8年ぶりに里帰りにあたって,問題はただ一つ.乗り換えがヒースローだったってこと.でも,理由は空港のセキュリティじゃない.たしかに,8月のテロ未遂騒ぎ以来,手荷物検査が煩雑なっているんじゃないかってことは気になっていたけど,もともと,残業してまで,仕事の穴を埋めようなんてことは一切考えない連中がどこの職場でも最前線に立っている御国柄だ.長距離特急列車を1時間おきに運転することが,JR東海の指導を受けて辛うじてできるようになったけど,ロンドンの地下鉄にはいまだに駅で時刻表にお目にかかれない(つまりダイヤを守って運行できない)ぐらいだから,あんなにいい加減だったセキュリティチェックレベルを一時的に厳しくしたにせよ,質と実効性を保ったまま継続するなんて,この国ではできっこないんだ.
さらに,ヒースロー発の航空機だけ特別扱いするのにどんな意味があるのか,8月からの大騒ぎによる欠航や運行遅延,貨物の損害はどうしてくれるんだと,賠償請求訴訟が,航空会社から空港運営会社に対して起きている.今の世の中で人の動きも物の動きも止められない.テロに屈するなと,偉い人はのたまうが,人や物の動きを無理やり止めるような風声鶴唳が,テロへの抵抗の象徴とでも言いたいのだろうか?
だからさ,ヒースローの手荷物検査なんて,いつも通りに戻っていたよ.たしかに座席上のロッカーには絶対入らない馬鹿でかいスーツケースを,降りてから待つのが嫌だという理由だけで機内に持ち込めなくなっていたけど,それはむしろ本来の姿に戻ったってことだし,靴を透視検査のために脱ぐのも足の健康のためになるから歓迎だ.
じゃあ,なぜ,ヒースローが嫌なのかって?決まっているじゃないか.そこがイングランドだからさ.僕はグラスゴーに行きたいんだ.なぜスコットランドへ行く前に,わざわざイングランドに3時間もいなくちゃならないのさ.あそこへ行く度にあの,さも何か仕事をしているぞとばかり,偉そうな上目遣いが得意な入国審査官たちとお付き合いしなくちゃならない.あいつらの態度ったら,16年前から全然変わらないんだから.
でも,それさえ抜ければ,あとは第一ターミナルの5番ゲートで,だらりと横になって,イングランド脱出便搭乗開始の放送を待つ楽しみがあるから,結局はここへ来ることになる.