遺伝子真理教

私は河川改修工事のことは全くわからない.しかし,川の氾濫を防ごうとする治水事業の最重要部分が,川の源流を細かく調べ上げることだとは,とても 思えない.川の流れを遡り,源流を突き止める作業を,趣味として楽しむ人がいていい.しかし,源流がわかったからといって,川を理解したことにはならない し,洪水を防ぐこともできない.

火星の地図を描く作業とも揶揄されたヒトゲノム計画は2003年4月14日にGame overとなった.ヒトの全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さ解明された.だからどうしたというのだ?アルツハイマー型認知症の原因となるβアミロイドのの前駆体蛋白(APP)の遺伝子異常が見つかったのが1991年。それから35年の年月を経ても、予防はおろか,治療薬さえも見つかっていない. 2026年現在、我々の手にある「話題の新薬」の効果は「半年ばかり進行を遅らせる」だけ。

川 の源流を全て突き止めれば洪水が防げると主張しても誰も信用しないし,源流探索旅行に資金も提供してくれない.しかし,遺伝子がわかれば病気が治るという 主張には多くの人が同調し,莫大な研究資金が消費された.そして,それから何が起こったのだろうか?お金の行方はどうなったのだろうか?遺伝子がわかれば 病気が治ると主張した学者は嘘つきで,その時点で研究資金泥棒が始まっていたのだろうか?

いや,彼らは決して泥棒ではない.なぜなら,彼らは,犯罪者として捕まるどころか,今度は,夢の新薬を開発するためには,遺伝子よりも下流を探索しなければならないと言いながら,またまた研究費をいただいて,涼しい顔をして研究を続けているからだ.

このように,恥知らずな健忘症が跳梁跋扈している.その一方で,より現実的で安価な治療法,たとえば,納豆によるダイエットの試みを提案した人々が,散々な目に遭ったのは,誠にお気の毒である.

参考
Big step for science, small step for medicine. Lancet 2007; 369:1974 ランセットのEditorialも、やはり秦山鳴動して鼠一匹じゃないかと揶揄している。

2007年5月執筆
2026年5月一部改訂

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