テーラーメードというと随分と目新しいもののように聞こえる.確かに,血圧という個々の患者さんの指標に合わせて治療をするテーラーメード医療の代表格,高血圧症治療の歴史も,たかだか,ここ50年である.
では,テーラーメード医療の歴史は50年に過ぎないのかというと,そうではない.ヒポクラテスの時代から,医療はすべからくテーラーメードだった.
臨床医は患者さんの症状,病歴を聞き,診察をして,治療のさじ加減をする.診療はすべてテーラーメードなのだ.そして,症状,病歴,診察といったアナログ 情報の判断の方が,デジタル情報の判断よりずっと難しい.プロの存在価値は,アナログ情報の判断ができることにある.デジタル情報の判断はプロでなくても できる.珍しい病気の画像を読めるのを自慢している医者がよくいるが,あれは自己否定だ.そんなやつに医者をやらせるのはもったいない.写真屋になって, 週末に蝶の収集でもさせるのが世のため人のためである.
指標がデジタルで,新しいものだと,優れたもののように思いこませるだましのテクニック自体は古典的なものだが,まだまだ,医療者も一般市民も,自分自身をそのテクニックでだましている事例がたくさんある.占いの世界では,もう時代遅れになったというのに.
私が大学生の頃は,まだ,銀座の歩行者天国で,”コンピューター占い”と称して,真空管に似た電球をいくつか並べて占いをやっているおじさんおばさんがい た.そんな,”コンピューター占い”なんて,もう絶滅したと思っていたが,先日,アメ横の入り口の近くで,見かけた.使っていたのは,無線LANを装備し たノートなんかじゃなくて,装置は昔のやつそっくりだった.あれ,運ぶの大変だと思うんだけど,ノートPCじゃ有難味が出ないと信じ込んでいるからなのだ ろうか,今時どんな客が来るのかなと非常に興味を持って,物陰から見ていたが,10分ほどたっても誰も見向きもしないので,私が客になろうかなと思ったの だが,例によって,それほど優雅な人生を送っているわけでもなく,あきらめて銀座線に乗った.