エリート判事を騙した後藤医師の嘘:その1
埜中征哉先生と私
あれは確か2010年2月、私が阿部さん(北陵クリニック事件の弁護団長)と出会ってからしばらくした時だった。
阿 「えっ?池田さん、埜中先生を知ってるんですか?」
池 「知ってるも何も、1986年、私が大学院生で、国立精神神経研
究センター神経研究所で研究していた時からの仲ですよ。当時既に埜中先生は、筋疾患の臨床では世界のトップレベルとして、我々(成人)神経内科医の間でも超有名人でした。私も、自分の研究の合間に、何かと理
由をつけて埜中ラボにお邪魔して、筋病理の読み方について直々の指導を受けました埜中先生は、何故か私を可愛がってくださって、研究所の夏のテニス合宿(*1)でも対決したし、その夜の飲み会(*2)でもお元気でした。埜中先生との出会いは生涯の誇りです」
阿 「実は、A子ちゃんがミトコンドリア病(MELAS)だって意見書を途中まで書いてくれたくれたのが、埜中先生だったんです」
*1 後列向かって右から3番目が私。4番目が北大精神科名誉教授の久住一郎君。前列左から4番目が埜中先生
*2 後列向かって右から3番目が私。その前で美女2人を両脇に抱えてやに下がっているのが埜中先生
あまりの衝撃で、その後の阿部さんとの会話がどうだったか、ほとんど記憶がないが、それよりもっと大事なことがある。実際に阿部さんが見せてくれた埜中先生の意見書が完璧だったので、私はその校正を務めるだけでよかったことだ。
その後何年か経った、未承認薬検討会議に出席するためPMDAに出かけた時だった。同じくPMDAで行われていた医薬品副作用被害等救済給付審査申立検討会を終えて帰る埜中先生にばったり会った。
池 「先生が書いてくださったMELASの意見書、内容はほとんどそのままで形式だけ整えて出したんですけど、後藤先生が・・・」
埜 「ああ、聞いてる。後藤君もどうしちゃったんだかねぇ・・・」
根崎修一判事を騙した後藤雄一医師の嘘
●後藤医師の嘘:「池田の症例報告はMELASの遺伝子検査結果が得られていないのでMELASではない
●私の主張が正しい:A子ちゃんは臨床的に(遺伝子検査結果がなくても)MELASで間違いない(埜中意見書とその事実をそのまま受け継いだ池田意見書)
解説:病気の診断は、最初に病気があって、それから診断法が見つかる。結核という病気があってから、結核の原因=結核菌が見つかり、その次に結核の診断法が見つかるのであって、「結核の診断法が見つかってから、結核菌が見つかり、次に結核という病気が見つかった」と主張する医師は偽医者である。後藤医師は正にこの偽医者だった。そしてその後藤医師の主張をそのまま受け入れ、A子ちゃんはMELASではないとした根崎決定もこれまた嘘だった。
実は後藤医師自身が、MELASが遺伝子診断なしで、臨床的に診断できていたことを論文を発表している(Nature. 1990;348:651-3)。今でこそ10種類の遺伝子異常が見つかっているMELASだが、その中で最初にm.3243A>G変異を見つけたのが後藤医師だった。この後藤医師の輝かしい業績を裏返せば、(遺伝子検査なしに)臨床的にMELASと診断できる症例がまだまだあり、その比率が20%だとわかるのには年余の時間がかかったことを意味する。
さらに言えば、Rowlandら(*)が1984年に2例のMELASを報告してから(Ann Neurol. 1984 Oct;16(4):481-8)、後藤医師の論文が出る1990年までの6年間の間、MELASは全例世界中で全て(遺伝子検査なしに)臨床的に診断されていたのであり、その後も後藤医師の発見した3243変異以外の変異の多くが見つかるまで年余の時間がかかった。(*埜中先生と並び称されるミトコンドリア病の泰斗)
結局、遺伝子検査結果の有無でMELASを否定してはならないということだ。当然である。
●後藤医師の輝かしい論文のsecond authorになっている埜中先生だって、後藤論文が出る前までは臨床症状のみでMELASを診断していたわけだし
●後藤論文が出てからも、それらしき患者が来ても、いきなり遺伝子検査をすることなど決してせず
●まず、病歴や臨床症状といった基本的かつ不可欠な情報に基づきMELASと診断してから、初めて遺伝子検査を行う。
●そしてその結果、既知の遺伝子異常であれば、それで診断は終了するが、もし既知の遺伝子異常がなければ、未知の遺伝子異常を検索する、
●このプロセスを踏んでこそ、新たな遺伝子異常が見つかってきたのであり、遺伝子検査結果の有無でMELASを否定するなどとは、本末転倒も此処に至れりの所業である。
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MELASでは約8割の患者でミトコンドリア遺伝子A3243G突然変異が検出される.しかし,同じ変異を有していても,すなわち同一家系内でも,症状・
重症度に幅があることが通例で,脳卒中様発作のような典型的な症状を示さず,糖尿病や難聴,心筋症のみを呈する患者も多い.
これは,核遺伝子と異なり,ミトコンドリア遺伝子は1つの細胞内に数千コピーが存在するため,野生型と変異型が混在しており(ヘテロプラスミー),変異型がある割合を超えた場合にのみ,ミトコンドリア・細胞機能障害が顕在化し発症する(閾値効果)ためである.
また,同じ病型(表現型)であっても,必ずしも同一の遺伝子変異が検出されるとは限らず,他のミトコンドリア遺伝子変異あるいはミトコンドリア機能に関わ
る核遺伝子の変異が原因となることもある.実際にMELASでは,A3243G変異のほかに50種類以上の変異が報告されている.このように,ミトコンド
リア病では,臨床症状(表現型)及び遺伝子変異のそれぞれに多様性があることに注意が必要であり,また,このことが診断を困難にする一因となっている.
(井川 正道 ミトコンドリア病 日内会誌 106:1584~1590,2017)
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In partial or confusing cases, analysis of mitochondrial DNA (mtDNA)
may point to the correct diagnosis; however, not all patients with
clinical MELAS have had the typical mtDNA point mutation and some
patients with the mutation have clinical syndromes other than MELAS.(Melas: an original case and clinical criteria for diagnosis.Neuromuscul Disord. 1992;2:125-35)
しかし、話はここで終わらない。後藤医師は根崎判事にもう一つ重大な嘘をついていた。
→ 根崎修一 裁判官 判決全文 平成26(く)24 再審請求棄却決定に対する即時抗告申立事件 平成30年2月28日 仙台高等裁判所 第1刑事部
→ 根崎判事を騙した後藤医師の嘘:その2
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