患者を泥棒呼ばわりしない

「人助けができるから医者になりたい」というのが、「病気を治して人助け」という意味であれば、誤解でなければ嘘である。世の中には二種類の病気しかないからである。医者がいても治らない病気と、医者がいなくても治る病気である。

医者が病気を治すなんて、馬鹿言うんじゃないってことだ。病気が「治る」か「治らないか」だ。では、「人助けができるから医者になりたい」と誤解して医者になった人間はどのような経過を取るのか?

一つは、医者は出会い系、つまり、(病気が治る治らないとは関係なく)「この人と出会えて良かった」と思ってもらえること。怨憎会苦という苦しみからの解脱体験をしてもらえること。

それから、もう一つ大切なことは、(日本の)医者は、患者を泥棒呼ばわり(*)しなくて済むこと。だから、支払い能力に基づいた呼称である「患者様」という呼称は、医者の仕事の自己否定に他ならない。

*客商売では、支払い能力があれば「お客様」と呼ばれるが、支払い能力がなければ「泥棒」と呼ばれる。

「自分は金のために働いているのではない」という意識は誰でも持っている自尊心である。この自尊心を尊重することは、働く意欲を湧き起こさせるための重要な手段である。これは医者に限ったことではない。数字で表される成績で給料が上がる仕組みが人も組織も毀損するのは、この仕組みが大切な自尊心を踏みにじるからである。

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