失敗人生データベース

目的:高齢者(別に高齢者でなくてもいいんですが)が語る人生の失敗事例をデータベース化してsocial skill trainingの資源として活用する.

背景:多くの人は失敗談よりも成功物語に注目しますが,それは効率のいい学習態度とは言えません.なぜなら,失敗には必然の要素が占める割合が圧倒的に高いのに対し成功には偶然の要素が占める割合が高いからです.

棋士は勝った手合いよりも負けた手合いの方をよく覚えているそうです.臨床医学教育では,診断や治療に苦労した例とか,生前診断がつかずに解剖して初めてわかったとか,そういう失敗例を大切にしてきました.

科学技術分野では,失敗知識データベースが構築されているのも,そういう理由です.

大事な人生も失敗談が大切ですよね.でも失敗談はおおっぴらに語られることなく,埋もれていきます.また,前述のごとく,多くの人は失敗談よりも成功物語に注目します.reporting bias, publication biasの上に,learning biasが重なることもあって,人生の失敗談DBなんて,これまで,地球上の誰も考えてもみませんでした.

しかし,今や科学技術が発達し,YouTubeに代表されるように,全世界で画像と音声をオンデマンドで共有できるようになりました.索引化して自分の問題意識に合致した事例を探し当てることも可能になりました.

物語をデータベース化することは十分可能です.DIPEXは癌患者の語りのデータベースです.IT時代以前にも,アイルランドでは,昔話の散逸を防ぐために,昔話採集を国家事業にしたのです.

高齢者は自分の経験に誇りを持っています.たとえそれが失敗であってもです.いや,成功よりも失敗の方が大切だと学習するために一番役立つのは時間ですから,高齢者こそが失敗の大切さを知っているのです.「今なら話せる苦い思い出」を語ってください.そう呼びかければいいのです.

それだけではありません.自分が語ることよって,自分が生きた証が残るだけでなく,自分の失敗談が,データベース化され,自分の孫の世代,それ以降もずっと役に立ててもらえるとなれば,どんなに喜んでもらえるでしょうか.

自分はもう社会貢献ができない厄介者で,ただ朽ち果てていくのを待つばかりなのだという思いに,多くの高齢者が苛まれています.この事業は,そういった高齢者の悲しみ和らげる素晴らしい仕事になるのです.

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