日本が未曾有のデフレだというが,それはあたり前だ.なぜなら日本は未曾有の高齢化社会を迎えたからだ.年寄りは金を使わない.パソコンも携帯電話も車も要らない.たまの休みぐらい温泉旅行に行きたいが,子供夫婦が共働きなので,孫の面倒を見なくてはならないし,長年連れ添った配偶者の介護もしなくてはならない.だからたんすにはお金がたまる一方だ.
その子供夫婦も,自分達の生活をささえるために,節約し,安い給料でもいいから職を探し,働かなくてはならない.パソコンや携帯電話に余計な金を使うわけにはいかないのだ.
それなのに,”IT化で不況脱出だ”と,とっくに博物館行きになったスローガンをまだ繰り返している馬鹿者が絶滅していないのはどういうわけだ??
未曾有の高齢化の下での未曾有のデフレを克服するためには,未曾有の高齢化に即した対応策がなくてはならない.それは絶対にITではないし,道路建設でもない.高齢者ほど必要とするサービスに対してお金を注ぎ込み,インフレにするしかない.それが医療・福祉サービスである.
在宅医療促進だと?この非常時に何たる戯言.在宅医療というのは,医療費抑制のために,今まで,施設でやっていたことを家庭に押し付けるということだ.しかし,今時,在宅で誰が介護できるというのか?核家族化,少子化で人手はどんどん減っていく一方なのだ.だから特別養護老人ホームの入所待機者が激増している.(2003/2/5 朝日新聞 特養待機者23万人 98年度の約5倍)
在宅の人手不足の証拠に保育園は増やすという.それなのに高齢者介護施設は増やさず,在宅医療促進だと?そんな露骨なマッチポンブを黙って見過ごしてくださる国民の皆様におかれましては,厚生官僚のはしくれとして,厚く御礼申し上げます.
在宅医療の促進で,医療費はうわべだけは減ったように見えるかもしれない.しかし,家庭に押し付けられた労力,時間をお金に換算して日本全体で見れば,コストは減るどころか増えているに決まっている.何しろ施設でまとめて面倒を見れば,それだけコストダウンになるのは,中学生(そして受験塾通いの小学生)でも知っている経済原則だからだ.
今,必要なのは在宅医療ではない.高度成長時代にどんどん道路つくって,雇用を創出し,賃金を上げ,インフレを起こしたように,今の時代は,増税してでも福祉・医療に税金を投入し,施設をどんどん建て,人を雇うことだ.さすれば人類初のインフレターゲットなど,朝飯前に達成できよう.インフレにすれば,国の借金も帳消しになって万々歳.馬鹿を見るのは個人向けの国債を争って高値掴みするような間抜けな連中だけってことになる.元本保証ってのは,デフレが続くことを前提にしてはじめて意味があるって基本原則を忘れちまうほど痴呆がひどけりゃ,馬鹿を見たってことにも気づかないだろうがね.
だから医療費抑制策は明らかに間違っている.厚生官僚がデフレスパイラルを起こしている.経済産業省は,ITなどに目もくれず,医療福祉産業を厚労省から奪い取り,振興するべきである.実際,神戸市が京大,阪大,神戸大と組んで,医療都市産業構想を打ち出している(*).阪神大震災で損害を受けた神戸市立中央病院に635億円を投入して立て替えれば,三次波及まで考えると,生産誘発額497億円+付加価値誘発額670億円+誘発就業者数3311名となる.自治体病院は赤字を産み出すお荷物ではなく,地域住民の健康に貢献しながら,雇用と付加価値を生み出す立派な地場産業なのだ.
*川渕孝一.第四章 シンガポールのMSA制度に学べ p129-131.医療改革ー痛みを感じない制度設計をー.東洋経済新報社.2002