第280回定例会記録

 ─内分泌シリーズ─

「副甲状腺について」

東京慈恵会医科大学附属病院放射線部  平瀬 清  

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はじめに

 副甲状腺は、全てのほ乳類,両生類および鳥類が持ち、魚類にはない。魚類は、鰓後体(さいごたい)とよばれる臓器を持ち、そこにはカルシトニン分泌機能がある。これは、水中に豊富に存在するミネラルを直接体内に取入れ可能であるためと考えられている。鮭のような河川遡上型の魚では、水中のミネラルが少ない河川上流への遡上とともに鰓後体組織上皮の一部が発達して副甲状腺に近い機能を持つことが知られている。これらのことから、古代生物が進化の過程で地上にあがるさいに、体を支持するための骨格と、そこに貯蔵されているカルシウムを利用するための副甲状腺を獲得して、造骨と破骨のサイクルの均衡が保たれるようになったとする説もある。

 カルシウムは原子番号20の金属元素である。人体におけるカルシウムは体重の約2%とされ、99%以上が骨にあり血中には約0.03%存在し、残りは細胞内に分布する。濃度差としては約10-4倍に保たれている。体内においてはイオンとして、カルシウムイオンチャンネルをとおして細胞の活性化刺激として利用されている。その役割は、発生,細胞分裂の促進,骨格筋の収縮刺激(アクチン,ミオシン制御),神経伝達(ACh放出促進),心筋興奮収縮,平滑筋の収縮,境界膜(損傷心筋細胞),トロンボプラスチン(」・ィ因子),免疫,フィブリンhard clot生成(ォ因子),インスリン分泌促進,細胞膜物質透過性の安定や細胞膜電位安定といったものがあげられ、生命維持に欠くことのできないものである。

 副甲状腺は、重要な役割を担っており上位支配を受けない臓器であることから、「副甲状腺・傍甲状腺などと呼ぶのは失礼である。上皮小体と呼んだ方がふさわしい。」と言う専門医もいる。

解剖

 副甲状腺は甲状腺の裏側にあり、通常は左右上下極に位置し4腺からなる臓器である。正常副甲状腺は、1腺が米粒大以下である。甲状腺組織の一部が主腺から離れて存在しているものと考えられているが、組織型は異なる。上縦隔内胸腺近傍に異所性副甲状腺として存在することもある。

生理機能

 機能としては、副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌をつかさどる。副甲状腺は血中カルシウム濃度の直接フィードバックをうけてPTHを分泌し、上位ホルモンの支配は受けない。

PTHの作用としては、

・破骨を促進して血中カルシウム濃度を維持すること

・腎尿細管からのカルシウム再吸収を促進すること

・腎におけるビタミンD水酸化を促進すること

があげられ、活性ビタミンDと協力関係にあって血中カルシウム濃度を維持している。また、甲状腺から分泌されるカルシトニンの作用(造骨促進)と拮抗する。

副甲状腺の疾患

 副甲状腺の主な疾患としては、原発性副甲状腺機能亢進症・続発性副甲状腺機能亢進症・副甲状腺腫瘍(良性・悪性)や副甲状腺機能低下症をあげることができる。副甲状腺機能亢進症の病型分類としては、顕性型(骨病変型・腎結石型)および不顕性型に分類される。頚部触診にはじまり、採血でPTH,Ca,P,Al-Pなどの定量を行う。PTHついては、分解残渣の測定であったために血中半減期の影響で不安定な傾向があったが、現在ではIRMA法で、N末端とC末端を認識する2種類の抗体によって分子全体を認識するintact-PTH(正常値10-50pg/ml)を測定し、安定した結果が得られる。腎障害を合併する症例にも有効である。

さらに、部位診断としてUS,CTや核医学検査などが行われる。不顕性型については内科治療とともに経過観察とされるが、顕性型については多くの場合で手術を行う。

部位診断として有用なUSによる描出例(一般に、500J以上の副甲状腺の見落としは無い )

副甲状腺機能亢進症における診断から治療までの一般的な流れ

副甲状腺機能亢進症内科治療の選択肢

食餌指導 電解質コントロール Ca剤投与 活性ビタミンD投与

カルシトニン剤投与 エストロゲン投与

副甲状腺疾患外科的治療の選択肢

・原発性副甲状腺機能亢進症

1)腺腫 adenoma

腺腫の摘除,他腺が正常である(腫大していない)ことの確認(生検)

   手術写真1,2,3 (血の嫌いな方は見ないで下さい。)

2)過形成 hyperplasia

a.亜全摘(3腺+1/2〜3/4腺摘除)

b.全摘+自家移植術(20〜50mgを細切し筋内へ)

3)癌 carcinoma

患側の甲状腺腺葉切除,周辺組織を含めたen bloc切除,リンパ節廓清

・続発性副甲状腺機能亢進症

全摘+自家移植術(20〜50mgを細切し筋内へ)

亜全摘術(残置量20〜50mg)

・非機能性副甲状腺嚢腫

嚢腫摘除

核医学検査

 従来、核医学検査における副甲状腺の検査はTl-201 ClとTc-99m によるイメージングで行われてきた。Tl-201 Clは、甲状腺と同様に腫大した副甲状腺へも血流を反映して集積する。同部位において甲状腺だけに集積するTc-99m -pertechnetateを用いた撮像を行うことによって副甲状腺への集積を鑑別する。これにはサブトラクション処理も多用されてきた。局在診断としては、1000J以下の副甲状腺には無力で、それ以上の重量があっても描出率は60〜70%にとどまるとする報告もある。

続発性副甲状腺機能亢進症の例

左)53yo.female人工透析導入後10yr. Intact-PTH 1900右上2.32g右下1.78g左上1.47g

右)48yo.male 人工透析導入後9yr. Intact-PTH1100右下0.18g左上0.69g左下0.24g

 近年、心筋血流製剤として発売されたTc-99m -MIBIを用いた副甲状腺シンチグラフィについても、欧米や本邦でも多数の報告がある。

 Tc-99m -MIBIは甲状腺同様に腫大した副甲状腺にも良好な集積を示すが、2時間程度の後期像を撮像したときに洗出しが甲状腺より遅い傾向がある。Tc-99m -MIBIによる検査とTl-201 Clとpertechnetate(Tc-99m )による検査の両方を実施した症例において行われた検討では、一般にTc-99m -MIBIの方が10〜20%程度良好な病変検出率を示している。Tc-99m -MIBIによる描出感度と摘出副甲状腺重量の相関において、病変検出限界は500Jから1000J付近にあると考えられたが、約200Jの病変も検出し得た例もあり、病変検出率の向上が期待される。また、Tc-99m -MIBIを用いた場合には明瞭なSPECT撮像を容易に行えることから、異所性副甲状腺の検索に有用であると考えられる。

まとめ

 核医学検査はコストが高いという事や、放射線被ばくを伴わないUS検査においては約500J以上の副甲状腺は確実に描出可能であることなど、他のモダリティを用いた検査を含めて検査の最適化を心がけていく必要があると考えられる。