地方巡業で,ベテラン医師から,よく目から鱗が落ちるとお褒め頂き,どうしてそんな説明ができるのかと不思議がられるが,なあに,大した仕掛けなんぞあるわけがない.自分の経験をそのまま話しているだけだ.
私の目の鱗が落ちるのは,学生から素朴な質問を受けた時だ.
何でもいいから,質問してくださいと促したら,すかさず,”池田先生の失敗談を教えてください”と言われて,”山ほどある失敗の中から,どれを話そうか,話すのなら,一番大きな失敗から話すのが効率いいよな.ただの医者じゃない人間にとって,一番大きな失敗って・・・そうだ,医者になったこと自体が一番大きな失敗じゃないのか!!” ってな具合だ.この質問から,各地で大好評の,医師のキャリアパス危機管理の話が生まれた.
年を取ると,目には鱗,耳には苔,脳にはカビが生えてくる.徐々に生えてくるし,目や耳や脳に生えたカビは自分には見えない.これらの鱗だの苔だのカビだのは,通常,先入観,偏見,バイアス,フィルターなどと呼ばれている.同じ年配,あるいは年上の人間だと,自分にも生えていて当たり前になっているから,変なものが生えていると,私には言ってくれない.
しかし,若い人の目には鱗がついていないし,耳にも苔が生えていないし,脳にもカビは生えていない.だから,彼らから発する質問で,自分の目に鱗がついていなかった頃,耳に苔が生えていなかった頃,脳にカビは生えていなかった頃が蘇る.それが,目から鱗が落ちる瞬間だ.学生,研修医が大事なお客さんだというのはそういう理由だ.