これぞ医療ツーリズム
余計な説明は要らないでしょう。
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ロシア人患者を受け入れる函館新都市病院 - 誤解だらけの「医療ツーリズム」(3)
【医療法人雄心会函館新都市病院理事・事務部長・海外事業室長 大堀秀実】
キャリアブレイン 2014/1/21
http://www.cabrain.net/management/printNews.do?newsId=41861&printType=2
医療法人雄心会函館新都市病院(以下、当院)は、脳神経外科・脳神経内科・整形外科・循環器内科・内科・リハビリテーション科・麻酔科・放射線
科・歯科の9科から成る155床の病院で、本院以外にもクリニックや介護老人保健施設などの関連施設を併設している。脳神経外科領域を中心に急性
期から社会復帰まで、地域住民に対する良質かつ適切な医療の提供に努めている典型的な日本の地方の医療機関の1つである。
その一方で、当地函館は古くから開港している港町であり、年間の流入観光客数は400万人を超えており、そのうちの11万人は外国人である。町
にはロシア正教会、旧ロシア領事館、ロシア極東連邦大などが存在し、ロシアとのかかわりも深い。
当院は2005年から、極東地域からのロシア人患者の受け入れを開始し、これまでに200人以上の受け入れを行ってきた。治療内容は多岐にわ
たっており、人間ドックや精密検査はもちろんのこと、脳神経外科系では未破裂脳動脈瘤、脳血管狭窄症や頸動脈狭窄症、整形外科系では足関節変形や
変形性膝関節症など、さまざまな疾患を抱えたロシア人患者に治療を行ってきた。
■もともと国籍にかかわらず患者を受け入れる方針
当院院長(麻酔科医・青野允)は、「患者を国籍で区別するのはおかしい。自院の医療を必要とする患者に対して国籍にかかわらず医療を提供するの
は医療者として当然だ」という考えの持ち主である。そのため、観光都市である函館という土地柄もあったが、もともと在日外国人患者や日本滞在中に
病気やけがで治療を必要とする外国人患者の受け入れにも取り組んでいた。
そんな当院が、あえて極東からのロシア人患者の受け入れに取り組むようになったのは、04年に病院開設者(脳神経外科医・伊藤丈雄)がユジノサ
ハリンスクの病院を視察したことがきっかけだった。わたしたちが見たのは、十分な治療を受けることができない多くのロシア人患者だった。そこで、
「当院の医療を必要とする患者がいれば、人種や国籍に関係なく、われわれの技術を提供しよう」という考え方から、ロシア人患者の受け入れに着手
し、同時に、現地のサハリン州立病院やユジノサハリンスク市立病院、ユジノサハリンスク市立鉄道病院などと医療連携の提携を結び、研修医の受け入
れなどを行った。さらに、当院の医師や看護師、事務職なども定期的に現地を視察し、互いの交流を深めていった。
■スタッフの過度な負担を避ける受け入れ体制づくり
一口に極東からロシア人患者を受け入れるといっても、当時のわたしたちにはそのノウハウがなかった。まず、担当部署として院内に「海外事業室」
を設置したが、小規模病院では配置できる人員や予算にも限界があった。そして何より、現場のスタッフの間には「日本人患者や在日の外国人患者だけ
でも大変なのに、なぜわざわざ海外からの外国人患者を受け入れなければならないのか」という声が上がっていた。そこで海外事業室を中心に、ファシ
リテーター会社またはロシア極東連邦大函館校のロシア人教員や学生の助けも借りながら、日本人患者や現場スタッフに過度な負担を与えることなく、
患者を受け入れるための体制づくりに着手し、現在では独自の受け入れ体制を構築した。
海外事業室には、わたしのほか、ロシア語ができる日本人職員と日本語ができるロシア人職員の2人が所属している。ロシア人患者受け入れに伴うさ
まざまな業務はすべて、この部署が担当する。なお、現場スタッフへの負担を考慮し、またロシア語ができる職員が2人であることから、同時期に受け
入れるロシア人患者は2人までに制限している。
具体的な患者受け入れの流れを=図1、クリックで拡大=に示した。当院で治療や検査を希望するロシア人患者がいれば、サハリンなどに当院が提携
しているファシリテーター会社があり、そこを経由して患者の情報が送られてくる。その後、海外事業室で翻訳作業を行い、専門医に受け入れの可否を
判断してもらう。ロシア人患者が実際に来院した際には、=図2、クリックで拡大=のようなロシア語と日本語を併記したクリティカルパスに従って治
療や検査を行う。
■さまざまなツールをロシア語・日本語併記で作成
当院では、ロシア人患者が安心して受診できるようにするため、また現場スタッフの負担を軽減するため、さまざまなツールを開発・活用している。
例えば、診療情報提供書などの必要な書類はすべてロシア語・日本語併記のものを用意している=図3、図4、図5、図6、それぞれクリックで拡
大=。さらに、院内に通訳がいるといっても24時間張り付いているわけではないので、通訳がいないときでも現場スタッフとロシア人患者との間で円
滑にコミュニケーションが取れるように、ロシア語教室を週に1回開催(現在は月1回)するほか、ロシア語による痛みの程度を評価するフェイスス
ケール=図7=などを用意している。最近では当院海外事業室がアレンジする形で、函館市内の主に7医療機関でも治療や検査を行っている。
治療費の請求等についても海外事業室が行っており、支払い方法は現金(円)やクレジットカードが主で、高額な場合は海外金融機関からの振り込み
もあるが、幸いにも現在までに未収金やトラブルに至ったケースは皆無である。
■今後の課題や展望
国境を越え、言葉や文化の違う異国で検査や治療を受ける患者の不安は計り知れない。その不安を助長する要因として、ファシリテーター会社のロシ
ア人患者へのアプローチの仕方(わたしたちの医療を本当に必要としている患者なのかと疑問を抱くことが多い)や、帰国される患者さんのフォロー
(ロシアの医療機関との医療連携)が十分ではなく、院内ファシリテーターや医療通訳者の果たす役割が最も重要となる。
最後に、ロシア人患者を受け入れることで、病院として大きな利益が得られるわけではないものの、それらを通じて、改めて今の日本の医療制度や医
療の質の素晴らしさに気付くことができた。そして多少なりとも医療の国際貢献につながっていると実感できることが、医療人として何よりの誇りであ
り、財産と考える。
大堀秀実(おおほり・ひでみ)
1962年北海道せたな町生まれ。83-2004年板橋中央総合病院グループの勤務を経て、同年から医療法人雄心会
函館新都市病院に勤務し、現在に至る。全日本病院協会病院管理士の資格を取得
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