アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)なんて、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)の後発品に過ぎないじゃないかとおっしゃるなかれ。たしかに、先発品よりも値段が馬鹿高いというきわめて稀な逆転現象を除けば、後発品と言ってもおかしくなかった。下記の論文が出る前までは。
心筋梗塞と心血管死が先発品では減るけれどもが、後発品では逆に増加するという、面白い事例です。すでに旧聞に属するこんな面白い論文を、先日私が初めて知ったのは、偉い先生方のコメント満載の宣伝の洪水で、大切なことを見えなくしてしまおうという陰謀が、奏功しているためかもしれません。
Strauss MH, Hall AS. Angiotensin receptor blockers may increase risk of myocardial infarction: unraveling the ARB-MI paradox. Circulation. 2006 Aug 22;114(8):838-54.
BMJが、そのeditorialで、ARBで心筋梗塞が増える可能性を指摘したのが2年前(Verma S, Strauss M. BMJ. 2004 ;329:1248)です。この時も大分議論になりましたが、何せeditorialでしたので、実際の処方傾向に大きな影響は与えるまでには至りません でした。しかし今度は違います。本格的なメタアナリシスだけでなく、アンギオテンシン受容体のトランスジェニック/ノックアウトマウスのデータまで呈示し て、16頁にわたる論文となっています。
著者は、以下のように結論しています。
As evidenced by our discussion, not only is there biological plausibility,
but the available clinical evidence and meta-analyses, including our own,
suggest that ARBs are indeed inferior to ACEIs with respect to MI and CV
death. When clinicians are faced with the choice of using either an ACEI
or an ARB in high-risk patients, they should be cognizant of the unique
differences between each class of medications, particularly with respect
to MI and CV death. There is no cogent evidence to support the equivalence
of these 2 regimens with respect to coronary outcomes. Evidence would therefore
dictate that reaching for an ACEI instead of an ARB prevents more MIs and
vascular deaths, and as such, ACEIs should be the first choice across the
spectrum of cardiometabolic risk reduction.
今回の検討は、心筋梗塞と心血管死に関しては、ARBがACEIより劣っていることを示している。医師が高リスク患者を前にして、この二つの薬剤のどちら
かを選択する場合、この点を特に心得ておくべきである。両薬剤が、冠動脈疾患のアウトカムについて同等であるという確たる証拠はどこにもない。それどころ
か、ACEIは、ARBよりも、心筋梗塞と心血管死を低減するとのエビデンスがある以上、心血管リスクの低減のためには、ACEIを第一選択とすべきだろ
う。
何しろ、値段が安いというだけで、後発品がもてはやされるご時世です。値段が安い上に、咳が出たってその咳が誤嚥性肺炎の予防になって(Sekizawa K et al (1998) ACE inhibitor and pneumonia. Lancet. 341: 432)、おまけに心血管死のリスクが減るなんて、素晴らしいボーナスがつくのなら、患者さんはこぞって乗り換えるとおっしゃるのでは?
それとも、ACEIに対するARBの優位性の根拠がないまま、これまでも平然とARBを処方してきた医師の前には、Circulationに論文の一つや 二つ出たところで、痛くも痒くもなくて、これからも平然と、宣伝ビラの言うなりにdo処方を繰り返すのでしょうか?