Community-acquired MRSA

参考文献:
舘田一博,石井良和.1.多剤耐性菌:どのようにして生まれ,拡がり,そして病原性を発揮するのか.日内会誌 2003;92:2097-2103
Resistant bacteria through US communities. Lancet 2003;362:1554-55

ANTIBIOTIC-RESISTANT STAPH INFECTIONS ON THE RISE
Communities are reporting a sharp rise in the number of antibiotic-resistant staph infections being found in the outpatient setting. Once confined to hospitals, the infections are spreading to healthy patients via new and more aggressive strains.
 

市中獲得といっても,病院で広がったMRSAが地域社会でcolonizationとして定着したものとは全く違う.MRSAといっても,院内感染型と市中獲得型では,下記のような様々な点で大きく異なる.
 
市中獲得型 院内感染型
もともとの出身 地域社会 病院
患者 健常小児・成人 日和見感染
集団発生 あり なし
毒性 強毒性 弱毒性
毒素 leukocidinを始め多数 なし
耐性抗菌剤 βラクタムのみ 多数
耐性遺伝子の大きさ 小さい 大きい

危険性を凶器に例えてわかりやすく表現をすれば,市中獲得型が拳銃で,院内感染型が木の棒と言えよう.拳銃は凶器そのものだが,木の棒は非常に特殊な状況でしか凶器にならない.

これほど違うのだから,MRSAと共通の名前をつけるのが間違いだ.両方ともメチシリンのみの耐性だけではないのだから,メチシリンの名をはずして別の名前に付け替えるべきだろう.そうでないと,院内感染型と市中獲得型の混同が起こって,また無意味な差別が生じる.

さて,市中獲得型がなぜ生まれたのかはよくわからない.しかし,いったん発生すると野火のように広がる.その秘密はカセットと呼ばれる耐性遺伝子の大きさにある.

院内感染型の耐性遺伝子は大きなカセットなので,株から株への移動が非常に困難である.デスクトップコンピュータみたいなものである.耐性遺伝子を持つ限られた株が,耐性遺伝子を持たない,圧倒的な数を誇る他の株と競争して生き残るためには,多くの抗菌剤を大量に使ってもらって,耐性遺伝子を持たない競争相手を徹底的にたたいてもらえる優遇された環境が必要である.だから,抗菌剤を大量に使う病院でないと生き残れない.

一方,市中獲得型の耐性遺伝子はβラクタムのみでこじんまりしているので,モバイルパソコンみたいにあっちの株,こっちの株と,自由に移動できる.その結果たくさんの株が仲間になって,市中獲得型が多数派になる.多数派になれば優遇処置などなくともどんどん増えるというわけである.

理屈の上ではβラクタム剤以外のものは効くのだが,強力な毒素を数多く産生する強毒菌なので,一時期俗称人食いバクテリアとして話題になった劇症型溶連菌感染症に似た経過をとるから,抗菌薬云々を考える間もなく,あっという間に亡くなるケースもあって,非常に怖い病気である.

集団発生は,競技スポーツを始めとした,皮膚創傷や他人との皮膚接触の多い機会に起こる.

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