お医者さんごっこ

先日,当院で,”一日看護師体験”という看板が会議室の前に出ていたのでおやっと思ってそばにいた看護副部長を捕まえました.

”どういう人が来るの?”
”地域の中学生,高校生が対象です”
”どのくらい前からやっているの?”
”7−8年まえからですね”
”当院だけの独自の催し物?,それとも,あちこちでやっているの?”
”いろんなところでやっていすよ.国立病院ばかりじゃなく,自治体病院でも”
”どこが音頭をとっているの”
”看護協会です”
”金の卵をリクルートしようってわけだ”
”そうですね”
”こりゃ,お医者さんごっこの催しもやらんといかんね”
”でも,お医者さんは余っているんでしょ”
”ウチの本社はそう宣伝しているけど,嘘八百とは,正にこのこった.そもそもお膝元の国立病院が医者不足で困っているのが動かぬ証拠.それにね,足らないのは数だけじゃない.数よりも,更に質の問題がある.まっとうな医者が決定的に足りないんだ.この病院だって,まともな医者が引く手あまたでどんどん辞めていって,残ったのは俺みたいなカスばかりだってこと,あんたもよくわかってるはずじゃないか.さんざん勉強させておいて,やっぱりあんたは医者に向いていないって,試験で落とすnegative selectionより,そのずっと手前で,まっとうな人が医者を志してくれるように仕向ける方が,よっぽど建設的で効率もいいんだ.”とまくしたてても,副部長は無言でニヤニヤするばかりでした.

その後,ある副看護婦長が,中学2年の自分の娘を連れて院内を歩いていました.

うれしそうなお母さんから,”うちの娘です.今日,一日看護師体験に参加しているんです”と紹介されたので,”羨ましいねえ.ウチの業界は若い優秀な人を必要としているんです.是非,来て下さい”とご挨拶しました.

先日,米国製の漫画映画を見ていたら,小学校でキャリア・デイというのがありました.保護者が,学校にやってきて,生徒達に,自分がどんな商売をやっているかって,プレゼンテーションする課外授業ですね.NHKの”ようそこ先輩”ならぬ,”ようこそおとうさん・おかあさん”が定期的に開催されているわけです.

小学校で禁煙教育もいいんですが,もう一歩進んで,お医者さんごっこも体験させてあげたいですねえ.地域への貢献て,こういう形もあるんじゃないでしょうか.

葉山ハートセンターの須磨久善先生は2000年の夏から,小学生相手に月に2−3回のペースで手術ライブ中継&病院見学会を催しているそうです.

”私は医者だから手術や病院を見せている.大工さんだったら,家をつくる現場を見せればいい.大人がみんな,自分のやっていることをそのまま見せてやればいい.現場で,本物を見せること.それが一番わかりやすいメッセージになるはずです”

そういう点では,開業の先生方は,お子さんが見ていてくれるという喜びと,緊張感を持って仕事ができる理想的な教育環境をお持ちのはずなのに,子供が医学部を卒業しても,嫌がって帰ってきてくれないという事例をしばしば見聞するのは憂うべきことです.開業という仕事に対して,若い人が夢を持てない状態を放置すれは,地域住民の健康・生命が脅かされることになるからで,実際にそううい状態が,全国各地で当たり前になりつつあるのです.

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