患者の幸せなんかどうでもいい
マジックワードは「自己責任」
「アビガン」コロナ対象のP3試験、被験者組入れを月内で打ち切り(Answers News 2022/3/11)
富士フイルム富山化学は3月11日、新型コロナウイルス感染症を対象に国内で行っている抗ウイルス薬「アビガン」の臨床第3相(P3)試験について、被験者の組入れを3月いっぱいで打ち切ると発表した。重症化率の低いオミクロン株が主流となる中、現在のプロトコルで試験を続けても重症化抑制効果を検証するのが難しいことや、プラセボを用いた試験継続は被験者の利益につながらないことから、組入れ終了を決めた。組入れ済み患者のデータについては、プロトコルに従って解析を進める。
富士フイルム富山化学は、新型コロナを対象とした1本目の国内P3試験の結果に基づいて2020年10月に申請したが、厚生労働省の部会は「現時点のデータから有効性を明確に判断することは困難」として承認を見送った。同社は、対象患者を重症化リスクのある発症早期の患者に見直した上で昨年4月からあらためてP3試験を行っていた。
「それは厚労省がきちんとしたリスク管理をする気がないと私は受け取る。言語道断だ」
薬害被害者団体「いしずえ」の佐藤嗣道理事長は、まるで他人事な厚労省の姿勢を批判する。いしずえは、アビガンと同じく催奇形性の副作用があり、手や内臓に障害を持つ数千人の被害児を生んだ睡眠薬「サリドマイド」の被害者団体だ。佐藤氏は被害者でありながら、自ら医薬品の安全対策を研究する薬剤疫学者でもある。(富士フイルム富山化学の制御できぬ“国策薬”、コロナ治療薬候補「アビガン」 ダイヤモンドオンライン 21/10/7)
医薬品のリスク・ベネフィット判断
医薬品の有効性・安全性を検証する臨床試験の目的はリスク・ベネフィットバランスが良好な集団を見つけることです。劇薬であるアビガンが小児への効能効果を持っていないのは,小児を対象にした臨床試験どころか,リアルワールドデータ(RWD)としての適応外使用例さえなかったからです。さらに承認後も医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan)に従って厳密なリスク管理が行われます。佐藤理事長が「言語道断」と怒りを隠さないのは,2021年6月に発覚した妊娠疑い患者へのアビガンを投与事例に対する厚労省の態度です。ところが市民団体が怒り心頭に発する事件はこれに留まりませんでした。
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未承認薬アビガンがなぜ? 千葉県いすみ市の病院で不適切処方 (2022年01月04日)
2021年12月7日、千葉県いすみ市にある地域の中核病院、いすみ医療センターが急きょ会見、アビガンの不適切処方を明らかにした。第5波の最中にあったことし8月から9月、コロナ治療薬としては承認されていないアビガンを自宅療養となった10代の8人を含む男女98人に処方していたという。薬の有効性を調べる「観察研究」の一環だったとしているが、入院患者のみに限定すると定めた厚生労働省の研究ルールに反するものだった。加えて必要な院内手続きを経ていないことなども判明。厚生労働省から不適切だとして指導を受けたことを明らかにした。一連の対応について、病院は不適切だったと陳謝する一方、「緊急避難的でやむをえなかった」と主張した。
(中略)
12月7日の会見で、伴俊明病院長は「当時、感染の第5波を受けて入院できない患者が市中にあふれる状態で、緊急避難的でやむをえなかった。目の前の患者を救うことが大原則で、患者も同意していた」と説明。手続きに不備があったことは認めたものの、処方は患者のためで問題はないという見解を示した。
一方で当初から不適切な処方だったという認識を持っていたことを明らかにした。しかし、処方を主導し実行したのは病院ではなく、コロナ対策のアドバイザーとして外部から起用された平井愛山医師、個人だと主張。病院やいすみ市の関係者によると、平井医師は病院の管理者であるいすみ市長からの信頼が篤く、いすみ市や地元の保健所などと連携してPCR検査を積極的に実施するなど、地域のコロナ対策の実質的な責任者だったという。会見で伴病院長は当初反対したが、平井医師がいすみ市や保健所などと協議しすでに合意を形成していたため、病院として止めることはできなかったと説明。
(中略)
今回の処方は抗インフル薬として承認を受けた薬をコロナ治療という別の目的で使用する「適応外使用」と呼ばれる。こうした使用は本来、臨床研究法で規制を受ける「特定臨床研究」と位置づけられ、重大な副作用が発生した場合に備えて、病院は保険加入を義務づけられる。しかし、今回は「適応外使用」にもかかわらず、「特定臨床研究」とならずに、法規制の対象外となる「観察研究」とされた。その結果、重大な副作用が起きても患者が救済される可能性は低くなる。今回はリスクの高さから「特定臨床研究」として行われるべきで、「観察研究」とした厚生労働省の対応は異例といわざるを得ず、大きな問題だ。(「薬害オンブズパースン会議」のメンバー、隈本邦彦さん)
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自己責任:企業/官僚/医師/政治家の包括的免責を可能にしたマジックワード
本来は「特定臨床研究」とすべきところを「観察研究」と名付け臨床研究法に強引に抜け穴をぶち抜いた。そんな役人を隈本さんは糾弾しています。しかし当の本人としては「してやったり」です。なぜならそのお陰でアビガンを激賞した政治家/企業/官僚/医師/の包括的免責を実現させたのですから。賞賛に値こそすれ,非難される謂われは全くないと,口にこそ出しませんが,内心では鼻高々でしょう。
患者のことはそっちのけ。絵に描いたような患者不在の責任のなすり合いになっています。この醜い争いは関係者が「患者の幸せなんぞどうでもいい」と考えている何よりの証拠です。全てはアビガンを欲しがった本人の「自己責任」というわけです。このマジックワードは何もアビガンに限ったことではありません。「いや,義務ではないよ。自己責任だよ」 by イヌスケ(注射って変w 02:35)。
→アビガン真理教事件
→コロアンティーナの大冒険
→臨床研究無法地帯
→新コロバブルの物語
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