自然の風物に宿る神は,国や民族を問わず,古来から普遍的な存在だった.日本でも山岳信仰,霊場,龍神様と,自然崇拝の例には事欠かない.もちろん現代のスコットランドでも,この自然の神々は決して絶滅していない.ハイランドの山々や湖に向き合うと清冽な緊張感で心が満たされるのは,そこに神々が住んでいる何よりの証拠だ.だから,私にとってハイランド旅行は,四国のお遍路さんに相当する巡礼そのものだ.
スコットランドでいっそうありがたいのは,自然と歴史が交差していることだ.ハイランドでは,かつてはローランドよりも人口が多かった.産業革命の恩恵を受けていた頃は,密な鉄道網を誇っていた.しかし,農業を許さない土地,Clan同士の絶え間ない抗争,悪名高いhighland clearanceが,その繁栄を短い命で終わらせてしまった.その歴史を踏まえてハイランドを訪れると,巡礼の意義は一層深まる.