パキロビッド服薬後のリバウンド
-市販後安全性に関する観察研究の意義-
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【ワシントン共同 2023/11/14 】新型コロナウイルス感染症の飲み薬パキロビッドを使った患者の21%に、一度は陰性となった検査結果が陽性に転じ、ウイルス量が増える「リバウンド(再燃)」が起きたと、米マサチューセッツ総合病院のチームが13日、米内科学会誌に発表した。無治療の人がぶり返す割合は2%だった。
再燃した人の93%は、治療終了から5日後の時点で陽性で、人にうつす危険性があった。再燃しなかった人ではこの時点で陽性の人はいなかった。チームは「5日後に迅速抗原検査をすれば、長めに隔離すべき人が特定できそうだ」と指摘した。入院や死亡を防ぐという薬の効果には疑いがなく、使用を控えるべきではないとも強調した。
2022年3月~23年5月、研究に参加した外来患者に週3回、鼻の穴を拭った試料を提供してもらい、ウイルスを分析した。パキロビッドを使った72人のうち15人が再燃。増殖可能なウイルスは14日程度にわたって検出され、再燃しなかった人の3日間より長かった。無治療の55人では、再燃は1人だった。
ウイルスの遺伝子に薬剤耐性になる変異はなく、規定通り5日間服用してもウイルスを排除するには足りなかった可能性がある。また発症日から翌々日までに治療を始めた人に再燃が多く、初期から薬でウイルスの増殖を抑えたために体内で強い免疫反応が起きず、根絶に至らなかったとの見方もできるという。
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いつもながら記事の根拠となった論文の有り場所が示されていない。この通信社では未だに人間が記事を書いていると見る。
パキロビッド投与後のリバウンドについては,既に1年余り前に自施設でのCase seriesとしてNEJMに短報(Correspondence)が出ている。(N Engl J Med 2022; 387:1045-1047)
今回はその確認のためにボストン地域の多施設でパキロビッド投与の有無で後方視的に群間比較対象研究をしたというわけだ。(Ann Intern Med, 14 November 2023)
例数は対照(非投与)群(n = 55), 投与群 (n = 72) と少なく,当然のことながら交絡因子(年齢:投与群の方が高齢,ワクチン接種歴:投与群の方が多数,immunosuppression:投与群の方が多数)はあったが,多変量解析の結果リバウンドに有意に寄与した因子はパキロビッド投与の有無だけだった。
既に実社会で広く使われている薬の(有効性ではなく)安全性に関わる臨床疑問だから,研究の内的妥当性を云々する必要はない。少数例の観察研究であっても,そのままリアル・ワールド・エビデンスとして価値ある研究である。
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