不良債権

不良債権が溜まるのは銀行の中ばかりではない.大学医学部でも同様だ.そんなもの何も今に始まったことではないと言われるかもしれないが,臨床研修必修化と,臨床現場の危機意識が高まることによって,様相が変わってきている.研究費を取って来て,インパクトファクターを稼いで,研究も人事同時に回転させるという構図が崩壊しつつある.

不良債権のはけ口が全く閉ざされてしまったのだ.市中病院の部長・医長クラスは,臨床能力,管理能力とも高いレベルを要求するようになってきている.おまけに関連病院から人剥がしをするような医局からは,若い兵隊の供給を期待することはできない.ならば,若い労働力の供給を期待して,わざわざ大学からインパクトファクターばかり高くてろくろく患者も診られないような奴を有難がって部長・医長で雇い入れる必要など全くなくなってしまったわけだ.他の大学でも,事情は同じで,基礎研究論文ばかり書いている人材は,少なくとも臨床診療科には不要とされる場合が多くなってきている.

かといって,基礎系への就職競争は厳しい.ネイチャー,サイエンスへの日本人の論文採用率が年々高まっている今日,ネイチャー筆頭著者一本ぐらいでは,到底太刀打ちできない人材がごろごろしている.基礎系一本槍のMDの教授の業績を見ると,Cell3本とかいう化け物みたいな人材が珍しくないもんね.Cellも最近はインパクトファクターがた落ちだというけど,それはまた別の話.

かくして,基礎医学系雑誌掲載の論文でインパクトファクターだけがやたらと高い人材が,臨床教室の中に溢れかえっているという構図ができあがっている.これでは若い人がいじけるのも,”入局”希望者が減るのも無理はない.

さらにまずいことに,医局の中の不良債権は,銀行と違って,いくら溜まっても,監督官庁がチェックすることはない.咎める人が誰もいないことになる.教授だって,インパクトファクターが溜まって研究費が集まれば,何の文句もない.自分は業績で選ばれて,年功序列の入り込む余地はないから,自分より20歳上の,自分の親みたいな年齢の助手がいたところで文句を言われる筋合いはない.かくして不良債権は溜まりつづける.その行き着く先は何処なのだろうか.

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