状腺癌症例 左葉下極に限局する腫瘍。Tl-201で洗い出しが遅延している。

甲状腺腫瘍に対しては、Tlの洗い出し速度が良悪性判定に有効な情報である

  

腎性骨異栄養症症例、骨皮質への集積が非常に強い。次に選択されるのが副甲状腺シンチである。Tc-99m pertechnetateとTl-201を比較すると、甲状腺部の右葉下極と左葉上極に集積を認める。

副甲状腺をシンチで検出できる限界は500mg程度であり、内科的治療と外科的治療との分岐点ともほぼ一致しており、治療適応の判定に有用である。


MIBIを用いて、上縦隔に異所性副甲状腺を検出した例。副甲状腺は過形成や腺腫といった有病異所腺が多い臓器であり、10%以上にのぼるとしている論文もある。PTH高値で甲状腺部に4腺ともに副甲状腺が描出されない場合には、積極的に頸胸部の撮像も行うことが望ましい。

・骨シンチグラムを行ったさいに、腫瘍や転移巣を描出し得る例も多数ある。

     

左)大腸癌肝転移が骨シンチで描出された。HMDPがよく集積しているが、他のモダリティ等で肉眼的に石灰化が観察されるわけではない。

右)肺癌症例。肺癌は比較的高率に描出される。肝転移(+)骨転移(-)

Tc-99m HSADを用いたRI angioによって血管腫が描出可能であった例。

副腎シンチグラム

左)teststeroneが非常に高値を示し、右副腎に高集積があり、teststerone産生腫瘍を認めた。

右)両副腎に高集積を認めた例。ACTH高値を示した。下垂体腺腫によって両副腎機能亢進に至った例である。

・MIBGについて

・MIBGは、30%の例で正常副腎にも集積が見られる。

・褐色細胞腫では、異所性のものが10%程度存在するので、局所の撮像だけではなく、広範囲の情報が必要である。

・悪性の褐色細胞腫では放射線外照射の効果が期待できない、遠隔転移のある例ではI-131 MIBGによる治療の対象となる。本邦でも治療に用いることができるようになることが望まれる。

・小児の神経芽細胞腫に対してMIBG製剤を用いる場合は、骨髄播種の状態を把握するために必ず四肢まで含めた全身像を得る必要がある。骨髄転移のある状態は骨転移があるよりも病期分類上低位であり、化学療法の内容が変わってくるので、重要な情報である。

・Tc-99mDTPA

主な対象疾患はレックリングハウゼン病をはじめとした神経系腫瘍である。集積機序の詳細は解明されていない。

写真では、溶骨が認められる部位に、よく集積している。腹部にも集積がある。

   

・Tc-99mDMSA(5価)

通常のDMSAは3価であるが、標識操作時にNaHCO3(一般名:メイロン)を少量添加することによって5価のDMSAを容易に得ることができる。これは、甲状腺髄様癌、各種軟部腫瘍および前立腺癌の転移巣の診断に有用であると報告されている。症例は群馬大のものを紹介する。3価と5価の違いが明瞭である。

・良悪性の判定

悪性疾患そのものの診断だけでなく、良性疾患を良性であると診断することによって、悪性疾患を否定できる例もある。

CTにて肝右葉に大きい腫瘤様病変を認める。Tc-99m phytateを用いたSPECTではSOLは無く、ほぼ正常な集積を示している。結果は、正常肝組織の過形成であった。、わずかに高集積を認める例もある。

2.腫瘍の進展の把握・予想、

核医学検査にとって、腫瘍の進展について把握することは重要な役割のひとつである。

・骨シンチグラムは、本来血流と代謝の状態を観察している検査であり、転移巣そのものを見ているものではない。転移巣であっても、欠損として描出されるものもあることを再認識する必要がある。

直腸癌骨転移症例:完全な欠損像として描出されている。

・肺癌症例:右副腎、傍大動脈LNに転移を認める。臨床的には腎静脈狭窄が疑われ、腫瘍侵潤を確認するためにMAG腎動態シンチグラムを施行。右腎描出が遅れ、排泄が遅れている。尿細管疾患では片側性ということは無い。また、本例は腹部膨満等によりエコー上で確認できず、腎機能低下により造影剤使用も不可能であった。レノグラム所見については、尿細管疾患では片側性ということは無く、腎静脈への腫瘍侵潤・腫瘍塞栓を間接的に証明し得た例である。その後のフォローアップで施行したTc-99m MAAを用いたRIvenogramでは、腫瘍による下大静脈の完全閉塞が認められ、側副血行路の一部が門脈を経由しているために肝も描出されている。

・腫瘍の進展の把握・予想では今ホットな話題でもあるSentinel Node Lymphoscintigraphyについて臨床経験を加えながら触れる。

乳癌や悪性黒色腫といったリンパ行性の転移を示す疾患で、ステージングが低い段階のとき、リンパ節に非常に微細な転移(micro metastasis)があるのかどうかをはっきりさせたいときに行う。これによって、リンパ節郭清の必要性を判定する。これは、腫瘍の早期発見が可能となった現在、必要とされてきた手技である。

・Tc-99mを標識した化合物を使用する。パーティクルサイズは50〜200nm程度が適当である。

これを間質に注射すると、リンパ管内を流れてリンパ節に到達する。viableなリンパ節組織が残存している場合には集積するが、完全に腫瘍組織に置換されているような場合には集積は認められない。最適なinjection siteに関しては、皮下、腫瘍内および腫瘍辺円部などが推奨されているが、確立されていない。

パーティクルサイズの違いによって、描出されるリンパ節の数は変化し、小さすぎるとリンパ管を通過して流れてしまい、リンパ節に取り込まれない。

注射した後は動態観察し、流れを追って皮膚ペンで体表にマーキングしていき、最後に静態撮像を行う。過去の臨床経験上、多用されている色素注入法では、局所切開時に染色されているリンパ節を郭清すれば良かったが、本法では、小型の検出器を用いる。手術のさい、より有用な情報を得るためには色素との同時注入を行うと良い。術前にシンチグラフィにより体外から検査をし、術中は小型プローブで検索して染色されている組織を目視で確認して郭清することが可能となる。sentinel nodeを1個だけで病理評価するだけでなく、2〜3個程度先のnodeまで確認することがbetterであろう。郭清後の病理評価では、術中迅速病理はflozenだけでなく、染色を行うべきである。flozenでは、micro meta.の検出率は56%(染色でも74%)にすぎず、本法で目的としているのは、あくまでも肉眼的に転移が確認できるnodeではなく、micro metastasisであることを認識する必要がある。病理結果によってfalse negativeが増えることは望ましいことではなく、染色法を用いて正診率を上げることが必要であり、2期的な手術になることもやむを得ないかもしれない。

・体幹部メラノーマ症例

以前は、Suppy's lineによる体幹部の責任リンパ節として分類されていたが、実際には多くのバリエーションが認められる。また、メラノーマでは、厚さが病期分類で重要となる。厚さ1.5mm以下のstage1症例の内37%もの割合でmicro metastasisが認められるとする報告があり、臨床的stage1症例でも20〜25%もあると報告されている。なおかつ、体幹部悪性黒色腫においてSuppey's line分類による責任領域以外への転移は45〜70%もあるとされている。従って、sentinel nodeの評価が重要になる。

 

体幹部悪性黒色腫局所切除術後に、術痕周囲にアンチモニーコロイドを注射

腫瘍は体幹部中心寄りにあったが、上方腋窩と鼠径部へリンパ流が認められた。

腫瘍はSuppey's line近くにあったが、リンパ流は上方へ伸びた例

3.疾患及び治療の身体への影響の評価

 疾患及び治療の身体への影響の評価ではドナー登録が進み骨髄移植の伸びと共に慢性移植片対宿主疾患が問題となってきている。特に予後を決定するBronchiolitis obliteransは以前は開胸生検でしか診断出来なかったものが、肺換気及びエロソルシンチグラフィを用いることにより容易に診断し得た症例について供覧する。

ALL症例 19yo.Female

HLA適合の非同胞から骨髄提供を受けた。後にGVHDが発症。呼吸困難が強くなった。胸部写真で過換気の傾向である。同時期のCT像では、わずかに間質が強調されていたが、有意ではなかった。

肺換気血流シンチグラムでは、経時的に換気欠損と血流欠損が共に観察されるようになってきている。クリプトンbolus吸入法による肺の硬さにたいする評価では、高肺気量位で多発欠損が認められる。

Tc-99m DTPA肺胞上皮透過性シンチグラムでは、間質性障害を反映して洗い出しが早くなっていることがわかる。

Xe-133 gas換気シンチグラムでは、初期吸入相での欠損の他、洗い出しが遅延している。

4.核医学領域の治療

 核医学領域の治療ではI-131に加えSr-89の経験について述べる。

現在では、 NaI(I-131)を用いた甲状腺癌とくに転移巣に対する治療だけが行われている。

濾胞癌症例Tl-201と骨シンチグラムで胸骨柄に転移が認められる。1回目のI-131治療で、甲状腺全摘後の甲状腺床が観察される。症状は軽快したが胸骨体にも転移があり、Iが取りこまれている。

甲状腺癌肺転移症例

肺野に粟を蒔いたように陰影が観察される。その小さな一つひとつが全て肺転移である。Iで肺、鎖骨上窩のリンパ節および頸部リンパ節にも転移が観察される。

Sr-81

病変部での有効半減期は50日、正常部位では14日で骨転移に対する特異性が極めて高い薬剤である。悪性新生物の骨転移による疼痛緩和治療に使用する。

治験経験

pure β emitterであり、ガンマカメラでの直接イメージングは不可能であるが、制動放射線に着目して撮像を行った。

甲状腺癌骨転移症例:著効があり、治療後3年にわたって無症状で経過した。

前立腺癌多発転移症例Srの取り込みも良好であったが、薬効は無かった。

病理解剖時の骨標本を計測した結果薬用量に関しては、治療効果に差が認められた。日本人の体型では、体重あたりの用量が効果に大きな差をもたらす可能性がある。

今後、核医学領域での様々な治療薬が開発されてくるであろう。標識化合物によってうまく標的容積内にRIが運ばれたとしても、必ずしも治療効果があるわけでは無いことを認識しておく方が良い。従来、放射線外照射治療の領域で存在したジレンマに、核医学領域も直面する時代である。

(内山先生の講演をダイジェストしたものです。写真はVTR記録から取り込んだ物であり、不鮮明になる傾向があります。講演者の校正は受けておりません。   文責:平瀬 清)