パーキンソン病の診断と初期治療・管理

Nutt JG and Wooten GF. Diagnosis and Initial Management of Parkinson's Disease. N Engl J Med 2005:353:1021-1027
この総説の要点を日本語で表わした上に,私の個人的な視点を加えました.

I. パーキンソン病の疫学:米国では,100万人,有病率は60歳以上の1%と言われている.日本では有病率100/10万人=患者数12万人→高齢化によって着実に増加

II. 臨床症状の特徴
1. 振戦,寡動,固縮が三大徴候.その他の症状として、姿勢反射障害があるが、病初期には目立たないので,診断にはあまり役立たない.また、自律神経障害は,特異性が低く,診断にはあまり役立たない.

2.振戦の特徴として:
(ア) 片側に強く現れる
(イ) 振戦が強くなるのは,震えている四肢に注意が向かない時,例えば病歴を話している時や歩いている時である.
(ウ) 本態性振戦との相違点は下記のとおりである.
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

3. 寡動の特徴は下記の通りである
(ア) 粗大な動作より細かい動作が障害される
    @カフスボタンをはめる
    A書字
(イ) 繰り返し動作が障害される
    @歯磨き,キーボード操作,洗髪
    A卵を溶く,炒め物,米を研ぐ

4. 座位・起立・歩行障害としては次のような症状がある
(ア) 車から降りる
(イ) すくっと立ち上がれない
(ウ) 深く腰掛けた時,ふかふかしたソファ
(エ) 寝返りを打つ
(オ) しかし初期から転倒が頻発するのはまれ→病初期からの転倒は他の疾患を考える

III. 診断の要点
1. 病歴と診察で診断
2. 生化学的マーカーはなし
3. 画像診断は他疾患の除外のため
4. PET & SPECTによるドパミントランスポーターの脱落所見は非特異的→他の疾患によるパーキンソニスムとの鑑別には役立たない
5. レボドパによる治療的診断の価値も疑問視されている.

IV. 除外診断のポイントは薬剤性と,他の変性疾患によるパーキンソニズムの除外である.
1. 薬剤性:プライマリケア場面では頻度が高く、外来でのパーキンソニズムの2割#3という報告もある
(ア) 向精神薬以外で頻度が多いのは,消化管運動改善剤:ドグマチール,ナウゼリン,プリンペラン、アセナリン等
(イ) 特殊な例として,中心静脈栄養によるマンガン過剰
(ウ) 薬剤性を疑うのは,急激な発症の他に,左右差が目立たない点,しばしば,rabbit syndrome(ウサギのように唇や顎が細かく震えること)が目立つ場合
2. 他の変性疾患によるパーキンソニズムを疑うのは下記の症状が目立つ場合
(ア) 病初期からの頻回の転倒,痴呆の存在
(イ) 左右対称性,Wide-based gait,眼球運度障害
(ウ) 著明な起立性低血圧,失禁
(エ) 発症から5年以内に寝たきりに近くなるような進行の早い経過

V. 薬物治療は何から始めるか?
1. ドパミンアゴニストかレボドパが原則である.どちらにするかについては,絶対的な目安はない.下記の要素を勘案し,患者さんと相談して決める.
 
 
レボドパ
ドパミンアゴニスト
効果と発現
明らか/早い
穏やか/遅い
値段
安い
高い
運動系副作用
強い
弱い

ドパミンアゴニスト単独で治療を開始することによって,レボドパ治療に伴うジスキネジアやwearing offなどの運動系副作用の出現を数ヶ月遅らせることができるが,一方で,レボドパに比べて効果が弱いので,症状の強い例には,ドパミンアゴニスト単独療法を継続することは困難であり,早晩レボドパを併用することになる.レボドパ併用の場合には,運動系副作用の出現を遅らせるエビデンスはない.

2. トリヘキシフェニジル(商品名アーテン)やアマンタジン(商品名シンメトレル)は効果が弱い割には副作用が強いために,あくまで補助的な治療薬であり,第一選択役として使うべきではない.
(ア) トリヘキシフェニジル(商品名アーテン)
    @振戦が強い例に補助的に使う
    A抗コリン系の副作用:口渇,尿閉,瞳孔調節障害など
    B譫妄や痴呆に注意→70歳以上には使わない
(イ) MAO-B阻害薬
    @レボドパとの併用が原則.神経保護作用は否定されている.
    ASSRIとの併用禁忌.セロトニン症候群のリスクが高まる.
(ウ) アマンタジン(商品名シンメトレル)
    @NMDAアンタトゴニスト作用がある.
    Aすくみ足が強い例で用いられることがある.
    B譫妄状態,幻覚妄想を誘発することがある.

VI. 外科手術:早期のパーキンソン病や,薬剤でコントロールができている例は対象外
1. 視床切除術,視床DBS(deep brain stimulation):振戦に対して
2. 淡蒼球切除術,淡蒼球・視床下核DBS運動系の副作用が強い例に対して

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