2002年のワールドカップでは,御存知のようにスコットランドは出場できなかった.では,Scotsは,ワールドカップ期間中はどうしていたのか,次のニューズレターが興味あるところを示している.
Rampant Scotland Newsletter - Issue Number 268, dated 1 June 2002.
A recent survey has shown that while 52% of Scots will supportIreland in their World Cup games, only18% of Scots would supportEngland - while 53% said they didn't care who won.
やはり,見ないわけにはいかないという人が半分いた.その中でもアイルランドを応援するのはよくわかるが,イングランドを応援する奴が2割もいたのには驚いた.この調査が偏っているわけではなく,25%,実に4人に一人がイングランドを応援するという結果を出している調査もあった.
この驚くべき数字についていくつか理由を考えてみた.
一口にScotsといっても,いろいろな背景を持った人々の集まりがある.全てがイングランドに対して,反感をあらわにするわけではない.ウチが出られなかったのだから,偉そうなことは言えない.イングランドが出れば,応援してやろうじゃないかといった鷹揚な態度を示せる人もいるのだろう.
また,対戦相手にもよるだろう.例えば,イングランド対ポルトガルなら,試合を見る人の恐らく全員がポルトガルを応援するだろう.これがイングランド対ドイツ,そして,注目のイングランド対アルゼンチンとなると,”勝手にやれ.自分はそんな暇じゃない”と(意地を張って)テレビからそっぽを向く人と,やっぱりどうしても見てしまう人が出てくる.どうしても見てしまう人は,ドイツやアルゼンチンを応援する気にはとてもならないから,どっちかと言われれば大多数の人がイングランドを応援するだろう.この私でさえ,ボールではなく,人間を踏んだり蹴ったりする方が得意な一方,何もされていないのに一人で転んで痛い痛いとぎゃあぎゃあわめくアルゼンチンの選手を見ていると,この時ばかりはイングランドを応援してしまう.でも彼らが一次リーグを突破できずに意気消沈して帰る様子を見た時はさすがにかわいそうに思えた.
さらに,選手個人に対する感情が加わる.間延びした赤十字を顔に書いて喜んでいる日本人を,テレビの前でさんざんに罵っているこの私でさえ,ベッカムの右足から出てくるボールの正確さを見ると素直に驚く.
そういったでこぼこを平均すると,2割という,一見すると驚くような数字が結果的に出てくるのではないかと思う.あるいは次のような表現をすればわかりやすいだろう.一人の人間の中で,スコットランドが出場しさえしてくれれば,気持ちの10割がスコットランドを応援する.しかし,現実には我がチームは出られなかった.この10割の空白をどう埋めればいいのか.そのうちの2割ぐらいはイングランドにくれてやっても,まあいいか.
conflict(争い,闘争)を通して,単に憎悪ばかりでなく,しばしば奇妙な親近感が形成される.これは個人の間ばかりでなく,国家間でも生じるようだ.かつて鬼畜と呼んだ敵国に対する戦後の日本人の盲目的とも思えるような崇拝は言うまでもなく.ワールドカップに限っても,インドネシアでは,かつて植民地支配をしたオランダを応援する人が圧倒的に多いのだとか.インドネシアは今回は日本を応援してくれるのかな?フィリピンが応援するのは米国かな.日本には見向きもしてくれないのかな.また,日本対ロシア戦であれば,日本を応援してくれる韓国人が半分以上いてもおかしくない
と思うのだが,どうだろう.さらに,ベトナムは米国チームの試合の時,対戦相手を応援するのだろうか.それとも米国かな.非常に興味がある.
悪い記憶は消せないけれど,一方で寛容な自分を見つけて安心したい.そういう面が誰にでもあるのでは,と思う.そう,寛容と言えば,薬物使用歴で来日許可が下りなかったマラドーナが,特別の計らいで来日し,決勝を観戦した後の記者会見でのコメントがふるっていた.
――入国をめぐる日本政府の対応について。
「ばかげている。日本に原爆を落とした米国人や、ペルーで人々を傷つけたフジモリ(元大統領)は自由に東京を歩いているのに」
日本政府は,寛容だと誉めてもらいたかったのかも知れないが,やはり彼は悪ガキ,ディエゴだった.