2003年師走
拝啓 日本神経学会,日本脳卒中学会の皆様
今年も押し詰まって参りました.政治家の空手形はともかく,専門医集団を自認する学会の公式の約束は守っていただきたいものですが,今年も失望のうちに過ぎなんとしております.他でもありません,脳卒中の診療ガイドラインのことです.
ガイドライン大流行(というよりも乱発)の昨今,三大死因の一つであり,死に至らなくても,多大な社会的損失を招く脳卒中のガイドラインが,未だにできないのは,なぜでしょう?日本脳卒中学会のホームページには2003年準備中とあります.日本神経学会のホームページには,2002年(!!)11月以降公開とあります.
このように,何年何月以降と書けば,いつまでたってもガイドラインが出なくても約束を破ったことにはなりませんから,それでいいとお考えですか? あるいは,クリニカルエビデンスや,Up to Dateが誰にでも手に入る時代になった今,学会がガイドライン自体に意味がないとお考えなのでしょうか? それはそれで立派な見識と存じます.
しかし,学会のガイドラインが至上の診療方針であると盲信なさっている方々もまだまだたくさんいらっしゃるようです.というのは,わが国では,いまだに,脳塞栓急性期に対して、ヘパリンや,日本独自の、明確なエビデンスのないlocal drugが投与され続けているからです.それどころか,発症直後からの投与の有効性が確立しているアスピリンの投与が,日本では発症後何週間もたってから行われるというmalpracticeが大手を振って横行している有様です.
脳塞栓急性期のヘパリンの投与は有効でないばかりか出血のイベントのために却って有害であることを,コクランレビューも,クリニカルエビデンスも明確に指摘しています.これらのレビューはまた,脳梗塞急性期のアスピリンの有効性も確立しています.一方で,日本には,アスピリンを急性期に投与しても果たしてすぐに効果が現れるのかと心配する医師が,まだたくさんいます.しかし,アスピリンは、錠剤をかみ砕けば5分で効果を発揮することが証明されています.
Feldman M, Cryer B. Am J Cardiol 84: 404-409, 1999.
しかも、その投与量はたったの150mg、81mg錠2錠で十分なのだということも。
Antithrombotic Trialists' Collaboration. BMJ 324: 71-86, 2002.
そうです,世界で初めて脳梗塞に有効性が証明されたと謳うlocal drugの数々の方よりも,約束処方の風邪薬の方が脳梗塞に効くわけです.
治療の選択は高級レストラン選びとは違います.高ければ有り難いわけではありません.お忙しい毎日とは存じますが,脳卒中に苦しむ多くの患者さんが,早い,安い,うまいの三拍子揃った治療を受けられますよう,ご尽力いただきたく存じます.
敬具
と、私が文句を言ったからというわけでは決してないが、2003年12月26日、5学会合同脳卒中治療ガイドライン(暫定版)が、やっと公開された。はてさて、その内容や如何に、という肝心な点は、ひとまず、こんなところを読んでいるあなたに検証をおまかせしよう。American Heart Associationのそれとの相違点や、その相違の理由をまとめた表を作れば、面白い読み物になること請け合いである。