末梢循環の核医学検査

東京慈恵会医科大学付属病院 放射線医学講座 森 豊 先生

はじめに
脳血流や心臓は現在、核医学検査の花形でありますが、本日お話する内容は、まさに末梢のお話です。人間が歩く行為など手足の末梢血流の話しでありますが、手足がむくむという事についてもお話させて頂きます。



核医学的手法による末梢循環の評価方法

1)RN(RI) angiography(99mTc-RBC, 99mTc-HAS,99mTc-HAS-D)
上記のようなテクネシウムに標識した、血管腔内にとどまるRI製剤を使って、早期の動脈相や静脈相、さらにその後、血液のプール画像を得ます。

2)RN-Plethysmography
足や手の血流を定量する方法 99mTc-MAA動脈法
通常MAAは、肺血流シンチグラフィー使われていますが慈恵医大では、大腿動脈に注入して下肢の血流分布を調べる事に利用しています。

3)133Xe Clearance法
ラッセンの式を使い、皮膚や筋肉等、局所の血流量を測定できます。

4)RN-venography(99mTc-MAA)Lympho scintigraphy(99mTc-HAS-D)
下肢のむくみに対して、その原因がリンパ性なのか静脈性のものかを鑑別するために利用されます。



RN(RI) angiography

総腸骨動脈分岐部の閉塞で、1秒1フレームで撮影したものです。コラテラールが両側性に発達しているのがわかり、その後、大腿動脈の末梢が見えてきています。

 

 

 

 

 

こちらは、左片側のみコラテラールが発達した症例です。

この症例で関心領域を設定し、タイムアクティビティーカーブを調べたのが左下の図です。

このカーブを調べることで、どの程度の血流が流れているかが判別できます、ピークが遅れてあがってくればコラテラールの発達がわかり、ピークが上がってこなければ完全閉塞であることが解ります。但しこの方法では、膝下動脈より下部は、アクティビティーが低く判別しにくい、そのため慈恵では、RN-Plethysmographyよる検査を行っています。

RN-Plethysmography
左記はRN-Plethysmography 撮影時の写真です。

下肢にマンシェットを巻き、圧力がない状態、静脈圧(50mmhg)で圧迫した状態、動脈(200mmhg)で圧迫した状態、それぞれのアクテビティの変化率から計算式により下肢の血流量を算出する。

上記の計算式により定量的に血流量を測ることが出来る。

マンシェットを加圧するときに手動で行うと、加圧に時間がかかり、圧の変更点がぼやけてしまうため、写真のような機器を開発して使用しています。

正常例

静脈圧 動脈圧

左の図画が静脈圧(50mmhg)で、右の図は動脈圧(200mmhg)でreactive hyperremiaを作って、圧迫した状態で下腿のタイムアクティビティーカーブを作成したものです。圧の変更点からアクティビティの単位時間当たりのアクティビティ変化(傾き)を読み取り、そのデータより、血流量を計算します。安静時では、3.00以上が正常です。

 症例1










上記症例は、右の動脈の軽度狭窄、左の閉塞症例です、タイムアクティビティーカーブより左の血流がコラテラールを経由して遅れてピークがある事が分かります。

静脈圧 動脈圧
右は、反応性充血(reactive hyperemia)で改善しているが左については、0.75で改善していない、つまり、中枢側の動脈の狭窄が末梢の血流に影響している症例です。


症例2

中枢動脈で両側性に、強度の狭窄がある症例です。やはり、コラテラールが発達しています。

静脈圧 動脈圧
安静時の血流量は、2.5前後であり、hyperremia時でも2.6前後で血流量に変化がないことから、下腿の血流量に予備能のほとんど無い症例です。

症例3


両側性に狭窄が有り、画像上から、右が強度の狭窄で、左が軽度の狭窄です。また、コラテラールも両側性に見えています。

静脈圧 動脈圧
この症例は、症例1と違い、狭窄の強度の高い右の血流量が多く、中枢血管の狭窄強度より、コラテラールの影響が下腿の血流量を左右している症例です。


症例 (Hemangioma)

HemangiomaをRI angiographyで撮影した場合、X線angiographyと違い、動脈相では描出されず、静注後1時間程度たってから撮影した、Pool imageで描出されることが有ります。



33Xe Clearance法

生理食塩水とともに133Xeを静注し、133Xeの洗い出し時間よりT1/2を測り、分配係数から、血流量を計算する検査です。(ラッセンの式)



左図は、右が足を暖めた場合、左が通常の状態で、横軸に133Xe Clearance法で求めた筋肉の血流量、縦軸はAdmittans Plethysmographyによる血流量です。

足を暖めることでAdmittans Plethysmographyの血流量が増えているのが分かります。これは暖めることによって皮膚表面の血管が開く皮膚のラジエター効果によるものです。133Xeで測定した筋肉の血流量は増加しておりません。


99mTc-MAA動脈法

MAAは、本来、肺の梗塞を調べる薬剤でありますが、下肢動脈から注入することにより末梢でMAAがトラップされて、下肢の血流分布を調べることが出来ます。また、最終的にMAAは、肺でトラップされるため、下肢のシャントを調べることが出来ます。


このMAAを動注する時には、血流と逆行性に注入することが肝要であります。なぜならば順行性に注入すると、血管壁に沿って偏った状態でRIが分布してしまい下肢全体に均等にRIが分布されないためです。

ボーラスでRIが注入されるため膝下動脈も非常にクリアに描出され、コラテラールについても同様に描出されます。

シャント率の計算は、左記のように、肺のカウントを肺+下肢のカウントで除したものになります。左右別々に動注しますので、片側毎に、肺を含めた全身のカウントを取り、反対側動注時には、前のカウントを差し引くことで、左右別々にシャント率を計算できます。正常な場合のシャント率は2パーセント以下です。

正常な場合の分布は、左図_左のように、筋肉が描出されます。
糖尿病のように皮膚の血管が開いたり、潰瘍などがあると左図_右のように皮膚や潰瘍部分が描出されます。また、サルコージョイントと呼ばれる、神経障害にる膝の障害部分も描出されます。

左図は、皮膚のラジエター効果を検証するために行ったもので、足を暖めることで、MAAが筋肉ではなく、皮膚表面を描出しています。

正常例 糖尿病

正常例の筋肉の集積に比べ、糖尿病症例では、自律神経障害が進み、交感神経機能が障害されてくると、皮膚表面や壊疽部分の描出され、さらに、シャント率が10パーセント以上に高くなり、肺の描出が著明です。

壊疽が発生しそうな部分を判定できないかと、検査をした症例で、撮影の段階では、正常だった左足に集積があり、その後、RI集積個所に壊疽が発生した症例です。右はその時の動脈相の画像で左足の画像は、はっきりと皮膚表面でトラップされなかったMAAが静脈に戻っていくのが描出されています。



症例(ウェルナー症候群)

糖尿病を合併しているウェルナー症候群(インポテンツ、早老:早く年老いてしまう)の三十代の男性で、サルコージョイントの右膝部分にMAAの集積がみられる、また、右図は下肢の動脈相の画像であり、膝の集積が良く分かります。



症例(バージャー病)

バージャー病(血栓性動静脈の閉塞を起こす)のため、左側の腰部交換神経節ブロックをおこなったため、糖尿病と同じような状態のMAAの集積がみられます。


文責 : 梅沢 千章
注)本文中の図表は森先生の御講演内容をVTR記録したものから引用しています。


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