MRSA感染では,顕性感染よりも保菌者のほうがはるかに数が多い.だから,社会全体に対する影響は,保菌者にまつわる問題の方が大きい.具体的には,MRSA保菌者が老人保健施設やリハビリ病院入院を拒否される事例や,保菌者が退院する際に家族がパニックになって拒否するといった事例が後を絶たない (1).
私のところにはパーキンソン病やCJDの相談が一年に一度しか来ないのに,違う人から同じ様なMRSAの保菌者の相談が三件も四件も来たことがあった.コンビニだから何でも受ける.しかしこの実情は,MRSAに関する情報がネット上で如何に乏しいかを如実に示している.
MRSAって言えば,オフラインでもオンラインでも.感染防止マニュアルの話ばっかりだ.もううんざりだ.保菌者のように,数が多く,医学的にも社会的にも大きな問題に関して,頼りになる情報資源が皆無というのは一体どういうことなのだろか?日本は世界に冠たるMRSA大国だから,世界的な仕事ができるはずなんだが.
癩病患者の悲劇を繰り返してはならない.医療関係者であるとないとにかかわらず,MRSA保菌者への偏見と不当な差別をなくすよう,努力していかなくてはならない.MRSA保菌者の人権を守る正しい対応については,下記の文献を参考にされたい.
1.長期療養型施設の感染対策 in エビデンスに基づいた感染制御第3集」メヂカルフレンド社
2.地域ケアにおける感染対策.ー在宅ケア・施設ケア統一マニュアルー 医歯薬出版株式会社,1999.
3.稲松孝思.MRSA感染とその対策.MRSA共存時代の知恵.全日本病院出版会
4.稲松孝思.老年者におけるMRSA感染症とその対策.日本老年医学会雑誌 1995;32:90-95
5.稲松孝思.高齢者施設と感染対策.日本感染症学会編集,厚生省医薬安全局安全対策課編集協力改訂院内感染対策テキスト.へるす出版.pp179-186.