初めてメールを差し上げます。私は○○造船という会社に勤務しているものですが、たまたま温泉や風呂の中の細菌を殺菌する装置を検討しており、ヤフーで先生のホームページにたどり着き色々と有益な情報を頂きました。少し勉強させてもらうつもりです。
さて、会社中にオゾン、紫外線、光触媒を組み合わせた装置を化学物質の分解に使えるのでこれを殺菌に適用したいといっている人がいます。私は化学物質と細菌の大きな違いは繁殖する事であろうと考えております。殺菌効果を上回る増殖を細菌がすれば装置は効果無い訳です。大きな浴槽に対して部分的に殺菌しても効果がなかなか現れないのが現実ではないでしょうか?効果的にするためには現実的でない大きさの殺菌装置になってしまうと考えてますが、私のわからない点は細菌の増殖の速度はどのくらいかと言う事です。細菌の種類、環境、他の細菌との関わりなどパラメータが多すぎて一口には言えないでしょうが、目安或いはこの本を参考にせよなどのコメントを賜れば幸いです。
池田です.お手紙ありがとうございました.
御懸念の通り,パラメータが多すぎます.その上,私は感染症を相手にすることはあっても微生物学者ではありませんので,コメントは不可能です.新しいアイディアに関して私が心配するのは,科学的なことよりも,そのアイディアが現実の需要をどのくらい考えているかということです.
医療費抑制が声高に叫ばれている世の中で,医療現場が求めているのは,ハイテク重装備の粋を尽くした高価な機械ではなく,ローテクで費用対効果の良い技術です.現在,医療現場で,殺菌効果の面でも,費用の面でも,最も優れている消毒方法は,普通のアルコールをしみこませた普通の脱脂綿です.MRSAもこれで簡単に死にます.貴社の技術がどんなに優れていたとしても,これを越えるものを作れるとは思えません.
それに,医療現場で問題になっているのは,殺菌装置の不備ではありません.たとえば,MRSAも,抗生物質による人体の殺菌のしすぎが問題になっているのです.まさか,オゾン、紫外線、光触媒を組み合わせた装置を人体に応用してMRSAを叩くとお考えなのではありますまい.MRSAが死ぬ前に人間が死にます.
技術屋はまず現場にお百度を踏むこと,そうしてはじめて現実に必要とされているものが見えてきて,技術を現実世界に生かす方法が見えてくるものです.本当の技術者はそういう教育を受けてきているはずですが・・・
貴社の技術を医療現場に生かすには,技術陣がまず介護体験で1ヶ月以上老人のおむつを替える研修を受けることが一番近道だと存じます.
(生意気を言ったが,丁寧にお返事をいただいた).大変に真面目で且つ辛辣なご回答を有り難うございました。おっしゃる通りで現実を考えて設備も、医療も考えて行くべきでしょう。私共も真に世の中に受け入れてもらえるものを出してゆきたいと考えております。