三島気取りで

-東京大学五月祭医学部4年生企画,「市民による科学的思考」に参加して-

2003/5/31(土曜),天候は土砂降りの雨だったが,そんなことは全く苦にならない程,楽しみにして本郷へ出かけた.服装には一切無頓着な私が,三島を気取る(ただし三島が登場したのは本郷でなく,駒場)ために,わざわざその日のためにユニクロで黒のポロシャツを誂えたほど,うきうきしていたのだ.

11時から17時過ぎまでほぼぶっ通し,1時間弱の昼休みも,学生さんたちとおしゃべりしながら,こんな長い時間,退屈どころか,わくわくしながら過ごせたのは,決して予想外ではなかった.ただ一つ予想外だったのは,企画した東京大学医学部4年生の力量だった.その昔,私も医学部の学生をやっていたことがあるので,彼らの力量は予想できていたつもりだったのだが,完全に当てが外れた.もちろんいい意味で.

企画主催者代表への手紙
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池田です.素晴らしい企画にお招きいただき,ありがとうございました.みなさん,講義や実習でお忙しい合間を縫って,非常によく勉強なさっていて,問題の本質を理解していたことがよくわかりました.プレゼンテーションの仕方も,私の学生時代とは比べ物にならないぐらい上手で,同僚の医者にも見せてやりたいぐらいでした.また一般市民への噛み砕いた説明の仕方もよくできていました.

みなさん,ひょっとして,東大の,それも医学部の学生ということで,偏った若者批判されることはあっても,誉められたことがないのではありませんか?もしそうだとしたら,今回の企画は,そういった謂れのない批判に対する反証を明確に示したと言えましょう.

私の本は,もちろん,一般市民にわかりやすく書きました.しかし,そこにあるメッセージを正しく読み取り,さらにそれをわかりやすく提示しながら自分たちの考察を加える作業は,メディア業界で働くベテランにとってさえも難しい作業なのです.

今後改善すべきのは,以下の技術的な点だけです.外向け,一般市民向けの企画なのだから,学生側からのプレゼンをもう少し短くまとめて,聴衆とのやりとりの機会をもっと増やしてもよかったと思います.それは難しいことではありません.たとえば,ワクチンの際の○×判定も,フロアからとってもよかったし,ワクチン,健康食品,BSEの各セッション毎に質疑応答の時間をとってもよかった.聴衆との間の質疑応答の際に,学生では答えられないという不安もあったのかもしれないが,わからないことはわからないでいいのです.あなたがたにわからないものは誰にもわからない.そのぐらい図々しくなってもいいぐらい,あなたがたはよく勉強していました.

一般市民と医療サービスというテーマは継続していく価値があると思います.たとえば,
1)テレビ番組や漫画の中の医師像と現実の医師のギャップを分析するとか,
2)氾濫する健康番組のどこが問題なのか,視聴者側,医療サービス側,製作側のそれぞれの立場から分析するとか.
3)厚労省の医療費政策の虚像と実像とか,
4)医師が余っているという事実の検証とか,

やらねばならないが誰を手をつけず,放置されている問題はたくさんあります.
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次は親しくさせていただいている,ある方への報告
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学生たちが大変優秀で勉強熱心なことに改めて驚きました.社会との関わりを嫌うよりも,医学をとりまく世界にむしろ積極的に関わっていこうという真摯な態度も持っていることにも感心しました.それでいて,若さの特権である感受性や純粋さを失っていませんでした.彼らは,三島気取りでうきうきしているおじさんを凌駕するほどの才能とセンスを持っています.しかし,彼ら自身はそれに気づいていない.聴衆の中でもそれに気づいたのはごく少数のようでした.東大の医学部の学生なんだから,これぐらいできるのは当たり前だと思っている.だから素人は困るんだよなあ(黒シャツよりダボシャツの方がよかったか)

何よりもショックだったのは,彼らのプレゼンテーションのセンスでした.16歳で宣伝の世界を志し,学校出てから二十年,今じゃ押しも押されぬ一流の医学プレゼンターが,何も教えることがなく,むしろ私が盗まなくてはならないぐらい,うまい.呆然としました.初々しさに満ちていたので,プロの手は入っていないと断言できます.なんであんなにうまいのか.これは宿題になりました.

東大の,それも医学部の学生は批判されることはあっても,誉められたことがない,偏差値の高さだけを誇る偏った人間だといつもけなされつづけてきた.自分の才能に気づいてを誇ろうとすれば,必ず叩かれる.そういう逆境の連続の中で,自分たちは本当に偏った人間だと思ってしまっているのではないか.嘘でも百回言えば本当になりますから.

そういう逆境の中で努力を続ける彼らの才能とセンスを埋もれさせずに育ててあげたい.つくづくそう思いました.
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