欧州・米国介護事情
差別の解消が医療崩壊を阻止するという論点と、国民皆保険制度が発達した欧州先進国でも医療崩壊が起こっている(*)という事実に関連して、欧米先進国の介護施設事情を調べてみた。日本と欧米先進国の比較の中で新しいのは,介護の国際数量比較−日本の介護は、他国よりも優れているのか?(2017年04月10日)である,適宜こちらを参考にされたい.
*COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICのサイトを見れば,単位人口当たりの死亡数(Death 1M pop)は,2020/4/3現在,日本が小数点以下(0.5)なのに対し,ドイツ16,米国23,英国64と二桁はまだいい方で,フランス100,イタリア243,スペイン251と惨憺たる状態である.この違いは一体どこに求められるのだろうか?
●イタリア:在宅介護率が高い?
(前略)AとBが導入されたのは、施設ではなく在宅で介護を受けたいという要望に配慮したためである。イタリアの高齢者のうち、95%は自宅に住んでいて、5%が老人ホ ーム等の施設に入居している。(4.4.1 介護制度 P549 第8章 イタリアにおける国と地方の役割分担 「主要諸外国における国と地方の財政役割の状況」報告書 (財務総合政策研究所)より)
上記は14年前の資料だが,『ミラノでは10人に1人が孤独死!? 海外介護事情』(2015/06/14)によれば,やはり施設よりも自宅,それも単身が多いようである.下記抜粋
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宗教観、外国人ヘルパー…イタリアの”オクニ”事情
イタリアでは、日本の介護保険に該当する制度はない。ケア(現物)よりも現金給付の考え方が主流であり、1980年代より介護者に対して介添手当が支給されている。イタリアでは高齢者の介護を、家族内における出産や育児、病気や失業などのライフサイクルに位置づけ、あくまで家族を介護の中心に置いている。しかしながら、現実を見てみると、女性の社会進出や高齢者の急増などから、家族を介護の担い手とする体制が崩れつつある。高齢者の独居も増えていて、ミラノでは 27万人の高齢者の3分の1が一人暮らしで、 そのさらに3分の1が自宅での孤独死という衝撃のデータもまとめられている。
人生の終末期には、宗教的要素が多くからんでくる。ローマ・カトリックが90%以上を占め、「命を守ることが大前提」という宗教的背景があるイタリアでは、延命治療、終末期における点滴使用、延命のための薬物の使用が欧米に比較して多いという特徴がある。この点については延命治療がかえって苦痛を長引かせることもあり、実際に延命治療を受ける際の課題となっている。また認知症高齢者の85%は在宅で過ごしており、患者を見守る家族の疲弊が問題となっている。
施設介護が中心の日本に対して、イタリアでは在宅が中心である一方で、介護の労働力を外国人材に頼っており、専門知識のない外国人介護ヘルパーが介護を担当することによる問題もあるようだ。
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一方,上記の介護の国際数量比較−日本の介護は、他国よりも優れているのか?(2017年04月10日)によれば,イタリアでの介護施設入居者割合は先進国の中で中間に位置しており,必ずしも高くない.
コメント:もし今も在宅介護が95%とすると,COVID-19に対して一番脆弱な層が,調整池(遊水池)となる施設を介さず,津波のように医療機関に殺到するわけで,そうなったらひとたまりもない.その懸念が現実となったのではないのか?この点は入念に検証する必要があろう.
参考:
イタリアが新型コロナウイルスの“激震地”になった「2つの理由」と、見えてきた教訓
↑上記で引用されている論文
Demographic science aids in understanding the spread and fatality rates of COVID-19
↑この論文を掲載しているOSFというサイトについての解説『OSF』で社会に開かれた研究室へ〜LabTech海外事例最前線〜
●北欧諸国はおしなべて施設介護を止めて在宅介護を推進してきた。
−スウェーデン:日本だったら確実に施設に入っているような認知症の高齢者でも、在宅介護が行われる。(中略)65歳以上の高齢者で特別住宅に暮らしているのは6%。つまり、高齢者の9割以上は自宅で暮らしている。
−フィンランド:各自治体の高齢者介護のあり方も施設介護から在宅介護、住宅サービスへの転換が大幅に図られることになった。
−デンマーク:住み慣れた環境で、可能な限り暮らし続けることを支援する“在宅介護”の充実につ ながる原則である。
●高齢化率が日本ほど進んでいない英国、オーストラリア、アメリカでも、高齢者の介護を施設ケアから住宅ケアにシフトしている。(教えて介護さん:世界の介護と日本の介護との違い)
●一方、COVID-19でも医療崩壊を起こしていない台湾では、施設ケアは減少しておらず、むしろ微増(2009-2016年の年平均伸び率は、施設定員1.6%、施設利用者数2.3%)『台湾の高齢者介護制度について』から
(台湾の人口は2378万 で日本の1/6。2020/4/2現在の死者数は5。対100万人口死亡数は0.2。それに対して日本0.5、イタリア230、スウェーデン30、デンマーク21、米国18、英国43) COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICより
以上、施設介護→在宅介護のシフトを推進してきた欧米先進国ではCOVID-19の流行に際して医療崩壊が進む一方、施設ケアを維持してきた台湾では医療崩壊が起こっていないことがわかる。このことから、台湾と同様、介護施設は医療崩壊の防波堤として有力な選択肢となりうると考えられ、実際に我が国でもそのような運用がインフルエンザ流行の際にも行われていた。(差別の解消が医療崩壊を阻止する)
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