敗軍の将兵を語る
●高齢者の寿命と、それより若い年齢層の生活を天秤に掛けた結果になった。言い換えれば、両方の果実を物にするという、いいとこ取りはできなかった。
●他国からの評価で国内評価も揺れている。
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【スウェーデン】スウェーデンの独自路線、疫学責任者「改善の余地ある」 朝日新聞2020年6月4日
新型コロナウイルスをめぐり「ロックダウン(都市封鎖)」をしない独自路線をとるスウェーデンで、感染対策を担う国の疫学責任者アンデシュ・テグネル氏が3日、公共放送スウェーデンラジオで「私たちがスウェーデンでやってきたことには、明らかに改善の余地があると思う」と語った。
AP通信などによると、テグネル氏は、死者の多さが対応を考え直す機会になったかと問われると「そうだ」と語った。ただ、具体的に何をすればよかったかは明確ではないという考えも示した。「各国が感染抑止の措置を一つずつ解除し始めると、私たちがしたことに加えて何が出来たのか、わかるかもしれない」と述べた。
「病気について私たちが現在知っていることと同じ知識がある状態で、もし再びこの病気に遭遇したら、スウェーデンがしたことと、他の国がしたことの間の対応で落ち着くと思う」とも語った。
こうした発言がメディアで「悔恨の意を表明」などと報じられたことを受けて、テグネル氏はその後の記者会見で「スウェーデンの戦略が間違っていて変更すべきだということではない。私たちはいまも私たちの戦略はよいものだと信じている。ただ常に改善の余地があるということだ」と釈明した。
スウェーデンは、他の欧州の国々のように外出禁止令を出したり経済活動を強く抑制したりすることはせず、市民に自発的に社会的距離を取ることや在宅勤務を要請する緩やかな対応をとってきた。独自路線は国民から一定の支持を集める一方、高齢者介護施設を中心に感染被害が広がり、死者は約4500人にのぼる。北欧では突出して多く、国内でも批判の声が出ていた。
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【スウェーデン】スウェーデンのコロナ対策、立案者が甘さ認める 英フィナンシャル・タイムズ2020年6月3日付

新型コロナウイルス対策で厳格なロックダウン(都市封鎖)は不要だと主張して批判を浴びていたスウェーデンの政策立案者が、もっと制限を強化して死者の増加を抑えるべきだったとの認識を初めて示した。同国政府のコロナ対策を率いる疫学者のアンデシュ・テグネル氏は公共放送局「スウェーデン・ラジオ」とのインタビューで、同国の死者数が多すぎるとの見方に同意した。
「現在の知見を備えた上で同じ病気に遭遇したら、スウェーデンの対応と他の国々の対応の中間に収まっているだろう」と、テグネル氏は3日朝に放送されたインタビューで語った。この数カ月間、テグネル氏は他国のロックダウンを批判し、死者数が高止まりして国外から厳しい視線を向けられてもスウェーデン方式のほうが持続性が高いと主張してきた。スウェーデンの中道左派政権は野党の強い要請を受けて1日、これまでのコロナ対策について調査する委員会を設置すると発表した。

入国制限の対象外になり、国内のムードが変化
隣国のノルウェーとデンマークは先週、相互に入国制限を解除した。しかし、スウェーデンがその対象から除外されたことで、国内のムードが少し変わったようだ。スウェーデンは人口当たりの死者数でノルウェーを大きく上回っている。
テグネル氏はラジオインタビューで次のように答えた。「我々が取ってきた対策に改善の余地があるのは明らかだ。ウイルスをこれ以上広めないためにどこを封鎖すべきか、正確に見極めることが大切だ」
欧州ではほぼ全ての国が一気にロックダウンに入ったため、どの国の対策が最も効果的なのか見極めるのは難しいと同氏は述べた。スウェーデンでは16歳以下の子供たちが通う学校の授業を続けたが、ノルウェーとデンマークの保健当局も賢明な対策だったと評価している。スウェーデンは欧州域内からの入国を制限せず、ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)も公的には規制せず、国民に自発的な協力を求めてきた。
テグネル氏は3日のラジオインタビューの後、スウェーデンが取った対策について改善の余地は常にあると認める一方、依然として適切であり今後も維持すると言明した。
国民もテグネル氏の対策を強く支持してきたが、政治家や外交官はこの数日で国内のムードが変化し始めたとみている。
中道右派の野党国会議員ハンス・バルマルク氏は「どんな措置を講じるべきだったのか、あるいは講じる必要はなかったのかに関する公の場での議論が週を追うごとに高まっている」と言う。

国民が憂慮する3つの問題
同氏によると、国民は次の3つの問題を憂慮している。多くの国民が「恥ずべきだ」と感じている高齢者介護施設での死者の多さ、ウイルスの大量検査の見送り、スウェーデン人に対する他国の国境封鎖だ。「これら全てが国民の批判を呼んでいる」
スウェーデンの元上級外交官はこう話す。「我が国はこれまで数多くの点で北欧諸国と幅広く緊密な協力関係を築いてきた。そんな近隣各国がスウェーデン人の入国を制限し、我が国の対策が最悪の事態を招いているとして危機感を抱くのは、スウェーデン人にとって甚だ忍びないことだ」
スウェーデンが北欧で外交的な孤立状態に置かれているのは、国内メディアの批判的な論調にも表れている。
「短期的に見れば、スウェーデンが孤立していると言ってもいいだろう。世論もメディアも全体的に政府の対策への批判を強めている。近隣諸国がスウェーデンに批判的だという事実に国民も気づいている」とストックホルム駐在のある欧州外交官は指摘する。
スウェーデンの新型コロナによる死者数は4468人。一方、人口が同国の約半分しかないデンマークとノルウェーはそれぞれ580人、237人にとどまっている。両国政府ともスウェーデンの感染率の高さを入国制限継続の理由に挙げている。
スウェーデンの中道右派政権を率いたカール・ビルト元首相は「スウェーデン人が欧州域内で他国の人より危険とみなされるのは問題だ」と懸念する。同氏はとりわけ南部スコーネ地方で怒りが広がっていると指摘した。スコーネの主要都市マルメは対岸にあるデンマークの首都コペンハーゲンとオーレスン橋でつながっているものの、スコーネの感染率はストックホルムよりかなり低いからだ。
「スコーネの住民ははるか北方にある首都で勝手に決められた政策によって罰を受けている気分だろう」とビルト氏は話す。
スウェーデンは欧州連合(EU)と北欧の全国民に国境を開放しており、聖霊降臨祭の祝日だった先週末には数千のデンマーク人がオーレスン橋を渡ってスコーネの別荘を訪れた。2日には帰途の車が橋上で列をなし、3キロメートルの渋滞を引き起こしたとデンマークの警察当局が発表した。
デンマークの中道左派政権を率いるフレデリクセン首相はスコーネなど地域単位で国境を開放すべくスウェーデンと協議中だと表明した。ノルウェーも国境開放に向けてスウェーデンと協議している。

国境封鎖は被害者意識を醸成
スコーネ選出のバルマルク議員は隣国による国境封鎖について、国境地帯に住むスウェーデン人の被害者意識を醸成していると話す。
「自分たちも対抗措置を取るべきだといった感情が高まる恐れがある。特に私の地元では『我々がコペンハーゲンに行けないのに、なぜデンマーク人はマルメに来れるのか』との不満が渦巻いている。長い目で見ると、北欧域内の協力や信頼を深める方向に背く実に険悪なムードだ」
スウェーデンはノルウェー、デンマークとここ数週間、入国制限解除について話し合ってきたのに、自国だけが対象から除外されてロベーン政権は打撃を受けた。とはいえ、スウェーデン政府は海外渡航や長時間の移動を避けるよう勧告しており、直接的な影響は限定的のようだ。
スウェーデンのダンベリ内相は公共テレビSVTに対し、ストックホルムでは感染が広がっているが、ノルウェーやデンマークとの国境地帯の感染率は低いと語り、「この状況で国境閉鎖を続けるのは説得力に欠ける」と強調した。

テグネル氏の高飛車発言に不快感広がる
疫学者のテグネル氏は他国の状況を引き合いに出してスウェーデンの方が勝っていると主張する性癖があり、欧州外交官の不興を買っている。最近も「イタリア政府に比べれば状況をうまく管理できている」と発言し、イタリアの駐ストックホルム大使が不快感を表明したばかりだ。
前出の元スウェーデン外交官は「テグネルは他国の取り組みに対し、かなり高飛車な発言をしてきたので反感を持たれている」と分析。さらに、スウェーデンはイタリアでの感染のピーク時にも一切支援を送らず、EU内で孤立感が際立っていたと指摘した。
デンマーク、オランダ、オーストリアとともに「倹約4カ国」と称されるスウェーデンは、欧州委員会が5月27日に発表した7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金創設案に反対し、創設に好意的な国からの圧力にさらされている。
ストックホルム商工会議所のアンドレアス・アツィジョルジュ会頭は、コロナ対策による措置が長期的に「保護主義や孤立主義」につながりかねないと心配する。「国境をまたぐ移動や自由貿易、人の交流はウイルスの拡散を促したかもしれない。それでも経済の再起動に向けて、外国貿易や渡航者の受け入れをすぐにでも再開すべきだ」
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