アビガン薬害訴訟:2400年前のポツダム宣言
承認されたってへいちゃらさ.だってヒポクラテスの誓いを破るような破廉恥なお医者様はお断りすればいいんだから
自分の命は自分で守ろう!!
I will prescribe regimens for the good of my patients according to my ability and my judgment and never do harm to anyone. *snip* If I keep this oath faithfully, may I enjoy my life and practice my art, respected by all men and in all times; but if I swerve from it or violate it, may the reverse be my lot. (Hippocratic Oath. From Wikipedia)
日本医師会 医の倫理の基礎知識 2018年版【医師の基本的責務】A-6.ヒポクラテスと医の倫理より
養生治療を施すに当たっては、能力と判断の及ぶ限り患者の利益になることを考え、危害を加えたり不正を行う目的で治療することはいたしません。(中略)
以上の誓いを私が全うしこれを犯すことがないならば、すべての人々から永く名声を博し、生活と術のうえでの実りが得られますように。しかし誓いから道を踏み外し偽誓などをすることがあれば、逆の報いをうけますように。(大槻マミ太郎訳:誓い.小川鼎三編、ヒポクラテス全集、第1巻、エンタプライズ、東京、1985;580-582より引用)
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はじめにお断り
以下の説明は警鐘ではない。ましてや恫喝ではない。医療法務の専門家による率直な助言である。なお,ここで論ずるのは国内の問題だけである。薬害輸出に関する訴訟については,極東国際薬害裁判とその関連ページをご覧あれ。またこのページに示したのは私だけの意見ではない→日医有識者会議が緊急提言 エビデンス十分でない新型コロナ治療薬「拙速な承認」に反対 ミクスオンライン2020/5/20).私はただ,我が国の過去の歴史を踏まえ,この有識者会議の先生方の緊急提言を「わかりやすく」解説しただけである.
イレッサと比較しても圧倒的に不利(というか,既に敗訴確定)
アビガンの訴訟リスクについては,既に説明した。イレッサでさえ訴訟になったのだから,当然,アビガンも訴訟必至である。薬害オンブズパースン会議も,いつでも登板できるようにスタンバイしている.承認を間近に控え,このページは「リスク」や「危機管理」ではなく,実際のアビガン訴訟がどうなるかを説明し,当事者として危機意識を持ち,自らのダメージ・コントロール(*)を考える人のために作成された。(*リスク・マネジメントとは全く異なり,軍艦のように,必ず受ける損傷を如何にして最小化するか?という課題)→リスク・マネジメントとダメージ・コントロールの違い
この表に示すように(前後は承認前後の意),アビガンはイレッサに比べてあらゆる点で圧倒的に不利である。アビガンの場合,真の意味での専門医の支持に欠けるだけでなく,ニューヨーク・タイムズの記事のように,中立的な第三者の批判が,ネット上で公開されている。この表だけでも,もはや勝負は決まっていることがわかるだろう。
本土決戦のシミュレーション
現在の戦況は75年前の大東亜戦争に似ている.といっても,開戦前ではない.なぜかというと「コロナとの戦い」を錦の御旗にした火事場泥棒の一つであるアビガン利権(75年前の満州に相当)=裏口承認獲得闘争が始まってから既に3ヶ月近く経っているからだ.75年前の5月末というと沖縄戦も終盤だった.もし,2400年前に出ていたポツダム宣言を拒絶して裏口承認を強行すれば,ダウンフォール作戦(日本側の呼称は本土決戦)が開始されることになる.それに相当するのが,告発,刑事訴追,民事訴訟,極東国際薬害裁判といった一連のアビガン訴訟である.連合軍(本家ダウンフォール作戦では米英仏豪新=NZ)に相当する,検察(*1),薬害オンブズパースン会議,全国薬害被害者団体連絡協議会は国内外のメディア(*2)を味方につけて,厚労省・外務省と当該企業を磨り潰しにかかる.具体的には,後述するように,原告側は,イレッサ訴訟における失敗を踏まえ,下記に示すように,まず「観察研究」の告発→刑事裁判で勝利を確定した後,じっくりと民事訴訟を進めて全面的勝利を目指すことになる.対
する被告(人*3)にはそもそも,原告(検察)に立ち向かう人材など存在しない.勢いのよかった人間ほど逃げ足も速いものだ.弁護士だって仕事を選ぶ.かくして刑事裁判の被告人も,国も,当該企業も,正に竹槍でシャーマン戦車に立ち向かうことになる.こうして2400年前のポツダム宣言拒絶・裏口承認強行が引き起こした一連のアビガン訴訟は,第二の「誓いの碑」に繋がっていくことになる.
*1 特捜はディオバン「事件」のリベンジに燃えている.現場組の代表である特捜は赤レンガ組への対抗意識が極端に強い.ましてやこのご時世である.そんな特捜にとってアビガン事件はカモネギ以外の何物でもない.
*2 薬害事件では常に関ヶ原の小早川秀秋が「はまり役」の国内のメディアはもちろんのこと,国外でも,既に参戦を表明しているニューヨーク・タイムズに留まらず,レムデシビルの母国である合衆国のメディアは全て連合国側にまわる.レムデシビルは承認されてもアビガンが承認されることは決してない欧州のメディアも連合国側に付く.この海外メディアの連合軍が,そのまま極東国際薬害裁判に繋がっていく
*3 誰と誰を起訴するかは検察官の専権事項である.私の知ったことではない.ただ一つわかっているのは,負けが決まっている被告人に味方する人間などいないということだけだ.
ヒポクラテスの誓いを破った「観察研究」
COVID-19以外の疾患・病態に対してこれまでに行われたファビピラビルの有効性・安全性を検討する目的で行われた臨床試験・臨床研究は,いずれも適切な規制の下で行われてきた。ところが、COVID-19に対しては、しかるべき規制(日本では臨床研究法)により被験者が保護を受けていない研究が最近脚光を浴びるようになった。それが患者に適応外医薬品を投与しその影響を「観察する」研究である。この「観察研究」の最大の問題点は,臨床研究法云々以前に,冒頭に示したヒポクラテスの誓いを破ってしまっている点にある.
この研究で行われているのはアビガンの適応外処方である.適応外処方の最大の問題点は国が患者を守ってくれない点にある.具体的には適応外処方による副作用は医薬品副作用被害救済制度の対象外である。それゆえ、適応外処方による副作用に対して責任を負うのは処方する医師である。それでも現実には,先人の知恵の積み重ねで,当該適応外処方を行った際の有効性・安全性について,何らかのエビデンスが存在するので,それを頼りに慎重に患者に説明し・同意を得た後に初めて適応外処方を行う.
しかしCOVID-19に対するファビピラビルの有効性・安全性については,然るべき臨床試験(*1)によって証明された有効性と安全性が存在しない,つまり何のエビデンスも存在しない(*2).そういう現実がわかっていながら,COVID-19で苦しんでいる目の前の患者に「これは希望です」と言ってアビガンを処方することは,ヒポクラテスの誓いを破ることで以外の何物でもない.
この違反行為は研究の名称をどう取り繕おうと絶対にごまかせない.この研究(という名にも値しないが)の根本的な誤りは,倫理は法律よりも高いところにあるという事実を無視したことにある.
*1.誰もがその結果を検証できるよう、適切な査読を受けた論文として公開された臨床試験。
*2.一旦取り下げられた中国の論文が再掲載されたのは2020年4月22日.一方,3月上旬に始まった,この「観察研究」では,同日時点で既に国内では350人以上に投与されたと報道されている.)
ヒポクラテスの誓いは決して「お題目」ではない。つい最近も、大統領が「ゲームチェンジャーになる」と激賞している薬について大きな悲劇が起こっている。COVID-19に対するクロロキンの有効性を検証するためにブラジルで行われた臨床試験で、81名の被験者のうち,11名が死亡し,試験は6日目で中止となった(*3-1,3-2)。それでも、これはヘルシンキ宣言に基づき、GCPを遵守して行われたランダム化2群間(低用量・高用量)比較試験であった(*3-3)。一方、件の「観察研究」では、たとえアビガンで未知の重篤な副作用が生じたとしても、たとえアビガンの副作用で死者が出ても、それを検出する術はない。これは研究を開始する前からわかっていたことである。後述するように、研究代表者も学会シンポジウムでそのことを認めている。
*3-1.松岡由希子 アメリカが期待した「クロロキン」、ブラジルで被験者死亡で臨床試験中止 ニューズウィーク日本版 2020年4月15日
3-2.REUTERS True claim: Brazilian chloroquine study on COVID-19 patients was halted after 11 deaths
3-3.Chloroquine diphosphate
in
two
different dosages as adjunctive therapy of hospitalized patients with severe respiratory syndrome in the context of coronavirus (SARS-CoV-2) infection: Preliminary safety results of a randomized, double-blinded, phase IIb clinical trial (CloroCovid-19 Study)(medRxiv preprint )
3-4.たとえば、アビガンの副作用で肺炎が生じた場合には、それがCOVID-19による肺炎なのか、あるいはアビガンによるものなかは区別がつかない。実際にそういう副作用例が下記のように報告されている。
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新型コロナウイルスの院内感染が起きた福岡記念病院(福岡市)の舛元章浩副院長によると、これまで同病院では約40人に投与し、8割で症状が改善した。ただ、非投与の患者らと比較しておらず、症状の改善がアビガンの効果かどうかは判断できないという。また、ある30代の女性患者はアビガン投与後にPCR検査で2度陰性となった後に肺炎が悪化し、投与をやめると改善した。
舛元副院長は、女性患者の肺炎の悪化はアビガンの副作用だったとみており「副作用が新型コロナによる肺炎と似ていれば気付かれない恐れもある」と指摘。「投与で救われる命がある」と早期承認に理解を示す一方で「薬害の歴史を踏まえて有効性や副作用を慎重に検討し、副作用が分かれば十分に周知することが重要だ」と警鐘を鳴らす。(治療薬候補「アビガン」、医師判断で軽症者にも早期投与可能に 福岡県医師会 毎日新聞 2020年5月11日)
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「研究」の質は健康食品並みでいい?
この「観察研究」の目的・意義については、研究代表者である藤田医科大学の土井洋平教授が、2020年4月18日に開催された第94回日本感染症学会学術講演会特別シンポジウムで明らかにしている。『そもそもCOVID-19の軽・中等症の患者のうち、約8割は自然軽快するため、上記の効果の全てがファビピラビルのものではないことに注意が必要。土井教授は「今回の研究だけでは非投与群との比較が行えないため、安全性および有効性は語れない」とまとめた』(m3.com編集部 「医療崩壊を防ぐには肺炎重症化の防止が鍵」日本感染症学会学術講演会、LIVE配信特別シンポ 2020年4月23日 配信)
この「観察研究」によって自分が処方されたアビガンの有効性が確認される。患者さん達は,そう信じて参加したのではなかったのか?この「観察研究」の意義として、COVID-19に対するアビガンの有効性及び安全性の検討以外に何があるというのだろうか?まさか、「アビガンでお肌が綺麗になる」ことではあるまい。それとも,とにかく患者さんに喜んでもらえばいいのだから,「研究」の質は健康食品並みでいいとでも言うのだろうか?もしそうならば,同意取得の際に「この研究に参加してもアビガンが効くかどうかも、副作用にどんなものがあるかどうかもわかりません。それを承知の上で参加に同意してください」との説明があったのだろうか?「この研究ではファビピラビルの有効性、安全性は検証できない」 それは計画を立案した時点で百も承知だった。そのこと自体は確かに科学的には正しい.しかし,この「研究」の問題点は別の所にある.研究課題名で「治療効果の検討」を謳いながら,「安全性および有効性は語れない」と研究代表者が開き直っている。「期待の新薬の真価を問う研究」と思って参加した患者を,これ以上愚弄した「研究」を私は寡聞にして知らない。
刑事訴追だけでなく民事・極東国際薬害裁判への対応も
この「観察研究」が抱える、上述した様々な問題は、臨床研究法 第五条に従い、特定臨床研究として実施計画を作成し、厚生労働大臣に提出する過程でクリアできたはずだった。誰しもが、なぜそうしなかったのか?という疑問を抱くだろうが、そんな疑問はヒポクラテスの誓いも知らない医学ジャーナリストにでも任せておけばよろしい。もう問題は引き返せないところまで来てしまっている。当事者は、最優先で刑事訴追(臨床研究法に違反した者には罰金刑が科せられる))に備える必要があるが,それだけではない。イレッサで提起されたような民事訴訟にも対応する必要があるが,ここでは触れる紙幅がない.上掲の身も蓋もないイレッサとの比較表を参考に,来たるべきダメージを如何に最小化するか(そんな方法があればの話だが)を当事者自身で考えてもらいたい。また、クロロキンの臨床試験事例同様、海外でアビガンの思わぬ副作用が明らかになるケースについては、極東国際薬害裁判の項を参考にされたい.
良い子のみなさんはどうすればいいのか?
至極簡単!これまで通りアビガンとは決して関わり合いにならないこと!!これに尽きる。えっ?そんなこと,言われなくたって,アビガンの審査報告書が出た6年前からそうしてるって?こりゃ失礼しました。えーっ,わかりましたか,良い子のみなさん,改めて申し上げます。
6年前に出た177ページもある審査報告書なんて無理して読まなくてもいい.だけど,2400年前に出たA4一枚のヒポクラテスの誓いだけは読むように.そしてアビガンとは決して関わり合いにならないように!!自分の職業生命は自分で守ろう!!
2020/5/20 updated
→「アビガンは毒薬」を立証した「観察研究」
→アビガンによるCOVID-19死亡率の上昇
→極東国際薬害裁判
→アビガン関連記事
→コロナのデマに飽きた人へ
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