独法化,臨床研修必修化の二つの荒波をもろに食らった国立大学病院(正確に言うと,独立行政法人化しているので,従来の意味での国立とは違うが,まだまだ国から運営交付金をもらっているから実質上,国の支配下にあるので,便宜上こう呼んでおく)
臨床研修必修化,マッチングで,他の施設と競争に敗れ,研修医という安価な労働力を確保できなくなった,あるいは,たとえ病院全体で研修医の数は確保できたとしても,自前の徒弟として使えなくなった各医局は,これまでベッドサイドの心電図,検尿,各種X線写真の整理といった病棟医のこまごまとした仕事にまで中堅の医者を動員しなければならない.
貸し剥がしならぬ医者剥がしで,今までの派遣先から拉致同然に強引に戻したはいいが,そうまでして呼び戻した医者が何をやっているかというと,去年まで一年目の研修医がやっていた朝の採血当番.貴重な新人研修医には,きちんと休みを確保しなくてはならない.夜遅くまで頑張った研修医には,次の朝の休みを確保しなくてはならないからだ.
一方で,やれ医療事故防止だ,やれ顧客満足だとか言って,お客様にはいろいろ気を使わなくちゃならない.おまけに収益を上げろ,在院日数を短縮しろという尻たたきは年々ひどくなる一方だ.その類の会議はやたらと増えるし,学会専門医のポイントは年々上がっていく.
一方で,研究費の申請書は書かなくちゃいけないし,運良く科研費が当たってもネイチャーに出さなければ人間扱いされない.
朝の採血当番までやって耐え抜いたからと言って,将来の昇進が約束されているわけではない,任期制ゆえ,5年以内にお払い箱の危機がやってくる.そんな状況下で,なぜ,今時”おしん”(ほとんどの研修医は,このドラマの名前さえ知らない)気取りしなくちゃならないんだ.そう思った中堅どころは,逃亡を企てる.
労働条件悪化によって有能な人材が流出し,それがまた労働条件を悪化させる.そんな悪循環が国立大学病院を飲み込もうとしている.労働条件どころではない.最低限の当直手当さえ払えなくなっている.
→続く