NEJMの購読者はビデオが大いに役立ちます.→Videos in Clinical Medicine. Lumbar Puncture. Volume 355:e12 September 28, 2006 Number 13
英語の総説でとても役に立つのは(JAMAに無料登録してあれば誰でも無料で読めるしダウンロードできます),How do I perform a lumbar puncture and analyze the results to diagnose bacterial meningitis? JAMA. 2006;296:2012-2022
患者への説明の要点
検査前:後ろから針を刺されるが,決して危険ではない.痛いのは皮膚の麻酔だけで,採血と同じ一瞬の痛みだけである.麻酔は 十分に行うし,麻酔後もし万が一痛かったらいつでも麻酔を追加できる.なお,検査前の食事を控える必要はない.(入院中の患者で食止めは不要).穿刺部位 の剃毛も不要である.
検査中:自分では見えない背中で何が起こっているのか,患者は非常に不安である.検査が現在どの段階にあるのか,常に患者に話しかけて情報を流し,痛みがないことも確認する.順調に進行していること,患者の協力を高く評価することも大切.
”これから消毒しますからねー.消毒液がひやっとしますよー.”
”はーい,次は皮膚の麻酔ですよー.血を採るときと同じ細い針でやりますからねー.採血の時と同じで一瞬ちくっとしますけど,一瞬ですから動かないで下さいねー.はいっ.あーよくできました.全然動かなかったですねえ.助かります”
”これから中の方を少しずつ麻酔していきますからねー.少し押されるような感じがしますけど,痛くはありませんよー.もし万が一痛かったら我慢しないで言ってくださいねー.麻酔はいつでも追加できますからー”
針が入って脳脊髄液が流れてきたら,検査は9割方終了したこと,これから後は絶対に痛くなるようなことはないことを告げて一刻も早く緊張を 解いてもらうこと.髄液採取が終わったら,外筒をただ引き抜くのではなく,内筒(スタイレット)を再度格納してから、抜去すると,post-spinal tap syndrome腰椎穿刺後の頭痛の予防になる。下記にエビデンス.針を抜くときは,抜きますよーと声をかけて,患者がびっくりしないようにする.
服装
清潔操作だから,滅菌手袋,マスク,帽子は必須.袖が清潔区域に触れないように,長袖の白衣は脱いで,半袖になること.
針の太さは細いほうが頭痛を少なくできると,上記総説 JAMA. 2006;296:2012-2022 にもあるが,そこで推奨されているのは,何と26Gの針である.26Gは,硬膜外あるいは脊椎麻酔の薬液注入には使えるかもしれないが,髄液採取のためには,髄液流出速度が極端に低く,また針の腰も弱く,とてもじゃないが実用的ではない.私自身の経験で言うと,髄液採取のためには23Gが限界である.神経内科医に聞いても,通常は22G,21Gという人が圧倒的に多い.
何らかの理由で,ディスポの針がなくて,どうしても旧式の金属針しか手元にない時は,以下の点に留意すること.
○靭帯が高度に石灰化しているような高齢者では,針を進めるのに力が必要.
○また,金属針の場合には,三方活栓がやたらと硬くなって いることがあるので,楽に回転するかどうか穿刺の前に確認すること.
○ディスポの針と比べて切れが悪いので,腰椎穿刺後頭痛のリスクは高くなる.
穿刺位置は,消毒の前に確認しておく.左右の腸骨稜を結ぶヤコビ線 Jacoby line はL4の棘突起の目安となるが,あくまで目安であり,一椎体分ずれることもある.穿刺はL3/4,L4/5,L5/S1いずれの高さでも可だが,まずは,中心となるL4/5で試みて,もしL4/5で採取できなかったら,上あるいは下に移動するという方針で行く.
それよりも大切なのは,綿球はよくしぼることである.垂直に立った面を消毒するのだから,綿球をよく絞らないと,消毒面の上の方の,より不潔な部分から内側に消毒液が垂れてくる.
局所麻酔はすべき:針を刺すのも麻酔をするのも同じ痛みだからといって局所麻酔をしない人がいるが,賛成できない.局所麻酔の時に皮下に 針(カテラン針でなくて,普通の長さの針でよい)を進めれば,棘突起の間隔が十分あるか,靭帯の石灰化の程度はどうかなど,本穿刺前に貴重な情報が得られ る.
十分に到達しているはずなのに髄液流出が見られない時は次の二つの方法を試みる.一つは,内筒を抜いた状態で針をゆっくり回転させながら,再度髄液流出を観察する.もう一つは,背中をベッドに垂直の状態から,幾分手前に倒す.
クエッケンシュテット試験について
最近は行われなくなっているだろう.リスクが大きい割には,意義が薄れてきているからだ.リスクとは,クエッケンシュテットの手技が頭蓋内圧や脊
柱管内圧を上昇させるからである.今は脳ヘルニアのリスクのあるような人には腰椎穿刺はやらないから,脳ヘルニアの可能性は考えなくてもいいだろうが,脊
髄腫瘍に気づかずに腰椎穿刺をした時,クエッケンシュテットをやれば,脊髄腫瘍による圧迫症状を急激に悪くさせる可能性がある.一方で,MRIを中心とす
る画像診断が発達してきたので,クエッケンシュテット試験を行わなくても,脊柱管内をブロックする病変の検出が容易になった.
みなさん,腰椎穿刺の後の安静はどうしていますか?安静時間の根拠は?とくにないですよね.その施設の習慣とか,指導医にそう教育されたとかという,根拠にもならない理由ですよね.そうなんです.上記JAMA総説 JAMA. 2006;296:2012-2022にも,メタアナリシスが載っていて,そこでは,むしろ動いたほうが頭痛が少ない傾向が見て取れます.
2001年11月13日号のCanadian Medical Association Journalによれば,安静例と非安静例とを比較した無作為化試験のメタ分析で、長時間安静を保つと頭痛が予防できるとする根拠は希薄であることがわかったのです。
Jana Thoennissen, Harald Herkner, Wilfried Lang, Hans Domanovits, Anton N. Laggner, Marcus Mullner. Does bed rest after cervical or lumbar puncture prevent headache? A systematic review and meta-analysis. CMAJ 2001;165(10):1311-6
例えば、フランスでは46%の医療機関が「24時間安静」を実施しているのに対し、イギリスでは7割の医療機関が6時間未満であり、スウェーデンでは平均安静時間が3時間を切るという。(ちなみに,私は30分でやってました.それも外来で!!)
メタ分析の対象になった16報のうち2報では、安静なし、あるいは短時間の安静の方が、長時間の安静よりも頭痛が有意に少ないとの結果が出ていた。残りの14報では、すぐに起床あるいは短時間安静を取るのと、長時間安静を保つのとで、頭痛の発症率に有意差はなかった。
以上より,「長時間のベッド上安静が、安静なし、または短時間の安静よりも、頭痛が起こる頻度を下げるとのエビデンスは認められない」と結論付けている。
post-lumbar puncture syndromeを避けるために,検査後の安静よりも大事なことを,次の論文がエビデンスとともに示しています.
1.髄液採取が終わったら,外筒をただ引き抜くのではなく,内筒(スタイレット)を再度格納してから、抜去するとよい。下記の論文はそのエビデンスを示しています.600例の腰椎穿刺を,内筒再挿入のあるなしで300例ずつに分けて,post-traumatic tap syndromeの有無を検討したところ,内筒再挿入群では300例中15だったのに対し,再挿入しなかった群では300例中49例にpost-traumatic tap syndromeが現れ,その差は統計学的に有意でした.
Strupp M, Brandt T, Muller A Incidence of post-lumbar puncture syndrome
reduced by reinserting the stylet: a randomized prospective
study of 600 patients.. J Neurol 245, 589-592. (1998).
Strupp M, Brandt T Should one reinsert the stylet during lumbar puncture?. N Engl J Med 336, 1190. (1997).
2."Atraumatic" Sprotte needleを使う
Strupp M, Schueler O, Straube A, Von Stuckrad-Barre S, Brandt T "Atraumatic"
Sprotte needle reduces the incidence of post-lumbar
puncture headaches. Neurology 57, 2310-2312. (2001).
通常の腰椎穿刺針は切っ先に穴が開いているので,そこに硬膜組織も巻き込んで硬膜に穴を開けてしまうのに対し,この"Atraumatic" Sprotte needleでは,先端が盲端になっているため,硬膜に入れた切れ目を押し開くようにして入るため,を硬膜に開く穴を最小限に留めることができると考えられています.(JAMAの総説から引用した解説図)この論文はその仮説を実際に無作為化試験で検討したものです.する と,Sprotte needleを使った群では,頭痛が12.2%だったのに対し,通常の針では24.4% だったとのことです.この針の問題点は,欧米でも手に入りにくいこと(値段は同じだそうですが,英国では15%,米国では2%と,普及率が低い),標準的な針に比べてやや切れが悪いこと(そのため,穿刺回数が複数になりがち)とのことです(上記総説 JAMA. 2006;296:2012-2022) 私はこの針が日本で入手できるかどうか知りません.どなたかご存知でしたら教えてください.
以上より,腰椎穿刺後の頭痛を少なくするためには,ディスポの細めの針(22ゲージの黒針程度.23ゲージだと腰が弱くなる印象))を使って,引き抜く前に内筒を再挿入するのを励行する価値があると思います.
中京クリニカル内科(元名古屋大学大学院医学研究科健康社会医学専攻老年医学) 中村 了先生のコメント:
国立循環器センターの先生より教えてもらった裏わざについて、補足をさせて下さい。靭帯が石灰化している高齢者のルンバールで針が靭帯を上 手く切ってくれない、また、おでぶさんのルンバールで、針がまっすぐ進みにくい、という御経験をされた先生もなかにはおみえと思います。特に、細いルン バール針を使用されてみえる場合、起りやすいと思われます。そこで、注射針で18Gのもの(ピンク針)を先にまっすぐさしておいて(これは容易です)その あとで、そのピンク針を刺しっぱなしにしておいて、すなわちピンク針を外筒にしてルンバール針を入れると、たいそう簡単にできます。以前、麻酔科医だった ころ、外科の先生が誰も入らないルンバールを、この方法で何回か成功させることができました。この手技によって変な合併症が増えた印象はありませんが、皮 膚が薄そうな人は18G針が硬膜までいってしまわないように注意が必要だとはおもいます。万が一、ルンバールに難渋される症例にあたられましたら、お試し いただけると幸いです。
診療の秘訣:腰椎穿刺の極意 西伊豆病院院長 仲田和正先生 「モダンフィジシャン」(新興医学出版)2006年7月号より抜粋
穿刺の実際:棘突起を確実に触り眼を針と同じ高さに
次に左手の親指で棘突起を触診する。肥満してよく触れない時は、親指を上下(天井?床)に動かしながら押し込んで脂肪を周囲にどかすと棘突起の位置がわかりやすい。そして、棘突起の正中を親指のど真ん中にもってくる(1mmの狂いもなく!!)。ここからは親指を離してはいけない。針はこの親指の「ど真ん中」を指標にして刺す。2,3mmずれただけで入りにくくなる。
この棘突起の位置を確実に親指の正中に持ってくることが最大のコツである。特に肥満者の穿刺の成功はこの棘突起の触診にかかっている。肥満して棘突起を明確に触れなくても親指を上下(天井?床)に動かすことにより棘突起の巾の範囲を感じることができる。棘突起は少し尾方に傾いているから針は少し頭側に傾けたほうが入りやすい。
また必ず膝を床について眼を針と同じ高さで見て刺入する。上から見下ろすと針が床と正確に平行になっているかどうかよくわからないからである。椎弓間が最も広いのはL5/S1で一番入りやすいが老人で脊柱管狭窄症があるとdry tapのことも多い。
応用その1(変形性脊椎症):lateral approach
さて問題は棘突起間の棘間靱帯が骨化してたり椎間板変性で、棘突起間のスペースがない時である。この場合は棘突起間から刺入することはあきらめ、lateral
approachで行う。棘突起中心から3?5mm離せば十分であり(1cmも離してはいけない)、中心に向かい斜めに入れる。棘突起側面をかするようにして天井方向に斜め15度位で入れる。
応用その2(側彎症):棘突起は凸の側と反対側に傾く
側彎症がある時は腰椎正面X線をよく見ておく。側彎が凸の側にrib humpあるいはlumbar
humpがあるが、凸の側と反対側に棘突起が傾く。側彎は椎体の回転も伴うからである。従って、棘突起を触れたら側彎が凸の側に少し傾けて入れると入りやすい。