会 長 挨 拶
日本組織適合性学会会長
東京医科歯科大学難治疾患研究所
木村彰方
日本組織適合性学会は1991年に組織適合性研究会を母体として設立されました。これは、第11回国際HLAワークショップ&カンファレンスが辻公美先生、相沢幹先生、笹月健彦先生の3名が会長となって日本(横浜)で開催されるにあたり、わが国における組織適合性研究者の結束を強め、さらなる発展を期すことでもありました。
以来17年間の学会活動は、組織適合性に関連する学理と応用を目的として進められ、組織適合性関連タンパク・遺伝子の構造・機能の多様性に関する基礎生命科学研究と臨床応用研究の進展をもたらしています。また、組織適合性検査の精度管理を目的としたQCワークショップ事業は、組織適合検査技術者および組織適合性指導者の認定制度の設立に至っています。
組織適合性をめぐる基礎生命科学研究および臨床応用研究はこの数年で大きく進歩しました。ヒトゲノムの完全配列が決定されたこと、ヒトゲノムの多様性データベースが充実したこと、ヒトゲノム多様性を指標にした大規模疾患関連解析が実施されたこと、ゲノム多様性分布を用いて人類集団の遺伝学的関連や移住が明らかにされつつあること、HLA分子がT細胞レセプターのリガンドであるのみならずNKレセプターのリガンドともなること、ヒト以外の種の全ゲノム配列決定を受けての比較ゲノム解析からHLA領域の進化学的構成が解明されつつあることなどは基礎生命科学領域におけるトピックスと言えます。一方、移植医療におけるアロ抗体の臨床的意義が再注目されていること、造血幹細胞移植におけるHLAマッチングの意義がより詳細に検討されたこと、またHLA以外の分子における遺伝的多型性の移植医療への応用展開が図られていることなどは組織適合性研究の臨床医学領域への応用面でのトピックスとなっています。
最近、iPS細胞が生命科学におけるブレークスルーとしてクローズアップされています。自己体細胞から種々の細胞へ分化する幹細胞が作れるとなると、理論的には免疫系による拒絶反応を回避出来ると考えられ、今後の医療への期待が大きく膨らんでいます。しかしながら、今後の研究と技術開発によって目的とする細胞が作れたとしても、それを用いた細胞移植の実現までには多くのステップを経る必要がありますし、臓器移植に用いられるような器官・臓器の形成に至るにはさらなる研究と技術開発が必要です。もちろん、自己由来の細胞や臓器が出来たとしても、体外で作製した細胞や臓器を保存し、移植するには、現在行われている移植医療に伴う研究開発や技術応用が必要になると思われます。その意味で、現実的な対応である血縁もしくは非血縁者からの細胞移植、臓器移植をテーマとした基礎・応用研究はさらなる発展が必要であると言えます。
基礎生命科学から臨床応用医学までの広い領域に関連する組織適合性研究領域は今後ともますます進展すべき領域であり、日本組織適合性学会としても、会員の皆様と一丸となってさらに研究に邁進し、新たな研究情報をわが国から世界に発信して行く所存ですので、よろしくお願いします。