新聞が売れない理由
−危機管理を知らない記者と会社−
737MAXの墜落事故とその原因究明過程,さらにその過程を巡る報道は,メディア側の報道リテラシーと我々のメディアリテラシーの両方を試している.
下記の日経の記事は,二度も墜落事故を起こしながら,自らが事故原因であることを隠蔽したFAAとボーイングを擁護するような書きぶりである.丹念に読まないと下記の核心部分は浮かび上がって来ない.企業の提灯持ち記事しか書けない同紙の体質がここでも活かされている.日経の記事の後に引用したニューズウィーク日本版の記事と読み比べてみればすぐにわかることだ.
●2018年10月のライオンエア(インドネシア)航空機事故が起こった時点,既にFAAとボーイング,そしてフライトシミュレーターによる訓練を求めたアメリカン航空の操縦士らも事故原因を理解し,(不完全な)対策を実施していた.
●ところが,事故原因と対策の必要性を内密にして,全世界的に明確に公表しなかったため,エチオピア航空機事故が起こった.
●さらにエチオピア航空機事故の後も事故原因を公表せず,FAAもボーイングも,737MAXの運航を続けようとした.
日経ビジネスは日経新聞以上に,ボーイングとFAAに対する責任追及を誤魔化し,自動車の自動運転に問題をすり替えようとしている.記事を書いた高槻某が「複雑化するシステム」と主張した唯一の根拠は,何とトランプの戯れ言なのだ.→ボーイング737MAXが映す自動運転時代の普遍的問題
「飛行機は、飛ばす上で複雑になり過ぎた。もはやパイロットよりも米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピューターサイエンティストが必要になっている。多くの製品に同様の状況が見受けられる」
相変わらず世界中に恥を晒してやがる.問題の本質は決して「複雑」ではない!! 既に下記日経記事の4日も前に,msnは動画で問題の核心がわかりやすく紹介している.
→ Inside Edition Flight Simulator Recreates Path of Doomed Boeing 737 Max 8
オートマチックフライトシステムに問題が生じた時,その問題に対して人間がどう対処すればいいかという,危機管理の基本は,既に今を去ること四半世紀前に明らかとなっていた.(名古屋空港で中華航空140便エアバスA300-600Rが着陸に失敗炎上) 737MAXの墜落事故は,その危機管理の基本教えるためのフライトシミュレーターを含めた訓練で教えることを省略してしまったボーイングと,それを知りつつ黙認したFAAの協働による,(決して個人のヒューマンエラーではない)極めて古典的な(そしてわかりやすい)「組織ぐるみの過誤」である.決してトランプの戯言のように「飛行機は飛ばす上で複雑になり過ぎた」わけではない.(「組織ぐるみの過誤」については,医療事故裁判が隠蔽する「不都合な真実」を参照)
もちろん呆けているのは日経だけではない.全国紙の中で一番早くボーイングの問題を報じた朝日の記事は,「ボーイングは悪くない.真犯人はFAAだ」と決めつける,日経以上に呆けたフェイクニュースを立て続けに出している.これが「有料記事」だってんだから,呑気なもんだぜ.
エチオピア航空の墜落防げた? 米政府閉鎖が影響の見方 2019/3/16(ニューヨーク=江渕崇)
安全性評価、ボーイングに丸投げ? 墜落事故で新疑惑 2019/3/19 (ニューヨーク=江渕崇)
一連の記事は,医療事故報道と全く同様,肝心の記者たちが問題の本質を全く理解せずに記事を書いていることを物語っている.自分たちの書く記事が給料なり
原稿料なりを払ってくれている会社の信用に関わることを全く理解できていない.自分のキャリアパスの危機管理さえできない奴が,航空機事故の危機管理を論じるとは片腹痛い.そんな書き手を,これまた平然と雇い続けるような,危機管理が欠如した会社にも未来はない.
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ボーイング墜落事故原因、新機能の習熟不足が浮上 日本経済新聞 2019/3/20
【ニューヨーク=中山修志】米ボーイングの小型旅客機「737MAX」の墜落事故に関連し、機体を自動制御する「MCAS」と呼ぶシステムについて操縦士が十分な説明や訓練を受けていなかった可能性が浮上している。米メディアによると、同社はフライトシミュレーター訓練を提供せず、端末を用いた2時間程度の簡易訓練を実施したのみだったという。
米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、従来機種の「737NG」での飛行経験がある操縦士には737MAXのフライトシミュレーターによる訓練を不要とした。ボーイングが用意したのはタブレット端末を用いて従来モデルとの変更点を説明する2時間ほどの教材と、13ページのマニュアルだったという。新型機の導入時には通常、操縦士は実際のコックピットを模したフライトシミュレーターを使って疑似飛行訓練を受ける。だが、米連邦航空局(FAA)は737MAXを旧モデルの派生機種と認め、端末による簡易訓練で足りると認めた。アメリカン航空の操縦士らはフライトシミュレーターによる訓練を求めたが、機材やデータがそろわないなどの理由で聞き入れられなかったという。
737MAXは昨年10月のライオンエア(インドネシア)に続き、10日にはエチオピア航空が墜落。エチオピアの墜落現場から回収したブラックボックスの分析にあたったフランス航空事故調査局(BEA)は18日、「インドネシアの事故との明確な類似点が報告された」と発表した。事故原因が単純な人為ミスではなく、機体やシステムの何らかの不具合だった可能性が強まった。インドネシアの墜落事故ではMCASに用いるセンサーのデータに誤りがあり、システムが誤作動を起こした可能性が指摘されている。操作マニュアルではMCASに不具合が生じた場合は手動操縦に切り替えて運航を継続することになっていたが、操縦士が新システムの操作に習熟していなかった可能性がある。
FAAは昨年10月のインドネシアの墜落事故後、ボーイングに操作マニュアルを改定するよう求めたが、訓練内容は変えなかった。エチオピア航空の事故を受けてFAAは制御ソフトの改修を指示。操縦士の記憶に頼らない操作手順への変更を指示し、訓練要件の見直しも義務付けていた。ボーイングのデニス・ミュイレンバーグ最高経営責任者(CEO)は18日のビデオメッセージで「間もなくソフトウエアを更新して新しい訓練方法を導入する」と語った。
格安航空会社(LCC)の台頭や燃費性能に優れた小型機の便数増で、旅客機のパイロットは恒常的に不足している。新型機の受注競争では時間のかかるフライトシミュレーター訓練が必要な機種より、端末による簡易訓練で済む機種が有利とされる。習熟不足が2度の大惨事を招いたとすれば、簡易訓練を認めたFAAの安全管理が問題視される可能性もある。
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ボーイング最新鋭機はなぜ落ちたのか Boeing and FAA Face Credibility Crisis ニューズウィーク日本版2019年3月20日(水)
(記事の終わりの部分から抜粋)
737の改良には5年の月日を費やした。新式の大型エンジンを機首に近めの位置に搭載して揚力を増す。だがそれでは離陸直後に機首が上向きになり過ぎるかもしれない。失速する可能性もある。対策として作られたのがMCAS、すなわち自動的に機首を下げるシステムだ。
ところがボーイングは、737MAXが世界中で売れに売れても、このMCASのことをパイロットたちに十分に伝えようとしなかったようだ。
パイロットにとって離陸は最も難しい作業の1つだ。アメリカン航空のタヘルによれば、MCASは高度約300メートルで作動可能となる。そこで仮に機首が上がり過ぎと判定されたら、パイロットは余計に緊張を強いられる。「いろんなことに気を取られる。そこへシステムが介入する。10秒単位で、機首を下げて機体を水平にしようとする装置と闘うことになる」とタヘルは言う。またMCASが単一のセンサーに頼っていることも問題視している。
前出のゴールズが言う。「ボーイングは(737MAXの売り込みに当たり)旧型737機を操縦した経験者なら簡単な再研修で十分だと言っていた。何度もフライトシミュレーターで練習しなくていいと。だからパイロットの中には、あのシステムを理解せず、いざというときの対応も分かっていない人がいるようだ」
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参考: 医療事故裁判が隠蔽する「不都合な真実」:「組織の過誤」が,裁判によって一人の医師の過誤にすり替えられた典型的事例
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