いつもいかめしい理屈や証明を要求する神経学でも,真偽のほどを確かめようがない,しかし,多くの臨床家がおまじないのように信じている言い伝えが あったり,とても教科書には書けないが,診療に必ず役立つ知恵がある.ここではそのほんの一部を紹介しよう.
ヒトラーのパーキンソン病 タバコ TGAとRevilloid徴候 神経内科病棟における肺血 栓塞栓症 パーキンソン病の睡眠障害,慢性硬膜下血腫だけは,Adie瞳孔の見つけ方,ケロイド・ALS・SOD,サッカー選手がパーキンソン病になると,バビンスキ徴候が出 やすい疾患,中華料理店症候群,ALSにおける事前指示書,脊髄小脳変性症患者が麺類でむせる理由,パーキンソン病での下腿浮腫,パーキンソン病での体重減少,拘束せずにチューブ抜去を防ぐ知恵,パーキンソン病の病前性格,女性Wilson病患者では,神経症状の発症 より無月経が先行する,Wilson病患者は背が高い
裏道ではなく,正統派の表の道を歩きたい人は→鈴木
康弘先生の神経学関連ページへ:本格的ですから,やけどしないように.また,正統派の本格的な神経内科抄読会もあります.こちらもとても勉強にな
ります.
リチャード・ゴードン著。倉俣トーマス旭・小林武夫訳。歴史は患者でつくられる。時空出版。
Increased risk of Parkinson's disease in methamphetamine users,
○タバコを吸うための動作は,極めて複雑な多段階動作であり,どの段階が障害されてもタバコを吸う事が困難になる.
○つまり,タバコを箱から取り出し,火をつけて吸う一連の動作は,失行,上肢帯〜手内筋の筋力低下,協調運動障害のいずれによっても障害される.
○したがって,タバコを箱から取り出し,火をつけて吸う一連の動作のどの段階が障害されたかを問診することにより,病歴の特異度を高めることができる.
○さらに,タバコを箱から取り出し,火をつけて吸う一連の動作は,両手を使って行なわれるから,どちらの手が障害されても,症状が出てくる.
喫煙者が激減して,こんな問診が滅多に役立たない日が一日でも早く来ればいいのですが.
私がお世話になっている東埼玉病院レジデントのO先生への手紙から(2005/10)
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まず,ベッドサイドの失
語スクリーニングですが,F先生にも教えてあげてください.
一過性全健忘(Transient Global Amnesia:TGA)に関して,少し勉強しなおしてみました.なんとF先生がこれからいらっしゃる新潟大学の中田先生が,非常にいいお仕事をなさって
いました.これも教えてあげてください.
Nakada
T, Kwee IL, Fujii Y, Knight RT. High-field, T2 reversed MRI of the hippocampus
in transient global amnesia. Neurology. 2005 Apr 12;64(7):1170-4.
この論文のポイントは,TGAの患者さんばかりでなく,健常成人と他の脳器質的疾患を持った患者さんを対照にして,TGAの病変を評価していること です.そうしたところ,3.0テスラT2 reversed と,感度の高いMRIで検討したこともあって,称群でも3割から4割ぐらいに海馬病変は見つかったのですが,すべて片側性でした.ところが,TGA群で は,半数の患者で両側性であり,また海馬病変の形も違うし,TGA群では大きさも大きかったという結果でした.従来,TGAは,TIAの一種とされていま すが,TIAの中でも比較的予後良好のタイプとされているが,今回のように梗塞巣が明らかに示されるのだから,必ずしも予後良好とは言えないのではないか というのが,中田先生の結論です.
TGAに関する最近の論文もここから引用できるでしょう.
Barnett のStrokeという教科書の後大脳動脈の症候学の部分には,特に記銘力障害が両側性の場合と片側性の場合の違いが書いてある.やはり片側性の方 が軽くて,可逆性の要素が強いようだね.後大脳動脈領域の梗塞は,記銘力障害や地誌的失認ばかりではなくて,失読失書や色彩の失認,いろいろな形の失語な ど,多彩な高次機能障害が起こるので,難しいけれども面白い.来週,そのBarnettの教科書をそちらに持っていきますね.
次に,軽微な錐体路徴候についてですが,これは平山先生の神経症候学(神経内科の誰かは持っていますよね?)の400ページから見てください.ここ に片目閉じ試験のことや,へこみ手徴候のことが載っています.今日の私のプレゼンは間違っていましたね.へこみ手徴候を見る時は肘を曲げなくてはいけない のでした.添付したのは,右の軽い中枢性顔面神経麻痺の患者さんの写真です.左眼でのウィンクはできていますが,右目では下手なのがわかってもらえると思 います.
Revilloid徴候ですが:
> ちょっと不思議な試験ですね。
顔面の上半分の筋肉は、興奮性支配は両側性支配だけれど、抑
制性の支配は同側一側支配だとの仮説で説明がつくのではない
かと思っています。つまり、右側のウィンクでは、右の眼輪筋
の収縮(左右両側支配)と、左の眼輪筋の収縮抑制(左半球支
配)が同時に起こることが必要である。
左半球病変では、右の眼輪筋の収縮は右半球によって起こるけ
れども、左の収縮抑制は起こらないので、左の収縮も起こって
しまう→ウィンクができない。
この仮説はたまたま私が思いついただけですが。
(2005/10/19)
そういう病棟で,あるいは外来で,患者さんが呼吸困難や胸痛を訴えたら,呼吸筋の筋力低下だの,ミオパチ―による心臓の問題を考えてしまうわけだ が,肺血栓塞栓症も必ず鑑別診断に入れるべきだろうことは,誰もが納得してくれるだろうが,神経内科病棟で,脳血管障害以外の患者さんでD-dimerを 測ることはほとんどない..
パーキンソン病の睡眠障害とrestless leg syndrome,ナルコレプシー,そしてvon Economo脳炎
パーキンソン病の患者さんでは,REM睡眠の異常が高頻度に見つかり,昼間の眠気を訴える人は多い.パーキンソン病の眠気は,睡眠覚醒,REM睡眠 と関係の深い青斑核が高率に障害されることと関係があるだろう.ドパミンアゴニストによる治療で発作性の眠気が起きるのは有名だが,これが本当に薬の副作 用なのか,それとももともとのパーキンソン病の眠気が増悪するのかはよくわからない.
Scaglione C and others.REM sleep behaviour disorder in Parkinson's disease:
a questionnaire-based study.
Neurol Sci. 2005 ;25:316-21.
Santamaria J. How to evaluate excessive daytime sleepiness in Parkinson's
disease.Neurology. 2004 Oct 26;63(8 Suppl 3):S21-3.
ドパミンと睡眠で思い出すのは,Restless leg syndromeである.初めて聞く病名だと思う人のために,わかりやすい日本語の 解説がある.これにはドパミンアゴニストが効く.
睡眠障害の一つにナルコレプシーがある.ナルコレプシーの人の経過を追っていくとパーキンソン病になるというのは聞いたことがないが,ナルコレプ シーと嗅覚異常とパーキンソン病の共通基盤がalpha-synucleinopathyではないかという仮説を提案しているのが下記の論文.
Stiasny-Kolster K, Doerr Y, Moller JC, Hoffken H, Behr TM, Oertel WH,
Mayer G.Combination of 'idiopathic' REM sleep
behaviour disorder and olfactory dysfunction as possible indicator
for alpha-synucleinopathy demonstrated by dopamine
transporter FP-CIT-SPECT.Brain. 2005 Jan;128(Pt 1):126-37.
alpha-synucleinopathyの初期には舌咽神経と迷走神経背側核と嗅覚系に病変が限局するため嗅覚異常が起こり,その次には延
髄と橋被蓋部が障害されるためにREM睡眠が起き,その後ようやく中脳が障害されてパーキンソン病の障害が出るのだという.
さて,パーキンソン症候群の原因となるのは,次のうちどれかという国家試験の問題で,選択肢の中に,どういうわけか,”脳炎”がある.しかし,脳炎 の後,きれいなパーキンソン病になった例を実際に経験している神経内科医が日本中に何人いるだろうか?少なくとも私は全く経験がない.
そんなわけで,多くの神経内科医は,国家試験に出てくる,パーキンソン病の原因となる脳炎とは,von Economoの嗜眠性脳炎のことを言っていると好意的に考えている.(DR. CONSTANTIN VON ECONOMO 1876-1931).そう考えると,嗜眠とパーキンソン病というのは,古くから関係があること になる.von Economoの嗜眠性脳炎の場合には,脳幹部ではなく,後部視床下部,あるいは視床に原因が求められている(神林 崇ら.臨床神経 2005;45:824-7).なお,Economoではなく,von Economoとvonをつけるのが正しい.
慢性硬膜下血腫だけは
慢性硬膜下血腫だけは勘弁してもらいたい.正しく診断した覚えがない.原因不明の意識障害,脳血管障害,脳腫瘍,多発性硬化症,ウェルニッケ脳症,両側鬱
血乳頭との眼科からの紹介,ただのアルコール依存・・・あらゆる病気に化けて出てくる,百面相,千変万化の病気が,慢性硬膜下血腫だ.ただ,一つだけ,ヒ
ントがある.在宅や,介護施設で,高齢者の様子がどうもおかしいのだが,どこが悪いのかどうにも見当がつかない場合に,慢性硬膜下血腫を思い浮かべてもら
いたいということだ.
Adie瞳孔の見つけ方
有名な割には,私自身も1例診たか診ないかだったが、さる妙齢の女性から、動眼神経麻痺ではないかと疑った症例を相談されて、詳しく聞いたら、まさに
Adieだった。
疑うポイントは、”複視のない動眼神経麻痺???”って思うことかな.つまり,複視がないのに片側が散瞳していて、対光反射が消失しているように見 えるってこと。外眼筋の動きが保たれていて、内眼筋だけが障害されている”動眼神経麻痺”なんて、実際にはありえないはずなんだが、ほとんどの場合急性発 症だし、一生懸命所見を取って理詰めで考える医者にかかると、そう結論されて、動脈瘤を一生懸命探されちゃうんだよな。
こういう扱いを受けるAdieって結構あるのかもしれない。ちゃらんぽらんな医者だと、ただ見逃すだけなんだろうけど。ちなみに、Adie瞳孔のほ とんどは、器質的疾患が認められないから,まじめな脳神経外科医に紹介すると,一生懸命動脈瘤を探してくれて,やっぱりありませんでした,という筋書きに なる.
ケロイド・ALS・SOD
ALSの患者さんでケロイド体質の人を二度みかけたことがある.一人は家族性のALSの患者さんで,発症した人はみんなケロイド体質だった.私がこの家系
を診たときはにはまだSODの変異が見出される以前の時代だったが,その後この家系はSODの変異家系だったと風の噂で聞いた.二度目は孤発性の,典型的
なALS患者さんだった.ケロイドのキーワードに検索してもヒットせず,SODとケロイドを掛けても,1986年の日本皮膚科学会雑誌と,1984年のド
イツ語の皮膚科雑誌Hautarztにそれぞれ一つずつ論文があるだけだった.ケロイド形成では,SOD以外の要素で,何が大事なのかな,それが前角細胞
障害解明の手がかりにならないかな.
サッカー選手がパーキンソン病になると
50歳すぎまで,会社のサッカーチームでディフェンスとして活躍していた男性が,パーキンソン病になって,プレーを諦めざるを得なくなった.彼の病歴が興
味深い.初発症状が,ヘディングができなくなったというのだ.ボールを頭で打つ前に上体を後ろへ反らせることができなくなったためだが,この症状は,姿勢
反射障害そのものだ.それでも,ヘディングができななくなっただけで,まだプレーは続けていたのだが,それから半年後,攻撃の後自陣に帰るのが遅くなっ
て,ディフェンスとしてやっていけなくなったのでサッカーを止めたそうだ.
バビンスキ徴候が出やすい疾患
何と言っても,下肢対麻痺のある多発性硬化症である.非常にきれいな母指の背屈が容易に誘発できる.一方,筋萎縮性側索硬化症では,典型的なものを見る機
会の方がむしろ少ない.
中華料理店症候群
中華料理店症候群とは,味の素の主成分であるグルタミン酸がたっぷり入った料理を食べると,頭が痛くなるというやつ.稀に重症型として,けいれん,意識障
害が起こることもある.
その原因物質とされているグルタミン酸は水溶性のアミノ酸であり、容易には血液脳関門を通過しません。(一方、重度の肝機能障害の際に肝臓で処理し きれなくなった芳香族のアミノ酸は、脂溶性で容易に通過するので、肝性脳症の原因になると言われています).だからちょっとやそっとでは,脳症は起きませ ん.
さらに、グルタミン酸に関しては、脳(脊髄液)側から血液側に能動的にグルタミン酸を汲み上げるポンプ機構があって、神経細胞が高濃度のグルタミン 酸に晒されないようになっています。(血漿のグルタミン酸濃度は数十microMですが、脳脊髄液ではその十分の一以下).このポンプ装置は、高濃度のグ ルタミン酸自体が持っている神経毒性から脳を守るためにあります.(神経科学の分野では興奮毒性excitotoxicityとして大変有名な事象です し、これが、血液脳関門が障害される髄膜炎、脳血管障害やいくつかの神経変性疾患での神経細胞死の原因の一つと考えている人々もいます)。
ところが,グルタミン酸が一時的に大量に経口摂取、吸収されて、血中濃度と濃度勾配が急激に上昇すると、このポンプ機構を含めた血液脳関門が機能不 全に陥り(血液から脳内に入ってくるというより、汲み出しが低下するため)、脳内のグルタミン酸濃度が上昇するのではないかと私は考えています。
この血液脳関門の仕組みは小児で発達が悪いため、中華料理店症候群も、小児で、より高頻度、より重症となりやすいとも言われています。中華料理店症 候群は白人の症例が圧倒的に多いようですし,日本でも子供に中華料理を食べさせないという風習はありませんが,グルタミン酸に対する血液脳関門の防御機構 に人種差があるかについては,よく知りません??でもきちんとした疫学調査が困難であろうことは容易に想像できますね。また片頭痛との関連についても、文 献を探せば出てくるのかもしれませんが、私は知りません。
ALSにおける事前指示書
最近,同僚が経験したケースです.57歳男性,進行性球麻痺型の筋萎縮性側索硬化症の患者さん(上下肢とも筋力低下が目立たず,歩行も上肢の機能もほぼ問
題ないが,嚥下障害と構音障害が高度)が,胃瘻と人工呼吸器装着の両方の処置をともに拒否する旨を公正証書で明らかにしておいたのはよかったのですが,こ
の冬インフルエンザにかかり,いよいよ嚥下障害がひどくなって,入院,経鼻胃管は納得して挿入したまではよかったのですが,こんなに経鼻胃管が辛いのなら
ば,胃瘻を作りたいと希望されたのはいいのですが,公正証書まで作ってしまったので,それを覆すのに一苦労.事前指示書というと,聞こえはいいのですが,
人間の気持ちはいつでも変わりうるという現実に合わない制度では困りますね.
脊髄小脳変性症患者が麺類でむせる理由
嚥下障害を起こしやすい疾患といえば,脳血管障害や筋萎縮性側索硬化症があげられる.その場合,固形物に比べて,そばやうどんのような麺類は飲み込みやす
い.麺類はつるつるしているから,嚥下する力がなくても,より円滑に食道まで送り込めるという利点があるのだろう.
脊髄小脳変性症の患者さんも,”むせる”と訴えることがあるが,脳血管障害や筋萎縮性側索硬化症の場合とは正反対に,麺類でむせると訴えることがし ばしばある.私にも,年越しそばで窒息した脊髄小脳変性症の患者さんの剖検のため,病理解剖室で除夜の鐘を聞いた,強烈な思い出がある.また,初発症状 が,ラーメンをすすって食べるとむせ易いという訴えだった脊髄小脳変性症(SCA6)の患者さんもいた.
では,なぜ,脊髄小脳変性症の患者さんは麺類でむせるのか?誰も知らない.しかし,一部の神経内科医は以下のように考えている.筋力低下が起こらな い脊髄小脳変性症では,嚥下筋力には問題がないから,脊髄小脳変性症に特異的な症状が関与しているはずである.噛み砕いた食べ物は,口をつぐんで飲み込む のに対し,麺類をすする時は,息を勢いよく吸って生じる陰圧を利用して飲み込む点が決定的に違う.この,すする時に,脊髄小脳変性症特有の,測定過大 (hypermetry)が起こり,勢いよく吸い込みすぎて,麺が気管内に入ってしまうのではないかと推測している.
パーキンソン病での下腿浮腫
パーキンソン病のことばかりで恐縮なのだが,とにかく謎の多い病気なのだ.下腿浮腫もその一つ.心,腎,肝,内分泌いずれの原因も否定的なのに,下腿浮腫
が目立つ患者さんがいる.治療薬の一つであるアマンタジンと明らかに関係のある症例もあるが(アマンタジンを中止すると軽快),アマンタジンを服薬してい
ない症例もたくさんある.パーキンソン病患者におけるこの浮腫についても,系統的な臨床研究は行われていない.
パーキンソン病での体重減少
病期がある程度進行したパーキンソン病の患者では,時に原因不明の体重減少が起こる.かならずしも,嚥下障害で経口摂取が低下しているわけではなく,結構
食事を食べていても体重はどんどん減っていくので余計に心配になる.それも半端な減少ではない.数ヶ月に10kgというような,悪性腫瘍を思わせる減少に
しばしば驚かされて,癌,甲状腺機能亢進症,糖尿病と,型どおり検索を進めるのだが,たいていは空振りである.この体重減少は,多かれ少なかれ,パーキン
ソン病の患者には経過中必ず起こり,進行した患者さんはほとんどの人がBody
Mass Indexを下回っているだろう.詳細に文献検索したわけではないが,原因はよくわかっていないはずだ.それでもどういう病期の患者さんに起こりやすいの
か,症状のコントロール状態や,服薬内容とは関係があるのか,等など,詳しく知りたいことはたくさんある.きちんとした臨床研究をご存知の方は教えてもら
いたい.
拘束せずにチューブ抜去を防ぐ知恵
自分で点滴や経鼻胃管を抜いてしまう患者さんのために,ペットボトルを利用した,このような道具はいかが?
こちらは,実際に使用したところ.私が在職していた国立犀潟病院 第7病棟のオリジナルです.
パーキンソン病の病前性格
パーキンソン病になる人は,百人中百人が,”几帳面でまじめな性格である”.ちゃらんぽらんな人は絶対にパーキンソン病にはならない.
女性Wilson病患者では,神経症状の発症より無月経が先行する
私が受け持った患者さんがそうだった.そして,Wilsonの原著を読むと,女性5例のうち,Gowersの症例2,Wison自身の症例1,症例2,症
例4の合計4例で神経症状の起こる前に無月経が先行している.残りHomenの症例1でも無月経と神経症状がほぼ同時に起こっている.
避妊具に銅製品がしばしば使われるが,子宮への銅の沈着が無月経を起こすのではないか,Wilson病の無月経はそれが原因ではないかと私は推測してい
る.クローアンズの著書には,銅製の避妊具を使ったために無症状だったウィルソン病が顕性化したエピソードがある.
Wilson病患者は背が高い
原因はよくわかっていない.内分泌異常かもしれないし,骨の問題かもしれない.ちなみにGHの過剰分泌は証明されていない.Wilsonの原著には,やは
り背が高い症例が多い.平山恵造先生もこのことを気になさっていて,昔,雑誌”脳と神経”で言及なさっていたが,系統的な研究はない.