医療事故被害者のための保険を作ろう

自動車を運転する人は自賠責ばかりでなく,任意保険にも入っているだろう.その保険は何をカバーしているだろうか?ここを読むぐらい慎重な人の保険は人身傷害補償保険(被害者自身が加害者の保険会社と示談交渉を行わなくても,自分が契約している保険会社から保険金を受け取ることができる)や,無保険車傷害保険(無保険車と事故を起こして自分が被害者となった場合でも,自分が契約している保険会社から保険金を受け取ることができる)もカバーしているだろう.

人身傷害補償保険にせよ,無保険車傷害保険にせよ,自分が加害者ではなく,被害者になった場合を想定している.無謀な運転や,無保険車両の被害に遭う危険性も考えている.

だったら,医療事故の際,自分が被害者になった場合のための,医療事故損害保険がないのはどうしてかな?医者は,自分が加害者になった場合に備えて,賠償責任保険に入っているのにだよ.自動車の場合は,加害者,被害者両方のために保険があるのに,医療では,加害者のためにしか保険がないなんて,片手落ちじゃないのか?

医者が賠償責任保険に入っているのも,同じ意味だ.医者だって事故を起こしたくて起こしているわけじゃない.でも実際に事故が起こって患者を傷つ
けたり,命まで奪ってしまうこともあるかもしれない.そのために医者は,”医師”賠償責任保険という名の対人保険に入っている.でも,自分が被害者になった時の保険がないんだよね.

ヒポクラテスの誓いはそれはそれで結構.誰でも事故は起こしたくない.しかし現実に事故は起こる.事故は加害者,被害者の両方にとって悲劇なんだ.これは,自動車事故だろうと,医療事故だろうと,同じでしょ.その現実に備えて,自動車事故では加害者,被害者両方のために保険がある.

自分が被害者になった時のことを考えて,自分で保険に入っておく.こういう自己防衛の選択肢が,自動車事故では用意されているのに,医療事故では,ない.医療事故報道人気沸騰の昨今,赤ひげ先生は完全無欠なんてカビの生えた宗教は誰も信じちゃいない.自分だって,いつ藪医者の餌食になるかもしれない.医療事故に備えた保険があったら入りたいと考えている人はたくさんいるよ.

損害保険会社はなぜそういう商品を売り出さないのか?法的規制があるとしたら,そういう規制こそ撤廃するのが,”改革”とやらではないのか?事故原因究明については,事故原因究明と補償の分離を参考にしてもらいたい.事故原因究明のための,中立の第三者機関をつくることに損害保険会社も協力してもらいたい.そうすれば,医療事故損害保険という商品が現実のものになる.医療事故損害保険システムの中で,加害者のための保険しかないという片肺飛行が産み出す構造的赤字を是正し,自動車損害保険と同様に,医療事故損害保険を事業として成立させるためにも,中立的な医療事故原因究明機関の設立が急務である.

自由診療の対象に「未承認の新薬などはいいと思っている」なんて能天気なこと言って,薬害被害者大量生産計画を立てる前に,医療事故被害者救済制度を議論するほうが先でしょうに.

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