科捜研の男
土橋鑑定は,煮ても焼いても食えない代物だった.だって,世界の誰も再現できていないんだもの,エレクトロスプレーイオン化でノーベル化学賞を受賞したJohn Fennが腹を抱えて笑ってしまうような法螺話だった.余りにも馬鹿馬鹿しい話なので,誰も土橋を相手にしなかった.我々だけが相手をさせられていた.
守大助氏の国賠訴訟とは別に,我々は土橋個人を相手取って,あの馬鹿馬鹿しい法螺話のために大切な時間を奪われた賠償請求をする.請求額は嘘八百にちなんで800円。さらに「私が嘘をつていました」とする報告書をを請求する.公務員としての不祥事だから,彼には報告書を書く義務がある.まともな論文一つ書いたことのない彼のために報告書のお手伝いはいくらでもする.
もし彼が絶対に書きたくないとだだをこねるのであれば、その場合には、私が「土橋 均」のペンネームで「北陵クリニック事件懺悔録」を書くことになる。下記のように大筋はもう書けているので、土橋博士におかれましては、首を洗って待っているように。
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1.はじめに
確定判決は土橋鑑定を直接証拠として事件性を認定している。
すなわち確定判決は、土橋鑑定を「患者の血液等の鑑定資料中に筋弛緩剤の成分であるベクロニウムの存在を証明した」と評価し、「本件は誰かが患者に筋弛緩剤を投与した犯罪事件」と断定した。
土橋鑑定は、質量分析により鑑定資料の血液等からm/z258(以下信号Xということがある)を検出したとし、標品のベクロニウムの質量分析でもm/z258(信号X)を検出したとする。
そこで確定審2審以後、質量分析鑑定論の攻防はベクロニウムの質量分析でm/z258(信号X)が出るか出ないか、この一点に集中した。事件性の証明はベクロニウムから信号Xが出て来ることが大前提とされていたからである。
再審新証拠志田保夫実験鑑定は、標品のベクロニウムの質量分析において、世界の質量分析専門家と同じm/z279あるいはm/z557の検出を実証する実験データを提出するとともに、さらに詳細な実験を行い、ベクロニウムからは信号Xが決して検出されないことを実証し、土橋鑑定の誤りを明確にした。
確定判決の見直しと再審開始は避けられないものとなっている。
本補充意見書は、本件鑑定当時、土橋にはベクロニウムそのものを定性する分析能力、すなわち、鑑定嘱託事項を鑑定する基本的な能力が欠けていたことを、新発見の資料4点を追加提出することにより明らかにし、確定判決において事件性の証明がなされていないことを指摘する。
2.土橋には事件性の証明能力がなかった
5通の土橋鑑定書には「ベクロニウムの定性分析を実施した」と記述してある。ベクロニウムの定性分析とは、ベクロニウムを他の化合物から識別しベクロニウム以外の何ものでもないと定めることである。ベクロニウムに特異的性質、固有の性質を持つことを確認することである。特異的性質、固有の性質とは「他のものには見られない、そのものだけが持っている性質」であり、ベクロニウムの定性分析には、別の化合物であるその分解・代謝物との科学的な弁別を当然含んでいる。
ベクロニウムの定性分析が質量分析によって適切に行われると、ベクロニウムの分子量に関連する一定の数値が電気信号として観察され、ベクロニウムそのものとは異なる分子構造をもつベクロニウム分解物の質量分析では、ベクロニウムそのものとは異なった一定の数値の電気信号が観察される。
一方、以下の争いのない科学的事実は、すでに世界中の質量分析専門家により明らかにされてきたところであるが、再審請求審で、志田実験鑑定書が提出されることにより改めて確認されることになり、検察官と裁判所も議論の前提として認めている。
すなわち、ベクロニウムの分子量は557で、ベクロニウムを質量分析すると、1価イオンのm/z557と2価イオンのm/z279が、それぞれ分子イオンと分子量関連イオンとして出現する。ベクロニウムが加水分解すると分解物が生成し、その分子量は515である。分解物を質量分析すると1価イオンのm/z515と2価イオンのm/z258(信号X)が、それぞれ分子イオンと分子量関連イオンとして出現する。
このとおり、信号Xはまさに分解物の存在に特異的な性質であって、ベクロニウムそのものを分析しても決して得られない信号なのである。
この事実は「信号Xの検出によりベクロニウムの存在を証明した」とする土橋鑑定を崩壊させる。つまり信号Xの検出はベクロニウムそのものの存在証明にはならないから事件性の証明ができない。本件土橋鑑定時の土橋は「信号Xの検出によってこそベクロニウムの存在を証明できる。」という独自の考えに基づいて鑑定を行なったものの、その独自の考えが科学的・客観的に誤りだったことが明らかになった今となっては、当時の土橋にはベクロニウムを定性分析する能力がなく、そのため事件性の証明能力もなかったことが明らかとなっている。
3.新証拠を踏まえた土橋分析手法の時系列的検証
本項では、土橋が外部に発表した講演・報告・著述と世界標準の質量分析法の論文を時系列的に検証することにより、以下のことを明らかにする。
第1に土橋にベクロニウムを証明する能力がなかったこと、第2に土橋がベクロニウム存在の証しとして信号Xを選択した過ちを犯した理由である。
5通の土橋鑑定書の作成前である1998年(平成10年)3月と、土橋鑑定書の作成時期に重なる2001年(平成13年)3月に、土橋が対外的な講演や報告で使用した資料、そして、2002年(平成14年)7月に発刊された著書の著述、さらには、土橋も共著者となっている、2011年(平成23年)発刊の著書の記述を即時抗告審に新証拠として提出する。とりわけ重要な資料は、平成14年発刊の『薬毒物分析実践ハンドブック』と平成23年発刊の『法科学技術』である。これらの新証拠を加えることにより、本件土橋鑑定時、土橋にはベクロニウムを質量分析によって定性する能力が欠けていたこと、これが明らかとなる。
(1)1998年(平成10年)〔標品からm/z258が出る〕
土橋は、平成10年3月31日の「日本薬学会第118年会」(京都)で「筋弛緩薬試験法」と題して報告した。その資料を新証拠として提出する。土橋は、標品のベクロニウムのエレクトロスプレーイオン化の質量分析でm/z258が出現する、と明確に表記している(表X)。(新証拠)
(2)1999年(平成11年)〔標品からm/z258が出る〕
確定審、再審請求審に提出済みの証拠である平成11年に出版された『法中毒』には、ベクロニウムの質量分析においてコーン電圧20Vの分析ではm/z258のみが出現したとしており、コーン電圧50Vの分析ではm/z258の2価イオンとともにm/z515の1価イオンが出現したとしている。
この時点でもなお土橋は、m/z258がベクロニウムの分析により観察されると認識していたことが読み取れる。
(3)2000年(平成12年)9月〔世界標準の論文〕
これも確定審に提出済みの証拠である。エレクトロスプレー・イオン化法を用いてベクロニウムを質量分析したGutteek−Amslerらの論文が2000年9月に出版された。そこには標品のベクロニウムを質量分析したときのベースピークはm/z279であり、m/z258は分解物に由来すると明確に記載してある。
(4)2001年(平成13年)の本件鑑定時点〔土橋はなおも標品からm/z258が出ると認識〕
血液等の鑑定資料の分析と標品のベクロニウムの分析とを対比したとする土橋鑑定書では、血液等と標品のいずれからもm/z258を検出したことを前提に、鑑定資料の中にベクロニウムそのものの存在を証明した旨、記述されている。
なお、土橋の鑑定書作成時期は、その表記上、平成13年1月ないし3月となっている。
(5)2001年(平成13年)3月の時点〔標品からm/z258が出るとの土橋の主張の最後の記録〕
土橋は平成13年3月1日発刊の「毒劇物テロ対策セミナー」テキストブックに「GC/MS、LC/MSによる微量薬毒物の分析」を寄稿しており、同月7日と31日には東京と大阪で講演した。この時期は本件土橋鑑定の時期とまさしく重なっている。
その資料を新証拠として提出する。
土橋はベクロニウムの摂取者の血清をLC/MS/MSで分析したものを、図8「ESI−LC/MS/MSによる変死者血清からのベクロニウムの検出」として掲げているが、ベクロニウムの標準品の質量分析においてプリカーサイオンとしてm/z258を選択した。この分析手法はm/z258(信号X)だけを検出する手法であり、信号Xはベクロニウムそのもののフラグメントイオンとして出現し観察されると土橋が認識していたことを端的に裏付ける証拠である。
これが、土橋がm/z258がベクロニウムに由来すると主張した最後の記録である。(新証拠)
(6)2002年(平成14年)7月の時点〔ベクロニウムからm/z258が出ないことを土橋自らが認めた〕
2002年(平成14年)7月発行の『薬毒物分析実践ハンドブック』(株式会社じほう)において、土橋は「筋弛緩薬」の執筆を担当している。
その中で、土橋は、「筋弛緩薬のMS/MS分析において観察される主な生成イオン」とする表を掲げ、ベクロニウムについては、m/z279を前駆イオンと、つまりベクロニウムの分子量関連イオンである2価イオンとして表示し(*注)、このイオンの開裂でm/z356、398、249のイオンなどが生成すると表示している。これらのイオンは志田実験とも一致し、まさに世界標準に合致した正しいベクロニウムの質量分析である。
そこには、m/z258はベクロニウムの分子量関連イオンともプリカーサイオン(開裂イオン)とも表示されておらず、影も形もない。
(*注:表6.6のパンクロニウム(分子量572)の前駆イオンM2+は、まさしく2価の分子量関連イオンのm/z286であり、ベクロニウム(分子量557)の前駆イオンである〔M+H〕2+は、まさしく2価の分子量関連イオンのm/z279である。)
本書の序によると、2001年(平成13)の4月頃に執筆を依頼したとし、脱稿期限を同年の8月としている。すなわち土橋は2001年(平成13年)8月頃までには、ベクロニウムから分子量関連イオンとしてm/z279が検出されること、m/z258は開裂イオンとしても検出されないことを知っていたものとみざるを得ない(他に理由がない)。(新証拠)
(7)2006年(平成18年)3月発行著書〔m/z258消去〕
2006年(平成18年)3月発行の『薬毒物試験法と注解−分析・毒性・対処法−』(日本薬学会編)において、土橋は執筆を担当した「筋弛緩薬試験法」で、「エレクトロスプレーイオン化法ではM2+あるいは〔M+H〕2+などの2価の分子イオン種として観察される傾向にあるが、機種や測定条件によりスペクトルパターンが変化するため分析前に標準品で確認する。」と記している。ここでも、ベクロニウムの質量分析においてはm/z258に関する記述が姿を消している。(新証拠として原審提出済)
(8)2011年(平成18年)発刊の『法科学技術』
2011年(平成18年)発刊の『法科学技術』に掲載された「LC/MSnを用いた薬物スクリーニングシステムの構築−
液体クロマトグラフイー/質量分析における保持指標の適用−」
において、土橋は共著者として、表1(Table1)の(B)
「20Vecuronium」において、ベクロニウムの液体クロマトグラフィー/質量分析と関係するパラメーターとして、そのモニターすべきイオンを「557.5」と明記し、かつ、図1(Fig.1)の(B)の(20)のクロマトグラムにおいてベクロニウムの分析における対象イオンの質量電荷比を「m/z557.0−558.0」と明記している。世界標準に合致した正しい数値を示しており、m/z258は影も形もない。(新証拠)
4.土橋の認識の経時的分析
以上の土橋自身が外部発表した講演・報告・著述等と世界標準の質量分析論文を経時的に比較分析することにより、以下の点が明白となる。
土橋は、1998年(平成10年)3月頃から、土橋が本件鑑定を行なっていたとする2001年(平成13年)3月ころまでは、m/z258(信号X)がベクロニウムから直接、フラグメントイオン(開裂イオン)として出ると誤って認識していた。その後2000年(平成2年)9月のGutteek−Amslerらの論文発表から約1年後の2001年(平成13年)8月ころまでにようやくその誤りに気がついて、m/z258(信号X)の記述を自己の著述から消去したことになる。
土橋鑑定書作成時期は、その表記上2001年(平成13年)1月乃至3月であるところ、同年8月ころまでにはすでに自分の鑑定の誤りに気づいて、「ベクロニウムの標品からm/z258(信号X)が検出されないこと」を知りながら、同年の11月と12月に行なわれた確定1審の公判証言段階では、ベクロニウムとその分解物の分子量について一切言及することをせず、ただ単に、m/z258(信号X)は2価イオンであり、本来516(ママ−弁護人注)のイオンであるとの説明に止めて、ベクロニウム由来のフラグメントイオン(開裂イオン)であるとの主張も説明もしなかった。
土橋は公判証言の段階で自分の鑑定の誤りに気づきながら、法廷でこれを隠蔽するごまかしの証言をしていたのであり、その証言をめぐる不可解さについても全て合理的に説明できることになったのである。
さらに、土橋は、本件再審請求申立て後、再審請求審においても、自分の鑑定の誤りを認識していながら、これを隠蔽するごまかしの意見書(検察意見書(1)添付資料9「志田保夫前教授の意見書に対する見解」(平成24年12月13日付け))を提出した。
5.まとめ
再審請求審の段階において、志田実験鑑定の詳細な実験生データにより、決してベクロニウムからは信号X(m/z258)は生じないことが確認され、確定判決の見直しは免れない事態となった。
さらに志田実験鑑定の提出を機に論議が深まることとなり、弁護人が提出した今回の新証拠である土橋自身の各著述等によっても、信号X(m/z258)はベクロニウムの指標ではなく、分解物の分子量関連イオンであって分解物の存在の指標でしかないこと、そして、土橋鑑定は確定審の段階においてもベクロニウムを検出していたとはいえないことが明らかとなっている。この事実を、検察もそして裁判所も正面から認めべきなのである。
さらに、今回新たに提出した各新証拠により、土橋本人が鑑定後半年も経たないうちに、信号X(m/z258)はベクロニウムの指標ではないことに気づきながらも、法廷ではこれを隠蔽するごまかしの証言をしていたこと、さらには、再審請求審の段階でも自らの過ちを再度隠蔽する意見書を提出していたことも明白となった。虚構に満ちた土橋鑑定を直接証拠として事件性の認定をした確定判決は、すでにあらゆる意味で崩壊している。
裁判所はもちろん検察官も土橋鑑定の虚構と決別するときが来ている。しかるべき事実調べの後、早急に再審開始の決定をされたい。
以上
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