有効期限3倍(そして価格は5.5倍)のマジック
(2023/9/20追記:以下、2018年時点の情報ですが、その後、シングリックスのハードエビデンスが出たという話は寡聞にして存じません)
帯状疱疹ワクチン「シングリックス」(GSK)は従来の水痘(水疱瘡)生ワクチンと比べて,その発症予防抑制率の高さが評価された結果,従来のワクチンが8000円なのに対し,シングリックスが44000円(1回22000円で2回必要)と5.5倍の価格になっている。それもワクチンだから保険が効かない。ここまで高いと本当にそれだけの価値があるのかどうか,誰もが知りたいと思うだろう。
私も実際に知りたいと思って,検索ボックスに単に「シングリックス」と入れたところ,添付文書のような公式文書以外でトップに出てきた。「帯状疱疹や帯状疱疹ワクチン【シングリックスョ】について」という,修飾語句のない平凡なタイトルのページ。開業医の方のページなのだが,目次も内容も中立的なので,ここをチェック。そこで目に付いたのが,従来型の乾燥弱毒生水痘ワクチンとシングリックスとの有効性の比較だった。
従来型=水痘生ワクチンでは
●帯状疱疹の発生率が51.3%減少、帯状疱疹後神経痛の発生率も66.5%減少。帯状疱疹の重症度も61.1%低下
●しかし、帯状疱疹予防効果は接種後3〜11年で予防効果が減弱する
一方,効能効果が(水痘ではなく)帯状疱疹であるシングリックスでは
●帯状疱疹予防効果は50歳以上で97.2%(Lal H. et al. N Engl J Med. 2015;372:2087)、70歳以上でも89.8%(Cunningham AL. et al. N Engl J Med. 2016;375:1019)
●発症予防効果が少なくとも9年間たっても認められている(Schwarz TF. et al. Hum Vaccin Immunother. 2018;14:1370)
と,3本の根拠論文を全て示して(うち2本がNEJM)いるシングリックスに,「さすが44000円の価値がある」と軍配を上げたいところだが,ちょっと待ってもらいたい。NEJMの論文に掲載された試験はいずれもプラセボ対照のRCTだ。つまり承認申請のためのピボタル試験。FDAの承認はその後のはず。そう思って調べてみると,やはり2017年10月20日の承認。効果が9年以上続くとした上記のSchwarzらの論文が発表されたのが翌18年の3月21日(PubMedのページにEpub 2018 Mar 21とある)。FDAの承認から5ヶ月しか経っていない!!
そこで上記のSchwarzらの論文を見に行った。すると案の定,
●12人の著者のうち5人がGSK,1人がファイザー(元GSK?)。
●その色眼鏡で図を見てみると,(おそらく開発初期から見始めた)ex vivoの免疫能(特異的T細胞の比率?)の減衰曲線(グラフの縦軸が対数になっている御愛嬌)を見ているだけだった。このex vivoの免疫能が代用エンドポイントとして帯状疱疹の予防とどれだけ密接に結びついているかは寡聞にして知らないし,調べる気もしない。おそらくトリグリセライドと心血管イベントほどの関連性もないだろう。
●当然のことながら「有効期間9年間保証」を示すリアルワールドのハードエビデンスなんか陰も形なかった。
そもそも承認時のチャンピオンデータのはずのピボタル試験であるZOSTER-006の追跡期間中央値は3.1年だ。これは添付文書にも載っている数字だから,これを示せばシングリックスも1/3に値切れるのではないか。
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