日本脳炎の類縁疾患であるウェストナイル脳炎(固有名詞だから,西ナイルという言い方は正しくないのだそうだ)が米国で毎年夏流行するようになった.このウイルスはどうやら米国本土にも住み着いてしまったらしい.原因不明の脳炎は内科医がよくお目にかかる病気だから,日本でも頭の隅に置いておいたほうがいいだろう.
最近の総説は下記がよい
John T. Watson and others. Clinical Characteristics and Functional
Outcomes of West Nile Fever. Ann Intern Med 2004;141 360-365
Gea-Banacloche J. West NIle Virus: Pathogenesis and therapeutic opions.
Ann Intern Med 2004;140: 545-553.
●最初に見つかったのはウガンダだが,熱帯の病気ではない.温帯の病気である.中東,ルーマニア,ロシアでもこれまで流行が確認されている.米国では1999年にニューヨークで見つかったが,それ以降も流行地がどんどん拡大して,南部はルイジアナ,テキサスまで,北部はウィスコンシン,西部はアイオワ,ミズーリまで広がっている.
●鳥もやられる:ニューヨークの流行の前には,カラスが大量に死亡しているのが目撃されている.したがって,鳥の大量死は本症流行の前兆である可能性がある.
ニューヨークにこのウイルスが入ってきた経路は明らかでないが,輸入あるいは密輸された鳥が運んできた可能性がある.だからペットブームの昨今,日本でも流行する可能性は十分あるだろう.カラスの死体に注意か??
●患者の年令の中央値は71歳と高齢者に多い.また死亡例も高齢者に多い.死亡率は 12%.50歳を超えると死亡率が著しく高くなる.
●しかし,重篤な神経合併症を起こすのは1%以下(患者150人に一人が髄膜炎,脳炎を起こす).裏を返せば,血清学的検査で初めて判明する軽症例が非常に多いということ.風邪で済んで医者に来ない人も多いと推測されている.
●人ー人感染は起こらない.人ー人感染が蚊によって媒介されることはない.
●確定診断は血清のIg-M抗体価の上昇.発症後7日後までにはほぼ全例が検査陽性となる.髄液所見や画像診断で特異的な所見はない.RT-PCRによるRNA定量法の感度は低いので実用的ではない.ウイルス分離も同様に感度が低い.
●潜伏期間は3−14日.臨床症状では,四肢筋力の低下,腱反射の消失といった末梢性の運動神経麻痺の症状が高率に合併する.27 %に筋力低下, 32%で腱反射消失, 10 %で ギランバレー症候群類似のびまん性,弛緩性麻痺が見られたたという.これは他の脳炎では見られない特徴である.電気生理学的には多発性軸索神経障害されていたが,その本体は前角細胞を冒すポリオと同様らしいので,義欄・バレー症候群の治療は不適切とされている.
●有効なワクチンはまだ開発されていない.
以下はちょっと以前の文献
Petersen LR and others. Outlook: West Nile Virus Encephalitis. N Engl J Med 2002;347:1225
L.R. Petersen and A.A. Marfin. West Nile Virus: A Primer for the Clinician. Ann Intern Med 2002;137:173-9
D. Nash and Others. The Outbreak of West Nile Virus Infection in the New York City Area in 1999. NEJM 2001;344:1807-1814
K. L. Tyler. West Nile Virus Encephalitis in America. NEJM 344:1858-1859
Mostashari F and others. Epidemic West Nile encephalitis,New York, 1999: results of a household-based seroepidemiological surevey. Lancet 2001;358:261-64