”行列のできる名医”なる名前の本がある.副題には,”日本中から患者が集まる”とある.いろいろな名医もあるもんだと思う.
そんなに行列が好きなら,ラーメン屋に行けばよろしいと,10年前だったら憎まれ口を叩いてたところだが,ここでは,私にとっての名医の定義 を述べるにとどめておくことにする.というのは,過労死のリスク溢れる昨今の臨床現場を見るにつけ,名医ランキングのおかげで,他人の外来に行列ができることによって,相対的に自分の外来が暇になってくれるのなら大歓迎だと思っている人が少なくないことを考えると,名医ランキング叩きはやめにしておこうと思うからだ.
私の知る名医には行列はできない.その理由は以下の如くである.
1.名医は謙虚である.
一度も診たことのない患者が,紹介状も持たずにいきなりやってくるのは,最も難しい診療である.そりゃ,遠くからお客さんがやってきてくれれば,人情とし
ては嬉しい.しかし,感情で嬉しいことと,仕事の質とは別だ.日本中からそんなむずかしい患者がやってきて,左から右へと捌けると思い込んでいる医者ぐら
い危ない奴はいない.
2.名医は仕事に時間をかけ,数をこなすことを嫌う.
饅頭屋だって,ラーメン屋だって,売り切れ御免で,営業終了の店がある世の中である.まして況や,医業においておや.
3.名医の本当のサポーターは,独り占めしたがる.
行列ができれば,自分が診てもらえなくなるから当然である.だから,この医者がいいと思った患者さんほど,どの医者にかかっているかを必死で隠そうとす
る.医者も,自分を大切にしてくれる(=口コミでやたらと患者さんを引っ張って来て忙しくさせるような真似をしない)患者さんを大切にするから,名医は街
の片隅でひっそりと診療を行うというわけだ.