刑務所化は防げるか?

私の勤務する施設は,重度精神遅滞・精神障害者の病院ですから,他患への暴力行為は普遍的な問題です.しかし,病院は管理責任をどこまで負うのか?という問題に正答はありません.

妄想などに基づく暴力行為の他に,高度痴呆の患者が寝たきりの患者をベッドから引きずり降ろしたり,点滴チューブや経鼻胃管やを抜かれるというような事故もあります.

96年1月,滋賀県のある病院で,くも膜下出血で入院中の67才の男性が、ベッドの下にあった角材で殴られて死亡しました.犯人は同室の患者で,殺人容疑で滋賀県警に逮捕されましたが、犯行当時,心神喪失状態にあったとして,大津地検は、不起訴処分にしました。

男性の遺族は、病院側が安全配慮を怠ったためなどとして、病院側に計約3200万円の損害賠償などを求めました.大津地裁は遺族側の訴えを認め「患者には精神分裂病の症状があり、医師は病状などを把握し適切に処置すべきだった」として病院側に計約3000万円の支払いを命じました。判決では、患者への処置を怠ったことで「患者は妄想状態に陥り事件を起こした」と認定し、病院側の「精神分裂病の症状が見られず、危険は予測できなかった」との主張を退けました。

3200万円の求めに対し3000万円の支払いということは,原告の全面勝訴です. 精神病院ではなく,一般病院での管理責任を問われています.診療科目にかかわらず,対岸の火事とやり過ごせない判例です.

遺族は,不起訴処分にやりきれない気持ちだったに違いありません.愛する家族が治療目的で入院したのに殺人事件の被害者となり,しかも犯人が不起訴処分になってしまったのですから.

しかし,判例の,”適切な処置”とは何でしょうか?分裂病患者を全て閉鎖病棟,個室隔離することでしょうか.物理的な隔離拘束だけではありません.痴呆患者は何をするかわからないから,全て向精神薬で動かなくしてしまえという考え方だってできるのです.

拘束しない医療・看護とか言いますが,私の仕事はそんな高尚なレベルにはありません.病院の刑務所化をどうやって回避するかというレベルなのです.

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