ADR:人材育成の鍵は?

新しい事業を始める時は,法律・制度や箱物作りの前に,人材育成を最優先である.そうでないと,臨床研修必修化のように,仕組みができても,まともな指導医の数が足りないという悲劇が待っている.

そういう点では,ADRを担う人材育成が始まったことは喜ばしい.ただ,その活動を継続させ,発展させる鍵がまだ用意されていない.ADRの活動が商売として成り立つかどうかが鍵だ.

金と命と自己・肉親への感情が入り混じった危険な案件の処理を担う仕事だけに,ボランティアや低賃金では,人材も仕事の質も確保できない.よしんば無料で引き受ける善意の人がいても,その人に依頼が集中し,結局はパンクするのが関の山だということは,ネット医療相談の世界で実証済みだ.

誰が金を払うかが問題.さらに,法務省,裁判所,弁護士との縄張り争いも待っている.前途は決して楽観できないが,それでも下記のような講座で身銭を切ってでも勉強する人々を応援したい.医療事故裁判制度が今のままでいいと思っている人は誰もいない.

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裁判外紛争解決、“草の根ADR”へ人材育成
2005年7月20日(水) 情報提供:(株)じほう

各地で始まる養成講座
 医療での裁判外紛争解決(ADR)の普及に向け、ADRを担う人材の養成講座が各地で始まっている。医療者と患者側の間に入って双方の不信感を和らげたり、剖検の手続きや警察への届け出など、事故後の一連の対応を取り仕切る人材が、院内ADRには不可欠だ。厚生労働省は制度としての医療ADRの構築を目指しているが、まずは患者とじかに接する医療機関の中での“草の根ADR”の普及が先決だ。
 
メディエーター養成本格化 ―― 評価機構と早稲田大
 日本医療機能評価機構のメディエーター(調停者)養成講座が今夏から本格的に始まる。昨年、試行的に実施した養成講座の実績を基にカリキュラムを充実させた。 メディエーター養成講座のプログラムは、医療ADRの確立を提唱している早稲田大法科大学院の和田仁孝教授が提供した。
メディエーションとは、直訳すると「調停」だが、和田教授は裁判所で行われる民事調停と区別するため、カタカナでメディエーションと呼称している。争う両者の間に第三者が入り、双方の言い分のどちらにも肩入れせず、両者の主張を聞き入れ、合意を形成していく手法だ。
メディエーターとして、双方どちらにも肩入れしない姿勢を崩さないためには、相応のテクニックが必要で、養成講座ではロールプレイ実習を通して、メディエーションの技法の習得を目指す。 日本医療機能評価機構での講座は、いわば入門編。さらに理解を深め技術を磨きたい場合は、早稲田大の総合交渉研究所で引き続き受講できるようにするという。

医療決断サポーター養成 ―― 九州大
 ADRがうまくいくためには、普段から医療者と患者の間で良好な関係が築けていることが土台になる。ただ、術前の説明で、医師が時間をかけて説明しても患者には十分に伝わらず、微妙なすれ違いから患者に不信感を抱かせることは少なくない。
第三者として説明の場に立ち会い、専門用語を解説したり、心理的なサポートをすることで、患者の選択を支援する人材 ―。九州大大学院・医療ネットワーク学講座の稲津佳世子助手は、こうした人材を「医療決断サポーター」と定義し、養成講座を昨年秋から開始した。 医療決断サポーターは米国の「患者アドボカシー」に近い。メディエーターが事故後からの介入なら、医療決断サポーターは事故前からの介入が主な仕事となる。

 養成講座は90分間の講義が36回、計9日間のカリキュラムだ。医療コミュニケーションの実習や、実際にがん患者の支援を続けているNPOの「がんコーディネーター」からも話を聞く。 昨年秋の第1回講座には66人が参加。今年6月から始まった第2回講座は46人が受講している。受講者は主に看護師やソーシャルワーカーらで、全国から集まっている。

事故対応の人材養成 ―― 東京大
 九州大大学院・医療ネットワーク学講座で2年前から始まった「医療苦情・事故対応のための人材養成講座」が、今年から東京大大学院の生命・医療倫理人材養成ユニットでも始まった。
メディエーターや医療決断サポーターが医療者と患者の相互理解に重点を置いているのに対し、「事故対応のための人材養成講座」は、剖検手続きや記者会見の開き方など、事故後の一連の対応方法を具体的に身につける内容となっている。
60時間のカリキュラムでは、医療事故の被害者から実際に話を聞いたり、剖検の見学も行う。さらに、医療事故のマスコミへの公表方法や、効果的なインフォームド・コンセントの方法、賠償額や和解額の算定方法なども習得していく。

キーワード : ADR
 Alternative Dispute Resolutionの頭文字をとった略語で、直訳すると「代替的な紛争解決」。一般には「裁判外紛争解決」と呼ばれる。調停や仲裁など、判決によらないさまざまな紛争解決手段の総称になっている。昨年12月には、利用促進を目指してADR法が成立した。 医療界でも、「訴訟は医療者と患者の双方にとって不毛な争い」との認識が広まりつつあり、「医療ADR」への関心が高まっている。 早稲田大法科大学院の和田仁孝教授によると、医療ADRには、まず第1段階として院内で行われるADRがあり、院内で解決しなかった場合、院外でのADRに進む2段階の仕組み(制度)が想定されるという。
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